|
「ゲームを作る人材を育てる」 |
ここでは中村 勲氏が教授として教鞭をとっており、中村氏のゼミもある |
「未来デザイン学系」は、e-ビジネス、情報計画、ゲームデザイン、映像計画の4つのコース(専門演習系)を持つ総合デザイン学科であり、ゲームデザインコースは「ゲームコンテンツ企画の発想法をゲーム企画の基礎知識の講義、ゲーム作品の試演評価、チームによる企画制作体験などを通して、総合的に学びます。またゲームが持つインタラクティブ性を活かした新しい可能性を模索します」と大学案内にもあるとおり、ただ、ゲームメーカーへの就職養成所的側面だけでなく、「コンテンツ一般に適用できる企画力の養成」をメインとした学科・コース(一般大学的用語)となっているのがユニークなところ。白神浩志教授を中心に、株式会社ナムコでプロデューサー職に就いている現役開発者の中村 勲氏が教授として教鞭をとっていることも注目すべき点だ。
さて、「未来デザイン学系」では、1年前期からコンピュータ、コンテンツ、プランニングの3部門の基礎演習を行ない、2年後期から4つの専門分野に進むというカリキュラムが組まれている。映像、Webコンテンツ、ゲーム企画、商品企画といった「企画」職に必要な表現手段と考え方を教え、学生は「カンパニーシステム」によって疑似会社を組織し、在学中から実践的にビジネス、企画を行なう。その後、実際にゲームやプログラム、そして商品などを制作し、卒業研究とするわけだ。
この専門分野の領域区分がまた絶妙だ。「映像」、「Webコンテンツ」、「ゲーム企画」、「商品企画」の分野においては、ゲームインターフェイスのノウハウが活かせる場所として捉えられており、これからは「ユーザーにわかりやすいもの」を提供してきたゲームメーカーのノウハウは、よりいろんな分野で必要とされていくだろうことを踏まえたものになっている。
商品としてのゲーム、またはそれに付随するコンテンツをあらゆる方法で模索しつつ、実際に1人~多人数で擬似的ながら作り上げることによって、現在、ゲームメーカーで当たり前になっている、“チームで作品的製品を作り上げる”流れを体験することができる。その過程だけを見ると、ゲームスクールでも行なっている実習とあまり差がないように見える(参考例:デジタルエンタテインメントアカデミーの制作発表会記事)。
ただ、それらとはちょっと違うな、と思ったのは、実際に見せてもらった卒業研究。ゲームのモーション、笑いを追及したゲームそのもの、キャラクタビジネスといったゲームに直結したものから、ゲームマスコミの「ゲーム脳」に対する反応を調べたり、多種多様に描かれた「ドラキュラ」のルーツをたどり、自分なりの「ドラキュラ」像をデザインしてみたり。また、ゲーム的インターフェイスを使ったフォトアルバムなど、ゲームで培われた発想を他のアプリケーションに持ち込むといった、即物的な「ゲーム制作」だけではない、「ゲーム」を取り巻くいろんなものを研究対象にしているものがあったことだ。
そういったものもありながら、その反面では株式会社ナムコの「ドラゴンクロニクル オンライン」の開発現場や携帯電話コンテンツの制作にインターンとして参加した生徒が、実際の開発現場に触れた経験をレポートしていたりするのも面白い。同学系では、チャンスがあれば、そういったメーカーとの連係も随時行なっていく用意があるという。また、卒業制作の中には実際に商品化が検討されているものもあるという。講義にも、ナムコの現役クリエーターが何度も訪れ、開発現場の生の声を聞くことができるチャンスも用意されている。
いわゆる芸術とは異なり、いまやゲーム制作は集団戦、下手をすれば会社同士の連係による総力戦の様相を呈してきている。その一方、携帯ゲーム機、携帯電話向けコンテンツの制作も活発だ。そういった多様な受け皿に対応できる企画力を身につけるために、いろんなトライが行なわれていることは想像に難くない。最初の卒業生が送り出されるこれからこそが、この学系の正念場かもしれない。
今回、卒業生の作品の中から2点、大学側で作品が買い上げられた。これまでは油絵、彫刻、日本画、CG、ポスターなど、以前から確立された分野の作品が対象だったが、晴れてゲーム関連コンテンツがそれらと同等に評価されるという画期的成果を残したことになる。
「ゲーム」をテーマにした研究は、ここ数年いろんな教育機関で行なわれるようになった。先週米サンフランシスコで行なわれたGDC(Game Developers Conference)にも、ゲームの学術研究の道筋を探る「Serious Games Summit」などがあり、東大などでもオンラインゲームに関する研究が行なわれていることは既報だが、実際にメーカーに就職してしまうと、ビジネス的側面が優先されがちになるのは間違いなく、チームに組み込まれたスタッフが「ゲームとは一体どんなものか?」といったグローバルな視点や、「ゲームが与える影響」といったものに関して考える時間は極端に減ってしまうだろう。また、メーカーサイドでゲームの効能、影響といったものに対して研究するなどの具体的なアクションを起こしているところもあまりないと聞く。そういったものは一般的に会社の利益には直結しないからだろう。例えば、自社タイトル資産をリリース後も開発資料やソースコード、そして製品にいたるまで完全に管理している企業がどれぐらいあるだろうか? 下請け、孫受けまで含むと、各社には実際にプレイできる環境がどれだけ整っているのか、疑問に思う。これでは研究に値すると思われる素材集めにも苦労することになるだろう。
いまやゲームは産業としてひとくくりにされる規模であることは間違いないのだが、ゲームをコアにしたいろんな研究は、日本ではまだそれほど行なわれていない、といってもいいだろう。そういったものを研究することでどんな産物が生まれてくるかはまだはっきりとはしないが、大学の4年間を使って、「ゲーム」について考えられる環境がある、ということは、これからのゲーム業界にとっても、ゲーム制作を志す人にとっても貴重な機会ではないだろうか? 誤解をされると困る表現になるが、学生時代は失敗してもいい環境が与えられる。そこでいろんなトライ&エラーで得られる成果を持った学生が、ゲーム業界、もしくはその外からゲームを見るという視点を持って世に出て行く。今までなら会社でトライ&エラーが行なわれてきた。ビジネスにならないものは封印されてきたに違いない。それを試せる場所があるのは、幸せということだろう。
それとともに、ゲームマスコミに対しても、ゲームを紹介する役割だけでない、新たないい刺激が生まれるのではないだろうか、と思いながら山形を後にした。
(2005年3月14日)
[Reported by 佐伯憲司]
GAME Watchホームページ |