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Game Developers Conference 2005現地レポート

「パックマン」岩谷氏、「Rez」水口氏ら4人のクリエイターが語る世界のゲームデザイン論
「International Game Designers Panel」

3月7日~11日開催(現地時間)

会場:Moscone West Convention Center

 GDC最終日に実施されたセッション「International Game Designers Panel」では、ナムコの岩谷徹氏、キューエンタテインメント水口氏ら日本の著名なクリエイターを交え、4人のクリエイターによるパネルディスカッションが行なわれた。

 講演者の経歴を簡単に紹介しておくと、岩谷氏は、ご存じ「パックマン」の生みの親として知られるナムコを代表するゲームデザイナー。水口氏は、セガ、ユナイテッド・ゲーム・アーティスツを経て、現在キューエンターテインメント代表取締役COO。代表作は、「セガラリーチャンピオンシップ」、「スペースチャンネル 5」、「Rez」、「ルミネス」など。

 対する欧米勢は、Ubisoftの代表作「Splinter Cell」シリーズのクリエイティブディレクターとして活躍するClint Hocking氏と、サウンドゲーム専門のデベロッパーHarmonixを率いるAlex Rigopulos。いずれも新進気鋭のクリエイターである。

 いずれも微妙に立場が異なるため、コメントの対象が異なる場合も見られ、また相反するコメントも多く、パネルディスカッションの醍醐味は十分に味わえた。特にHocking氏と水口氏のコメントは、両氏とも近年特に勢いのいいクリエイターだけに、常にディテールに富み、現場のリアリティが感じられ、聴いていて楽しかった。本稿では、多く寄せられた議題のうち、興味深かったいくつかを紹介していく。

ナムコインキュベーションコンダクターの岩谷徹氏。現場から遠ざかっているのか、一般論が多く、あまり興味深い発言は見られなかった。氏のためにもそろそろ新たな代表作が望まれるところだ
今まで見られないようなブレイクスルーをゲームに取り入れる場合はどのようなアプローチを取るか?

岩谷徹氏: 新しい要素をゲームに取り入れる場合、新しすぎるとユーザーにまったく理解されません。十分な段取りを用意して、最初は簡単にわかりやすくするなどのサービス精神が大事だと思います。

Clint Hocking氏: それはむしろ政治的な、チームとのコミュニケーションの問題です。自分のアイデアを他人に話して、信頼できる人のサポートを貰ったり、あとは、プロデューサーやパブリッシャーとコミュニケーションを取り、両者の意見をうまく活用していくことが大事だと思います。

水口哲也氏: 結局、ゲームは集団で作るわけですから、あるひとつのビジョンを共有する必要があります。そのビジョンを共有するためには、言葉にする必要がある。これはどうやって説明するかということで、言葉にすることで設計図が書きやすくなる。まずはこれが基本だと思います。

 ただ、人間の気持ちがいいとかおもしろいといったことを分析していくときにボキャブラリーが少ないので、自分の経験でいうと、体験を共有するということをやりました。たとえば、音の気持ちよさ、グルーブの作るメカニズムを説明するために太鼓を利用したり、パントマイムのワークショップで確認したりといったことをやりました。訓練次第でそういうノウハウはたまっていくんじゃないかと思います。

Alex Rigopulos氏: 開発スタジオの方針だと思います。ウィル・ライトのような優れたインスピレーションを持つクリエイターがいれば、彼に任せっきりでもいいでしょうが、普通はみんなでアイデアを出していく必要がある。そのプロセスの中では、実験的なことを行なうのも重要でしょう。

Ubisoft DivertissementsのClint Hocking氏。欧米の若手クリエイターの中ではもっとも勢いのいい人物のひとりだ
ゲームを開発するとき、最初からすべてのデザインを盛り込むことは可能なのか?

岩谷氏: 事前にすべての機能を書き上げることは不可能です。ゲーム開発中の試行錯誤と修正、これが良いゲームを作る上で必要不可欠な要素です。開発の途中で迷ったら、初心に返ってコンセプトを見つめ直す。これが大事です。

Hocking氏: 旅に出るときはすべてが見えているわけではありません。見えない段階ですべてを決めてしまうのはいいアイデアとはいえない。まずはプロトタイプを作ってフィードバックを得る。問題が発生したらフィードバックに答えるという柔軟性は必要だと思います。

水口氏: 完全な設計図を事前に書き上げるのはほぼ不可能に近いと思います。クリエイティビティの隙間のようなものは残すべきだと思います。自分のプロジェクトだと、だいたい50%プリプロダクションしてスタートさせることが多いです。理想は70%プリプロダクションして、残り30%をクリエイティビティにあてたい。

 ゲーム開発はよく登山にたとえられますが、頂上はハッキリ見えていること、これが気分的には安心できます。そして登る段階ではルートを決めていくわけですが、途中で霧が出たり、吹雪になったりして途中でキャンプする必要も出てくる。人によってこっちに行くべきだ、いや止めるべきだといった具合に判断が異なってくるのですが、このときにどうするかというのはリスクマネジメントですが、ゲーム開発の過程ではこうした予期せぬ自体もよくあることです。

Rigopulos氏: 他のパネリストと同じように、最初にデザインを決めてしまうのはイノベーティブな分野では間違いだと思います。ビジョンを複数の人で共有し、山の頂上を目指していく。これが安定した開発に繋がると考えています。

ゲームデザインの国際対応についての基本スタンスは?

岩谷氏: 私は常に最大公約数を考え、多くの人に影響を与えたいので、エリア、人を選びません。私はどこでも誰でも作れるゲームを作っていきたいと考えています。

Hocking氏: 「Splinter Cell」フランチャイズは、「メタルギアソリッド」から多くのインスピレーションを得ています。ですから「Splinter Cell」は日本市場にも対応しようと考えましたが、まずはメインの欧米市場のニーズを優先させることを重視しました。

水口氏: 世界の最大公約数で受けるゲームというのは、人間の本能に宿した部分をくすぐるゲームが多いと思います。たとえば、子供のおもちゃで世界中で一気にはやるということがありますが、それは交換する、競争するといった具合に、非常にプリミティブな欲求に宿したものであることが多いです。

 大人になると、後天的な欲求が多くなって、国によってかなりの差異が生まれてくると思います。つまりゲームデザインを決めた段階で、先天的なものか、後天的なものかに分かれていくものだとおもいます。

Rigopulos氏: ハーモニクスは音楽のゲームを開発し、国際市場も視野に入れています。当然、世界中の人に音楽ゲームの新しいプリミティブな楽しさを体験してほしいと考えていますが、日本とアメリオとでは文化の面で合致しないところがあるので、我々としてもどの市場を熟知しているのか踏まえた上で、ゲーム開発に取り組んでいく必要があると考えます。

キューエンタテインメント代表取締役CCO水口哲也氏。セールスに比べビジョンが大きいと言われ苦笑い
世の中のトレンドへの対応について

岩谷氏: 私はひねくれものなので、ちょっとでも流行ると捨てます。流行に流されるのが大嫌いです。常に新しいモノにチャレンジし、自分からトレンドを作ることが大事だと思います。

Hocking氏: 私は岩谷さんとは反対の意見で、トレンドの後ろを走ることを考えます。これは当然リスクやプレッシャーを伴うことですが、トレンドにのっかることで、トレンドから新たなインスピレーションを得ることができます。またトレンドの対象もひとつではなく、複数の対象の一要素に注目し、そこから多用なインスピレーションを得ることが多いです。

水口氏: 時代のトレンドをミクロからマクロまで観察することは非常に大事だと思います。エクササイズするような感覚で、常に取り入れていく。自分の中のアイデアボックスにどんどん情報をインプットしていくうちに、パッとひらめくことがあったりする。常に新しい情報を追い続けることは重要じゃないかと思います。

Rigopulos氏: 私は岩谷さんと同意見です。トレンドを追い求めることは、革新とは相反します。新しいゲームを作るとき、トレンドはむしろ邪魔になることすらあると思います。

デザイナーブロック(開発上の壁)にぶち当たったときはどうするか?

岩谷氏: アイデアに詰まるケースは2つの場面であります。ひとつはコンセプトワーク、もうひとつはゲームの開発中です。コンセプトワークの場合は、ターゲットの楽しさの原点を考えてそこからアイデアを拾っていきます。開発中の時は、プロジェクトスタッフの人々にアイデアを出して貰ったり、議論したりして、チームワークで問題に取り組んでいきます。

Hocking氏: 私は岩谷さんの2つ目の取り組み方に近いです。「Splinter Cell」の開発中も時には頭が真っ白になりどうしていいかわからなくなるときがあります。こういうときはやはりチームで解決するのが重要だと思います。

水口氏: キャリアの最初の頃は、壁がいっぱいあります。自分もいいアイデアが思い浮かばずにイヤになることもありましたが、最近は仕事を続けていくうちにだんだんそれがなくなってきて、いろいろなアイデアが浮かぶようになって、今は生きているうちにどれだけ実践できるかという領域に少しずつ入りつつあります。ゲームはやはり経験、体験をいうものが非常に重要だと思います。これらを重ねることでいいアイデアというのは生まれてくるものだと感じてます。

Rigopulos氏: Harmonixではいくらでも新しいアイデアが生まれてきますが、そのために使える時間は限られている。ですから、時には我慢して諦め、アイデアを絞っていくという苦しさがあります。

HarmonixCEOのAlex Rigopulos。音楽をゲーム要素として取り入れた独特のラインナップを誇る。最近は「Eye Toy」にも活躍の場を広げている
Rigopulos氏と水口氏は、ヴィジョンがセールスを上回っている印象が強いが?

水口氏: 売る売れないというのは時代の波もあるし、その時その時でツいてるツいてないということもあります。私は結果がどうあれ常にポジティブに考えるようにしています。自分が持っている信念やコンセプトを曲げると人間が墜ちていく、それだけはしちゃいけないと思ってます。

Rigopulos氏: みんなは音楽をこよなく愛している。だからゲームによってもそれが達成できると考えました。Harmonixで「Amplitude」というゲームを開発しましたが、チームで努力を重ね、完成したときは完璧だと思いました。自分でも凄いゲームだと思いました。でもそんなに売れなかった。

 見落としていたのは、多くの人がゲームをやってみようとは思わなかったんです。5分、10分の体験に時間を費やして貰えなかった。いくらパワフルなゲームデザインのゲームでも、まず人を引きつけなければいけません。ゲームのジャケットにこだわるといったことも考えていかなければならないでしょう。

水口氏はどうやって「Rez」の資金集めができたのか?(会場から拍手)

水口氏: ごまかしました(笑) プレゼンテーションは、勢いでごまかしたというか、凄いじゃなくて凄そうだと(笑) あとはそのまま勢いで通しました。

(「クラッシュバンディクー」シリーズのプロデューサーから)自分のファンにフォーカスしすぎると、デザインが縮小されてしまう。大衆とファンのトレードオフのジレンマはどう解決しているのか?

岩谷氏: ファンと一般のユーザーを満足させる方法のひとつは人工知能AIのような考え方です。プレーヤースキルをプログラム側から判断して、難易度を調整していくというものです。これを私はセルフゲームコントロールシステムと呼んで10年以上前から開発に使っています。

Hocking氏: 難しい質問です。我々は勇気を持ってファンではなく大衆をターゲットにしなければならないと考えています。これはファンを捨てるのではなく、ゲームがしっかりしていれば、ファンの期待と内容が違ったからといって買わないという結論にはならないと思います。

水口氏: ここにいるのはゲームデザイナーが多いですから、同じ問題を共有しているわけです。僕が作った続編モノで成功した例というのは「セガラリー2」というレーシングゲームです。ただ、自分としては一番辛いゲームでもありました。グラフィックスのクオリティは上がって絵は綺麗になったのですが、ゲームプレイは変わらなかった。車やコースは変化しても肝心のゲームプレイは同じだったんです。これは私にとって非常に辛いことでしたが、セールス的には成功しました。

 「スペースチャンネル 5」や「Rez」は続編を作りたくてしょうがないんです。ただ、セールス的に「セガラリー」と比べると辛いものがあります。続編は、セールスが結びつけばやっていけるし、そうでなければ難しい。結論として何がいいたいかというと、やはりこの問題は大きなジレンマを抱えるということです(笑)

Rigopulos氏: Harmonixでは、できるだけ多くの人を対象にゲームを開発していますが、複雑なゲームがあってもいいと考えています。岩谷さんがコメントしたように、ファンも大衆も取り込むことに関しては、いろいろな解決策がある。これはデザイナーにとっての挑戦だと捉えています。

売れなかったゲームの失敗した原因は何だと思うか?

岩谷氏: 失敗は色々ありすぎて原因がわからなくなってしまいした(笑)。でも失敗したから次の成功がありました。振り返ってみると、失敗の原因で一番多いのは難易度の調整。前はひとつの難易度で本番勝負でしたから、難しすぎて誰もついてこないなんてことがありました。

水口氏: この話をすると長くなりますよ?(笑) これは人前で言うことではないのですが、これまでで一番失敗したのは「ツーリングカー」というレースゲームです。「セガラリー」を作った直後に、同じエンジンで非常に短期間の4カ月で半分の人数で作るというプロジェクトを、アクセプトしてしまったんです。これは会社が求める事情が大きかったのですが、これはやらなければよかったと思いました。ゲームがおもしろくないと、どんなに素晴らしい映像や音楽も全部ゴミになってしまいます。私は当時、悪夢にうなされまして、いかにゲームデザインは重要なのかとということを痛感しました。

□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/

(2005年3月12日)

[Reported by 中村聖司]


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