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Taipei Game Show 2005現地レポート
Soft-World本社取材レポート その3 |
会場:Chinese Gamer本社ビル
最後のSoft-Worldインタビューは、グループ内で自社開発タイトルを担当するChinese Gamer。2月14日に日本のテクノブラッドとの提携を発表し、ようやく日本でもその名を知られ始めたメーカーである。現時点で発表されているのは女性向けオンラインコミュニケーションゲーム「Love Box」のみだが、強く日本市場を意識している証拠に、台湾メーカーとしては珍しく日本語サイトが用意されている。
Chinese Gamerの本社だけ、他のグループとは少し離れた場所にある。社内の雰囲気もグループ会社の中でも独立志向が高いイメージだ |
このように同社は、台湾のオンラインゲームメーカーとしては珍しくデベロッパーとして完全に独り立ちしており、2003年12月には単独で上場も果たしている。Soft-Worldグループの影、というよりGame Flierの「ラグナロクオンライン」の成功の影に隠れてあまり目立たない印象だが、韓国のNC Softに匹敵するほどの自力でのし上がってきた非常にパワフルなメーカーなのである。
今回は、台湾を代表するデベロッパーとして、また台湾のクリエイターとして、ゲーム開発を通じて台湾ゲーム事情を伺ってみた。インタビューに応じて頂いたのはChinese Gamer副総経理(副社長)の呂學森氏。一見、ゲームクリエイターには見えないが、ゲーム制作に携わってきたことを感じさせる含蓄の深さとゲーム開発に対するこだわりを感じさせてくれた。
■ 台湾だけで330名のスタッフを擁する開発会社
パッケージビジネス時代からゲーム制作に携わってきたという呂氏 |
広々とした社内。開発しやすい環境が整えられている |
呂學森氏: 設立は2000年3月、Soft-Worldの開発チームのひとつでした。パッケージゲームなどを開発していましたが、社内で「オンラインゲーム」を作ろうという動きが持ち上がって会社組織として再スタートしました。
現在は、オンラインゲームの開発と運営を行なっています。運営に関しては、すべて行なっているのは台湾と香港のみで、大陸(中国)では一部のゲーム、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシア、韓国といった地域では現地のパブリッシャーにライセンスして運営していただいています。
編: 現在運営しているタイトルと、大まかなユーザー数を教えてください。
呂: 全部で7タイトルがあります。「網路三國」(20万人)、「金庸群侠伝」(250万人)、「三國演技」(85万人)、「呑食天地」(120万人)、「東方伝説」(20万人)、「Love Box」(85万人)、「金庸群侠伝 2」(50万人)となります。
編: ユーザー数を足していくと凄い数になりますね(笑)
呂: この数字は最大時で、今その数字だというわけではありません。また、多くのユーザーはどんどん新しいタイトルに流れていってます。たとえば一番最初にサービスを開始した「網路三國」は、もう数十人しかプレイしておらず、ほとんどは「三國演技」に流れています。
編: 同時接続ではいかがでしょう?
呂: 「金庸群侠伝」と「呑食天地」が4万人ずつぐらい。「金庸群侠伝 2」が2万人ぐらい、「Love Box」が1万5,000人ぐらいといったところです。
編: これらのタイトルは別々に開発部署が存在するのですか?
呂: 「網路三國」からスタートしましたが、「金庸群侠伝」、「三國演技」とタイトルが増えるに従って、元の部署から引き抜くと同時に、新しい人材も雇用して開発体制を整えています。スタッフを異動させる理由は、前のタイトルで得た経験を、新しいタイトルの開発に役立てるためです。
編: たとえば「金庸群侠伝」だとどのぐらいの人数で開発されているのですか?
呂: 最盛期で40人ぐらい。20人がグラフィック、10人が企画、10人がプログラマという編成になる。
編: 全体では何名ぐらいのスタッフがいるのでしょう?
呂: 台湾では全部で320人ぐらいいて、開発に携わっているのが190人ぐらいです。
編: 台湾で開発会社というのはまだまだ珍しい存在だと思いますが、オンラインゲーム開発の苦労などがあったら教えてください。
呂: 2つの段階に分けられると思います。開発の段階では、プログラマが安定したシステムを構築するために苦労を重ねます。サービス開始後は……オンラインゲームはサービス開始後も進化を続けていかなければなりませんから、ユーザーから送られてきたさまざまなフィードバックを活かすために、企画が苦労を重ねます。
編: 台湾国内におけるChinese Gamerの開発水準というのはどの程度のレベルにあるのでしょうか?
呂: 台湾に限って言えば、間違いなく当社がナンバーワンの実力を備えていると思います。これはこれまでに数多くのタイトルを開発してきただけでなく、多数のユーザーにも支持されてきています。「金庸群侠伝」が国産ゲームとしては唯一同時接続10万人を突破した事実は我々の誇りとするところです。
■ 代表作「金庸群侠伝」シリーズ、同社初の女性向けMMO「Love Box」
金庸の武侠世界をUnrealエンジンで蘇らせた中華圏ならではのMMORPG「金庸群侠伝 2」 |
入り口に置かれていた「Love Box」のポップ。なかなか可愛らしい |
呂: 金庸というのは中華圏の人間なら知らない人はいないほど有名な武侠小説作家で、全部で14冊の小説を書いています。「金庸群侠伝」は、金庸の武侠小説をモチーフにしたMMORPGです。「金庸群侠伝」は2Dでしたが、リリースしたばかりの「金庸群侠伝 2」ではUnrealエンジンを採用し、フル3Dグラフィックスを採用しています。武功などものアクションも派手な表現で描いています。
編: 「金庸群侠伝 2」はユーザー数50万人、同時接続2万人ということですが、このユーザー数は満足できる数字なのでしょうか?
呂: この数字には満足していません。4月に新しいデータディスクを発売するので、4月に大幅なユーザー獲得を期待しています。
編: データディスクはどういった提供方法を採用しているのですか?
呂: ひとつはダウンロード、もうひとつはパッケージによる提供です。これは台湾ではコンビニが非常に身近な存在なので、ユーザーはパッケージを買いやすい環境にあることがひとつ、またまだ台湾はナローバンドのユーザーもいますし、ダウンロードに時間が掛かることから2通りの方法を用意しています。
編: ちなみに新しいデータディスクの内容はどのようなものでしょう?
呂: 「金庸群侠伝 2」で現在提供している内容は、金庸世界の全体像のようなもので、言わば土台になります。4月に発売するデータディスクは、14作の中の1作である「天龍八部」という小説が直接のモチーフになります。
編: 課金システムはどのようになっているのでしょうか?
呂: 月額課金とポイント課金の2種類を用意しています。月額だと350元(約1,000円)、ポイント課金だと12時間で25ポイント。1ポイント1元ですから12時間25元(約75円)ということになります。
編: 率直にいって非常に安いですね。日本では月額課金で数百円から3,000円までと幅広く、韓国では3,000円前後が相場になっています。台湾の相場は韓国の1/3程度ということになりますね。
呂: 大陸だともっと安くなります。日本円で400円ぐらいが相場です。
編: 日本展開が予定されている「Love Box」ですが、Chinese Gamerのラインナップの中では異色の存在に見えるのですが、どのような開発経緯で生まれたタイトルなのですか?
呂: 当社が得意とする歴史物、武侠物は男性が全体の8割を占めます。こうした事情から女性をターゲットとして新しい顧客を獲得しようと考えて企画しました。「Love Box」は実際に全体の7割ぐらいが女性ユーザーです。今までと逆ですね。
編: 男女比率が見事に逆転してしまったわけですが、他のゲームと比べてコミュニティに明確な違いは感じられるのでしょうか?
呂: ゲームの内容そのものが他と大きく異なるので、難しいところです。一般的なMMORPGは、モンスターを倒してレベル上げをしたり、スキルを磨いたりといったことがプレイの中心になりますが、「Love Box」では友達と一緒にミニゲームをしながらおしゃべりしたり、お菓子、服装、家具といったスキルを磨いたりしていくことになります。
コミュニケーションツールも豊富で、見知らぬ人同士でも気軽におしゃべりができるようになっています。日記交換などもあります。こうしたツールを使って、やりとりされる話の内容は、現実世界に基づいた内容が多くなっています。今日学校で何があったとか、今日はどんな出来事があったとかですね。こうした部分が大きな違いといえます。
編: やはり開発スタッフも女性が中心なのでしょうか?
呂: 女性が多いです。特に企画はほとんど女性です。
編: 女性向けのオンラインゲームというのは、世界的に見てもまだまだ数が少ないですが、この企画は成功したと言えるでしょうか?
呂: 成功したといっていいでしょう。同じようなゲームは韓国にもあり、台湾でも運営されていますが、ユーザー数は「Love Box」の1/10以下です。また、こうした新しいタイプのオンラインゲームを開発し、商業的な成功を収めたことを誇りに思ってます。
編: 「Love Box」は、テクノブラッドとの提携で、日本展開が予定されていますね。
呂: 子会社を置かずにライセンスしたのは、ひとつは我々は日本市場のことをあまりよく知らないということが挙げられます。だったら、信頼できるメーカーにライセンスして、パブリッシャーを探してもらった方がいいのではないかという結論に達しました。「Love Box」の日本展開が行なわれれば、他のタイトルも日本進出を果たすということがあるかもしれません。
編: このラインナップの中で「Love Box」が選ばれた理由というのは?
呂: 選んだのはテクノブラッドさんです。新鮮味という点において「Love Box」が他に勝ったのではないかと思っています。どうしてもゲームの内容ではなく、パッと見の印象で決まってしまうところがありますから。
■ 「ラグナロク」成功の要因 アイテム課金について
サポートセンターは3交代制による24時間態勢。日本ではまずありえないことだが、台湾ではごく当たり前に行なわれている |
Chinese Gamerが現在展開しているMMORPGのパッケージ一覧。台湾ではサブタイトルを大きく表記するため、新作かと見間違えてしまうことが多い |
呂: 「ラグナロクオンライン」の成功は、Soft-Worldのプロモーションの力によるところが大きいと思いますし、ゲームの内容やグラフィックスが台湾ユーザーの好みに合ったということが大きな成功を収めた要因だと思います。
ただ、この評価というのは万国共通ではなく、台湾、日本では成功しましたが、開発元の韓国や中国ではそれほど成功していない。国の文化にあった形で、いかにうまく運営を進めていくかが重要なポイントだと思います。
編: やはりいつかは「ラグナロクオンライン」を超えるMMOをリリースしたいとお考えですか?
呂: もちろん作りたいですが、台湾では、同時接続35万人という記録を持っています。台湾のオンラインゲーム市場で、35万人を超えるというのはほとんど不可能に近いことです。
またオンラインゲームの成功の要因のひとつに時期的なモノも無視できないと思います。中国で成功している「Legend of Mir」は、台湾ではあまりヒットしませんでした。中国で成功した理由は、「リネージュ」が成功する前にリリースすることができたというのが大きいと思います。一方、台湾ではすでに「リネージュ」が成功を収めていましたので、成功できませんでした。「ラグナロクオンライン」もおなじようなことがいえるのではないかと思います。
編: いまアジア各地でアイテム課金が流行し始めています。この新しい課金システムについて、開発者としてどのような感想をお持ちですか?
呂: 一概にはいえません、ジャンルによると思います。モンスターを狩って、レベルを上げて、レアアイテムを探し求めてといったタイプの一般的なMMORPGには、アイテム課金は向かないと思います。なぜならお金でアイテムが手に入ってしまっては、ゲームバランスが崩れてしまうからです。公平性も崩れてしまい、結果、ユーザーから文句が出るでしょう。
一方、「PANYA」などのレベルアップにこだわらないゲームであれば、アイテム課金を導入するのは比較的受け入れられやすいのではないかと思います。
編: すると、そうしたカジュアルゲームを開発する際は、アイテム課金を導入することもありえると?
呂: そうですね。たとえば「Love Box」の韓国運営では、アイテム課金を導入することが決定しています。台湾では月額課金のままです。台湾ではまだアイテム課金というのは一般的ではありませんので。
編: リアルマネートレード(RMT)についてはどのようにお考えですか?
呂: RMTについては、プレーヤー個人同士の行為ということで、メーカーとして奨励はしないですが、阻止をするということも特にしておりません。
編: 何もしていないということになるのですか?
呂: というより、どう動くべきなのか、まだメーカーとしての方針が固まっていないといったほうが正しいでしょう。
編: 最後に今後の展開について教えてください。
呂: 今後も引き続き、オンラインゲームの開発を事業のメインにしていきます。台湾と香港は自社で運営していきますが、他の地域は原則としてその国のメーカーにライセンスするという方針です。
今年後半に2本の新作を投入します。ひとつは3Dの武侠モノ、黄易というものを原作としています。もうひとつは2Dの可愛らしい内容のMMORPGです。
編: ありがとうございました。
□Taipei Game Show 2005のホームページ
http://tgs.tca.org.tw/
□Soft-Worldのホームページ
http://www.soft-world.com.tw
□Chinese Gamerのホームページ
http://www.chinesegamer.net/
(2005年2月27日)
[Reported by 中村聖司]
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