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【特別インタビュー】
■ まずは液晶ありき、からスタート
松倉 山佐さんから話が来たのは一昨年(2002年)の12月なんです。「やろう」となったのは去年の1月ぐらいですね。そのとき、ボードの試作……山佐の機械に合わせて基板を作るところから始まるんですが、その設計から入りました。そして平行して「ソフトは何がいい?」という話を始めて……。いろんなソフトを検討したんですが、代表的なのは「鉄拳」だよね、と。山佐さんにもキングが好きなスタッフがいらっしゃったりして。 野々田 まずあの液晶ありきだったんですよね。それを満たすハードということでいろいろ探していらっしゃったんですよね。そこでP246基板(プレイステーション 2アーキテクチャをベースとしたパチスロ向け基板)をという感じでしたね。ほぼ即決でした。 中谷 ナムコとしては、通常の基板とは違う高性能なハードを業界に持ち込みたい、山佐さんとしては高性能なパチスロを作りたいという両者の思惑が一致したという形ですね。 松倉 液晶はすばらしいものを用意できるんだけど、それを生かすエンジンが……ということで白羽の矢が立ったと。 野々田 あとはそのネタをどうしようか、ということで。2カ月ほどナムコと山佐さんで、「何をやりたいか」を検討しました。「パックマン」や「リッジレーサー」といったネタが出てきたりもしましたし、山佐さんのタイトルを検討したりもしました。それで「鉄拳」で、という方針が決まったのが3月ですね。 山佐さんは他社とのタイアップを行なってこなかったんですよね。社内でも「このままではいけない」という危機感があったようです。企業イメージとしても一種の冒険だったと思います。ナムコとのコラボレーションで一番インパクトのあるタイトル、ということで「鉄拳」に落ち着いたようです。 実際に制作に取り掛かったのは6月ぐらいからですね。技術的な面もそうですし。PS2ハードでXGA相当(横1,024ドット)の解像度ということで、前例がないのでいろんな調整も必要でした。鉄拳チームでも制作スタッフの手配など、調整が必要でしたから。そういった中で山佐さん側からも電話帳1冊分ぐらいの要望が届けられたり……(笑)。 松倉 山佐さん側スタッフの「鉄拳」ファンからモチベーションの高い「あんなことがやりたい」といった企画意見が出てきたんですが、基本的に私のいるパチスロチームでできたことは、「鉄拳チームからデータをもらって、それをうまく使いまわして演出に充てることはできる」と当初は回答していました。 当然スロットを遊んでもらえればわかることなんですが、格闘ゲームと違って、格闘要素だけではないんですね。それ以外の演出もスロットには必要なわけです。「キャラクタ全員でお風呂に入ってるシーンとかあったらいいね」とか……他社のスロットにはそういうものがあったりするわけですが、そういった「格闘とは無関係の部分も作ってくれ」といわれたときにパチスロチームだけではどうにもならない、という時期があったわけです。それが3月~6月ぐらい。こちらとしては「山佐さんとなんとか仕事をしたいから、クリエイターを貸してください」と、中谷さん以下鉄拳チームに調整をお願いした。それで6月から鉄拳チーム、パチスロのチームと山佐のプロジェクトが本格的に動き出したわけです。チームの垣根を越えて、さらに他社と組んでという珍しい仕事になりました。 ■ 一度は「やめよう」という話も出て……
野々田 最終的には納期がありますので、それに対してどこまでできるのかを検討したのが、発表会のときにも話題に出ていましたが、6月の上旬に山佐さんにこちらまで来ていただいて行なった「合宿」ですね。そこで「この期間でここまでならできます」という内容を決めましたね。そこで決めたことは「お互い死守してがんばりましょう」と。 --演出に関しては山佐さん主導で? 野々田 ネタは双方で出し合いましたが、最終的には山佐さん側の「パチスロとしてこれだけのことをやりたい」という提示で決まった形です。 --XGA相当という解像度はPS2基板では使ってないレンジだと思うのですが……。 野々田 基板の検証に関しては、パチスロチームの技術部隊と鉄拳チームのプログラマとで集まって、2~3カ月いろいろやった結果、「何とかいけそうだ」ということでスタートしました。出力できなければ意味がないですから(笑)。一時期、「左右を暗くしていいですかね?」という冗談もありましたが(笑)。 中谷 もともとパチスロ用に246(システム246基板。業務用)を使った新規のハードを作るということで、ナムコのハード部隊と、鉄拳チームのソフト部隊の一部が話し合いに参加していたんですね。でも最初はこちらで制作を行なうという話ではなかったので、パチスロ部隊と一緒に「できるできない」、という打ち合わせには参加していました。ひところ「やめよう」という話が出て、山佐さんに話を持っていったこともありました(笑)。お互いに「やりたいこと」と「やれること」のコンセンサスが取れていなかった部分もありましたから。 でも、山佐さんも新しい基板に賭けていたということもあって、「なんとしても成功させなければいけない」という方向へ話が展開しまして。「どうやればできるかをお互いに考えましょうよ」ということで、「一部同士ではなく、どういうものを作っていけば、『鉄拳』としてうまく行くのかを現場サイドで話し合いましょう」と。その時点で初めて私も話に呼ばれたんですよ。 以前から山佐さんとP-7カンパニーとで打ち合わせた内容は情報として聞いてはいましたが、「何とかできるようにメンバリングできないか」ということでメンバーを揃えて、「一緒に中身を作ろう」ということで6月の上旬に打ち合わせを持ったのが「合宿」ですね。“山佐さんが来る”ということで、こちらもソフト部隊のメンバーを集めて「どうやってやるんだ」と。「新しいパチスロのハードを作る」ということで、「業界的にもなかったものを作ろう」としているわけです。コンシューママシンなどでそういった「新しいハードにソフトを載せる」ということはナムコとしてはずっとやってきたことですから、それに応えるということはやはりナムコのソフト部隊の務めなので……。打ち合わせを始めたらメンバー一同「やるしかない!」という形になりましたね。 野々田 山佐さんは「やるというまで帰らない」という感じで、「無制限で泊まる」という感じでこちらに来ていたんですよ(笑)。 松倉 山佐の川崎室長がすごい熱意のある方で、新幹線の切符も買っているのに、途中で降りてこちらに来るんですよ。「本当に大丈夫ですか、できますか」って(笑)。 中谷 こちらも「鉄拳5」に参加しているスタッフをやりくりしたりして、参加してもらったりしました。「鉄拳」の名前を使ってヘンなものを出してもらっても困ることもありますし。「とりあえず作ってみました」というものを出されても……困るわけです。 --そうすると結局自分たちで作る羽目になると(笑)。 中谷 (笑)。もうひとつはやはり業界的に今までなかったものを作ろうとしているわけですから、そこは応えていかないといけないなと。
■ ウラ技のようなものがたくさん詰まった「パチスロ」
中谷 ソフト的には仕様的なことは「ほとんど一緒だな」と思いましたね。ただ、制限された中で非常に細かいなと。仕様がマニアックですよね。ゲームで言えば裏ワザのようなものがいっぱい詰まっているものを作ろうというわけですから。 野々田 山佐さんが演出は1兆通りと発表会でもおっしゃられてましたが、細かいところ……稼動期間を長くしたいということもあって、めったに見られないような要素でも加えていかなければいけないということでのオーダーは多かったですね。 中谷 ゲームではモードもいっぱい用意したりしますが、それに加えて裏ワザ仕様もいっぱい(笑)。「どれだけ作ればいいんだ」と(笑)。 松倉 鉄拳チームでも「何のアクションのために作るのか」がわからないわけですよ。ただ、チーム内にパチスロ好きのスタッフがいて、周りのスタッフに「こういうときにこう出るから必要なんだ」と。 中谷 企画のメインの1人なんですが、パチスロにすごく詳しくて。それがキーポイントになりました。“今、(ゲームの)ソースからできそうな仕様で、ぴったりというものは何か?”というネタの選別に関しても、最初は「鉄拳」の仕様は関係なしにアイデアだけ出していたんですけれども、それはやりすぎても現実的ではなくなってしまう。それを「どううまく合わせるか」というところで、どちらもわかっている人間がいたのはキーになりましたね。 --仕様を固めるには最適の人材だったわけですね。 中谷 鉄拳の企画を代表している人物なんですが、打ち合わせを聞いていると「何の話をしているんだろう」と(笑)。 --日本語なんだけど何を話しているかわからない、と(笑)。 中谷 お互いに内容の煮詰めには、活発な意見を出しながらという感じでしたね。なんせ決めないといけないことが多すぎで、さらに短期で……朝から真夜中まで延々と打ち合わせしていましたね。 松倉 大きな会議室を借り切って、机ごとにデザイナー同士、企画同士……と。 中谷 途中から平行で会議しなくてはいけなくて、机ごとに会議をしていましたね。向こうでは別の話をしていて……こちらでは別の打ち合わせをしていると。 --そういったことはナムコさんでは今までにありましたか? 松倉 聞いたことないですけれども……。 中谷 ないですね。 野々田 ゲームの延長ではないでしょうね。しかもここまで大規模ですから。 中谷 ただ、開発期間としては短期で決められたことによって、ポイントが絞られた分、密度の濃い仕事になりましたね。 --ゲームだったらもっと開発期間も長いと思うんですが……意外とコンパクトに済ませることができたんですね。 中谷 一番最初は「鉄拳4」をベースにしてという話だったんですが、私としては「鉄拳TAG」をベースにしてほしいという提案をしました。なぜかというと、画面が横長で、演出面の仕様が多いということが大前提ですから。「鉄拳TAG」は「4」と違って背景は2Dですから、ビジュアルのインパクトが強いうえに構図がとりやすい。パチスロのビジュアルとしてはカメラをグルグル回してどこになにがあるかわからないというものにするよりは、「鉄拳TAG」ベースでいこう、ということになりました。そうすると、プログラマは「『鉄拳TAG』のソースはどこにあるんだ、開発環境はどうなっているんだ」と混乱しましたけどね(笑)。こちらはこちらで都合もあったんですが、同じなら「TAG」ベースしかありえないという結論でした。 イチから別のタイトルを作るとしたら、あのクオリティにするにはたぶん1年以上かかったはずですが、4カ月ぐらいで大まかなところまで持っていけました。 野々田 実際は調整もいくつか入りましたから、6カ月ぐらい……12月末ぐらいまでかかりましたが。 中谷 最初は「仕様をいかに減らすか」がこちらの課題だったんですよ。ただ、「ほかの(スロット機)はどうなってんの」、「このぐらい」、「それじゃ同じぐらいじゃだめでしょ」となって、だんだん増やさないとならなくなっちゃったんですよ(笑)。でも、キャラクタの数は減らさないと、ということになりました。1キャラ増やすと倍数で増えていっちゃいますから。8キャラとかにされたらひっくり返ってましたよ(笑)。 --ゲームの感覚だと8キャラぐらいが普通、という感覚ですね。 中谷 そうですよね。 野々田 パチスロはやはり「ウリの要素をいっぱいつけないと」ということはありまして。「鉄拳」だからすごいキャラがいっぱい選べる」とか。ほかの機種で3キャラ、3ステージ選べるという台はあったんで、そこまでは最低限確保してもらって。 中谷 「それ×演出」のバリエーションまで考えて、相乗効果を狙った結果で3キャラに落ち着きました。このあたりの基本線は早めに決めちゃいましたね。そうしないと作業がいつまで経っても進まないんで。 野々田 実際作っていくと、横長の画面ということもあって、リトライも多かったです。全体的にやはり左右が……ということが何度かありましたね。そういえば、合宿の最後に「鉄拳TAG」のアトラクトデモを実際の基板と液晶を使って出力することができたんですよ。それを見て山佐さんのスタッフは安心したようですね。やっぱり実際に動くところが見えると、開発も安心するというか。 --そのまま開発はスムーズに進行したんでしょうか? 松倉 納期は10月末だったんですよ。なにしろ機械を作ったら警察に仕様を提出して機械を納めなければならない。リリース時期はきまっていましたんで、そのスケジュールを逆算すると……6月ぐらいに火がついたように作業にかかったんですが、夏は休みがなかったです。うちも(笑)。みんな泊まりこみで。 野々田 山佐さんも休みなしで。私たちは映像だけなので、絵の調整はありますが、それ以外の作業はないわけです。ゲーム性だとか当然山佐さんの担当だったので、相当大変だったみたいです。それはどの機種でも一緒だと思うんですが、演出頻度とか、納期ギリギリまでやっていましたね。それに合わせて私どもの調整も年末まで続いたというわけです。結局、当初の予定から2カ月ほど伸びましたが。
■ ゲームでは楽しめない「鉄拳」を味わって欲しい
松倉 お客さんがこちらが「この演出を見てほしい」と思っている部分とは違う部分でお客さんが反応しているのは面白いですね。ムービーにも力が入っているんですが……。お見せする機会が少なくて残念ですね。 中谷 ムービーばっかり流れているようじゃ話にならないですから(笑)。でも、力を入れて作ったものほど、皆さんの目に触れることが難しい、というのは不思議なところですね。 松倉 初日に朝から座って打ってみたんですが、みなさんやる気満々でいらっしゃっているので……。最初驚いて欲しいじゃないですか。でも……。 --確かにアミューズメントセンターとは事情が違いますよね(笑)。 野々田 ただ、映像全般に関してクオリティが飛び抜けている部分は感じてもらえていると思います。映像はパチンコだとリアル系って年齢層もありますので受け入れてもらえない部分があるんですが、「鉄拳R」に関しては「綺麗だ」というインパクトが一番強いみたいですね。 松倉 ユーザーがゲームとパチスロでかぶるところもありますので……。 野々田 「鉄拳」を知らない年齢層にもアピールできているようですね。他社製品とも比較されることも多いので、ビジュアルインパクトは受け入れてもらえていると考えています。 --これだけのものを作ってしまうと、次が大変そうですね(笑)。 松倉 中谷さんもいるんで(笑)。 一同 (笑)。 松倉 今回いい結果が出せたので、次も考えていこうと思っていますよ。ナムコとして出していくということでは、次はこれを超えたものを出さなければならないでしょうね。「鉄拳R」から「鉄拳」シリーズを知る方がいらっしゃるように、今までにない波及効果も考えられるわけです。ほかのカンパニーに利益を提供できるように考えていけば、いろんなところで手伝ってもらえるので(笑)。 --最後に、作り手側からの「鉄拳R」の見所を教えていただけると助かります。 中谷 作っている最中は、まさにゲームを作っている感覚で「ここはこうじゃないでしょ」とやっていたので面白かった(笑)。やはりいろんな演出のバリエーションが入っているので、シャオが好きな人はシャオ、キングが好きな人はキング、ジンが好きな人はジンと、それぞれの多彩なバリエーションを見て欲しいですね。ちょっと出ないからっていってやめないで遊んで欲しいと思います。「鉄拳」がわからないという方は、「鉄拳4」を遊んでもらって、そのまま「鉄拳5」も遊んでもらえればと思います(笑)。 野々田 限られた時間で隅から隅まで作り上げたので、本当に余すところなく見ていただきたいということですね。 松倉 山佐さんが当初から目指していたのは、スロットに「鉄拳」をただ持ってきたわけではなくて、“スロット仕様の「鉄拳」を”という形で特別あつらえしていただいたという位置づけなんです。ゲームでは楽しめない「鉄拳」をぜひ楽しんでいただきたいです。非常に面白いデキになっていますので、「鉄拳」を知らないユーザーさんにも、キャラクタの名前とか、ぜひ覚えていただきたいと思います(笑)。 --ありがとうございました。 ■ 「シャオユウバージョン」登場! 7月下旬ごろ、「鉄拳R」の新筐体「シャオユウバージョン」が全国のホールに登場する。ご覧の通り、全面にわたって「リン・シャオユウ」をクローズアップしたつくりになっている。シャオファンならずともぜひ! 確認しにホールへ足を運ぼう。
・「鉄拳R」のストラップをプレゼント!
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□山佐のホームページ (2004年7月9日) [Reported by 佐伯憲司] また、弊誌に掲載された写真、文章の無許諾での転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2004 Impress Corporation All rights reserved. |
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