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CEDEC 2004 セッション講師インタビュー
TECMO Lab. COO/プロデューサー、田中泰生氏

    田中泰生氏
      TECMO Lab. COO/プロデューサー

       2002年からテクモ株式会社にて、モバイル・ネットワーク事業子会社の立ち上げに従事。現在、TECMO Lab.のCOO兼プロデューサー。「ゲーム会社はゲームを創ることが戦略の第一歩」という理念のもと、現場でのゲーム開発から事業戦略策定・実行までを担当している。最近プロデュースしたゲームはFOMA 900i向け「REAL 零」。


 9月6日から8日の3日間にわたって開催される「CEDEC 2004 (CESA デベロッパーズカンファレンス)」。このカンファレンスでは、ネットワーク環境の充実、グローバル化などによって大きな変化の時を迎えているゲーム業界において、技術的なトレンドやビジネス化に向けての情報発信などを目的として企画、開催される。

 今年6回目となる「CEDEC」では、レギュラーセッションだけでも40セッション以上が予定されているほか、マイクロソフトのDirectX関連セッションを集めた「Meltdown」、NVIDIAの「開発の鉄人」、その他「スポンサーシップセッション」、「ワークショップ」、「ラウンドテーブル」などの開催が予定されている。

 興味深いセッションが目白押しだが、今回はこのなかからいくつかのセッションを行なう講師の方たちにインタビューを行ない、セッションでどのようなことが話されるのか、その一端を探ってみた。なお、セッションの申込みは8月27日まで。


Q:田中さんは、違う業界で活躍されゲーム業界に入ってこられました。外から見たゲーム業界と実際のゲーム業界ではどんな違いがありましたか?

田中氏: まず、僕の誤解で一番大きかったのが、日本のゲーム会社は世界的に優秀だから、ゲーム開発やアイディア出しの方法など世界最高のノウハウを持ってるんだろう……いろんな意味でシステマティックにモノやアイディアを作ってるんだろうと思っていたんです。

 それともうひとつ、ゲームの制作は、3Dのモデルを動かすモジュールとか、モジュール化された部品などを組み合わせて作るみたいなイメージだったんですが、実際は毎回毎回、完全に手作り。

 制作者はゲームのことをメチャクチャ愛していて、その為には死んでもいとわない、勉強もドンドンしますって人達がいっぱい集まっていて、そのことのみが財産なんですよね。そのへんがビックリしました。

Q:今回、CEDECで講演を行なうことになった経緯を教えていただけますか?

田中氏: 私自体がゲーム業界に入って3年ぐらいなんです。以前は戦略コンサルティング会社で、いろんな企業のマーケティングや事業戦略、儲かる仕組みなどを考えたり、お手伝いする仕事をしていたのですが、あるきっかけでゲーム産業に入ったんです。

 日本のゲーム業界って最先端を行く産業で、物凄くエクセレントってイメージがあるじゃないですか。凄いものがいっぱいあるんだろうなと思い、大変楽しみにしながら入ったんです。でも、テクモグループの中に入ってみて「手作り感覚」といった印象を持ったんです。それで、2~3年前にCEDECに初めて参加したのですが、いろんな方の話しを聞いたのですが、どこの会社もそんなに違いないことがわかり、こんなことでいいのかなと思ったんです。

 最近ゲーム業界が中古がなんだとか、マーケットが小さくなっているとか言ってますが、それを言う前に、まずビジネスとしてやれることがいっぱい残っているんじゃないかと。それをやってダメなんであれば、中古がどうのこうのとか環境のせいにしてもいいと思うんですよ。そういったビジネスに関することをまだやり尽くしていないなぁと思うんです。

 結局、ゲーム会社のビジネスって、ゲームを作るということにつきるじゃないですか。現場に実際に入ってみてゲームを作ってるのですが、仕様書作成においてインスピレーション、悪く言えば“思いつき”のみで開発は進められているというところに、違和感を感じたので、その中で自分が経験したことや新たに発見したことなどをお話しをしようかなと思っています。

Q:映画やゲームなどエンターテイメント産業では“インスピレーション”は重要な要素ですが、「それだけではない」というのはどういった意味があるのでしょうか?

田中氏: 現在のゲーム制作現場で典型的な2パターンがあると思います。ひとつは、ゲームというのは開発者の人間性や生き様の表れで、ゲーム制作における普段の経験とかトレーニング等はあまり必要とされず、ディレクターが思いついたアイディアをプロデューサーが育てていくのみ……戦略もビジネス的ロジックもへったくれもない!! というパターンです。もう一例は、マーケティングが必要だということで、ゲームショウでアンケート取ってみたり、ユーザーを集めてちょっとしたアンケートを取ってみたりするタイプですね。

 これは、どちらだけでも片手落ちだと思うんですよ。このふたつの例の間ぐらいに答えというか、正しいやり方があるのかなと思うんです。ゲームの制作だけが特殊ではなくて、たとえば車にしても、昔と違ってただ作っただけでは売れないじゃないですか。

 綿密なプロダクトのトータルなマネージメントに基づいて物を売ってる産業があるなかで、ゲームというのは“インスピレーション”のみに頼りすぎて作っているだけじゃないでしょうか。

 例えばコナミさんの「ワールドサッカー ウイニングイレブン 8」というサッカーゲームが売れてますが、あの作品も“サッカー”というジャンルがあって、そのジャンルの中で、どういうコンセプトに基づいて、どのようにプランニングして……みなたいことをキチンとやっておられるから売れているのだと思います。テクモでも「DEAD OR ALIVE」シリーズが売れてるのは、板垣さんという素晴らしいプロデューサーがいて、「こういうコンセプトだから、こういうハードで出して……」とトータルでマネジメントしているからこそ勝っているし、そういったことをやってないチームは負けているんです。

 ここで僕が話したいのは、プロデューサーの能力だけに終始するのではなくて、売れる商品を作るノウハウを業界や社内で作り込んでいけば、誰がプロデューサーをしても少なくとも大失敗はしない、70~80点の商品を作ることができるのではないかと思うんです。

Q:これまでゲーム業界では職人気質の方が多かったことから、そういった面がノウハウ化されてこなかったのでしょうか

田中氏: そうですね。任天堂さんがファミコンをリリースして、ある意味ブームだった思うんですよ。ブームの中では、テレビの前で座って画面の中のモノを動かす行為そのものが新しかったり、極端に言えば中身なんか少々悪くても面白かったりとか、そういった状況があったと思うんです。その当時は作ってお店に置いたら売れる状態。その後、綺麗なグラフィックスのゲームが出てきて、今度はみんなそっちのほうに流れていったり……。

 開発者にもよく話をするんですが、お茶を10本ぐらい買って来て飲み比べてみるじゃないですか。でも100円で売ってるお茶というのは、どれも美味しいんですよ。にもかかわらず明らかに売れているお茶と、売れていないお茶がある。この違いはなんだろうか。CMに登場する役者さんが有名とか、サントリーはCMをバンバンうってるからとか……。

 実際には、サントリーの「伊右衛門」とアサヒのお茶と、広告費がどれぐらい違うかというと、それほど変わらないと思うんですよ。でも、売れている量は劇的に違うわけですよ。この差がなにかというのが、トータルマネジメントの差。コンセプトをまとめてプランニングして、味についてもキチンと作りこんでいって、CMを含め全体をパッケージ化することで「伊右衛門」は売れたと思うんです。まさにゲームの制作においても言えると思うし、そこを考えるだけで、失敗の確率は下がる気がするんですよ。

 売れるゲームを制作してきたプロデューサーは、例えばお茶を作ってみても、売れるお茶を作れると思うんですよ。ダメなプロデューサーは売れないお茶を作って、売れない理由を「アイツが有名だから」とか「会社として力を入れてもらってない製品だから」とか言い訳をすると思うんです。

 音楽、映画を初めとするエンターテイメント・コンテンツは、売れるか売れないかというのは、ほんとうに読めないですし、なにがくるかなんてわからないところも確かにあります。それは当然だと思うんですよ。ゲーム業界でもマーケティングが必要だと言って、マーケティングというのを勘違いして、簡単なアンケートを採って、ユーザーニーズを組み込んでいると思いゲームを制作したりしてますが、これは20~30年前に他の業界でマーケティングをやりだした頃に失敗したようなことなんです。

 今、売れるモノを作るノウハウを、組織として蓄積しはじめないとヤバイと思うんです。たぶん5年ぐらい経って、海外の制作会社とか、これまでは日本人にしか作れなかったいいものを確実に作ってくると思うんですよ。そうした時に、ノウハウ作りを始めていたら遅いんです。今から現場レベルで試行錯誤しながら、ノウハウ作りをはじめなければ。当然、最初はいろいろなアプローチを試してみても、「効果ないんじゃないか」とか、「こんなの意味ないんじゃないか」とか失敗もあると思うんです。でも、いろんなアプローチを試していくことで、ノウハウを溜めていくことが重要だと思いますし、そういったことをお話ししていきたいですね。

 ゲーム業界はこれまで職人気質なところがあって、テクモもそうですが内製でゲームを制作する技術力のある会社は、プロデュース先行の蔑視というか、「そんな風にゲームを作って売れてうれしいか?」みたいなのがあるんですよね。でも、そういったキチンとした開発力のある会社がノウハウを本気で蓄積したら、絶対に負けないのではないかと思うんです。そういったメーカが5~10年の単位でノウハウを蓄積していくことで、ゲーム業界そのものが復活するだけでなく、ほかのメディア……アニメや映画、オモチャなどを喰っていくような、強いゲーム会社というのが出てくると思います。

Q:具体的なソフト開発の例を挙げての説明もあるのでしょうか?

田中氏: そうですね。開発のやり方は大きく分けて2つあると思うんです。“プロダクトアウト”と“マーケット・イン・イン”という2つで、講演でもこれらの話もしようと思うんです。

 ゲーム開発は大きく分けて、そのプロジェクトの定義ということで、プロダクトアウトなのかマーケット・インなのか定義してから始めるべきだと思うんです。FOMA 900iでスタートした「REAL 零 (※1) 」は完全にプロダクトアウトで、「こんな面白い物を作りました、今までにないでしょ」という作り方。なので、ぶっ飛んだ部分を凄く大事にしながら制作したんです。

 プロダクトアウトに関しては、アイディアが大切で、テクモでいえば「モンスターファーム」シリーズなどもそうなんですけど、アイディアさえ具現化できれば勝負になる。でも、10作リリースするなかでどれだけヒットするのかとか、会社として計算が立たないじゃないですか。

 一方で、マーケット・インの手法もあって、これまでのゲームを徹底的に研究し尽くし、要望や不満を徹底的に汲み上げ、吸い上げた部分の中で技術的に不可能と言われた所をクリアしていき、凄い人数で凄い時間をかけて寝ずに作って、技術的に可能にして凄いものを作るという手法ですね。こちらのタイトルの方は、会社として数値的な計算が立ちますし。

 ゲーム会社のなかで、プロダクトアウトとマーケット・インの割合をどう変えていくかが重要なんです。プロダクトアウトとマーケット・インの振り分けを、プロデューサー連中がなんとなく自立的にやるだけでなく、会社のもっと上のレベルでやっているかどうかと言うことですね。会社としてマーケット・インだからこっちで勝負だとか、この作品はプロダクトアウトだからとりあえずおもっきりやれみたいな。

 僕の知ってる範囲で言うと、アイディアとして「新しくて売れるものを作れ」と言われて、なんとなく当たった……とか。プロダクトアウトなのにマーケット・インの手法で制作して、中途半端にお金も出て……。マーケット・イン的なアプローチなのにプロダクトアウトな作り方をしていたりですとか、非常に多いんです。

 ゲーム会社で言うとプランナー、プログラマー、CG、サウンド、プロデューサーとかいるわけですよね。プロダクトアウトでの制作が得意なプランナーとか、どこの会社にも絶対いるはずなんですよ。そういったプランナーのチームに新人のプログラマーを入れるとか。逆にマーケット・インの制作体制のチームには、超凄腕のプログラマーやCGクリエイターも入れるといったチーム作りを行なえばいいんです。でも現実的には、プロダクトアウトが得意なプランナーが、マーケット・インのチームでデータを作ってたりとかしているのが、今のゲーム会社だと思うんです。

 そうは言ってもよくできたもので、プロデューサー同士で「この人はこっちの方が適性向いているな」とか、なんとなくスタッフのやり取りが行なわれてはいるんです。でも、組織としてきちんとノウハウとして蓄積しておきたくて、「これはプロダクトアウトのプロジェクトだから、お金はこれだけしか使えないけど、このスタッフを使っていいよ」とか、納得した上でスタッフの配置を行なった方が、モチベーションも上がりやすいですし、このプロジェクトが終わったから、違うプロジェクトを担当していいとか、そういう人のやり取りもできると思うんです。

 このほかにも、最初はプロダクトアウトで始まったプロジェクトでも、マーケット・インのプロジェクトに転じるときもあります。例えば「REAL 零」がものすごく売れたとしたら、「REAL 零」自体がブランドになるので、今度はこれを使って発生展開を考えることができるんですよ。つまりここでマーケット・インに転じるわけです。例えば「モンスターファーム」も初めはプロダクトアウトでスタートしたと思うんですが、ここまでヒットしてシリーズを重ねることでアニメ化まで行なってこれたんです。そういったことに講義では触れていきたいですね。

ありがとうございました。

※1:「REAL 零」 FOMA 900i用のゲーム。携帯に突然届く不吉なメールに記された場所や物を携帯電話のカメラ機能を使い撮影すると、そこに潜んでいる霊が浮かび上がる。その霊を封印パートにおいて、封印していく。

□CEDECのホームページ
http://cedec.cesa.or.jp/
□受講申込みページ
http://cedec.cesa.or.jp/regist/
□テクモのホームページ
http://www.tecmo.co.jp/
□「REAL 零」のページ
http://0.tecmo.jp/

(2004年8月20日)

[Reported by 船津稔]


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