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「Granado Espada」クリエイター キム・ハッキュ氏インタビュー |
会場:日立製作所本社ビル
日立製作所と韓国HanbitSoftが電撃発表した「Granado Espada(グラナドエスパダ)」の日本展開。同作は、日本での知名度は皆無といっていいが、そのクリエイターがキム・ハッキュ氏だと知れば「おっ!?」と思うMMOファンも多いだろう。
キム・ハッキュ氏は、「ラグナロクオンライン」のクリエイターとして、紛れもなく日本でもっとも高い知名度を誇る韓国人クリエイターである。しかし、あまり報道関係者の前に姿を表すタイプのクリエイターではないため、彼独自のゲームに対する想いや哲学といった要素が世間に広く知れ渡っているとは言い難い。
そこで今回は、キム・ハッキュ氏に、そうした部分も含めて「Granado Espada」において実現を目指す次世代MMORPGとは何かということについて話を伺ってみた。
今回、インタビューに応じて頂いたのは、「Granado Espada」の開発元IMC Gamesの代表取締役キム・ハッキュ氏と、12月に設立される新会社への出向が確定している日立製作所情報・通信グループのプロデューサー平田雅一氏の2名。キム・ハッキュ氏の独創的な考えにたびたび驚かされるインタビューとなった。
記者会見で質問に答えるキム・ハッキュ氏。質問はすべて即答。この姿勢に彼がクリエイターとしての強いコアを備えていることを伺わせる |
キム・ハッキュ氏の略歴。代表作は「アークトゥルス」、「ラグナロクオンライン」など |
休養中は、自分は「ラグナロクオンライン」やその他のゲームに似たようなMMORPGは作りたくないと考えました。常に新しいものを作り続けるクリエイターでありたいと強く考えていました。そしてMMORPGをいかにして発展成長させられるかについて頭を悩ませ、最終的な結果として生まれたのが「Granado Espada」です。
編集部: 今回の「Granado Espada」は、どの当たりに新しさ革新性があるのでしょうか?
ハッキュ氏: もちろん、すべてが全面的に新しいというわけではないのですが、私が今回一番こだわったのが「MMORPGをプレイして得られる楽しさ」という原点に立ち返ることです。「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」をプレイしているときに感じる楽しさ、特にパーティープレイの楽しさを大事にしたいと考えました。
既存のMMORPGは常に1人のキャラクタしか操作できませんから、パーティーを組まなければパーティープレイが楽しめない。これは重大な楽しみが失われていると考えました。1人で操作するキャラクタを増やせば、いつでもパーティープレイが楽しめます。
最初はこういう風に考えるのは私だけなのかと思っていたのですが、PC房(韓国版ネットカフェ)に言ってみたら必ずしもそうではないことがわかってきました。そこでは1人のユーザーが、複数のPCを使って複数のキャラクタを同時に操作していました。これを1台のPCで実現可能にしたら楽しいのではないかと考えたわけです。
編集部: なるほど。そうすると、「Granado Espada」の発想の原点というのは、MMORPGではなくて、「ファイナルファンタジー」や「ドラゴンクエスト」といったパーティー制のシングルプレイRPGだと?
ハッキュ氏: そうですね。シングルプレイRPGでは、1人で複数のキャラクタのロールプレイを楽しめます。それが今のMMORPGではできない。MMORPGはRPGから発展したジャンルですから、原点に立ち返ることでMMORPGでもそうした楽しさを味わえるようにしたいと考えました。
編集部: それを表現する場として新大陸を選んだというのは何か理由があるのでしょうか?
ハッキュ氏: Gravityを退社して休養中、ちょうど韓国で大統領選挙が行なわれていました。テレビで立候補者が出て演説を行なったり、支持者が出て討論したり、このような様相をゲームとして取り入れたらおもしろいだろうなと思いました。論争や対立といったエネルギーをゲームとして取り入れることを考えたとき、もっともモチーフとして近いのは、アメリカ新大陸におけるヨーロッパのせめぎ合いではないかと考えました。
平田雅一氏: 私からも補足しますと、なぜ彼がアメリカ大陸を選んだのかというと、まず彼はヨーロッパが大好きで、ヨーロッパの文化風俗を描きながら、新大陸の開拓におけるヨーロッパ間の対立をゲームとして取り入れていきたいと考えたわけです。
「Granado Espada」のイメージイラスト。キム・ハッキュ氏のヨーロッパ好きが良く伝わってくるこだわりぶりだ |
ハッキュ氏: 最初に挙げた大統領選挙というのはあくまでひとつの例ですが、私としては激動の時代をモチーフにしたいと考えました。革命、民主主義の対立のようなもの、たとえば18世紀のフランス革命のような対立ですね。新大陸発見後にヨーロッパからアメリカに移住してきた開拓民同士の争いはモチーフとして最適ではないかと思ったわけです。
編集部: プレーヤーは新大陸の開拓民ということですが、この新大陸というのは実際の南北アメリカ大陸という理解でよいのですか?
ハッキュ氏: そうです。旧大陸はヨーロッパ、新大陸はアメリカ大陸になります。「Granado Espada」ではヨーロッパから移住してきた開拓民同士の対立を背景にしています。
編集部: なるほど。「ラグナロクオンライン」はファンタジーでしたが、今回は史実をモチーフにしています。これはかなり大きなチャレンジですね。この方向転換には何か理由があるのですか?
ハッキュ氏: これは言い訳ではないのですが、アメリカやヨーロッパという要素はあくまでモチーフです。ですから実際のゲームでは、史実とは異なるケースもあります。
方向転換に関しては「ラグナロクオンライン」の場合は、ファンタジーであるという以前にマンガという厳格なモチーフが存在しました。デザインなどもすべて原作に従いました。今回の「Granado Espada」で初めて自分のやりたいことがすべてできる環境になったという感じです。
新大陸に関しては、子供の頃からマヤ文明やインカ帝国といった古代文明に強い興味を持っていました。彼ら先住民族が、他の大陸から移住してきた開拓民によって文明を破壊されてしまう。こうした要素もゲームとして取り入れてみたいと考えました。
編集部: マヤやインカに対する略奪行為は、どうゲームで再現されるわけですか?
ハッキュ氏: さすがに正面から描くことはしませんでした。ゲームでは特にマヤやインカといった古代文明が遺した文化風俗を中心に描いています。ゲームでは、開拓民による新世界の開拓と、それによる開拓民同士の対立がメインになります。
編集部: 征服者対被征服者の対立ではなく、対立する相手というのはあくまでユーザー同士ということですか?
ハッキュ氏: いえ、その2つの側面を描きます。ひとつは新大陸には、ヨーロッパ諸国から開拓民が移住してきます。それら開拓民同士の対立。もうひとつは、先住民族との対立になります。
それをゲームとして取り入れるために、簡略化したりデフォルメしたりといったことも行なっているのですが、基本的な発想はプレーヤー側に考えさせるようにしました。つまり、帝国主義、民主主義などさまざまな主義主張を持ったヨーロッパ諸国が新大陸の開拓に乗り出しますが、先住民族からすればそれはすべて侵略であり、略奪行為に見えるわけです。もっともこれは中国など、政治的に表現することが難しい場合もあるので、政治の部分を前面に押し出すことはありません。
編集部: ちょっと難しいというか、ややこしいゲームになりそうですね。
ハッキュ氏: 政治といっても本当の政治をやるわけではありません。たとえば、キャラクタ3人を同時に成長させ、プレーヤー同士で戦うことができます。これはトーナメントシステムを取り入れ、勝者には選挙に出馬する権利が与えられます。
選挙で選ばれると、その区間でもっとも偉い人物になります。偉くなるだけでなく、多くの権限が与えられますし、外交なども行なえるようになります。もちろん、他の区画との同盟や戦争といったことも行なえます。
編集部: なるほど、ゲーム的ですね。このゲームはマクロ的に見ると、ヨーロッパ諸国の開拓民による、アメリカ大陸の取り合いがメインテーマという風に捉えていいのでしょうか?
ハッキュ氏: 全体的な構図としてはそうなります。
編集部: となるとプレーヤーの究極の目標は、自分が所属した国によるアメリカ大陸の制覇ということになるのでしょうか?
ハッキュ氏: そうです。しかし、それを実現するのはかなり難しいと思います(笑)。「Granado Espada」では、そうした国家間の対立も重要ですが、もっと重要なのは未踏の新世界を開拓するという冒険的行為です。アメリカ大陸には広大な未踏の地域が広がっています。それを開拓していくことがプレーヤーに与えられた大事な使命です。
もっとも、2つの対立要素だけでなく、時には自分が所属している国の王などからの干渉もありますので、開拓行為は一筋縄ではいかないでしょう。
編集部: このゲームの経済システムはどうなっているのでしょうか?
ハッキュ氏: 経済に関しては、革新的な要素というのはないのですが、できるだけユーザー間での取引が行ないやすくするシステムを考えています。たとえば貿易ですとか、単純な取引ですとか。まだ仕様は固まっていないのですが、いろいろ考えてはいます。
平田氏: 現時点で発表している経済システムでユニークなものとしては、キャラクタのトレードが可能になる傭兵システムが挙げられますね。
編集部: 船を購入して貿易を行なうといった要素はあるのでしょうか?
ハッキュ氏: それは今のところ予定しておりません。舞台はあくまで大陸上に限定するつもりです。
■ 「Granado Espada」のユニークなセキュリティ対策とは!?
チートやBOTの対策として効果が期待される投票システムやマルチ・キャラクター・コントロール(MCC)システム |
ハッキュ氏: オリジナルです。これでもまだ完成には遠いと考えています。これからもまだまだブラッシュアップを続けていこうと思っています。
編集部: とすると、現在はゲームの開発と、エンジンの開発を同時並行して行なっているような感じでしょうか?
ハッキュ氏: そのとおりです。パフォーマンスの最適化作業に一番時間がかかっています。
編集部: ご自身が考える現在の完成度というのは何パーセントぐらいでしょうか?
ハッキュ氏: これは何を完成とするかという基準によって答えが変わってきますが、ここでは韓国のクローズドβテストを基準にしますと、85%ぐらいという風に見ています。
ですが、クローズドβ以降に実装を予定している機能などもあるので、まだまだ完成にはほど遠いといっていいでしょう。
編集部: 韓国ではいつからクローズドβテストが始まるのでしょうか?
ハッキュ氏: 2004年の第1四半期を予定しています。
編集部: 話は変わりますが、ゲームのセキュリティについて「Granado Espada」ではどのような対策を行なっていますか?
ハッキュ氏: セキュリティの問題については私もずっと考えていたことのひとつです。セキュリティの問題は大別して2つあって、ひとつはチートやBOTといった外部プログラムによるもの、もうひとつはフリーサーバーの出現です。
ただ、私は「ラグナロクオンライン」を開発し、運営したことで多くの事を学ぶことができたので、より効率的に対策施すことができると思っています。
編集部: なるほど。これはハッキュさんの責任であるかどうかは別問題として、現在でも「ラグナロクオンライン」では、BOT問題が解決できていません。この現実についてどのように捉えていますか?
ハッキュ氏: 私は単純に寝マクロやBOT、チートについて悪だとは考えていません。これらも2つに大別できると思います。ひとつはプレーヤーがキャラクタ育成を楽にしようとして行なうもの、もうひとつは他のユーザーに被害を与えるものです。後者は無くさなければならないものですが、前者は必ずしもそうではないと思います。
「Granado Espada」のMCCシステムも、実はチートプログラムからヒントを得ています。具体的には、複数のキャラクタを同時に操作するためのAIの搭載などですが、これによりチートプログラムを使う人は格段に減ると思います。
平田氏: ここで彼が言っているのはマクロシステムの搭載です。韓国のMMORPGではマクロ機能がないものが多いため、ユーザーは外部プログラムを使ってマクロを行なっていたわけですが、これは便利なので取り込んでしまえとそういうことですね。
なぜチートやBOTがなくならないかというと、レベル上げやお金稼ぎが辛いからです。レベル上げというものが苦難を伴い、それを助けるツールが存在するのであれば、最初から取り込んでしまえという考え方ですね。一例として上げていたのがAIの搭載です。これは単純にコンピュータAIというだけでなくて、たとえば、このぐらいまで体力が減ったら自動的にヒールの魔法を唱えさせるオートヒールといったことも可能にします。
ハッキュ氏: BOTについては、GM側ですべて対処させることは難しいですので、領主(選挙で選ばれたユーザー)にその権限を与え、不正をはたらくユーザーを追放することを可能にしています。領主に警察権を与えるということです。ユーザーが起こした問題はユーザー間で解決させる。これが「Granado Espada」の基本的な考え方です。
平田氏: やはりシステム側での完全なセキュリティ対策というのはできませんということですね(笑)
編集部: 先ほど発表会で仰有っていた「ラグナロクオンライン」で実現できなかったことというのは具体的に何なのでしょうか?
ハッキュ氏: MMORPGというのはひとつの仮想の世界を作ることだと思っています。これはゲーム的な要素だけでなくて、当然政治的、経済的、そして文化的な活動も含まれます。こうしたことが「ラグナロクオンライン」では十分にできませんでした。「Granado Espada」ではそれらが実現できるような世界にしようと努力しています。
■ 「Granado Espada」の日本展開について
編集部: 発表会では「Granado Espada」の日本展開が発表されましたが、日本展開について何か特別なプランはあるのでしょうか?
ハッキュ氏: 日本ではハンビットユビキタスエンターテインメントを通して展開していくことになります。韓国でのハンビットの展開の仕方と似た形になると思います。
平田氏: ここは私がお答えしましょう。当然、日本は日本で独自の展開を行なっていきます。日本語版ではなく、日本の「Granado Espada」にするということです。
編集部: 具体的にはどういうことでしょう?
平田氏: 新しい国、マップ、街、システム、ギミック、さまざまな展開が考えられます。アジアの「Granado Espada」があるのかもしれない。
編集部: よくわかりませんが、“アジアの”というのは、アジア諸国も開拓民として参加するというイメージですか?
平田氏: いや、さすがにそれはないです(笑)。まだ具体的なプランは固まっていませんが、何か日本独自の要素を盛り込むつもりでいます。
我々は来年の第2四半期を目処にクローズドβテストを実施していく考えですが、この時点では韓国版をローカライズしたレベルに留まると思います。クローズドβテストで多くの意見を吸収して、正式サービス時に日本独自の要素を追加するという形です。
ハッキュ氏: 私個人としての基本的な考え方としては、日本式のマップ、アイテムを追加することがカルチャライズではないと思っています。そんなことよりも日本のユーザーの好みに合ったシステムやルール作りをしていきたい。
たとえば、中国のパブリッシャーからは「政治的な要素の一切を排除してくれ」という要望が来ていますが、日本では別の要望が出てくるでしょう。これに答えていくことが大事だと考えています。
MMORPGは、サービス開始より、それ以後のアップデートの方に重点が置かれるべきです。日本での事業展開では、正式サービス以降、どのようにして日本人のユーザーの心を捉えていくか。それを考えた上で展開していくつもりです。
編集部: キム・ハッキュさんが日本の新会社のディレクターに就任されますが、これは何を意味しているのでしょう?
ハッキュ氏: 海外展開する場合は、通常そのパブリッシャーの顧客になりますが、私は日本人を自分の顧客だと思ってます。日本人の意見を吸収し、ニーズを把握した上で、開発に役立てる。これを行なうためのディレクター就任です。
編集部: 「ラグナロクオンライン」の日本展開の際のように、来日してユーザーイベントやカンファレンスに出席するということも今後あるということでしょうか?
ハッキュ氏: ユーザーが必要としていればそれは行きます。
編集部: 最後に日本のユーザーに対して、コメントをお願いします。
ハッキュ氏: 自分はありふれたもの、似たようなものばかりを作るクリエイターだとは思われたくありません。私は「Granado Espada」で新しいことに挑戦していきますので、どうか温かく見守って頂ければと思います。
編集部: ありがとうございました。
□日立製作所のホームページ
http://www.hitachi.co.jp/
□HanbitSoftのホームページ
http://www.hanbitsoft.co.kr/
□IMC Gamesのホームページ
http://www.imc.co.kr/
□「Granado Espada」の公式ページ
http://granadoespada.com/jp/
□「Neo Steam」の公式ページ
http://www.neosteam.co.kr/
□関連情報
【11月19日】日立製作所、オンラインゲーム事業に本格参入
韓国Hanbitと合弁会社を設立、来年度にMMO2タイトルを投入
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20041119/hue.htm
(2004年11月22日)
[Reported by 中村聖司]
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