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★PS2ゲームレビュー★
■原作を確かに感じられる「ウルトラマン」のゲーム
その「名作」ぶりは、本稿で改めて強調する必要もないだろう。前衛的な志を持つ多くの才能をもった人々によって作られた、「ウルトラマン」は現在においても、本作のような「TV番組の感覚を体験できる作品」の発売を可能にさせる魅力を持っているのである。 もし見たことがないのであれば、当時のスタッフの「気合い」を感じられる端的な例として、原作の2話と、3話の視聴をオススメしたい。2話は「バルタン星人」が登場、分身や巨大化、さらには脱皮を思わせる横たわった身体からの復活など、当時まだ珍しかったであろう「合成」をふんだんに使った描写は現在でも魅力的なものだ。2話にしてクライマックスシーンをウルトラマンと敵ががっぷり組み合う格闘シーンにせず、特撮をフルに使った「空中戦」にするあたりも、「普通の人が考えつかない世界を作ろう」という理想がみてとれる。 3話に登場するのは透明怪獣ネロンガ。大きく陥没する地面を描くことで「見えない怪獣」の歩行を演出。こちらでも合成を効果的に使い、独特の怪獣を表現している。さらに、他の作品ではあまり見られないくらい長い時間をかけて、精緻に作られた水力発電所のセットを徹底的に破壊するシーンもすさまじい迫力だ。この最初期のふたつの作品が後の「ウルトラマン」の高いクオリティを決定づけたと言っても過言ではないだろう。 本作はこの、スタッフがこだわりまくって作った原作の雰囲気を見事に再現。組み合ったときの怪獣の身体の微妙な揺れ具合は、原作の「着ぐるみの質感」と、生物的な重量、双方を実現していてニヤリとさせられる。本来、特撮の撮影はシーンのつなぎ合わせ。長い尺での格闘シーンはとても実現できない。それを体験でき、さらに思い通りの「場面」が作ることができるというのは、ファンならばそれだけで大いに興味が惹かれるだろう。 「ウルトラマン、そこだ! いけっ!」と、テレビで叫んだ他に、ソフトビニールの怪獣を両手に握り、がつがつぶつけたり、ウルトラマンになりきって怪獣役の友人と組み合った経験を持つ人は多いだろう。そんな「ウルトラマンごっこ」を原作を思わせる背景のもと、こだわりを感じさせるモデリングの怪獣と戦うことができる。 怪獣に関して、原作ファンを刺激しない程度にオリジナル要素が入っているところにも注目したい。ラゴンのヒップアタックや、ベムラーの頭突きなど原作にはない攻撃も納得できるものがある。ウルトラマンに比べて怪獣達の技が少ないのも、ゲームとしてのバランスより、原作への想いからなのである。怪獣の「技」は大事な個性。たくさんあったり他の怪獣とかぶってしまったら、それが薄れてしまう。 特定のアクションで原作と同じシーンが再現されるのも、うれしいところ。筆者はジェロニモンの背にまたがり、羽根をぶちぶち抜くシーンを見たとき、思わず声を上げてしまった。原作そのままの光景が自分の手で再現できるというのは、えもいわれぬ感触がある。ほかにもアントラーの角を折ったり、ゴモラの尾を切ったりと、ちょっとした隠し要素が仕掛けられている。 技を空振りしてしまう姿や、方向操作にとまどってしまう点、大技を出すために小技を連発してゲージを溜めなければならないなど、ゲームになっていることでの不具合も多少はある。また、個人的にはせっかく入っているビートルでの攻撃や、スーパーガンでの攻防での、効果が少ないのがちょっと不満だった。「オマケ要素」という印象を禁じ得ないのである。 しかし、「ウルトラマンごっこ」という視点で見れば、これほど盛りだくさんの、そして高いクオリティの映像表現を実現させたゲームは今のところ、本作が最高峰である。登場を心から祝いたい。 ■帰ってきたウルトラマン登場! 本作には多彩なゲームモードがあり、その中で一番ファンを惹きつけているのはこの「帰ってきたウルトラマンモード」ではないだろうか。「帰ってきたウルトラマン」は'71年に放映、関東圏では早朝に再放送が放映され、多くの子供達が早起きをして見ていた作品である。 この作品は「弱いウルトラマン」として視聴者に強い印象を与えた。なんと第4話において、ウルトラマンはキングザウルスIII世によって、必殺技をことごとく弾き返され、敗れ去ってしまう。その後も何度も怪獣達の前に倒れ、悩み、苦しみながら強くなっていき、必死の勝利をもぎ取っていく。ウルトラマンがピンチに陥るたびに、「負けてしまうのかも」と、視聴者はハラハラ見守るという、今までのシリーズとは比べられないほどの「不安な」ヒーローであった。 視聴者を科学特捜隊やウルトラ警備隊のようなチームとしての視点ではなく、より「主人公」に集中させる手法、現在まで通じる「人間であるウルトラマン」はこの作品をもって確立し、後発の作品に大きな影響をもたらしていく。ファンによっては本作を境に「子供番組」になっていくということで、批判する人もいる。しかし、現在まで通じる「通俗性」もまた、この作品なしにはありえなかっただろう。 ゲームでは、隠しモードのひとつとしてこの「帰ってきたウルトラマンモード」が登場する。ロゴが輝きながら現れる演出や、カーソルを合わせるとタイトルとコピーライトまでが変わるという芸の細かさだ。 登場するウルトラマンは、初代ウルトラマン(以下、初代マン)と比べると、ちょっとなで肩で、背中のひだが大きな劇中そのままの専用のモデリングが使用されている。もちろん、技もオリジナル。対する敵も、タッコングやキングザウルスIII世など、劇中の敵だ。原作通りのBGMにのって彼らと戦う感触は、初代マンとはまったく違うものだ。 筆者は個人的にこの「帰ってきたウルトラマン(以下、新マン)」が大好きで、このモードには過大とも言える期待を抱いていたのだが、多少肩すかしな結果となった。ウルトラマンのようなストーリーの解説もなく、科特隊に当たるMATのメカの登場もなかった、「オマケ要素」という印象をどうしても感じざるを得ない。 とはいえ、グドンが目の前でツインテールを食べてしまったり、夕日を背にして怪獣と対峙したりと、新マンが好きな人は思わず興奮させられる要素は目白押し。なによりも、ここまで新マンに対して注目をしたゲーム作品というのは今までなかっただけに、この作品の存在は、筆者にとっても非常に大きい。 原作では一回しか負けなかった初代マンのモードがコンテニュー可能で、新マンがコンテニュー不可というのはちょっとユニーク。新マンは「技コマンド表」がないため、初心者は2体目の敵であるキングザウルスIII世に苦戦は必死だろう。ゲージがない状態で、△ボタンを押して出せる「流星キック」で、怪獣の角を叩き折ることができれば、勝負は非常に楽になる。 また、「ウルトラ総進撃モード」では、初代マンの敵とも戦える。ゴモラやレッドキングを前にして、新マンが立っているという場面は独特の興奮がある。新マンは原作で二代目のゼットンと戦っているが、このゲームでは、角のぷるぷるしない、全体のボディラインがシャープな、“本物の”ゼットンと戦うことができるのである! 新マンのファンならば、心から夢見たシチュエーションであろう。
■多彩なゲームモード、今作の「視点」 本作はふたりのウルトラマンのモードの他にも多彩なモードを搭載している。怪獣達を操って対戦が可能な「怪獣大乱闘モード」、そして怪獣を主人公に、他の怪獣と戦い抜いていく「怪獣天下モード」。これは、ファンにはうれしい要素だろう。物語内でも怪獣達が争うストーリーがあったが、数は少なく、「あの怪獣とこの怪獣はどちらが強いのか?」という疑問は、想像の中でしか検証できなかった。 怪獣同士が戦う「ウルトラファイト」という番組もあったが、新撮部分で作られている対決画面は、どちらかというとトホホ要素の強い、チープなもので、怪獣達は物語通りの「必殺技」をふるうこともなかった。ゲームでは、こういったことはなく、原作にこだわったリアルなモデリングで怪獣達は戦い、必殺技の応酬を繰り広げる。この戦いは、「夢の実現」といっても過言ではない。 正直、怪獣達のバランスはものすごく不公平で、「ゲーム」として見た場合、多少問題がある。ゼットンなどは相手が近づけないところでアピールをしてエネルギーゲージを溜め、ビームを撃っているだけでほとんど負けない。何も教えずに対戦で友達をハメたら、ケンカになること必至だ。 しかし、原作のリスペクトとしたらどうだろう? さらに、お気に入りの怪獣になりきって、自身の必殺技を熟知、圧倒的な不利を覆したら? 「怪獣王」の玉座に自身が操った怪獣がつく。ゲームバランスや、技の優劣を超えた「ロマン」がそこにはある。 文句なしに最弱のマスコットモンスター「ピグモン」で戦い抜くことすら可能なのだ。もちろん、最強への道は絶対的に難しい。こちらがいくら攻撃をかけても相手のダメージは雀の涙、反対にただ踏みつぶされただけでもこちらは終わりなのだ。茨の道という表現ですらぬるいそのバランスはもはやギャグレベル。ものすごい根気が必要となる戦いだ。 「怪獣墓場モード」は、ウルトラマンの 35話 「怪獣墓場」をモチーフにしたモードで、劇中そのまま、“中身の入ってない”怪獣達が宇宙に漂っているのが芸が細かい。怪獣のモデリングを楽しめるシーンだが、生気のない怪獣達の姿がもの悲しく、原作以上に不思議な感慨を与えてくれる。「岩投げモード」レッドキングが岩を投げるミニゲームで、パロディー要素が強いモード。こういったコメディタッチも受け入れてしまう懐の深さが、「ウルトラ」の魅力だ。 本作はすべてのモードを出してしまうとプレイする意欲が少し薄れてしまう。そして、クリア条件さえわかってしまえば、わりと早くにそういった状態を迎えてしまう。こういった点から見れば、「ボリューム不足」という批判を受けてしまう部分もあるだろう。 しかし、これ以上の要素とは、一体どういうものなのか? その答えは、ユーザーそれぞれの心の中にあって、けっして同じものではない。例えば筆者は、科特隊の戦いのみで怪獣を倒すようなモードが欲しいのだが、それはこの作品の目指すところだろうか? まったく違うゲームになってしまうだろうし、多くのファンがこれに同意してくれるとは思えない。反対に、ゲーム的なバランスを取ったり、格闘ゲームのような技と技の関係を確かにした、駆け引きが楽しめる作品にして欲しいという意見に対しては、筆者は少し批判的だ。 どんな作品に触れても、原作に思い入れがある以上、不満は残る。その不満とは何なのか、ユーザーにとって「ウルトラマン」とは何なのか? これを考えさせてくれるゲームだと思う。もちろん、ただ単純に「懐かしい」とプレイをしても楽しいし、子供とのコミュニケーションツールにしてもいい。制作会社であるKazeが出したこの作品を題材に、色々なことを考えてみるのも本作の楽しみかただろう。 (C)1966 円谷プロ (C)1971 円谷プロ (C)BANDAI 2004 □バンダイのホームページ
(2004年7月12日) [Reported by 勝田哲也]
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