【Watch記事検索】
最新ニュース
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【11月27日】
【11月26日】

Taipei Game Show 2005現地レポート

SCEH董事長安田哲彦氏インタビュー
「2010年までにアジアが日本を追い抜く」

会期:2月24日~28日(現地時間)

会場:Grand HyattTaipei会議室

 Taipei Game Show初日のSCEH(Sony Computer Entertainment HongKong Taipei Limited)ブースで開催されたPSPローンチイベントの後、日本のプレスを対象にした合同インタビューが行なわれた。インタビューに応じたのは、SCEH董事長(日本の会長職に相当する)で、SCEJで東南アジア方面を統括する中国・アジア事業本部長を務める安田哲彦氏。

 合同インタビューといっても会議室に現れたのは、弊誌ともう1社だけで、この事実一つ取っても見ても、E3や東京ゲームショウといったメジャーなゲームショウと比較して、東南アジア市場への興味の薄さを如実に表している。安田氏はそうしたニッチな市場を、まったくゼロからのスタートで、地道な販売活動を続け、8年掛けて台湾ではまったく新しいタイプのポータブルゲームプラットフォームであるPSPを、大勢のプレスの前で堂々とお披露目するというところまでこぎ着けた。

 今回の発表では、安田氏としては相当の達成感があったようで、SCEHの設立経緯から現状の取り組み方、そして将来の展望を語って頂いた。


■ PSP発表の手応えとSCEH設立までの経緯について

ズバズバとしたとした物言いで辛口なコメントを連発する安田氏
SCEHブースでの安田氏。台湾プレスに対するリップサービスも旺盛だった
編集部: まず今回、SCEHとしては初めて台湾で大きな発表を行なったわけですが、どのような感触をお持ちになられましたか?

安田哲彦氏: 3年くらい前から急にネットワークというのが話題に上るようになって、誰も彼もがネットワークで、ゲームもネットワークに移行して、商売自身もネットワークに移行するんだといったようなことがしきりに言われ始めました。

 しかし、理論と現実にはずいぶん乖離がありまして、ゲームはぱっと押せば状況が変わりますが、やはりマーケットは徐々にしか変わっていかない。そのような中であまりにも台湾は、日本やアメリカ、ヨーロッパからの情報を受けて、「すわネットワークゲームだ」という雰囲気でしたが、それが最近では少し沈静化して、ノーマルな考え方をしていただけるようになりました。今回このゲームショウに出展した理由のひとつがこれです。

 日本と違って、といったら失礼なんですが、インフラなども整っていない中で、ネットワークゲームに手を出してもし失敗したら、大変です。だからとにかく慎重に慎重に行動を選んで、今までやってきています。

 みなさんご存じのように、ネットワークゲームというものが日本でどういった状況にあるかということを考えれば、日本でうまくいかないものがアジアでうまくいくかといえば、ちょっと違うと思います。出展のお声掛けをいただいたのは数年前ではあるのですが、その当初はやはりあまり誤解を招く方向に行きたくないと考えました。

 それから、台湾ではいろんなメーカーさんがアプローチしてくるんですが、やっぱり、ネットワークゲームのことなんですね。猫も杓子もネットワークゲームで、うちはまったくそのつもりがないのに、そちらの流れに巻き込まれたくないというのも、正直な意味での理由のひとつです。

 話せば長くなるのですが、SCEHが香港に会社ができてから8年間、それから本間(SCEH台湾支部代表)さんが台湾で動き始めてから7年が経過しているのですが、最初立ち上げるのに日本とは違う意味で時間がかかりました。

 私が10年前に日本で事業を立ち上げたときには、幸い日本にはもうすでに正規ビジネスによる顧客がいました。この顧客は誰が作ってきたのかといえば、我々の先輩である任天堂さんやセガさんです。私も実はもう12年ほど前になりますが、「エピック ソニー ニューメディア部」というゲームビジネスの準備室があったんです。そのときには我々は任天堂さんのスーパーファミコンを作って、初心会のみなさんに買っていただくという作業をやっていたんですよ。

 そのかたわら、とにかく北海道や九州などところを選ばず年がら年中、学校の体育館のようなところを借りて入ってくれた人に一生懸命説明をして、とにかくゲームをプレイしてもらった。子供たちはやはり欲しい欲しいといってくれて、どんどん売り上げが伸びてきたんです。そういう地道な活動をみなさんでやって開拓した顧客が日本にはたくさんいたんですよね。しかも1万円位するソフトが多く売れるようなマーケットができあがっていたんです。

 そこに向けて私達が「もう2Dだけじゃつまらないね」と、レーシングゲームをやるんだったら前に走れるような3Dのゲームが欲しいよね、というところでプレイステーションが発売されて、たまたまみんなに受け入れられて、しかも正規のお客さんに受け入れられてうまくいったと思うんですよ。

 一方、アジアではこのように一人一人説明して作ってきたお客さんが全然いなかった。アジアでもゲーム機というのはもちろん売れていたわけですけれども、これはあくまでも並行輸入で入ってきた機械が何の説明もなく店頭で売られて、それを買ったお客さんがある程度の数はいた。ただそれ以上の数はいないわけです。

 我々はそういうお客さんを作るために、香港のアジアゲームショウに出展する前に、たとえばショッピングセンターの中のホールを借りてやってみたり、店頭のイベントをやってみたりといった小さなイベントを行なって、一人一人お客さんに説明をして顧客づくりをしていたので立ち上げにだいたい3~4年を要しました。

 今一番大事な仕事はこのように顧客を作ることであって、華々しいところに出て、たとえばソニーの名前を借りて大げさなことをやって何になるんだと。正直そのような気持ちも心の中にはあったものです。やる順番のプライオリティとしては他のことであって、こういったショウに出ることではなかったのです。

 よくPSはなぜうまくいったかということで、「ソニーだったから」という人がいますが、そうじゃないんですね。ソフトメーカー各社や、任天堂さん、セガさん先輩たちが顧客を作ってくれてて、我々のゲームを受け入れてくれるお客さんを作ってくれていたから、うまくいった気がするんです。それを忘れずにということで私はずっとやってきています。

編: 満足感は高いと?

安田: ええ、高いですよ。今までは並行輸入品と比べて高いとか安いとか、コピーがかかるのかからないのといったそのような会話だったのですが、最近このような会に出て即売会をやると、ハードを一台とソフトをまとめて5~6枚買ってくれるようなお客さんが出てきてるんです。お父さんが子供にねだられてクレジットカードを出して買っていく。こういうお客さんというのは明らかに今まで並行輸入品を買っていたゲーマーのみなさんではなくて、一般のお客さんが、これは噂に聞くよりもずっと健全だと、判断して子供に買い与えるわけですよね。

 3年前の香港のゲームショウでやっとここまで、スタートして5~6年たってようやくゲーマーの方だけではなくて、一般のお客さんまでたどり着いたかと。だから最近はものの売れ方も非常に違いますね。正規品をきちんと買ってくれる。コントローラも当然偽物がいっぱいあるわけですが、そういうものは買わないでブースで正規品を買ってくれる。そういうお客さんが増えてくれたのは非常にありがたいです。

 こういう状況ならばたとえばPSPを持ってきても、ある程度の販売台数は得られるかなという判断ができるようになりました。いまSCEHが富士山の何合目にいるのかはわかりませんけど、ようやく一番下ではなくなったかなと。ただ、まだまだ上って、やらなきゃいけないことが山積してますのでまだまだ気が抜けない。私の周りの社員には、我々が立ち上げといっているのは1~2年じゃなくて最低10年かかるものだと言い続けています。

 まだまだ安心はできない。なぜならば台湾市場は、日本のような成熟したマーケットではなくて、少しづつ駒を進めているような状況です。「海賊版はダメ」と言い続けているだけでは、なおさら海賊版を意固地になって買う人も出てくるので、やはりソフトを作る人に敬意を払おうよ、と。「敬意を払うということが海賊版を買わないことなんだよ」とという考え方を浸透させようと考えています。

 私は10年前に青山のツインタワービルでこの仕事を始めたときに、我々はマーケットサーベイということで昼間動いているのですが、制作者の方たちというのはすぐそばにいたんです。私が朝出勤してくるとみんな床で寝ているんですよ。床なんかで寝ていたらおまえら風邪引くぞと、段ボールを壊して床に敷いて、この上で寝ろと。「あったけえぞ」なんていったら、「本当だ!」なんて会話をしていたのがいまの「グランツーリスモ」シリーズを作っている山内君とかでした。

 彼らが本当にどんな思いをしてゲームを作っていたのかはわかりませんが、ともかくそういう状況を見ていたんです。大変なんだなこいつらって、うまくいかなければいらいらしたり、腹減っているのに飯も食わずにやっていたり、結婚したばかりなのに家に帰らずに奥さんに怒られたり、いろんな事があって、でも自分の情熱を燃やしてゲームを一生懸命作っている。そんなソフトをコピーされたら許せないですよ。私はずっとそれだけで今まできていますよ。

台湾の秋葉原に相当する光華商場。数年前に比べると遙かにまともな商店街になっている
編: 私は定期的に台湾を取材していまして、その際「光華商場」といったマーケットに市場調査に行くのですが、特に最近は加速度的に海賊版へ対策が効果を上げているように思えるのですか、どうなのでしょうか?

安田: 海賊版って何でそんなに売れるの? と私も疑問だったのですが、以前、実際に調べてみたら、日本だとゲームを売るのにレジを打つじゃないですか、だけどコピー業者は手裏剣みたいにソフトを配って、奪うように20ドル札を買い手からもらっているんですね。ああ、これならば瞬時に大量のものが売れるんだなと現場を見てわかりましたね。シャッターあけて一気に商売をして、手持ちのソフトがなくなったら札束抱えて帰ると、そんな光景を見ながら我々はスタートした訳なんだけれども、今は違うやり方で海賊版が売られているような気がします。

 なぜかと言えば、メモリーカードが日本の比率よりも売れるんですよね。装着率が高い。日本の場合はハードが1に対して7くらいの売り上げなんだけれども、こっちは1:30とか、40は売れている。それも正規のものじゃなくて、正規のものは1:2.5程度なんですがそのほかにコピーがいっぱい売れてるんで、そのためにメモリーカードが必要なのかという気がしますね。だから、けっして前ほどひどくはないにしても、決してなくなってはいない。それははっきりメモリーカードが売れることでわかりますね。

 意外ですか? それだけアジアのゲームの関心は高いんですよ。日本はこれだけ情報が多い時代になってくるといろんな娯楽があるじゃないですか。日本には楽しいことがいっぱいありますが、アジアの人たちはまだ楽しみが少ないないと思うんですよね。楽しみのひとつとしてゲームというのは受け入れられているなと思うんですよ。それが海賊版で受け入れられているという状況をやっぱり少しずつなおしていかなくちゃいけない。

編: PSPの台湾発売に際して、何かコピー対策は考えていらっしゃるんでしょうか?

安田: PS2ではコピーソフトをプレイするために本体にMODチップを埋め込んでいますが、PSPのような精密で小さな機械をあけて改造すると、その時点で物理的に壊われてしまうのではないかと考えています。ですから、ある時期までは出てこないような気もするんですが、台湾なんかは技術力ありますんでねぇ。いいのか悪いのかわかりませんが、もう一生懸命開発してるんじゃないかとも思いますけれども。ただ時間はかかると思います。その間にこちらとしては一生懸命お客様に正規品を買う癖をつけていきたいなと、ですからイベントを続けたいなと思っているんですよ。

 日本だとバンドル販売になっちゃうんですけど、「みんゴルパック」だとか、まずはソフトも1枚買ってもらって、そのほかにも工夫をして1枚でも多くソフトの装着率が上がるようにしたいなと思っていますね。決定打はないんです。あらゆる手段を講じて、前に進んでいきたいなと思っています。今までと同じようにやっていきたいと思っています。

編: 台湾では春頃にPSPの発売が予定されていますが、受け入れられ方というのは、日本と台湾では大きな違いがありそうですか?

安田: メディアのみなさんたちのご助力のおかげでこちらにもたくさんの情報が届いています。だから台湾でもそんなに情報の乖離はないと思っています。日本ですごく売れていること、その温度は伝わってきています。

編: では数量はきちんと用意してからと。

安田: そうですね。ただ日本でも足りないので、ちょっとよこせというのが気の毒ではあります。ただ、よくよく考えてみると私が日本でPSを発売するときに割り振った数字って8万台なんです。店舗の数は7,000軒でしたから、えらい気の毒なお店もありましたよね。3台とか、2台しか行かないとか。

 できあがったPSを配送屋さんに渡すとすぐ出ていくというようなことを、毎日やってて、それでもお店に入れたハードがその日のうちになくなるというようなことが半年くらい続きましたね。PSPは今日本で似たような状況だと思っているんですよね。

編: アメリカではPSPを3月に発売するとのことですが、アジアではどのような順番で発売されるのでしょうか?

安田: まだはっきりしたことは決められていないんですよ。アジアとしてはほぼ同時にスタートしようと思っています。韓国も、中国もすべて含んだ全部が私のテリトリーになるわけで、私の方で決めていきたいと思っています。ただ中国に関してはまだうまく立ち上がっていないんで、だいたい下半期、10月くらいからやりたいと思っています。アジアについてはほんとは来月くらいからやりたかったんだけど、数の問題もあるので、春って言われる間にやりたいですよね。

編: 今回のPSPのアジアへの割り当ては何万台くらいになるのでしょうか?

安田: まだ決まっていませんが、アジア全体で10万台ももらえればいいんじゃないかなあと思っているんですけどね。

編: 将来的には生産工場もアジアのどこかに置きたいと。

安田: そこら辺は本社の発表を待つしかないですね。

編: ショウでは物販も行われていましたが、こういった場所での売り上げはどのくらいなんでしょうか?

安田: 結構なものですよ。さっき聞いた金額で日本円で200数十万ですから、一日500万位にはなるんじゃないかと。

編: それは特に値段設定を安くしたり、レアなアイテムを用意しているというわけではないですよね? ひとつ思ったのが、台湾って売り場そのものがまだ少ないのかなと。だからショウに来たついでに買っているのではないかとも思いましたが、

安田: どちらかというとこのTaipei Game Showは「ゲームが安く売られるお祭り」といった意味も持っているイベントですね。我々も安く売るようなものもなかったので、出なかったというのもひとつの理由ではあったんです。私達も古いソフトは値引きしていますが、そんなに町中で売っている値段と大きくは違わないですよ。その値段の商品をみなさんたくさん買っていってくださるのでありがたいですよ。


■ アジアのゲーム開発ビジネスに対するSCEHの考え方

オンラインゲームはヒットしてもメーカー以外はうまみが少ない。当たり前のことだが、経営者レベルからこういう話が聞けるのは貴重だ
編: オンラインゲーム市場では台湾オリジナルタイトルが結構生まれてきていますけど、台湾オリジナルタイトルの予定はないのでしょうか?

安田: これも本当によく考えてからやらないとまずいと思います。どこかのメーカーだけが儲かるとか。この前北京でゲームショウがあったんですが、その時に文化部というところから、講演を依頼されたんですよ。私の前に「シャンダ」という中国のメーカーの社長さんが非常にスムースな講演をなさっていたんです。その後に記者質問があって、4人目がネットカフェの経営者さんだったんです。この人が文句みたいなことを言ったらですね、会場全体から拍手が起こりまして。

 「どういうことなの?」と聞いてみたら、ネットカフェの方々は赤字で大変らしいんです。通信費などが大変高いらしいんですね。だけどシャンダは大儲けしていて、大きな財産を作っている。こういう状況は、非常にまずい訳です。昔から私は言ってるんですが、“丸いタイヤじゃないと転がらない”と。どこかが出っ張った三角のタイヤじゃダメだよねと。中国の状況はまさしく三角のタイヤになっちゃっている。こんな状態で継続できるかと言えばするわけがないですよね。

 我々の商売から言えば、流通も儲かって、我々も何とか続けることができて、お客さんも喜んでもらえる状況をつくって行かないと、継続させるのはなかなか難しいですよね。そういう意味ではネットワークゲームのビジネスモデルを考えたときに、どこもがある程度の利益を上げていける状況に今はまだなっていないような気がしてるんですよ。

 どこかが引っ張っていけばいいと言うような考え方をする人もいるんですが、一時期は花盛りなときがあったとしても少したつとそれが消えてしまいますよね。必ず関わっている人がある程度利益をあげられるような環境になったときがやるときじゃないかと思っています。残念ながら今はそういう時期じゃないかなと。だから今は携帯や据え置きのゲーム機と同時にパッケージソフトを売ることに専念していきたいと思っています。

編: 台湾におけるゲーム開発の懸念事項というのは何なんでしょうか?

安田: 日本のソフトメーカーさんを拝見すると、今まで開発者さんが自分でお金を集めてアメリカまで勉強しにいって、帰ってきて一生懸命ゲームを作って売っている。売れたら会社がだんだん大きくなってそこの社長さんになっているわけじゃないですか。だけど台湾ではほぼ100%、ゲーム会社の社長と呼ばれる人は投資家なんです。だから商売で儲けるためにソフトを売るという順番なんですね。

 ゲームが好きで、何とかゲームを作りたいとお金がないから人に頼んで集めましたと、作るためにはノウハウを勉強すると、それだけじゃできないのでいろんな経験をしてね、苦しい思いも、楽しい思いもして、こんなゲームを作りたいなと言ってできてくるわけじゃないですか。

 だいたい台湾の場合はできあがったものしか見ていないからどちらかと言えば順番が違うんじゃないかと。お金があればゲームのいいのができるかと言えば大間違いですよね。それにたとえば格闘ゲームにしても、いろんないいゲームができているけど作っている人達を調べたら実は一緒だった、みたいなね。他にもたとえば、「テトリス」みたいな良いアイデアを持ったゲームが何年に何個生まれるのかなと。

 ゴルフゲームにしてもたまたま「みんなのゴルフ」がヒットしたけれども、これに代わる商品がいつできるのかと。全部が成功するわけではなく、志を同じくする人のうちの1,000人に一人とか一万人に一人とかいうレベルで生まれてくるものじゃないですか。それをお金でいきなり買おうといったってね。だからスタートがまず違うんじゃないかと思ったんですよね。

 韓国でも同じ事を思ったんですけど、有名なネットワークゲームの会社ってあるじゃないですか。だけど「これアメリカで流行っているやつを韓国語にして出しているだけじゃないのかな」と。ローカライズしてヒットしてるだけだと。そんなところがいっぱいありますよね。

 だからゲームってつまるところアメリカでできあがって、日本でもうまくカルチャライズされてヒットした。ヨーロッパはいまちょっと暗いなあとか思うんですけど。ともかくこれらの地域が発祥と言うべきもので、台湾からも同じように発祥するものができてくればいいと思うんですけど、もうちょっと先かなと。お金儲けのためにゲームを作っていてはダメですよね。

 親からお小遣いをもらっているだけではなくて、一生懸命アルバイトをして稼いで自分のお金でゲームを買う人は、本当に隅から隅までゲームを楽しむ。そういうユーザーが生まれるようなゲーム文化を創らなくてはいけないんです。ただそれには本当に時間がかかる。


■ 中国をSCEHに統合し、2010年に日本市場を上回る規模に成長させる

PSPのアジア地域全体での年内の販売目標は60万台
SCEJで東南アジアビジネスを担当する川内史郎氏
編: PSPの正規版の価格は、並行輸入品よりちょっと安い設定にするのですか?

安田: そうですね、私達は並行輸入品に関してはどうやって買って持ってくるかは全部研究して把握しています。たとえば大手量販店で買う時に台湾のパスポートを見せれば消費税がかからなくなる。ポイントカード制のお店ならば、10個買えばひとつただになるポイントがたまる。こうやって少し安く手に入れられるけれども、行列に並び商品を確保するアルバイトに払うお金とか、台湾に運ぶ費用もかかる。儲かるためにはじき出す業者の設定価格を、研究しています。はじき出した金額に対して私達はどうやっていくかを決めます。並行輸入品よりは若干安くはできますが、極端な価格設定はできないですね。

編: PSPのソフトも中国語版は発売するのですか?

安田: PS2のソフトの考え方と同じで、中国語版は必要だと思っています。ただテキストが多すぎるゲームに関しては、時間とかかるお金の兼ね合いがありますね。長い時間をかけて翻訳したのは良いけれど売り時を逃したという苦い経験も我々はしていますし。当初はテキストの少ないソフトからやっていきたいと思っています。

編: 今年の春にPSP発売ということで、年内の販売目標数はどのくらいでしょうか?

安田: 60万台は最低売りたい。SCEH管轄のアジア地域、香港、台湾、シンガポール、タイとマレーシアでですね。私個人の腹の中では100万台は行きたいなあとも思っていますが。ただ、確かな手応えはあります。

 現在はPSPに関してはすべて東京から仕入れなくてはいけない。今はその仕入値が少し高いんですよ。原価自体が今のところ結構かかりますので、市場が盛り上がってきて原価がこなれてきたところでプラスマイナスゼロまで持っていけるかなという感じですね。

 タイとマレーシアに関しては関税が30%もかかるので、ちょっと積極的に動いていないという事情があります。中国大陸はまた別な戦略で対応していきます。今までは「ソニー チャイナ」管轄だったシステムを、少し変えていきたいかなと。去年の3月から私が担当になって、やってみたんですけど温度差がある部分があって、よっぽど根性を入れていかないとやっていけない部分がありますね。

 というのは、戦う相手が多すぎるんですよ。こういうとみなさんは任天堂さんやマイクロソフトさんを思い浮かべるかもしれませんが、私達が戦っている相手は、海賊版を作る業者であり、為替であり、習慣の違い、これらと戦っていかなくてはならない。メーカーさんは決して敵ではないですよ。他社と戦うなんて考える余裕はありません。本当に必死ですよ。為替の変動で儲かるはずのものが大赤字になったりしますからね。

 中国大陸は先ほども言いましたけど10月くらいから本格始動していきます。もちろんこれは私個人の考えで、環境が許すかは見えない部分があります。中国は今年からゲーム機には関税がかからなくなったんですよ。ところがまだ蔵置税という税金があって、これが19%かかる。並行輸入品の業者は払わない。ここですでに二割の価格差が生じるわけです。並行品にあわせると赤字になってしまう。こういう環境でスタートしている現状でどうやったら市場を広げていけるかを考えています。

編: 日本ではPSP発売時には10タイトルほどの同時発売タイトルが発売されましたが、台湾でも同じような状態になるのでしょうか?

安田: そうですね、できるだけ同時発売タイトルを多くしたいとは思っているんですけれども、日本のことはあまり意識せずに、身の丈にあったタイトル数で当面やっていきたいかなと思っています。

川内史郎氏: 現在社内で検討しています。10タイトルくらいとも考えられていますが、詳細は3月中旬に改めて発表します。日本でもキラータイトルになっているものは入れたいと思っていますし、いろいろなジャンルのものを入れてやりたいなとは思っています。

編: その中に中国語版は含まれるのですか?

川内: 今回はちょっと間に合わないかなという感じですね。

安田: 香港管轄のエリアは日本語版で発売しようかと考えています。

編: 日本語版での発売というと、たとえば韓国では通用しないと思うのですが、香港でも日本語版には抵抗がないんでしょうか?

川内: 必ずしも良いと思ってやっているわけではないのですが、ある意味それでも遊んでいただけているというちょっと甘えの部分もあります。今後のUMDに関しては海賊版の心配も今のところは回避できますし、英語版や中国語版などその国にあったローカライズをできるだけ行なっていこうと思っています。

安田: ローカライズ作業ひとつとっても今日雇った人が今日から使えるというわけではないんですよ。だんだんと力を付けてもらって、そのスピードに並行していくんじゃないかと思いますね。

川内: 特に台湾のユーザーに多いのですけど、元々の日本語を変えて欲しくないという要望も多いんですよ。日本語音声に字幕を入れて欲しいとか。

安田: 中国語の吹き替え版を出したとき、最初「偽物だ」っていわれたものね(笑)。ローカライズをしているチームは台湾の人が多いんだけど、どうやって日本語を覚えたかを聞いたら、「ゲームで覚えた」なんて人も多かった。ただ今以上に大きくなってきたときにどういった手法が有効なのかは考えなくちゃいけない問題だけど、そこまでまだ行っていませんね、正直に言うと。これからの課題ですね。

編: 最後にアジア事業部の今後の展望について教えてください。

安田: ちょっと前までほんとに売り上げも利益もなかなか上がらなくて、大変だったんですけれども、前年比の20%、30%と増えていけばだんだん大きくなって来るじゃないですか。SCEHの存在は、SCEJ社内でも注目をしてくれるようになってきました。

 私自身の展望を言うと、やばいことがいっぱい出てきますんで、ちょっと言えないですが(笑)、少なくとも私がSCEHを設立した際に目標としたのは、日本の売り上げを抜いてみせたいと。これを心に誓って日本から出てきているわけです。だからそれの今1合目、2合目くらいかなと思っているんですけど。ただあんまりゆっくりしていると定年になってしまうので、早めにやらなくちゃなと。

 2010年という年が中国でも節目に当たるそうなので、そこら辺を目指して自分では大きな目標を持っています。最初台湾ではぎりぎり赤字になりそうなところを香港でのビジネスの収益で何とかカバーすることで進めてきました。これからは他のアジア地域の力で中国市場をどこまでカバーできるかというのが課題ですね。最終的にはアジアトータルで日本の売り上げを抜きたいと。

 中国などは所得格差も問題ですが、中国や韓国ではまだ「ゲームは悪だ」というような所もあって、この誤解を解いていきたいと思っています。音楽などは人間に豊かさをもたらすものですが、ゲームだってそうです。子供の情操教育のひとつとしてゲームがある、ということもこれからやっていきたいと思っています。

 ゲームをやめろといっている人もPSPをさわってしばらくすれば「これがゲームなのか」と思ってくれる部分もきっとあると思うんですよ。きちんとゲームというものを説明しながら進めていきたいと思っています。私の意志をくんでくれるスタッフもだんだん増えてきていますので、たぶん日本を抜くという目標は達成できるかなと思っています。

編: ありがとうございました。

□Taipei Game Show 2005のホームページ
http://tgs.tca.org.tw/
□Sony Computer Entertainment HongKong Taipei Limitedのホームページ
http://www.soft-world.com.tw

(2005年2月27日)

[Reported by 中村聖司 Photo by 勝田哲也]


Q&A、ゲームの攻略などに関する質問はお受けしておりません
また、弊誌に掲載された写真、文章の無許諾での転載、使用に関しましては一切お断わりいたします

ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

(c)2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.