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アートディンクという会社の代表作ともいえる鉄道シミュレーション「A列車で行こう」シリーズ。「日本の鉄道」にとことんまでこだわり、鉄道を中心とした街づくりを体験できるシリーズ最新作がついに発売された。本作「A列車で行こう7」はファンの間でも名作と名高い「A IV」の直系として制作されている。“車窓モード”の搭載により、街を3Dグラフィックで眺められる「A V」以降のシリーズの進化とは違い、「A IV」の2Dグラフィックが持っていた質感にこだわり、街の発展を広い視点で眺めていくという原点回帰を狙った作品になっている。 緻密なグラフィックによって街を再現。鉄道により発展していく街の様子をダイナミックに体験することができる作品である。筆者は本シリーズ初挑戦。今回のレビューでは本作の感触を中心に語っていきたいと思う。
■大きな自由度を持った作品
さらに、最近のシミュレーションゲームにはお約束とも言えるチュートリアルモードがなく、プレーヤーはいきなりゲーム世界に放り込まれる。ユーザーズマニュアルを見ながら、ひとつずつ自分で本作の鉄則を体得していく必要がある。 本作の最も独特な部分は「ゲームオーバーがない」という点だろう。資産をどれだけマイナスにしても、全くゲームオーバーにならないのだ。プレーヤーは好きなだけ線路を引き、建物を設置し、自由自在に街を作ることができる。自由に街の風景をドローツールのように思ったまま描くことができるのだ。 この姿勢は、本作の姿勢を端的に表している。慣れ親しんだ駅や、日本各地のユニークな形の駅、こだわりの景色、これらをゲーム世界で再現し、眺める。鉄道ファンならば資金を度外視して、ひたすら情景を作り出すことに集中する、といった遊び方も可能なのだ。本作の緻密なグラフイックはこの情景づくりの欲求に非常に強く応えてくれる。思い描いた風景だけではなく、夢の巨大ステーションも建造可能である、鉄道ファンの夢を叶えてくれる作品といえるだろう。 もちろん、ゲームファンならば本作を硬派なシミュレーションゲームとして楽しむこともできる。本作を、黒字経営を心がけ、手堅い運営を目指す「ゲーム」として見ると、結構難易度が高い印象を受ける。プレーヤーは将来を夢見て小さな世界を緻密な計算によって経営していき、やがて広大なマップ全土に縦横無尽に鉄道を走らせる。本作はこう楽しむことも可能だ。資金をやりくりして作っていく街は、独特の無骨さが残る。街並みを見るだけでプレイの軌跡が見えるのだ。セーブデータに対する思い入れは一層深くなる。
本作とシリーズに対するファンの期待度は非常に高く、ネットには多くのファンサイトが存在している。本作に対しての意見の交換や、美しい情景の創造、効率的な都市計画など、さまざまな視点で語られており、本作に対するファンの熱意には驚かされるものもある。この熱意に今後メーカーがどう応えていくかも注目したいところだ。
■理想の路線、理想の街の風景を作り出そう 本作には3つのマップが用意されている。「田園風景を持つ臨海都市線」、「温泉郷からリゾート都市へ」、「運河が隔てた2つの都」。これらのマップでは既に列車が走っている。とくに運河のマップでは高架線を含めた、非常に豪華な路線が引かれていて将来の大きな駅へのお手本にできそうである。 筆者が集中的にプレイしたのは温泉郷マップだ。ここには人口密集地帯が今のところ非常に小さく、ほとんどの地域が開発されていない。プレーヤーが自由に開発を楽しめるマップだ。時間を止めて線路を引き、既存の駅につなげ、何もないところに駅を建てる。新たに車両を購入して、線路に乗せる。ここから鉄道会社の新米社長の事業はスタートする。 これだけでは街は発展しない。工場を作り、貨物列車を使ってこの新しい駅の周辺に資材を運び込まなければ建物を建てることができないのだ。資材倉庫と駅を用意するとかなりのスペースを占有してしまうので、資材置き場は地下が良いだろう。運び込まれた資材はプレーヤーだけでなくCPUも使用する。駅が生まれ、そこに住人が住み始めると、資材を使用して家が造られ、やがて道路が引かれ、発展していく。プレーヤーはここに自社の建物を建てて、その動きを加速していくのだ。 マンションを建てると利用客が増え、鉄道事業は活発になっていく。街の住人を増やさなければ、利用客は増えないのである。また、ただ住居を建てるだけでは人は増えない。買い物ができるスーパーマーケット、食事のできるレストラン、生活を豊かにする公園も欲しいところだ。住人が増えれば、学校も必要になってくる。また、彼らが働く場所も必要だ。 温泉街がみるみる都会風の景色になっていくのは、ちょっとした興奮がある。用意されている建物は多彩で、映画館や野球場、高層ビルや遊園地、さらには東京タワーなどのランドマークすらある。誰もいなかったような場所が、ぴかぴかのビルの建ち並ぶ都会になっていくのだ。資材をどんどん供給し、溜めていくことでつぎつぎに建物を建て、短時間で人口を倍増させる。非常に早いサイクルで街の変化を見ることができるのである。 建物は産業を興し、自社の利益を生む。バランスよく子会社を経営していけば大きな資産となるだろう。人口が鰻登りのころは、どんな産業を興してもそこそこうまくいき、会社の利益になってくれる。子会社の収入は最初は微々たるものだが、手堅い経営をしていけば大きな利益をもたらしてくれる。また、駅によって映画館やボーリング場を配置し娯楽に特化した場所を作ってみたり、オフィス街にしたり、住宅街にすることもできる。ゲームのコツをつかんできたら、理想的な街の風景を作ることに没頭するのも楽しい。新しいマップではじめるのも、最近東京のあちこちで行なわれている「再開発」をまねて既存の地域をどんどん改良していくのもいいだろう。
もちろん、こういった発展はゲームを効率よく進めていこうとしたための開発であって、ゲームのひとつの進め方に過ぎない。細々とひなびた温泉宿の景色を守っていき、赤字ギリギリの路線を運営していくという渋い楽しみ方もありだ。理想の路線を引くには、理想の街の風景が必要不可欠である。プレーヤーは必ず、路線増築と共に街の創造にも情熱を燃やすだろう。本作の街にはそれだけの魅力がある。
■難しい経営。ルールを発見できるか? 非常に魅力ある街づくりを追求できる本作だが、「黒字経営」を考えると難しくなる。鉄則を覚え、きちんとゲーム内のルールに従えばわかってくるとは思うのだが、焦ってしまって無理な開発を続けていると、ただひたすら赤字が増えてしまう。ゲームを進めるのには何の支障もないがやはり借金が物凄い勢いで増えていくのはやるせない。 人口を増やし、必要とされる施設を置く、資産の売り上げは好調だ。しかし得られる収入は低く、建造するために使ったお金を回収するためには何年もかかりそうだ。加えて、列車のマイナスがものすごい。初期配置のままだと、頻繁に電車が運行するのは良いが、反面コストがかかりすぎる。結果赤字は膨大なものになってしまう。 ここで思いつくのが、地方での列車本数の少なさである。考えてみれば、一時間に一本とか、地域によっては電車は本数も車両も少ない。ダイヤを工夫することで、赤字を押さえることができるのである。考えてみれば当たり前のことだが、筆者はまだ本作におけるこのコツをつかみきれていない。試行錯誤をしているところである。 前述の「街づくり」にもつながるところだが、各駅の役割が決まるとダイヤの効率がより上がるのである。ベッドタウンでは通勤時に出発するようにすればいいし、オフィス街からの電車は夕刻の帰宅時間に出すようにしたい。焦り過ぎによる無理な開発・線路の施設は禁物のようだ。コツをつかむまでは小さく、うまい運営を心がけねばならない。乱開発は膨大な赤字だけを生む、現在の社会でも起きているような問題が、筆者につきつけられる格好になってしまった。ゲームの中での「常識」を身につけるには時間が必要だということを思い知らされた。 本作は黒字経営を考えつつ、理想の大きな街と鉄道網を作るとなると、かなりの試行錯誤が必要となる。このとき役に立ってくれるのがネットの先輩達である。先人達が発見した本作のうまいプレイ方法、さらに現実の鉄道経営の話なども参考になる部分がある。自分で頭をひねり、失敗を重ねつつ、経験によって発展させていく。ゲーム内のルールはそれほど複雑な物ではないが、「効率」を考えると、さまざまな壁が見えてくる。これらにどう対処していくかが、本作の楽しさだ。 筆者の友人は株に手を出して、初期の金額を物凄い額にしてからその資金を使った大規模開発に乗りかかったという。ゲーム内の初期費用を株の購入に充て、上がった時点で売却する。資産を大量に増やすため、これを繰り返すのだ。いささかズルイ方法ではあるが、ダメだった場合はロードすればいい。銘柄によっては短期間で価格が上下する場合があるので、注意をして売り買いをすれば大きな資金を得ることができる。 鉄道会社の運営と街の開発にはそれなりに攻略法が必要で、赤字をものすごくしてしまうとどんな大きな資金もあっという間に減ってしまう。人のいないところに突然地下鉄を通したりすると、開発費だけで天文学的な金額がかかってしまうのである。大規模な開発は計画を練ってから、土地開発は効率を重視しておこなっていかなくてはならない。ゲームバランスは結構硬派である。じっくり腰をすえて取り組んでいきたい作品だ。 最初は理想の街を作るドローツールとして、そしてそこから都市問題に取り組み、効率のいい鉄道網へと整備していく。こういった遊び方ができる一方、手堅い経営を心がけ、徐々に街を発展させていくというプレイも可能になっている。ゲームオーバーがないという思い切ったルール設定は、高い自由度を生み、ゲームが苦手な鉄道ファンも楽しくプレイできる作品となっている。 作り出した街を眺める「箱庭」要素の強い本作であるが、街のパーツひとつひとつに日本のメーカーならではのこだわりがある点にも注目したい。最新のグラフィックで再現できる日本風の街並み、ここに魅力を感じる人も多いだろう。最新鋭の新幹線や、夢の乗り物であるリニアモーターカーをマップに組み込むことができる。コンビニエンスストアがあって、遠くには遊園地があって、地方には温泉宿があって……。海外の作品では体験できない、現代日本の風景づくりができるのは本作ならではのセールスポイントだ。
現在この作品は最新のパッチも配布され、進化しているところである。原点回帰と、そこからの進化を目指して作られた「A列車で行こう7」。今後本作に寄せられるファンからの声にアートディンクがどう応え、どういった進化を遂げていくのか楽しみなところである。
(C)ARTDINK 2005 (C)CYBERFRONT 2005
□サイバーフロントのホームページ (2005年3月11日) [Reported by 勝田哲也]
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