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ファンタジーSLGのお手本とも言える名作「ファイアーエムブレム」シリーズ。その最新作として登場した「ファイアーエムブレム 聖魔の光石」は、ゲームボーイアドバンスプラットフォームでの3作目のタイトルとなる。毎ターンどころか、ユニットが動くたびにオートセーブされるというおなじみの仕様は、まさに携帯ゲームにぴったり。初心者に優しい「はじめて」モードも搭載されているので、今まで「ファイアーエムブレム」シリーズを遊んだことがなかったプレーヤーにもお勧めのタイトルだ。 ■ ゲームを進めながらルールを把握できる「はじめて」モード搭載 「ファイアーエムブレム」シリーズといえば、その第1作目がファミリーコンピューター用のタイトルだったというほどの長い歴史を持つ作品であり、その独特の世界観やストーリーで、多くの固定ファンを獲得してきた。つまり、その最新作ともなると、「一見さんお断り」といった雰囲気を醸し出していても無理はない、というか不思議はない。しかし、なにしろファミリーコンピューターの時代からである。根強いファンも多いだろうが、そろそろ「ファイアーエムブレムって、なに?」という年齢層が出てきてもおかしくない頃である。または、話には聞いているけど、プレイしたことがない、というほうが現実的かもしれない。 などと無理に理由をこじつけるほどのことではないが、本作にはシリーズ初心者の受け皿として「はじめて」モードという、いわゆるチュートリアルモードが搭載されている。これは実際にゲームを進めながら、要所要所で操作の実際やゲームの進め方の説明が表示されるというもので、非常に親切でわかりやすい作りになっている。その親切さたるや、経験者にしてみれば「こんなことまで説明するのか!」というほどで、プレーヤーユニットの選択方法や移動方法、プレーヤーおよび敵ユニットの移動力や攻撃範囲についてなど、取扱説明書を読まないプレーヤーでもすんなりゲームを進めていけること請け合いである。
「わかりやすいチュートリアル搭載!」などと言いつつ、操作方法の一覧が表示されるだけだったりと、あまりの不親切さに辟易するような作品を見かけることもあるが、本作のチュートリアルは本当に親切である。 「シミュレーションゲームをプレイしてみたいけど、難しそうでどうも気が引ける」というプレーヤーがもしもこれを読んでいるなら、ぜひ本作をどうぞ! と断言したくなるほどにだ。
■ 1作目から変わらない、戦い、勝ち、成長することのおもしろさ 僕は「ファイアーエムブレム」シリーズが大好きだけど、じゃあシリーズのほとんどを遊んでいるのかというと、そういうわけでもない。時間ができたら買おう、遊ぼうと思っている間に、ライターという仕事柄、なんとなく物語の詳細を耳にしてしまったりして、モチベーションを失ってしまうということがしょっちゅうあるからだ。 そんなことになる前に、さっさと買ってプレイしてしまえばいいのだけど、そうもいかない深刻な理由がある。僕は「ファイアーエムブレム」シリーズのような、戦闘を繰り返してユニットを育て上げるというゲームが病的に好きで、ひとたびプレイし始めるとまったく歯止めが効かないのである。だから、よほど時間があるか、または今回のように仕事として舞い込んでこない限り、僕は「ファイアーエムブレム」シリーズをプレイすることがない。 おそらく最後に(エンディングまで)プレイしたのは「聖戦の系譜」で、そのときはたしか雑誌に掲載される攻略の仕事だったと思う。「封印の剣」や「烈火の剣」も仕事で触る機会があったが、エンディングまでプレイする必要がなかったため、遊んだ、とは言いがたい。そういうわけで、この「聖魔の光石」が8年ぶりに本腰を入れてプレイした「ファイアーエムブレム」シリーズということになってしまった。 8年ぶり、というのは尋常なことではない。久しぶりに友達に会ってみれば「結婚してさあ、俺もう2児のパパなんだよ。で、上のガキが今年もう小学生ね」なんていうのも当たり前だし、オリンピックとワールドカップは2回来るし、アメリカの大統領が2回替わる可能性もある。ゲームなんかもっと劇的に変化する。主人公や時代が変わるのなんかは当然で、アクションゲームがシミュレーションゲームになってたりと、ジャンルやゲームの中身がまったく違うものになっていたりすることだって珍しくない。 だからもちろん、「ファイアーエムブレム」シリーズだって変わる。ゲームを始める前に、取扱説明書を読んでいる時点でもう違う。見たこともない種類のユニットがいるし、知らないコマンドやシステムについての説明が書いてあったりで、8年という時の重みを感じずにいられない。実際にゲームをプレイし始めると、いったいどれだけの「8年ぶり」が待っているのか、そして自分はそのギャップについていけるのかと、僕は少し不安に感じながらゲームを始めた。始めたけど、何も変わっていなかった。 見たことがないユニットは確かにいたし、知らないコマンドやシステムも確かにあったけど、「ファイアーエムブレム」という作品のゲーム性とおもしろさは、8年前とまったく変わっていなかった。言わば、2児のパパになっていたけど、昔と変わらないアイツだったなあとか、金メダルを獲った選手は違うけど、今回のオリンピックも感動したなあ、というべきか。アメリカの大統領についてはコメントを差し控えさせていただくとして、なぜ8年前と変わっていないのかということについて話を進めることにしたい。それについては、 1.マップ上に敵のユニットと味方のユニットが配置されていて、味方のユニットを移動させて敵を少しずつ誘い出し、その敵に対して有利なユニットで攻撃して倒す。 2.攻撃した味方ユニットには敵ユニットのレベルに応じた経験値が入り、とどめを刺した味方ユニットには大量の経験値が入る。 3.この経験値によって味方ユニットは成長していき、レベル10以上になると、それぞれのユニットに応じたクラスチェンジアイテム(戦闘などで入手)を使用することで、上位クラスの強力なユニットになる。 という「ファイアーエムブレム」の根幹をなすシステムが、初代から不変のままに受け継がれてきているというのが大きい。ストーリーや登場人物が変わっても、プレーヤーがゲームを遊ぶ上で行なうことがまったく変わらないわけだから、基本的なおもしろさも変わらないわけだ。味方側が有利になるようにユニットを移動させ、戦っていくという苦労の見返りとして用意されているのは、ユニットがどんどん成長していくというカタルシスだ。入力に対する十分な出力が繰り返されていくことの快感が、プレーヤーを惹きつける。
この、入力に対する出力のバランスというものこそが、ゲームというインタラクティブなエンターテインメントのキモである。シリーズ最新作だからあれもやろう、これもやろう、ではなく、「ファイアーエムブレム」という作品が保証してきた入力と出力のバランス……すなわち、おもしろさの部分には手を加えずに、登場人物やシナリオだけを乗せ換えているからこそ、プレーヤーを裏切らない、不変のおもしろさが確立されているというわけだ。 ■ 表情豊かなキャラクタあればこそのカタルシス
戦う、勝つ、強くなる。このおもしろさが広く、そして強く認識されたのはおそらく「ドラクエ」などのRPGが世に広まったあたりからだろうが、マリオがスーパーキノコを取って大きくなったり、自機がアイテムを取ってショットが強力になったりと、アクションゲームやシューティングゲームが全盛だった時代にもその要素を見出すことができる。すなわち、苦労→パワーアップ→その後の展開が楽になる、というカタルシスの図式である。共通するキーワードは「強くなる」ということだが、ここに情感がプラスされることによって、カタルシスの先にある快感はさらに強まる。
正直、鼻で笑っていいところである。世界を滅亡させようという大変な勢力との戦いというシビアな状況にありながら、なんでまたわざわざ美形が勢揃いする必要があるのかと。しかし、ゲームたるもの、エンターテインメントたるもの、ここは美形が勢揃いしなければならないのだ。さらに言うなら、美男美女やステレオタイプなキャラクタが登場するからこそ「ファイアーエムブレム」なのである。このシリーズは、プレーヤーが感情移入しやすい魅力的な登場人物が勢揃いするからこそ、ここまでの歴史を積み重ねてきたのだから。 つまりはお約束なのだ。「ファイアーエムブレム」に限らず、冒険譚がエンターテインメントとなるとき、たいていの場合はヒーローはカッコいいものだと相場が決まっている。それでいいのである。カッコいいヒーローであり、かわいいヒロインというわかりやすい魅力があるからこそ、観客も感情移入がしやすいのだ。そうでなければ、人間性であるとか振る舞いであるとか実力であるとかで、よほど説得力のある魅力を持たせなければ、そのキャラクタはヒーローやヒロインとして成立しない。そのあたりは娯楽大作映画の歴史が雄弁に物語っているし、ゲームの歴史も、まったくそういうことになっているのだ。 そういうわけで、本作の登場人物たち、ゲーム中では戦いのためのコマでしかないユニットたちは、あらゆるパターンの魅力に満ちている。心優しく純粋な王女タイプのエイリーク、そんなエイリークを時にはからかいながらも、地に足がついた優しさでしっかりと見守っていくエフラム。ルネス王国の忠実な家臣であり、真面目な性格と武勇でエイリークを護衛する聖騎士ゼト。肉体派の屈強な戦士ガルシアと、そんな父にあこがれる駆け出し戦士のロス。気弱だけど、お爺ちゃん譲りの弓の腕は一流の少女ネイミーと、そんなネイミーを守り続けてきた少年盗賊のコーマ。己の命すらも賭けてしまう、博打好きの剣士ヨシュア。兄妹、主従、親子、恋人未満の幼なじみ、風来坊と、あらゆる(ステレオタイプな)キャラクタ付けがなされた登場人物たちが、壮大な戦いの物語の中でその魅力を発揮し、波長が合うプレーヤーを魅了していく。 ところが、プレーヤーの戦略がマズいと、どんなに魅力的なユニット(ここでは登場人物、キャラクタのこと)であってもあっさりと死んでしまう。どれだけひいきして、経験値を独り占めにさせて、愛情を込めて育てたとしても、そのユニットを死地に赴かせるような戦略を取れば、いまわの際の言葉をぽつりと残して力尽きる。そこには「ファイアーエムブレム」の恐るべき冷徹さがあり、その喪失感を回避するためにも、プレーヤーは慎重に戦略を組み立てつつ、愛するユニットを戦わせ、育てていかなければならないのだ。
だからこそ、戦い、勝ち、成長するカタルシスの快感は強く、深いものとなる。キャラクタに魅力があり、愛情が一瞬で喪失してしまう恐怖。これもまた、「ファイアーエムブレム」シリーズが誇る絶妙なバランス感覚のひとつだ。 ■ キャラクタの個性を引き出す「支援システム」
うまく利用すれば戦闘の難度が確実に下がるため、支援効果を持つユニットたちをどれだけ増やすかがゲームを進めていくポイントとなるのは言うまでもない。どのユニットが「特定の」関係なのかは、各ユニットのステータス画面などで把握することができるので、プレーヤーの任意で支援関係を選択できるのも嬉しいところだ。勘のいい人ならお気づきだろうが、そこでのキーワードとなるのは兄妹、主従、親子といったキャラクタ付けである。「支援」コマンドを実行した際に突入する会話イベントでは、それぞれのキャラクタの魅力が遺憾なく発揮され、キャラクタたちのディテールが明らかにされていく。 ユニットの能力を引き上げるというゲーム性と、キャラクタの魅力を引き上げるという演出が渾然一体となった理想的なシステム……などと陳腐に褒め称えるのもどうかと思うが、意外な距離感にあるユニット同士が「特定の」ユニットであり、思いもよらない会話の展開で友好度を深めていき、お互いが違った魅力を発揮していくというパターンまで用意されているのだから、これはもう素直に脱帽するしかない。 しかも、すべての「特定の」ユニット同士で支援レベルを高めきれるわけではないという、油断のない足かせまで用意されているというオマケつきで、こうなるともはや脱帽どころか平伏である。支援レベルは最高で3まで高めることができ、例えばエイリークとエフラムが3回「支援」コマンドを使えばそのレベルに到達するわけだが、なんと、ユニットそれぞれの「支援」コマンド使用回数には制限があり、5回までしか使用することができない。 つまり、エイリークとエフラムの支援レベルをレベル3まで高めた場合は、それ以外の特定ユニットとは最大でも2までしか支援レベルを高めることができないわけだ。支援レベルが高まる、すなわち友好度が高まるほどイベントでの会話は親密性を帯びていくので、それがレベル2までしか確認できないとなると……なんという巧妙さであることか。ユニットが持つ魅力的なキャラクタを堪能したいのであれば、またゲームを最初から始めて、エフラムとの支援レベルを2までに留めたり、またはエフラムに見向きもしないで他のユニットとの支援レベルを高めていかなければ、すべての会話イベントを確認することができないのである。
ゲームを買ったからにはコンプリートしなければ気がすまない! というコアなユーザーであるなら、ある意味歓迎するべき「やり応え」であり、そこまでハードにやり込む気がなければ、わざわざゲームを最初からやり直す必要もない。このあたりもやはり、バランスなのだ。コアなファンにも、ライトなファンにも受け入れられる要因がここにもある。 ■ コアなファンでもとことん遊べる、圧倒的なボリュームとやり込み要素 「コアなファン」という流れで書いてしまうことがふさわしいかどうかが微妙なところだが、遊んで、遊んで、遊び尽くせるというのも本作の大きな魅力である。まず、メインのシナリオが序章~最終章までで24章だが、途中でエイリーク編とエフラム編に分岐するため、全部で32章ということになる。さらに、シナリオ上のマップとは別個で、ユニットを育てるのに便利な遺跡や塔というバトルマップも用意されているため、バトルマップのバリエーションはゆうに40を超える。さらにはシナリオでクリアしたマップ上にもモンスターが出現し、その場所に進めば戦闘に突入したり、ゲームクリア後にもフリーマップとしてあらゆるバトルマップで戦うことができるため、その気になれば飽きるまで遊び続けることができる。 シリーズの常として、「普通にシナリオを進めるだけだと、クリアするまでにお気に入りのユニットを育て尽くせない」ということが多々あるが、遺跡や塔を活用していけば、お気に入りのユニットたちを極限まで育て上げた状態で最終章に突入することも可能だ。極限まで育てるためには必須となるクラスチェンジアイテムに関しても、例によって「秘密の店」で入手することができるし、それに必要な所持金も遺跡や塔で稼ぐことができるので、まったく問題なし。
と、上に書いたところまでが「1回のプレイ」で遊び込める領域で、そこから先にはさらに、「支援」コマンド実行時に発生する支援会話(会話イベント)をすべて確認するという、2回目、3回目のプレイでのみ可能なやり込み要素が残されている。難易度にも「むずかしい」が用意されているので、シナリオに手応えを求めるなら、2回目以降で「むずかしい」に挑戦するのもいいだろう。
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□任天堂のホームページ (2005年3月3日) [Reported by 平田 洋]
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