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Xboxキーマン、J アラード氏共同インタビュー
「XNA」ってなに? XNA戦略について語る

7月6日 実施

 現在来日中の、マイクロソフトコーポレーション コーポレート バイスプレジデント チーフ XNA アーキテクトであるJ アラード氏に、XNAに関する詳細な話をうかがう機会を得た。

 漠然としたイメージのみが先行し、なかなかその実態が掴みにくいXNAであるが、今回お話を伺ったことによって、XNAがどういったものであるのか? またXNAの進んでいくべき方向といったものが垣間見られた。ここでは、その共同インタビューの内容をまとめつつ、XNAがどういったものであるのか見ていくことにしよう。


■ 誰でも簡単にゲームが作れる、というのがXNAの究極の目標

Microsoftの副社長でありチーフ XNA アーキテクトであるJ アラード氏
 これまでハードウェアは、ムーアの法則に従って進化を続けてきた。もちろんそれはゲーム機の進化にも当てはまることで、ゲーム機はとてつもない進化を遂げてきている。以前では考えられないようなパワーを持ち、高度なグラフィックを操れるようになっている。

 それに加え、これからはブロードバンドというコミュニケーション要素が絡んでくるため、ゲーム機の可能性が飛躍的に向上することになる。そしてそういった状況では、ネットワークへの対応も含め、ゲーム機の可能性を最大限に引き出せるようなソフトウェアが不可欠になる。これが、J アラード氏を含めた、Microsoft開発陣の考えかたであり、それに対する答えがXNAである。

 Microsoftは、これまでDirectXなどで、ソフトウェアによってハードウェアの可能性を最大限に引き出すということを行なってきている。そして、XNAはその延長線上にあるようなもので、これまでの考え方をさらに上のレベルに引き上げるものであるとしている。XNAによって、ゲームクリエイターは、これまでよりも開発のしやすい環境が整うだけでなく、開発ターゲットがXboxであろうとWindowsであろうと携帯端末であろうと、同一の開発環境でゲームの開発ができる。これがXNAの根本的なビジョンだ。


 例えば、現在ゲームを開発しようとすると、ターゲットとするプラットフォームに対する描画、物理計算、サウンド、コントローラといった各種エンジンを開発し、その後にゲームコンテンツを積み上げていく、という作業が基本となる。

 この場合、各種エンジンの開発に時間とコストがかかってしまい、ゲームとして最も重要な要素であるコンテンツ開発にコストや力を入れられなくなってしまう。そればかりか、ゲーム機などのプラットフォームの構造に関する知識や、そのプラットフォームのパフォーマンスを引き出す開発能力が不可欠となるため、ゲーム業界以外のクリエイターがゲーム開発に乗り出すこと自体、ほとんど不可能という状況である。これが、現在のゲーム業界が停滞している最も大きな原因であるとJ アラード氏は指摘する (もっと大きく発展すべきである状況であるにもかかわらず、現状に甘んじている状況である) 。

 しかしXNAには、描画、物理計算、サウンド、コントローラなどの標準的なエンジンが内包されているため、そういった各種エンジンの開発から解放され、ゲームコンテンツの開発に注力できるようになる。これによってゲームの質を高められることにつながるだけでなく、これまでゲーム開発を行なったことのない、ゲーム業界以外のクリエイターでも、ゲーム業界に参入できるようになる。これで、ゲーム業界が活性化され、最終的には業界自体の発展につながることになるとしている。


 XNAの最終的な目標は、まるでインターネットのホームページを作るような感覚でゲームを作れるようにする、といったようなものである。例えば、現在、ホームページ作成ツールを利用すれば、HTMLに関する知識がなくてもホームページが作成できるが、XNAを利用することで、それと同じ感覚でゲームが作れるようになると言ってしまえばわかりやすいかもしれない。ほんの数人でゲームのコンセプトを考え、さらにそのプロトタイプもほんの数人で簡単に制作できる。しかも、異なるプラットフォームに対しても同じ開発環境で開発ができる。それがXNAの究極の目標なのである。

 もちろん、いきなりこのような開発環境が提供されるわけではない。XNAの具体的な提供スケジュールだが、まず最もベーシックなWindows上での開発キットが、今後1カ月半ほどの間(今年夏)に提供されるそうだ。また、Windows上からXbox Liveに接続させるための開発キットは、来年前半の提供を予定しているそうだ。そして、今後約5年ほどのスパンで、XNAを順次発展させ、様々なツールを提供していきつつ、最終的な目的を達したいと考えているそうだ。


■ XNAによってゲーム業界がより発展する

XNAについて熱く語るJ アラード氏
 XNAは、ゲームクリエイターに対して提供されるソフトウェアであり、ユーザーにとっては、基本的には無関係のものである。XNAで開発されたゲームが存在するとしても、プレーヤーはXNAのことは全く知る必要はないし、知らなくてもゲームは楽しめる。例えば、Windows用のアプリケーションがWIN32 APIベースで開発されているとか、ホームページがHTMLベースで記述されているかということは、ユーザーは知っている必要はないし、知らなくても利用できる。XNAもそれと同じである。

 しかし、XNAのメリットを最終的に享受するのは、クリエイターではなくゲーマーであるとJ アラード氏は語る。XNAによって新しいクリエイターがどんどん参入し、新しいゲームがたくさん登場してくる。これによって、本当にゲーマーが楽しめるゲームが増えることになる。これが、J アラード氏が考える、XNAによるゲーム業界の成長のシナリオであり、ユーザーであるゲーマーのメリットとなるわけだ。

 ただ、J アラード氏は、XNAによって、全てのプラットフォームに同じゲームを提供しようとしているわけではない、と強調する。パソコンにはパソコンの、ゲーム機にはゲーム機の、モバイル機器にはモバイル機器のそれぞれの特徴があり、そのそれぞれの特徴を無視して同じものを提供しようとするのは間違っている。それぞれのデバイスに合った、それぞれのデバイスの特徴を活かすソフトを提供するのが重要なのである。そして、J アラード氏らが目指すのは、その異なるデバイスに対するソフトを、同じ開発環境で開発できるようにする、というものであり、それを実現するのがXNAというわけだ。


 また、XNAによって、プラットフォームの世代も意識する必要がなくなることになる。例えば、プレイステーションからプレイステーション2に移行したときに、ゲームクリエイターは、それまでの開発環境や開発ノウハウを全て捨て、全く新しい開発環境とノウハウが必要となった。それによって、プレイステーション2のゲーム開発に手間がかかってしまい、ソフトの登場が遅くなってしまった。しかし、XNAベースの開発環境を利用することで、これまでのXboxの開発環境や開発ノウハウをほぼそのまま活用しつつ、次世代のXboxや次世代Windowsに対応したゲームが開発できる。つまり、プラットフォームの世代移行にスムーズに対応でき、いち早くゲームが開発できることになる。

 では、具体的にXNAによってどのようなゲームが実現できるのか。その問に対しJ アラード氏は、プラットフォームの垣根がなく、どのようなデバイスも繋げて楽しむことができる夢のようなゲームの世界が実現できると語った。例えば、同じゲームでも、家でPCやゲーム機から接続した場合には、本格的なネットワークゲームとして楽しみつつ、移動中などは携帯電話を通じて同じゲームの世界に接続し、携帯電話環境専用の簡単なミッションをプレイする、といったことが可能となる。つまり、様々なデバイスで全く同じ内容のゲームを楽しむのではなく、同じゲームでも接続形態に合わせて異なった内容を楽しめる、といったようなものが実現できる。もちろんこれはほんの一例であるが、1日のうちの多くをゲームプレイにあてるハードコアゲームユーザーであろうと、1日に数分しかプレイしないようなユーザーであろうと、同じように楽しめる夢のようなゲームの世界が提供できるようになるとしている。

 もちろん、このような壮大なゲームの世界は、XNAを利用しなくても実現可能ではあるだろう。ただ、XNAを利用すれば、より簡単に実現できる、そういうことをJ アラード氏は言いたかったのであろう。


■ XNAはMicrosoftだけでなくディベロッパーも含めた
  業界全体で成長させていくもの

時折、ジェスチャーを交えながら質問にわかりやすく答えてくれた
 GDC (Game Developers Conference 2004) でのXNAの発表以降、ゲームクリエイターやディベロッパーのXNAに対する反応はどういったものであるかという問に対し、J アラード氏は次のように答えた。

 まず一様な反応であったのは、そろそろそういったツールが出てきてもいいのではないか、XNAの根本的な考えには非常に興味深いものがある、といったものだったそうだ。ただ、より突っ込んでみると、3つのグループに分けられる。

 まず1つは、XNAの考え方に対して大いに賛同し、かつXNAの提供に歓迎の意を示すもの。これは半数以上のクリエイターやディベロッパーの反応だったそうだ。またもう1つが、懐疑的な反応を示したグループだ。あまりにも壮大なコンセプトであるXNAが本当に実現されるのか疑問を感じており、もっと具体的な姿が見えるまでは、まだ様子を見たいというもの。そしてもう1つが、XNAに全く興味を示さなかったグループだ。必要なツールは全て自分で作っているので、XNAのようなものは全く必要がない、というものである。

 このような3つの反応に分けられるというのは、至極自然であろう。しかし、J アラード氏は、この3つのグループ全てが、XNAにとって不可欠であると考えているそうだ。まず、XNAに賛同するグループに対しては、彼らに対してどういったものを提供すべきなのかということが明確にわかっているため、XNAによって彼らのニーズをほぼ完璧に満たすことができる。そういった意味で、XNAにとって最も重要なグループとなる。

 また、XNAに対して懐疑的なグループに関しては、なぜ彼らがXNAについて懐疑的になっているのか、我々に考えるチャンスを与えてくれる。つまり、よりよいXNAの構築につながるという意味で、こちらも非常に重要なグループとなる。

 そして、最後のXNAに全く興味を持たなかったグループについても、彼らは自分たちのビジョンよりもさらに先を行っており、自ら新しい世界を切り開いていると賞賛しつつ、さらに彼らから学んでよりよいものを作り上げていく必要があり、彼らはそのチャンスを与えてくれる重要なグループであると語った。


 こういったJ アラード氏の発言を聞くと、XNAをMicrosoftだけで発展させようと考えているのではなく、業界全体で発展させたいという意志が見える。もちろん、基本的なツール類はMicrosoftから提供されることになると思うが、最終的なXNAの理想に至る過程では、ディベロッパーの意見がいろいろ取り込まれてアップデートが行なわれたり、Microsoftとは関係のない、サードパーティのディベロッパーからツールが提供されることも考えられる (すでに賛同メーカーが20社にのぼっているという) 。そして、J アラード氏自身も、ベースとなる標準的な部分を制作するのは必要であるものの、サードパーティによる拡張やツールの提供も歓迎するという発言を行なっている。

 この点に関する具体的な例としてJ アラード氏はレゴブロックを取り上げた。レゴブロックは、ブロックとしての基本となる仕様が決められており、その仕様にのっとって、様々なメーカーが拡張用のオリジナルブロックを提供している。標準の仕様があるからこそ、オリジナルブロックもレゴブロックの1つのパーツとして扱えるばかりか、壮大なレゴブロックの世界の構築に役立っている。XNAもこういった方法によって発展させたい、ひいてはゲーム業界での標準開発ツールとしての地位を築きたい、J アラード氏はそのように考えているのだろう。


 今回のインタビューで話題に上ることはなかったが、XNAが次世代Xboxをターゲットとした標準開発ツールとして提供されることは疑う余地はないだろう。もちろん、開発環境を整えることと、ゲーム機が売れることには直接的な関係はないかもしれない。とはいえ、既に蓄積されているノウハウを活用できる、次世代ゲーム機向けの開発環境が整っていることで、ディベロッパー参入の促進につながる役割を果たす可能性は十分考えられる。次世代Xboxを成功させるために、なんとしてもXNAを成功させる、今回のJ アラード氏の話で、そういった強い意志を感じ取ることができた。

□Xboxのホームページ
http://www.xbox.com/ja-JP/
□XNAのホームページ (英文)
http://www.microsoft.com/xna/
□XNAのホームページ (和文)
http://www.microsoft.com/japan/xna/
□ニュースリリース
http://www.xbox.com/en-US/press/0403/xna-announcement.htm
□関連情報
【3月24日】Microsoft、次世代ゲームプラットフォーム「XNA」発表
WindowsとXbox、モバイル機器も共通化
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040324/xna.htm
【3月25日】後藤弘茂のWeekly海外ニュース
次世代Xboxのためのゲーム開発プラットフォーム「XNA」 (PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0325/kaigai078.htm

(2004年7月6日)

[Reported by 平澤寿康 / Photo by GAME Watch編集部]


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