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★PS2ゲームレビュー★
歴史上の人物につき、ゲームによっては大胆なアレンジがくわえられることも珍しくない「義経」だが、NHK大河ドラマ「義経」で興味を抱いた人が購入しても、期待を大きく裏切られることはないだろう。
もしかすると「タッキーだと思って買ったのに、全然違うじゃん!」と叫ぶウッカリさんが広い世間にひとりくらいはいるかもしれないが……マーケティング至上主義的な配役よりも本作の声優さんのほうが覇気に溢れる人物像にフィットしているように思われるので、ここではあえて不問とする。なにはともあれ、まずはゲームの基本的な仕様からご紹介しよう。
■ 3Dアクションにストラテジック要素を加味
主人公、隊長、兵士は常にひとかたまりで行動する。敵と遭遇したとき、隊長と兵士は自動的に戦闘を開始するが、後述の「作戦」で命令してやれば、「斉射」や「強襲」などプレーヤーの意を汲んだ特定の戦闘行動を採らせることも可能だ。 操作系は、左スティックがキャラクタの移動、右スティックが視点移動、□ボタンが小攻撃、△ボタンが大攻撃、×ボタンがジャンプ、○ボタンが防御と騎乗(一部キャラクタ限定)、L1とR1ボタンが各隊長とその配属兵士に対する命令一覧表示、R2ボタンが視点のリセット、方向キーが地図の拡大縮小および表示のオン・オフにそれぞれ対応している。
視点変更は、方向から上下角にいたるまでかなり自由に設定できる一方、オート(自動追従)機能がないため最初のうちは面倒に感じるかもしれない。ステージ開始直後は右スティックを前に押し込んだ「ズームイン」状態になっているが、これだと味方を含めた周囲の戦況が把握しずらいため、筆者的には右スティックを手前にひいた「ズームアウト」状態がおすすめ。表示キャラクタが小さくなってしまい戦闘シーンの迫力は半減するが、見づらい方向から不意打ちをくらうよりはいい。
□ボタンと△ボタンの攻撃アクションは、タイミングよく続けて押すことで連続攻撃が可能。□→□→□、□→□→△など複数のパターンが存在するが、一部隙が大きいため使い勝手は大きく異なる。たくさんの敵を一手に引き受けているような状態だと攻撃するたびにチクチクと隙を突かれて鬱陶しいため、状況に応じて使用するボタンや連続攻撃を使い分けたほうがいい。弓兵のアウトレンジ攻撃は、○ボタンで防御しながら一気に間合いを詰めて斬り捨てるのが基本。一発あたりのダメージは低いが、数が多いとバカにならないので優先的に始末しておきたいところだ。 このほか、特殊な攻撃パターンとして「瞬殺」、「止(とど)め」、「馬上攻撃」がある。「瞬殺」は敵キャラクタに対してランダムに発生するもので、これが決まると残り体力に関係なく一撃で息の根を止めることができる。キャラクタ能力値の「技量」が高いほど発生しやすくなるが、敵武将などボスキャラクタクラスには無効。「止め」は、攻撃直後に倒れたり這いつくばったりしながら後ずさりしている敵キャラクタが一撃で倒せるというもの。やりかたは、後ずさりしている敵キャラクタに接近して□または△ボタンを押す。 「馬上攻撃」は、馬に乗ったまま敵が攻撃できるというもの。騎乗は、馬に近づいて○ボタンを押すだけ。このとき、間違って攻撃ボタンを押してしまうと馬がおびえて逃げてしまうので注意が必要。徒歩のように小回りがきかないため、慣れないと敵を攻撃できずウロウロしてしまうかもしれないが、攻撃ボタンだけでなく“馬で正面から体当たり攻撃”を併用するタイミングを掴むことができれば、騎馬武者で戦場を縦横無尽に駆け抜ける爽快感がぞんぶんに味わえる。
騎馬による体当たり攻撃は、ダメージこそ小さいが、敵に捕捉されにくく一撃で蹴散らせるぶん使い勝手が非常にいい。効率よく敵の数を減らさなければならないステージでは使いにくいが、安全が優先されるステージでは“馬”はとても心強い存在だ。
「作戦」は、漠然と使っていると変化に気づきにくいシステム。見た目にわかりやすい作戦もあるが、ゲーム序盤で使える作戦はビジュアル的な変化に乏しいものが多いため、プレーヤーによっては一切使わずにファーストプレイのエンディングを迎える人も少なくないだろう。 使い方は、R1ボタン(第一隊長)またはL1ボタン(第二隊長)で作戦を表示しながら、対応する□、△、○ボタンのいずれかひとつを押す。各ボタンに対応する作戦は、ステージ開始前の「部隊表」で装備するアイテムを変更することで取り替えられる。作戦アイテムは、ステージに落ちている木箱や壷を破壊して出現させる、ステージクリア後のボーナスといった2種類の獲得方法がある。 武将によっては専用の作戦アイテムが存在するため、効果的な利用法を考えながらステージを攻略するといった“ストラテジックな感覚”が味わえる。人によっては「作戦なんて使わなくてもゴリ押しでなんとかなるよ」と思われるかもしれないが、それは難易度設定がイージーまたはノーマルの話。難易度をハードにあげると、敵の種類と出現位置を把握して「作戦」の使いどころを計算しておかないと、最強装備+MAXレベルでもあっさり屠られるステージが存在する。 いったんクリアしたステージは、「義経」以外の武将を操作キャラクタに選んで再チャレンジできるようになるが、慣れるまでは基本的に「義経」とサポート役2名で攻略パターンを練ったほうがクリアしやすい。これは、作戦を使えるのが「隊長」のみで、プレーヤーが直接操作しているキャラクタの「作戦」は一切使えないからだ。初心者からコアなゲーマーまで、幅広いプレーヤー層を想定して調整を行なった結果なのだろうが、個人的にはちょっと微妙。 一般的な3Dアクションと一線を画すための“味付け”として存在するはずの「作戦」。パズルゲーム的な縛りがないのはいいが、難易度をハードにしないと効果が実感しづらいため、やや焦点がボケているような印象が拭えない。とはいえ、派手なカットインやビジュアル演出がふんだんに盛り込まれていたとしても、それはそれで「義経」の世界観を壊してしまう可能性がある。要はどちらを重視するかといったレベルの話なのだろうが、なんとも歯がゆい。
個人的には良いシステムだと思っているので、アクションゲームに不慣れな人でも、一度は難易度ハードにチャレンジしていただきたいと思う。ザコ敵の強さに閉口してしまうかもしれないが、きちんと「作戦」を立てていけば十分クリアできる。「衣川」の先にあるステージを難易度ハードでクリアできたなら、貴方はもう“立派なアクションゲーマー”と呼べるスキルの持ち主になっていることだろう。
■ 地味ながら嬉しい主人公、隊長、兵士の成長要素
こうした主要キャラクタたちは、ステージをクリアして獲得した「成長ポイント」を使うことで、能力値をパワーアップさせることが可能となっている。能力値には、体力の上限が上がる「体力」、命令の遂行に直接影響する「気勢」、一発あたりのダメージが増える「攻撃力」、相手から受けるダメージが減る「防御力」、瞬殺が出やすくなる「技量」、配下兵士の強さに影響する「統率力」があり、それぞれ10段階までパワーアップできる。 また、地味ではあるが配下の「兵士」たちも、戦場で獲得した経験値に応じてレベルアップする。ただし、兵士たちは基本的に“消耗品”的な存在で、死んでしまえばそれっきり。ステージクリア後は評価に応じて新しい兵士が続々と志願してくるため、上限保有人数の70人をアッという間に突破してしまう。このあたり、ステージ中に体力がゼロになっても負傷扱いになる主要キャラクタとは扱いにおいて天地の差がある。 主要キャラクタで体力を削って仕上げをまかせれば、兵士たちはそれなりのスピードですくすくと成長していく。消耗品ながら固有名詞があり、パラメータにも個人差があることから、ゲーマーの一部に存在する「ザコキャラ属性」の持ち主にとって、本作はたまらないゲームになっている。 筆者は呉ソフトウェアの名作PCゲーム「ファーストクイーン」シリーズから「ザコキャラ属性」を自覚しているため、兵士のパラメータに個人差があり、なおかつ固有名詞まであるとわかった瞬間、完全にやられてしまったくち。前述のソフトではザコ兵士をひとりでも損なうことは許さず、なおかつすべてクラスチェンジ+最大レベルまで成長させなければ気がすまなかったほど。別に完璧主義というわけではなく「ザコだから使い捨て」というのができないだけ。ザコキャラにも関わらず、ちんまりと個性を与えられているところに、もうグッときてしまうのだ。
これが、PCエンジンの名作SLG「ネクタリス」のように完全に記号化されたユニットなら100%割り切って使い捨てにできるのだから、なんとも不思議な属性としかいいようがない。本作になぞらえていうなら、一種の「判官贔屓」なのかもしれないが……。こういった難儀な属性を持ったゲーマーが、果たして世の中に何人いるのかはわからないが、もし「じ、実は俺(私)も!」といった人がいれば、本作はそれだけでも十分チェックに値する。
■ 淡白だが小奇麗にまとまった良作。メインターゲットはカジュアルゲーマーか
年表、人物録、用語などが閲覧できる「義経記」モードもあるが、メニューとテキストの羅列では、よほど好きな人でもないと積極的に目を通すまでには至らないような気がするし、なによりイベントムービーを含め、ゲーム中の演出がほぼ「義経」側に集中していることもあってか、作品全体の印象として“厚み”が感じられないのが惜しい。 プレーヤーのすべてが、たとえば故・吉川英治先生の「新・平家物語」などを読んでいるわけではないだろう。そうなると、敵対勢力として登場する平氏も歴史に疎い人には「なんとなく悪い連中」に過ぎず、人物像などの実感にも乏しくなる。すべてを盛り込むこは不可能だとしても、主要な登場人物、少なくともボスキャラクタとして設定されている平家の武将については、きちんと描いたほうが良かったように思われる。 有名な「壇ノ浦の合戦」では、いまわの際に平知盛が「見るべき程のものは見つ。今は何をか期せん」という有名な言葉を残すが、これにともなう安徳天皇の入水など悲劇的な描写は省かれている。短期間ながら栄華を極めた平氏の滅亡、人の世の儚さを象徴するシーンが知盛の台詞だけを引用してアッサリ片付けられてしまうのは、歴史ゲームファンの立場からすれば一抹の寂しさを禁じえない。 決して派手さはないが、3Dアクションゲームとして綺麗にまとめあげられた作品だけに、ディティールに対するこだわりが希薄なのが、本当にもったいない。こうした要素が完璧なら、本作はカジュアル派からコアなゲーマーまで、幅広い層を十二分に満足させる“「義経」といったら、この1本!”になれた可能性があるからだ。戦績評価ごとに内容が異なるボーナスアイテム、難易度で変わる一部マップ上の壷や箱の中身、マニア心を刺激する隠し要素など、フロム・ソフトウェアならでの几帳面な作りが随所に光っているとなれば、なおさらそう感じてしまう。
そういった意味では、希薄ではなく、さりとて冗長でもなく「義経」の歴史をサラリと追体験するぶんには十二分の内容といえる。「義経とか、あんまり良く知らないけど……NHKで大河ドラマやってるし、ちょっと遊んでみようかな」という人に、肩肘はらずライトに楽しめる作品としてオススメしたい。
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□フロム・ソフトウェアのホームページ (2005年2月1日) [Reported by 豊臣和孝]
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