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【編集部より】

発売日から日が経ってもまだまだ売れ続けるソフト、売れ続けてほしいソフト……そんなライターの思いを込めたレビューを「発掘レビュー」としてお届けします。掛け値なしでオススメするこのレビュー、買い忘れていた人はぜひチェックしてみてください。

 


未完の原作に、いかにオチをつけたのか?
「どろろ」

  • ジャンル:アクションアドベンチャー
  • 発売元:株式会社セガ
  • 価格:7,140円
  • プラットフォーム:プレイステーション 2
  • 発売日:発売中(2004年9月9日)



 手塚治虫氏自身が「作品の雰囲気の変化とモチベーション、さらには他の仕事との兼ね合いで、乱暴に終わらせてしまった」と公言しながらも、海外では意外にも(?)「最高の手塚コミック」との声が高かった「どろろ」(ということが、手塚氏によるあとがきに明記されている)。

 '69年に放映されたアニメの視聴率もいまひとつで、不遇の手塚作品というイメージが拭えない物語なのだが、僕は好きである。'69年には、僕はまだ母親のお腹の中にいたけれど……。

 ともあれ、そんな「どろろ」が、なんとPS2のアクションゲームとなったのだから、気にならないわけがない。しかも、「なんでこの人、ライターじゃないのかな」と常々思っている女性のデザイナーさんが、私的な場でこんなレビューを書いていた。一部修正させていただいたが、ほぼ原文ママである。

 ――キャラクタはオリジナルの手塚絵ではないが、その再現性たるやまさに奇蹟。 手塚作品のスピード感、動きのキレ、夢に出そう感、子供にはトラウマ必至感、あっさりと救いが無いぞ感、全てクリア。手塚作品の肝とも言えるこれらの空気を映像化するにあたって、製作陣は相当に練ったのではなかろうか。

 百鬼丸は原作の人物像から、シリアスでかっこいいイメージだけを抜き出し、どろろもけなげに百鬼丸をしたう人物となっている(まだエンディングまで遊んでないけど) 。原作の造詣の深さをむりくり(無理矢理)追求するのでなく、あえてすっきりとわかりやすいキャラクタに仕立て上げたのだろう。これは吉と出たと思う。

 操作感などは多少不満が残るが(視点移動させてくれ……)、百鬼丸のアクションは「手塚キャラが動くってのはこういうことなんだ!」と思わせてくれる。華麗にして爽快、秀逸。 そのアクションを堪能したいばかりに、不慣れな自分の手でやるよりも、上手い人のプレイを延々見ていたりしたいとさえ思う。あと、呪いどろろではどろろの声優の人がものすごくいい仕事をしている。金小僧コワイ。――

 漫画の「どろろ」を愛読していた方ならおわかりだろうが、このレビューは、原作漫画と、そしてゲーム化したスタッフへの愛情に満ちている。えてして原作ありきのものがゲーム化された場合、原作の雰囲気(空気感とでも言うべきか)がどれだけ損なわれていないか、場合によっては、どれだけ「忠実に」ゲーム化されているかということに焦点が絞られがちなのだが、彼女はその点についてあっさりと「原作とは違う」と認めつつも、だがこれこそが「どろろ」であると感じている。

 そのあたりに猛烈な興味をそそられて、僕は「どろろ」をプレイしてみた。原作を知っているかどうかで本作への期待感は大きく異なると思うのだが、ここでは不親切ながらも、原作漫画を読んでいて、原作漫画が好きな人に向けたレビューを書かせていただくことにする。デザイナー女史のレビューを検証しつつ、ファンの視点から本作の魅力に迫っていくなかで、「どろろ」という作品(原作漫画、および本作)への興味を持ってもらえればな、と思いつつ。


■ 「似ている」ということの意味

 さてゲームを始めよう。なにしろ「どろろ」という原作漫画自体が、その世界観の把握に膨大なプロローグを必要とするだけに、本作のプロローグもなかなかのボリュームである。主人公の百鬼丸の体が、なぜ作り物なのか。どうして48体の魔神を倒すのかが、原作漫画を知らないプレーヤーにも伝わるように、しっかりと作り込んであることにまず好感を覚える。

 主人公の百鬼丸は、生まれてすぐに48体の魔神に体の部位を奪われ、捨て子として川に流された悲運の若者である。そんな百鬼丸の幸運は、腕がよく、かつ百鬼丸と魔神の浅からぬ因縁を察する度量を持った医者に拾われたことだった。育ての親となった医者に魔神と戦うための作り物の体を与えられた百鬼丸は、魔神との因縁を断ち切るべく旅立つ。それは同時に。己の体の48の部位を奪った魔神たちを倒すことで、本物の体を取り戻していくための旅でもあった。というのが「どろろ」という作品の大まかなプロローグである。この旅の途中で百鬼丸は幼い盗賊の“どろろ”と奇妙な出会を果たし、ともに魔神退治の旅を続けていくことになる。

 そして僕は本作のプロローグを見た。感想はただひとこと「似てねえ!」である。百鬼丸もどろろも、これが手塚キャラだと思う人はいないであろう、という程度に似ていない。つまりまるで似ていない。ところがゲームを進めていくうちに、百鬼丸にもどろろにも、なぜか原作漫画の面影が涌いてくるのだ。数多く挿入されたイベントシーンで見せる百鬼丸とどろろの会話、まるで一人芝居をしているかのように大げさなどろろのセリフとアクション……。そういうものに原作との共通点や相違、芝居がかった仕草への興ざめ感などを感じていくうちに、なぜか原作漫画と本作の距離が、確実に縮まっていくのだ。この感覚が原作漫画を知っているからこそのものであることは言うまでもないが、人によっては、例え原作のファンであってもまるで汲み取れないかもしれない。

 でも、僕はシンクロした。まるで似ていない百鬼丸とどろろを現実の目で見ていながら、アタマの中では手塚氏の百鬼丸とどろろが躍動している。大幅な脳内補完が働いているのではなく、おそらくデザイナー女史の指摘通り、ゲームとしての百鬼丸とどろろというキャラクタの落としどころがやはり絶妙なのだろう。それゆえに、「似せようとしているけど、似ていない」というイヤな感じではなく、「似ていないけど、似ている」という好ましい感じを受けるのだろうと。

原作漫画よりも遥かに大人びたイメージの百鬼丸。個人的には黒髪であることに衝撃を感じた どろろ。手足が細く、俊敏なイメージ。イベントシーンでは動きによって男の子っぽさを強調



■ 時には忠実に、時には大胆なオリジナリティと解釈

 本作は章立ての構成になっていて、そのうちの1/3程度は原作漫画のエピソードを再現している。金小僧が登場する女夜叉の話、妖刀・似蛭(ニヒル)に心を奪われた武士の話、百鬼丸の父である醍醐影光が登場する「ばんもん」の話などがそういったエピソードで、残る2/3は、本作独自のエピソードであり、本作独自の魔神が登場する。なにしろ原作漫画自体が強引な終わりかたをしているので、これは至極当然のこと。むしろ、「どろろ」という作品の世界に独自の解釈を盛り込みながら、原作のエピソードと違和感のないオリジナルエピソードを完成させていることに驚く。

 そして、何よりも、物語が完結していることに感動せずにいられない。原作漫画が完結していなかったという読後のあの悔しさが、30年以上の歳月を超えて晴らされるのである。しかもおそらくは、多くの読者が臨んだであろう形でだ。

 エンディングを見たとき、僕はこのゲームをプレイしてきて良かったと、素直に思った。「どろろ」という単語を耳にしたときに、なんとなく胸に感じていたもやもやしたものを、このゲームがスッキリさせてくれたことに感謝したい。

原作に登場した魔神や妖怪たちとの対決はもちろんのこと、原作では「鵺(ぬえ)」として強引に片づけられていた魔神を、オリジナルの魔神として登場させている。とは言え、さすがに40体近くのオリジナル魔神を生み出すのは厳しかったのか、「色違い」という苦肉の策もちらほら
百鬼丸は体の部位を取り戻すことによって攻撃力や耐久力などがパワーアップしていく。また、ゲーム開始時はモノクロ画面だが、左目を取り戻すことでフルカラー画面になるなど、原作の設定を生かした演出も盛り込まれている(目を取り戻すまでの百鬼丸は、心眼で景色を見ている)



■ 中身は、とてもオーソドックスなアクションゲーム

 ゲームの部分の話に移ろう。これはあっさりと、オーソドックスな3Dアクションという言葉で片付いてしまう。義手を引き抜くと仕込み刀を使えたり、義足から大砲を撃てたりと、原作漫画に則したアクションは盛り込まれているが、それは当然のことなので感動に値しない。普通の刀と仕込み刀の両方が使えるのだが、その差別化として仕込み刀はレベルアップし、普通の刀はそれ自体の性能が変化しないという仕様になっているものの、この仕様によってゲームの展開に大きな影響があるかというと、そういうわけでもない。

 歩き、走り、ジャンプで剣を振り回し、時には仕込み鉄砲や仕込み大砲を使い、ザコやボスに攻撃してダメージを与えていく。敵を倒して経験値を稼ぎ、レベルが上がると剣で攻撃する際のコンボの連係バリエーションが増えていくなど、よく言えば理解が早くて取っつきやすく、悪く言えばありがちな3Dアクションである。

 個人的に楽しみを見出せたのは、ため攻撃から発動する「スライス」のシステム。ため攻撃をヒットさせると画面下に「□□○×」のようなコマンドが表示され、それらを素早く、正確に入力して時間内に△ボタンでフィニッシュすると、普通では不可能な2ケタ以上のコンボで大ダメージを与えられる。このコマンド入力は楽しいと感じた。慣れれば24スライス以上をコンスタントに狙えるようになり、その場合の特典として、敵を倒した際にアイテムである「刀」が出現しやすくなる。バリエーション豊富な刀を収拾するのがゲームを進めていくモチベーションのひとつであるので、これは嬉しいところだ。

 ちなみに3Dアクションゲームの宿命とも言えるカメラの切り替えだが、これは不親切な場面がやや多い。状況によっては、いわゆる3D酔いに悩まされることもあるので、酔いやすい人にはお勧めできない。

まず、スライス発動技と呼ばれるため攻撃をザコ妖怪にヒットさせる スライスモードに入ると、画面の下に連続入力のコマンドが出現
コマンドを間違えずに入力していき、△ボタンでフィニッシュを決める コンボ終了時に敵にとどめを刺せていれば、大量のアイテムや刀が出現



■ ライトユーザーであるなら、未完のまま完結してもいい

 最後に、遊び込みについての情報を書いて締めくくることにする。本作はすべての章をクリアすることでエンディングを迎えるが、それだけで百鬼丸の体を完全に取り戻せるわけではない。それぞれの章を初めてプレイする時点ではたどり着けない場所に隠された脇道があり、そういった脇道の先に潜む魔神を倒さなければ、百鬼丸は完全体とならないのである。すべての部位を取り戻してこそ真の大団円と思う向きならそこまで遊び込めばいいし、21世紀の「完結版・どろろ」を見届けたいだけであれば、エンディングまでプレイすれば事足りる。

 そしてゲームの難易度については、アクションゲームは苦手だけど「どろろ」は好きだ、というプレーヤーでも、なんとかエンディングにたどり着ける程度ではないかと思った。狭い足場から足場へとジャンプしていく場面で、相当のやり直しを要求されることはあるけれど(個人的にはそこがいちばん難しかった。苦手なので)。

原作:(C)手塚プロダクション
(C)SEGA,2004
Character Design: (C)RED

□セガのホームページ
http://game.watch.impress.co.jp/
□「どろろ」のページ
http://dororo.sega.jp/
□関連情報
【9月8日】セガ、PS2「どろろ」明日発売
百鬼丸の刀などが当たる発売イベントを実施
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040908/dororo.htm
【7月9日】セガ、PS2「どろろ」予約キャンペーン
特典は小冊子「どろろ 復刻版」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040709/dororo.htm

(2005年1月18日)

[Reported by 平田 洋]


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