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【不定期連載第1回】 eスポーツの“いま”を伝える熱血コラム


POLYGON犬飼のeスポーツ博士がゆく

CPL2005夏季大会日本予選を観戦して思ったこと



著者近影。お気に入りのカウボーイハットを被って。2004年12月のCPL日本予選にて
 私、犬飼博士が“eスポーツ”という新しい文化にビジネスとして携わってきて10年ほどが経過した。これまで「鉄拳」のプレーヤーを皮切りに、様々なeスポーツビジネスに携わってきた。しかし、明確に“eスポーツ”という言葉を意識して活動を開始してからはまだ4年に過ぎない。そういう意味では、まだ生まれたばかりのビジネスなのである。

 「鉄拳」プレーヤーを引退後は、格闘ゲームの開発者になり、アーケードからドリームキャスト、Xbox、PS2等でソフト開発に携わった。その後、オンラインゲームの盛り上がりとともにeスポーツ会社AceGamer.netを設立し、「ワールドサイバーゲームズ(WCG) 日本予選」を3年、「サイバアスリートプロフェッショナルリーグ(CPL) 日本予選」を4回、「Windows版ヘイロー ワールドワイド チャンピオンシップ 日本予選」、「エイジ オブ ミソロジー 日本公式コンテスト」等の日本国内のあらゆるeスポーツイベントを運営してきた。

 そして2005年の2月からはAceGamer.netを離れ、新しくGoodPlayer.jpというeスポーツ会社を設立。2005年5月にはAbit主催の世界大会「ACON5 日本予選」を運営し終わったところだ。この連載コラムではまだまだ馴染みの薄いeスポーツ文化の一端を紹介していきたいと思っているので、よろしくおつきあい頂きたい。

 サイバーアスリートプロフェッショナルリーグ日本予選を初めて観戦(!?)

会場となったNEXTAGE TENICHI BB。看板にもeスポーツと書かれている
開場を待つ観客と選手たち。日本全国から来場してくる
 5月28日より、2日間にわたって国内最大級のeスポーツのイベントCPL2005が大阪で開催された。今回私は一般観戦者のひとりとしてCPLに参加してきた。過去4回のCPL日本予選は我々の手で運営してきたが、私自身は前述したように1月末でAceGamer.netを退職しており。はじめて観客として国内の大きなeスポーツのイベントを観戦することになった。

 CPLといえば、2003年の初夏のCPL日本予選立ち上げ時のエピソードに触れないわけにはいかない。我々がAceGamer.netを立ち上げて1年が経過した頃、ナムコ「LEDZONE」のプロデューサー土屋氏がeスポーツのイベントに何か協力をしたいと打診があった。それならばeスポーツ大会で世界でもっとも権威のある「サイバーアスリートプロフェッショナルリーグ(CPL)」の日本予選を開催してはどうかという提案をさせてもらった。

 CPLは'97年から続く世界でもっとも歴史の長いeスポーツ大会で、“ゲームプレイをプロフェッショナルなレベルにまで高める”という先進的なコンセプトと、開発会社や販売会社よりも競技者や観客といったコミュニティを大切にする運営方法で、世界のeスポーツ大会のお手本となっていた。幸い2002年の夏ごろからCPLの社長エンジェル氏とeメールを通じて知り合いになっており、「日本が参加してくるならぜひ」とすぐに日本予選開催を快諾してくれた。

 さて、今回の日本予選が行なわれるのは通算5回目。テクノブラッドの主催としては3回目の大会となる。過去の4回はすべて東京で開催されてきたが、今回初めて東京を離れ、大阪での開催となった。会場となったNEXTAGE TENICHI BBは昨年12月にオープンしたネットカフェで、オープン当初からeスポーツを積極的に取り入れており、大阪のeスポーツファンにとってはおなじみの場所である。

 会場内には実況付で試合映像が見られるスクリーン2台と、観客が自由に触れる事ができるHLTV観戦用PCが10台用意され、観客席も50席ほど用意されており、観戦しやすい環境が整えられていた。スピーカーからは選手には聞こえない程度に小さな音量で実況音声が流された他、FMラジオでも実況が聞ける仕組みがとられており、選手だけでなく観戦者等すべての来場者に楽しんでもらえるように十分な工夫がこらされていた。

 「Counter-Strike」のトーナメントには日本全国から10チームがエントリーをし、1チームが参加辞退のため計9チームでトーナメントが行なわれた。1日目に行なわれた予選トーナメントを勝ち抜いたのは「4dN.psymin」、「Theory & 3pR」、「Aggressive Gene」、「FearLess」の4チーム。2日目に行なわれた決勝戦では、圧倒的な強さで無敗の「4dN.psymin」が優勝を決めた。私は予想すらしなかったというのが正直なところで、結果としては順当な内容に終わった。

観戦エリアで試合を楽しむ観客たち。歓声や拍手が沸きあがる 大会で使用されるサーバーを管理するエリア

 優勝した常勝軍団「4dN.psymin」とはどのようなプロチームなのか

4dN.psyminはスポンサーの名前がはいったユニフォームで揃えて来た
 この「4dN.psymin」というチームがこれほど強いのにはワケがある。彼らは世界で活躍できるよう日本最強の選手で固めたチームで、去年2004年のCPL夏季大会やWCGの日本代表として世界決勝に出場しており、実績も豊富なチームなのだ。

 メンバーは関東在住のTak(岩永 拓朗)選手、XrayN(島木皓平)選手、KeNNy(南 慶紀)選手、paranoiax(真田 翔)選手を中心に、2005年になりアパレルブランド株式会社PSYMINのスポンサードを受けた後に加わった沖縄在住のicebeRg(伊集 広城)選手の合計5人。

 彼らは今年春にトレーニングのために韓国キャンプを慣行し、別の大会で韓国に集まっていた世界のトップチームたちと練習試合を繰り返してきた。国内での練習は「世界を相手にするには効率が悪く、成果を期待できない」という。つまり、国内で練習相手になるプレーヤーたちがいないと言っているのだ。

 彼らが現在プライオリティを上げて取り組んでいるテーマは、世界中から注目されるCPLのような大きな舞台で成果を出すこと、つまり入賞することだ。この点についてはスポンサーとも十分な話し合いの末に同じ目標を共有している。日本を代表するチームとして、プロゲーミングチームのパイオニアとしてぜひ7月6日からアメリカ、テキサス州ダラスで行なわれる世界決勝でも活躍してもらいたい。いや、ぜひ優勝を果たして貰いたい。

試合前のウォーミングアップ中のチーム4dN.psymin 4dN.psyminのicebeRg選手にファンから誕生日ケーキが贈られた

決勝戦でぶつかる両雄4dN.psyminとAggressive Geneが握手を交わす 左がマップの俯瞰画面。各チームの作戦がひとめでわかる画面だ。右は選手たちが見ている画面

 鮮烈なデビューを飾った新しいプロチーム「Aggressive Gene」

決勝戦前に意気込みを語るチームAggressive GeneのHAC
 さて、実は今回の日本予選で私が最も注目していたのは、準優勝のチーム「Aggressive Gene」だ。

 現在のeスポーツの世界では海外とのコミュニケーションを考えて英語でチーム名を表記することが多い。このチーム名は「アグレッシブジェーン」と読む。彼らは今年の4月ごろになって結成されたチームで今回の日本予選の会場になったインターネットカフェNEXTAGEからスポンサードを受けて活動をしている。彼らもプロゲーミングチームの一つだ。

 私がチームリーダーのHAC(康 詩温)選手に出会ったのは今年の1月の終わり頃。彼はNEXTAGEにアルバイトとして働きに来ていた。まだ働きはじめて数日しかたっていないころだった。彼の印象はとても真面目で誠実で何より頭がいいと感じた。話すときも柔道の選手のような大きな体の前に両手を組み、まっすぐに私の目を見つめて意見をぶつけてくる。そんな彼から「Counter-Strike」について熱い言葉をぶつけられると、「彼らは何かやってくれるのではないか?」と期待せずにはいられなかった。

 やがて彼はインターネット上で親交のあった4人のプレーヤーたちを大阪に呼び寄せた。九州からは、今までのWCGやCPL日本予選の常連選手であるRad1ally(中山 慎)選手とbyh(田中 浩二)選手。東京からはLEDZONEのヒーローNophoaH(谷口 純也)選手。奈良県からEvasolo(高野 智行)選手。今まで海外での試合経験はないものの、いずれも日本国内での大会で名前を轟かせたプレーヤーたちだ。

 彼らのデビュー戦は正確には今回のCPLではなく、我々が運営したACON5日本予選だった。しかし、彼らは、1試合も勝利しないまま敗退していった。

 私はあのHAC選手のチームなのでひそかに活躍を楽しみにしていたのだが、何のことはない練習のしすぎで大会の当日にはメンバー全員がへとへとに疲れきってしまっていて実力をだせなかったらしい。これには多少がっかりさせられたが、続くCPL日本予選での活躍に期待することにした。これが私が今回「Aggressive Gene」に注目していた理由だ。

 彼らの様子はACON5の時とは大きく違っていた。1日目の予選を勝ち抜いた後も「体調管理が大切なので帰ってすぐに寝ます」とメンバー全員が口をそろえて言う。応援で集まってきた友人たちと浮かれるプレーヤーが多い中、彼らの行動は確かにプロの自覚を感じさせた。

 2日目も彼らは自分たちの力を十分に発揮していた。やはり経験では「4dN.psymin」に一歩及ばないものの、全員がチーム全体のことを考えて行動しているのがはっきりとわかった。彼らは確実に成長をしていた。CPL2005夏季大会日本予選で準優勝という結果は上々だろう。「Aggressive Gene」は日本中から注目されるチームとしてやっとデビューを果たしたのだ。

 彼らはNEXTAGEから徒歩10分の場所にNEXTAGEの名義で3LDKのマンションを借り共同生活を始めていた。今はまだ借りたばかりで部屋の中に練習する施設は整っていないが、NEXTAGEまで歩いていって練習ができるので問題はないという。

 「今一番チームがやらなければいけないと思っている事は何か?」と聞いてみると意外な答えが返ってきた。彼らはメンバーはNEXTAGEでアルバイトとして働いており、「プロとして一番考えなくてはいけないのはスポンサーNEXTAGEの利益で、NEXGATEに沢山のお客さんが来て『Counter-Strike』をやってくれること」だと言う。練習して試合で勝つことも使命だが、街頭でお店の広告になっているティッシュペーパーを配布することも大切なことだと言うのだ。もちろん雇っているNEXTAGEも彼らの活躍でNEXTAGEが有名になり、沢山のお客さんがやってくる事を期待してる。まるで従来のスポーツに見られる社会人チームの様ではないか。

 すべての試合が終えた後、HACに「デビューおめでとう」と声をかけると、にっこりと笑って「ありがとうございます」と答えた。彼らもこの成績には満足しているようだ。もちろん試合をしてる以上負けることは悔しいだろう。当然、「4dN.psymin」に勝ちたいと今も思っているであろう。次も何かやってくれるに違いないと期待せずにはいられない。

試合に挑むチームAggressive Gene 合宿所で試合を振り返るAggressive Geneのメンバー。全員がここに住んでいる

優勝したチーム4dN.psyminは賞金、副賞、世界決勝戦への旅費が贈られた 準優勝に輝いたチームAggressive Geneには賞金と副賞が贈られた

 やっぱりeスポーツは圧倒的に面白い

 会場でCPL2005夏季大会日本予選を楽しんでいる人たちから頻繁にeスポーツという言葉が聞こえてきた。eスポーツのコンセプトは思ったよりも浸透していっており、我々の想像以上に沢山の人たちがeスポーツを楽しんでいると感じた。

 我々がAceGamer.netをスタートさせた頃は、たった4枠の参加チームを埋めるのにも苦労したのだが、このCPL日本予選では10チームにまで増えている。テクノブラッドは今年まだWCG2005日本予選とCPL2005冬季大会日本予選を開催すると発表しており、年に1回だったこういった大きなeスポーツイベントも今年少なくとも4回に増えている。

 我々以外に積極的にeスポーツのイベントを運営できる企業ができて、そのイベントで活躍する選手たちを応援する企業が出てきた。この背景にはもちろんこれからのeスポーツの発展に期待しての投資があるだろう。だがさらにその投資の背景にはeスポーツそのものが持つ楽しさが存在する。この楽しさこそがeスポーツの本質なのだ。

 私自身がプレーヤーの時に実感していたスポーツのような充実感は、eスポーツという名前をもって少しづつ多くの人に体感してもらえるようになってきたと思う。友達の応援、観戦、プレーヤーとして参加どんな形でもかまわない。ぜひeスポーツの圧倒的な面白さを味わって欲しい。私、犬飼博士が人生をかけてお勧めする。

□GoodPlayer.jpのホームページ(準備中)
http://www.goodplayer.jp/
□CPL2005夏季大会日本予選の公式ページ
http://www.thecpl.jp/2005summer/

(2005年6月13日)

[Reported by 犬飼“POLYGON”博士@GoodPlayer.jp]


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