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★PS2ゲームレビュー★
オリジナルの「獣王記」は、スピリットボールを取ると主人公が“狼”や“虎”などの獣人に変身(獣化)。人間のままだと数回攻撃しないと壊れない石壁が一撃で粉砕できたり、特殊な必殺技が繰り出せたりと、シンプルな基本アクションに“変身ギミック”をうまく組み合わせたシステムが特徴。後にメガドライブ、PCエンジン、ファミリーコンピュータなど複数のプラットフォームに移植された人気作で、海外ではマスターシステム版も発売されるなど、日本以上にコアなファン層が形成されている。 そんな「獣王記」だが、約17年という歳月を考慮しても、オリジナルとPS2「PAB」ではゲームの雰囲気が大きく異なる。どちらもSFXを意識したホラー系アクションだが、オリジナルのアーケード版は、獣化シーン、獣人のモーション、一部敵キャラのデザインが実に「ユーモラス」なのだ。当時、筆者と友人たちが初めてプレイしたときは、あまりの可愛らしさにゲーセンで全員が爆笑。背筋をピンと伸ばして歩く姿がツボに入ってしまい、しばらくは学校帰りに1プレイが基本になってしまったほどだ。 PS2「PAB」は、そんなマッタリテイストのオリジナル版を知る人にとっては、まさに“驚天動地”の豹変っぷり。最新ハードパワーで飛躍的に迫力を増した3Dグラフィック、軍部が極秘裏に進めていた獣化兵士計画、記憶をなくした男、謎の女などといったストーリーラインや世界観……何もかもが変わってしまったという感じ。何の情報もないままゲームの冒頭部分だけをプレイさせたら、かつてプレイした人でも「獣王記」のリメイクと気付かないのではないだろうか。
百聞は一見にしかずということで、興味がある人は本レビューに目を通されたうえで公式サイトのムービーをチェックしてみていただきたい。なにはともあれ、まずは操作系などの基本部分から紹介していこう。
■ 人間と獣人の使い分けがポイント
3Dアクションのカメラワークは、往々にして“弁慶の泣き所”になりがち。本作の視点はスティックを操作していなくても補正のため微妙に動いているため、狭いステージでチョコマカ動き回りたいときなどは使い勝手がイマイチ。ラジコン操作ではなく入力した方向にそのままキャラクタが移動するため、初心者向けという意味でも、簡単に視点が固定できる操作系が欲しかったような気がする。 オリジナル版でステージ固定だった「獣化」は、PS2「PAB」では○ボタンを押せばいつでも好きなときに獣化できるシステムに変更されている。攻撃は、□ボタンの基本攻撃がメイン。△ボタンは、人間なら“とどめ攻撃”、獣人なら“必殺技”になる。×ボタンは人間ならジャンプするが、獣人の場合はキャラクタごとに内容が異なる“固有アクション”に設定されている。 さて……ここで注目したいのが“いつでも好きなときに獣化できる”システム。人間に戻る獣化解除も、ボタン一発でOK。どうしてこんなに手軽なのかといえば、それは“獣化したままでいると、いつか死んでしまうから”だ。本作にはキャラクタの生命力をあらわす“ライフ”のほかに“スピリット”と呼ばれるゲージが存在する。獣化しているときは、スピリットゲージが少しずつ消費される。スピリットゲージが無くなった場合は……“獣化が解かれる”と考えるのが自然だが、本作ではライフゲージが減っていく。ライフゲージがゼロになれば、もちろん即ゲームオーバーだ。
人間の状態ならスピリットゲージを消費しないが、攻撃力は獣化した状態と比べるのが虚しくなるほどミニマム。新規スタート時に設定する難易度にもよるが、道中にゴロゴロしているザコキャラは、人間で倒すには相当な根気が必要。では、どうやって道中をしのげばいいのか。それは、ザコキャラが死んだときに残していく“ライフ”または“スピリット”アイテムが解決してくれる。ザコキャラが残すアイテムはスピリットが大半で、たまにライフが出現するといった程度。スピリットのほうが補充しやすいため、ザコキャラを倒すなら、人間で地道にペチペチやるよりも獣化して一気に屠ったほうが効率がいいシステムになっているのだ。周辺の敵を一掃したら、スピリットゲージを節約するべく獣化を解除すればいい。
人間の状態で敵を倒すことにも、きちんと意味が設定されている。それは、△ボタンで実行する“とどめ攻撃”の存在。瀕死のザコキャラにこれをぶちこむと、普通に倒すよりも多くのスピリットが獲得できる。倒しきれないときは「スポッ」と拳が抜けてしまうため、敵の耐久力を見極めるときの指針にもなる。獣化するときに(恐らくはキャラデータ読み込みにともなう“待たせている感”を低減するためだろうが)毎回エグい変身ムービーを見せられるのが少々うっとうしいものの、頻繁に切り替えるというほどではないため、筆者的には十分許容範囲内。
3Dアクションのザコ戦は、敵よりも“単調さ”にプレーヤーが負けてしまうケースも珍しくないが、こと本作に関しては、それは“皆無”といっていいだろう。ターゲットがオートロックされない点は賛否両論あるかもしれないが、敵が群れている状態で戦うときはむしろ助かるので、結果として良かったように思われる。理想をいえば、PS2「Shinobi」のように特定のボタンを押している間だけロックしてくれる仕様のほうが親切なのだろうが、操作がいたずらに煩雑化する可能性もあるため、このあたりはシンプルにプレーヤーの操作スキルに委ねた点を評価したい。
■ 獣化と密接にからみあった秀逸なステージ構成
各エリアに進入すると、どこかで必ず“進入できない霧のような障壁”に出くわす。この場合、障壁の近くに“ゲートキーパー”と呼ばれるオーラをまとった敵キャラをすべて倒さなければならない。数こそ少ないが攻撃力や耐久力が高いため、同型のザコキャラよりも注意して戦う必要がある。 こうしてザコキャラやゲートキーパーを倒していくと、やがて「巨大なボスキャラクタ」と遭遇することになる。ボスキャラには「特定の攻撃以外まったく受け付けない」や「すべて有効だが、特定のポイントや攻撃タイプで大ダメージが与えられる」など複数のタイプが存在する。いずれもパターンや弱点を見切らないとイージーでも苦戦しかねない難易度で、何も考えずに爽快感だけを求めてプレイする人にはハッキリいって不向き。ただし、プレーヤーに要求される操作スキル自体は、それほど高くない。敵キャラの行動パターンを論理的に見極めて理解する能力があれば、よほどアクションが苦手な人でもない限り、きちんとクリアできるよう調整されている(難易度ハードは例外。鼻血出そう……)。 ザコや巨大なボスキャラクタの攻撃パターンは、ひと昔前のアーケード向けアクションゲームを彷彿とさせる内容で、雰囲気でいえば「ダイナマイト刑事」や「ゾンビリベンジ」に近い。難易度イージーでも「適当にボタン連打して勝てるほど甘くありませんよ」といった作りからは、制作スタッフの確固たるポリシーがヒシヒシと伝わってくるような気さえする。攻撃やダメージでゲージがMAXになると使える“必殺技”も、“ボム”のようにアバウトな救済措置ではなく、通常攻撃の延長線上に置かれた優れたシステム。敵のタイプによっては必須になるなど、きちんと使い方が考えられているあたり、とても好印象だ。
さらに秀逸なのは、ボスキャラを倒して入手する「ゲノム」または「獣人チップ」が、ゲーム展開に直接関わってくることだ。本作はアクションゲームながら、ステージの各所にパズル的な“仕掛け”が施されている。“人間より高くジャンプできる”、“遠隔攻撃が可能”、“物を持ち上げられる”、“電撃に耐性がある”などなど、多彩な獣人の特殊能力を駆使することで、今までいけなかったエリアに突然いけるようになったり、隠し要素が明らかになったりする。いずれも極端に難しいということはなく、アクションゲームとしての本分をわきまえた効果的な使われ方をしているのがポイント。
作り手側にセンスがないと、こうした謎解きは「うっとうしい」の一言に集約されてしまうが、その点「PAB」はゲームの進行に応じて無理なく“謎解き”が仕込まれているため、プレイが散漫になることもない。ボスキャラとの戦闘も、ある意味“謎解き”や“仕掛け”のひとつ。エリア14~最終ボスまでの流れはまさに“真骨頂”といえる内容で、戦い方がわかったときのカタルシスは相当なもの。最終ボスは泣きたくなるほど手強いが、試行錯誤したぶんだけ倒したときの充足感は格別。筆者は「や、やっと死んでくれた……」とコントローラーもろとも床にへたりこんでしまった。これだけ必死にさせてくれたアクションは、ここ数年は片手で数えるくらいしかない。
■ かつての“セガらしさ”が漂う良作。それだけに……
ところが、ゲーム中盤にさしかかった頃から、この印象が一変する。新しい「獣化チップ」が手に入るたび、獣人、敵キャラ、ステージ構成、仕掛けなどのさまざまな要素が、適度にからみつつ新鮮な広がりを見せていく。プレーヤーの心に覆い被さったモヤモヤが、まるで霧が晴れていくかのごとく鮮明になっていくのだ。ところどころで顔を出す“仕掛け”や“謎解き”がいいフックとなりプレーヤーを引っ張ってくれるから、最後まで飽きることがない。クリア後に出現する隠しモードも、本編とはまた違った「直球勝負」になっている点で、実にやりがいがある。出現させても活躍の場がほとんどない“隠し獣人”たちは、ちょっと勿体無いようにも思えたが……まぁこれは文字どおり“オマケ”程度に考えたほうがいいのだろう。 難易度については、非常にアーケードゲームライクな調整がなされているように感じられた。下手をすれば、メーカーによっては発売前に「こんなの難しすぎるよ。誰に売るつもりなの?」といわれて再調整を強要されかねないほど手ごたえがある。ここ数年、アクションゲームに限らず「老若男女、誰が触っても気持ちよくクリアできます!」といった万人向けのマイルドゲームが主流になっているが、往年のセガタイトルよろしく“マニア向け”といっても過言ではないスパルタンなアクションゲームが発売されたことは、ある意味“奇跡”に近いのかもしれない。スパルタンといってもパワープレイが通用しないだけなのだが、その点だけでも今や十二分に稀有かと思われる。 こうした作りから、仮に「PAB」が多くの目に触れたとしても「なにこれ? 難しくてつまんない」などという人が少なくないことは想像に難くない。そうした人の多くは「お金払ったんだから、そのぶん最後まで気持ちよくプレイさせてよ」といった、ゲームに“チャレンジ”するのではなく“接待”を求めているのが常。テーマパークで嬌声をあげるつもりが、フィールドアスレチックに迷い込んでしまったような状況なのだろう。分業化が進んだことにより“作り手側の意志”が感じられるゲームが稀少になってきているのに、その希少種たる本作を「ムズイ=クソゲー」で斬り捨てる人がいるであろうことを想像しなければならないのは、正直悲しい。 やや話が横道にそれてしまったが……冒頭で述べたように、一見するとオリジナルの「獣王記」から大きくかけ離れているように思える「PAB」だが、ゲームをやりこんでいくごとに「オリジナルが現代風に昇華された作品」であることに気付かされる。リメイク作品は、やもすれば過剰な付け足しに辟易しかねないものだが、本作はオリジナルにあった各要素が自然にアレンジされているため、このように感じられるのだろう。唯一の“蛇足”ともいえるエリア1のようなチュートリアルステージはコンシューマだから目をつぶるとして(アーケードなら即スキップされてしまうか、アドバタイズデモ入りするべき要素だろう)それ以降のゲーム本編は、実に無駄がなく、かつ丁寧にまとめられている。リメイク作品としての“完成度の高さ”では、近年稀に見る仕上りといえる。 かつてゲーセンでブイブイいわせていたアクションゲーマー諸氏には問答無用でオススメしたいが、こらえ性のない人が増えている昨今、新規層に「ちょっとコレ遊んでみてよ」とは、正直言いづらい。だが、しかし。障害をのらりくらりと避けて過ごしてきた筆者がいうのもおこがましいが……人間とは、さまざまな障害を乗り越えて生きていくもの。よって「PAB」こそ「逞しい人間(コアなアクションゲーマー)を育てるために適したソフト」とはいえまいか。
イージーなアクションゲームばかり経験しても、プレーヤースキルは一切向上しない。大げさだが“牙を抜かれた子供”にならないためにも、単に難しいだけではない“プロの仕事”が施された作品を経験しておくべきではないか? CEROレーティング18歳以上対象につき、子供という表現に語弊はあるが……まぁ残虐表現を一律「子供に不適切」でくくるのは大人の怠慢だと思うのだが……アクションゲームについて“未成熟”の領域を脱したい人は、ぜひとも本作にチャレンジしていただきたい。見事クリアしたあかつきには、ゲーマーとしてヒト皮もフタ皮もムケているはずである。ペロンと。
(C)SEGA, 2005
□セガのホームページ (2005年2月16日) [Reported by 豊臣和孝]
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