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★PS2ゲームレビュー★
大自然を舞台に、人とマシンの限界にチャレンジするモータースポーツ。それが「ラリー選手権」である。わずかなスピードですら拒絶するような曲がりくねった道。雪、氷、砂利、泥、ありとあらゆる自然現象によってマシンを翻弄するワイルドな路面。最新マシンを操り、最も原始的なルートを駆け抜けるラリードライバーたちを、地上最速の誉れ高きF1ドライバーたちは尊敬の念を込めてこう表現する。「彼らはクレイジーだ!」と。
■ ただのレースゲームではない……本格ラリーシミュレーターなのだ アクションゲームというものは、ある意味スポーツとよく似ている。ある程度の素質や相性こそあれ、そこで優れた成績をおさめるためには「練習」と「努力」と「学習」が不可欠なのだ。そういった点から判断すれば、この「WRC3」はとてもスポーツ的なソフトであると言えるのではないだろうか。
筆者はこれまで、さまざまなレーシングゲームを遊んできた。そのいずれもをクリアし、優れたタイムを記録してきたことに自負があった。だが「WRC3」は他のレーシングゲームとは大きく異なっている。それはあたかも、同じ球技でありながらベースボールとソフトボールが異なる競技であるかのように、漠然と同じととらえていた不心得者に手厳しい歓迎をしてくれたのだ。そう。練習と努力無くして上達は無いスポーツのそれと同じく。ちょっとした敗北感を胸に、ファーストランでボロボロになった愛車のブザマな走りがリプレイとして再現されるのを眺める。ふと、ソフトパッケージを手に取り、そこに書かれた「本格ラリーシミュレータ」の文字に気付かされるのである。そう。これはただのレーシングゲームではない。世界ラリー選手権(※WRC)という現実(※リアル)のモータースポーツを再現するべく開発された、高度なラリーシミュレーターなのだ、と。
■ 翻弄される挙動、そして打ち壊されるマシン。これはもう自然との戦いだ 何やら難しそうなコトを書いたが、解りやすく言えば「ナメてかかってプレイしたら悲惨な目に遭わされました、ゴメンナサイ」というザンゲをしたい訳だ。WRC3には、実際のラリーの舞台となる公式コース14カ所が豪華に収められている。普通、ゲームという装丁を守ってパッケージングするのであれば、こういったコースは「最初のコースは簡単で、後に進むにつれて難しいコースにステップアップしていく」という、プレーヤーの上達に合わした難度アップがお約束ではなかろうか。だが、先にも論じたようにWRC3はラリーシミュレータである。初見のプレイから、思わず土下座して謝りたくなるようなコースが初心者プレーヤーに挑んで来る。
まず最初のステージである「モンテカルロ」。スタートと同時に左右のシケインの後、きつい左ヘアピンが現われる。路面には雪が残り、それが凍結したカリカリのアイスバーンの様相を呈しており、タイヤのグリップもほとんど無い。気持ちよくスタートした初心者プレーヤーは、おそらくこのヘアピンでハデにコースアウトして「なんじゃこの難しさはっ!?」と唸ることとなるハズ。その時間、レースを開始してからわずか7秒後の出来事である。
その後もモンテカルロは、プレーヤーに厳しい洗礼を叩きつける。グリップの確保すら難しい路面で、トラクションどころかマトモなコントロール感すらも得られず右へ左へと翻弄されるマシンを、ガードレールが、レンガの壁が、巨大な岩が、これでもかとばかりに打ち据える。フロントライトが割れ、テールライトが砕け、バンパーは落ち、ボンネットが吹き飛ぶ。ごめんなさい。もう許して。そう弱気になったドライバーのマシンを、奈落へと続く渓谷が無情にも呑み込んでいくのだ。ああ……空が青いなぁ……(※モンテカルロの谷底に落下中の車内より)。
■ 軟弱者に用は無い! WRCはチャレンジャーを待っている!!
ひとしきり反省し、姿勢を正して真剣に向かい合えば、難しさに覆われて見えにくかった「このソフトがいかに丹念に作られているのか」という点が見えてくる。登場マシン、ドライバー、コースはすべて実名。ゲーム中のさまざまなステップで、惜しげもなく振る舞われる資料映像の数々。ラリー世界選手権ファンならば思わず感動モノの演出が随所にちりばめられているのだ。
また、WRC3では前作と比べても倍以上という35,000ポリゴンを超える超高画質でマシンを描画。その精悍な外観から精密な内装までを忠実に再現している。そこまで気合いを入れて表現したマシンをプレーヤーの未熟な運転技術でボロボロにしてしまうのはとても気が引けるのだが「この美麗なマシンが派手に壊れるクラッシュシーンは必見。塗装の剥げ落ちたカケラが飛びちる細かなディテールまでも再現しています」と公式HPでも紹介されているのを見ると「クラッシュもまたラリーの魅力のひとつなのだな」と納得させられてしまうのだった。
加えて、2003年から開催されたトルコラリーも収録した14カ国のコース、総数にして126ステージを衛星画像を使って緻密に再現しているのだから凄い。さらに、路面状況もアスファルト、グラベル、氷雪を基本としてアイスバーンや石畳、泥道など50種類以上のバリエーションがある。しかもそれらの路面ごとに走りのスタイルを調節していかなければならないのだから、ドライバーとしてのプレーヤーが覚えるべきコトは山盛りと言えるだろう。そして、それら全てを学習し、反復し、身につけていくことにより、最初は思わず土下座したくなった難コースも恐くなくなり、満足した気分でリプレイを眺められるタイムを叩き出すことができるようになるのだ。この爽快感は、最初に触れた「スポーツ」の「上達感」にとてもよく似ている。
■ コ・ドライバーの戦術的アドバイスを聞き逃すな! プレーヤーは機械ではない。全ての情報を完璧に把握できる訳ではないし、ド忘れもすればウッカリミスもある。ましてや、1区画10km前後もあるコースが126コースもあるWRC3において、その全てを把握するのは神技に等しい難業であろう。
そんなプレーヤーを力強くサポートしてくれるのが、コ・パイロット(※ナビゲーター)である。コ・パイロットはコース地図を元に緻密な「コマ図」と呼ばれるラリー専用の記号化された地図を作り、リアルタイムでドライバーにコース情報を伝える役割を担っている。通常のレースゲームなどで、カーブやヘアピンを矢印で警告してくれるアレに、もっと具体的な指示を加えてくれたものだと思ってもらえればよいだろう。その戦術的指示には「コーナー出口のRが小さい」や「アウト側の岩に注意」、「イン・カットは危険」などに加えて、「ボンネットが取れそうだ!」なんてあまり聞きたくない情報も与えてくれる。
これらの情報・指示を有効に活用してコースの様子を把握していくことができれば、プレーヤーのタイムもグングンと縮まっていく。蛇のように曲がりくねったコースをコ・パイロットの指示を参考にクリアしていけば、マシンはさながらリズムに乗ってステップするかのように軽やかに駆け抜ける。その技術を身につけた時、プレーヤーはゲーム中のドライバーと一体となり「ラリーの爽快感」にシビれるのである。おめでとう。これでキミも素晴らしき「クレイジー」の仲間入り、という訳だ。
■ マニアにはたまらない作りではあるが? 話ははじめに戻るが、このソフトは「ラリーシミュレータ」と銘うっている。素直な評価として、WRC3は「レースゲーム」としてとても面白い。よくできている。純粋に「車を走らせる爽快感」を味わえる素晴らしいソフトである。では「ラリーシミュレータ」としてはどうなのだろう? チーム選択やコース選択など、様々なところで世界ラリー選手権の貴重な資料映像が見られたり、ラリーの歴史、コースの歴史、マシンの歴史まで丁寧に解説してくれるメニューもある。ドライバーも実在のドライバーを選べるし、シェイクダウン(※マシンのセッティング)を行なうシーンなどでは、実際にメカニックたちがせっせとセッティングを施すデモシーンも見られる。世界ラリー選手権の雰囲気がとてもよく再現さてれおり、少しでもリアルに選手権に参加している気分をプレーヤーに与えようとしてくれているのがよく解る。
だが、ラリーの面白さは「走る」ことを中心とした部分や、「雰囲気」だけではないのではないか? 具体的に言えば、コ・ドライバーの「指示」。つまりナビゲーションという、ラリーならではの醍醐味をユーザーから奪ってしまっているのが残念でならないのである。例えばコースマップを参照し、どの位置でどんな指示を出すのかをプレーヤーがエディットできたらどうだろう? ラリー好きならば、きっとやりたいのではないだろうか? どうしてコ・パイロットの指示をゲームシステムに収めてプレーヤーから取り上げてしまったのだろう? ナビゲーションという要素がゲームとして成立しがたいとは到底思えないのだが、これはゼイタクな望みなのかもしれないのだが。
■ さらなるステージ! プロフェッショナル!! ともあれ、まずはノービスで14カ国、42のコースを戦いぬく頃には、プレーヤーはいっぱしのラリードライバーになっていることだろう。少しばかりの練習で、ノービスのシリーズチャンピオンも夢ではない。プレーヤーは自信という力を得て「よーし! 次も気持ちよく勝つぞ!!」と、プロフェッショナル難度に挑むこととなるのである。ノービスとプロフェッショナルの違いは以下のとおり。
まず、1国のステージ数が3コース(※1日1ステージで3日)から6コース(※1日2ステージで3日)に増える。次に、ライバルとなる他チームのドライバーのタイムがグンと速くなる。そして最も大きな差は、同じ日のステージでは、前ステージの状態そのままのマシンで走らなければならないという点だ。
ノービスでは、マシンのパーツが外れようが黒煙をあげようが、次のコースではキレイサッパリ修理されていた。だが、プロフェッショナルでは、壊れたマシンに引き続き乗り続けなくてはならない。これはツラい。1日のうちの前半でマシンを壊してしまうと、後半のレースでの苦戦は必至である。性能の著しくダウンしたマシンは見るも無残で、ヘアピンですら普通に曲がれてしまう程のスピードしか出せなくなるのだ。このロスを取り戻すのは並大抵のコトではないだろう。そして、ノービスで優勝してイイ気になっていたお調子者はプロフェッショナルを体験して反省するのである。「ナメてかかってプレイしたら悲惨な目に遭わされました、ゴメンナサイ」と。
ゲームの難度はさらに「エキスパート」、「エクストリーム」と待ち構えている。プレイを続けていくことで追加される隠し要素もたくさんある。そして挑むは14カ国126コース。しばらくは、ラリードライバーとしての日々を楽しみ続けることができそうだ。
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□スパイクのホームページ (2004年9月14日) [Reported by 松野桂司(冒険企画局)]
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