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★PS2ゲームレビュー★
欧州各国リーグのチャンピオンも決まり、クラブチームの活動は一段落だが、各国の代表チームはこれからが本番。欧州ではユーロ2004への熱が高まり、アジアではアジアカップもあれば、それぞれの地域でのワールドカップ予選もいよいよ白熱という流れのなかで、ゲーム業界に目を移してみても、サッカーゲームのリリースが白熱してきているようだ。
本稿で紹介するのは、イメージキャラクタに稀代のパサーである中村俊輔氏を起用し、「狙ってパスを出す楽しさ」を前面に押し出した「フットボールキングダム -トライアルエディション-」(以下「フッキン」)のトライアルエディション。自由度が高いパスの仕様と、完成されたAIによるオフ・ザ・ボールの動きで、パサーの快感を堪能させてくれる意欲作だ。 ■ 代表チームと架空のクラブチームを楽しむ プレイするに当たって、まずはエキシビションマッチでチームと選手のチェック。どの辺のクラブが網羅されているのかなーと思えば……なんと! 各国の代表チームしか選べない! これには思いっきり意表を突かれた。今どきのサッカーゲームで、欧州の主要クラブが、FCミラノとかマンチェスターFCとかマルデニとかバンニステロイとかの「なんちゃってネーム」ですらなく、実在のクラブチーム、またはモデルにしたチームが収録されてないということに驚いた。「キングダムモード」をプレイする際には、本作のオリジナルであるASカテナチオやレアルフラメンコ、トータルフット14といったクラブチームを使用することができるが、名前から想像できる通り、これらは各国リーグ、または各国代表がイメージさせるプレイスタイルに合った選手が集められたもので、やはり実在するクラブとの関連性は薄い。
というわけで、代表チームを中心に楽しみつつ、オリジナルのクラブを好みのチームに育てていく(キングダムモードで使用するクラブは選手の入れ換えが可能)というのが本作のスタンス。個々の選手や代表チームを愛するプレーヤーにとっては大きな問題ではないが、ひいきのクラブチームでプレイしたい場合には……。このあたりに賛否両論があるのは必至だろうが、まだ「トライアルエディション」だと納得して、あまり気にしないことにする。個人的にはデンマークやナイジェリアといったあたりの代表チームも大好きなので……。
■ コアなファンには嬉しい実名スタジアムの数々
■ 実況を担当するのはクラッキー、解説とアナライズにはあのS級コーチが!
試合を盛り上げてくれる実況は、世界のサッカーに精通し、深みのある声がたまらない倉敷保雄氏。私的な好み100%で申し訳ないが、氏の声を堪能できる「foot!」を毎日のように見ている身としては、このキャスティングに大きな拍手を贈らせていただきたい。倉敷氏(通称・クラッキー)をご存じない方は、ぜひこの機会にその声を堪能していただきたい。そして解説を担当するのはサッカー中継でお馴染みの風間八宏氏。S級コーチライセンス取得、おめでとうございます。
■ 選手役割に見て取れる、近代サッカーへのこだわり
不審に思ってオリセーの役割を再確認したところで、疑問はあっさりと解けた。オリセーの役割にはDH、VOL、FSW、SWとあり(役割は最大で4種類まで設定されている)、VOLとはすなわちボランチ、SWは見慣れた文字でスイーパーを意味する。つまりクリストファーに設定されていたREGという役割は、中盤の低い位置からゲームをコントロールするレジスタだったわけだ。かつてはフォワード、ハーフ、バックという程度の呼称しかなかったが、ポジションが複雑化する近代サッカーにおいて、選手の役割にはさまざまな呼称がつけられており、もはや従来の呼称だけで選手の特徴は表現できない。ボランチのイメージが母国ブラジルと日本で異なるとか、ボランチとレジスタを分けるなら、さらにニュアンスが異なるピボーテも必要なのではないかという問題もあるが、近代サッカーとしてのディテールやこだわりといった点で、この役割の細分化は高く評価したい。
■ ポインタの操作と△ボタンを押す長さがフリーパスの精度 さて、いよいよナイジェリアでのキックオフである。ボールを持ってドリブルを開始すると、なにやら操作選手の進行方向に黄色いポインタが表示され、ドリブルの方向を変えると、ポインタも選手を中心にきれいな円を描き、選手の体よりも早く方向を変える。これこそが本作の売りである「フリーパス」を出す方向を示すポインタで、見た目には選手の周囲360度に、1度刻みでパスを出し分けられそうなほどスムーズに動く。このポインタでパスコースを選択したあとに、△ボタンを押す長さでパスの強さを加減すればフリーパスの操作は完成だ。
試しにセンターサークルを越えて敵陣に入ったあたりでボールをキープし、オーバーラップしていくサイドバックの前方にフリーパスを出してみると、相手選手の裏を美しくパスが通り抜けていく。美しく通り抜けて……タッチラインを割ってしまった。なるほど、ポインタのおかげでパスコースの精度に問題はないが、パスの強さを体得するのには多少の慣れが必要のようだ。なお、○ボタンで出すロブパスでも同様の操作が可能で、極めればベッカムばりのピンポイントクロスやロングボールを通せるようになる。
■ 1対1の局面を打開する多彩なフェイント フリーパスのコツを呑み込み始めた途端にデフォルトの難易度では負けなしになってきたので、CPUのレベルを上げてエキシビションを続けてみると、相手のボールを取りに行こうとしたところで、味方の選手が硬直するかのような感覚に襲われることが多くなってきた。ボールホルダーに近づくと必ず×ボタンでチェックを行ない、奪うと同時にうっかりサーチパスが出てしまうほどのハードチャージを繰り返しているのに、である。注意してよく観察してみると、どうやら相手がフェイントを使ってきたときにこの現象が起きるようで、フェイントに翻弄されて、チェックに行きたくても行けないという状態になっているというわけだ。 これは! と思ってあわててマニュアルを確認してみると、シザースやまたぎといった基本的な(?)フェイントの他に、マルセイユルーレットやヒールリフト、オコチャの独特なボールさばきまで用意されていた。早速、相手と対面した状態でシザースを使ってみると、相手選手がいきなりスローダウンしてボールの手前で戸惑っている。その直後にR1ボタンと左スティックでボールを大きく蹴り出してみると……感動的なほどに美しく相手を置き去りにできてしまった。
もっとも入力が簡単なシザースでこれだけの威力を発揮するなら、ヒールリフトやルーレットを使おうものならさぞかし劇的な効果があるに違いない。当然、そういう結論になる。早速試してみることになる。するとこれが驚くほど難しい。決まればすごい効果がありそうなのだが、フリートレーニングでひたすらコマンドの練習(ヒールリフトはR2ボタンと同時に左スティックを後ろ→前、ルーレットはR2ボタンと同時に左スティックを進行方向から1回転)を行なっていても、なかなか出ない。効果がすごすぎるから入力が難しくなっているのか、それとも筆者がヘタだから入力できないのか……。
■ 自分のクラブを作りながらリーグ戦を戦っていくキングダムモード
エキシビションで腕を磨いた後は、いよいよお楽しみのクラブ作りを堪能するべく、キングダムモードに挑戦してみた。ベースのクラブに選択したのはレアルフラメンコ。ファンタジーとスペクタクルに溢れるスペインのあのクラブを彷彿とさせるクラブ名だが、所属選手はオスカル・コルドバにイバン・コルドバ、さらにはチキアルセまでいて南米色たっぷり。ただし、最初に選択した段階で用意されているのは、あくまでもプレーヤーが使用する「マイチーム」のベースとしての形。リーグ戦が始まるまでには、チーム名やユニフォームのデザインを行なうといった手順の他に、所属選手を自由に選ぶというお楽しみがあるのだ。つまり、フラメンコの部分をマドリーにしたり、そんな感じの選手を集めたり、ユニフォームを白くしたり……というチューニングを行なえば、お好みのクラブチームに仕立て上げるのも自由自在というわけだ。
スペインのサッカー事情にはあまり明るくないが、ベースがレアルフラメンコということもあり、スペイン代表にあやかって「4-5-1」のような「4-2-3-1」のシステムを選択。1トップをストライカーに設定し、トップ下を2人のシャドーストライカーと1人のOH、中盤をDHとレジスタ1人ずつで構成する。このあたりの戦術設定は自由自在で、イメージするシステムに近いものをプリセットから選び、選手個々の基本ポジション(位置)や役割を自由に設定することができる。同じ「4-2-3-1」であっても、1トップをターゲットマンに設定し、その背後にシャドーストライカー2人とOHを配置すれば、自ずと割り当てられる選手が変わってくるので、別のチームになるわけだ(システムで設定した役割に適応しない選手はその位置に置くことができない)。 ただし、あまり奇抜なシステムにしてしまうと、監督の意図とAIによるフリーランの動きが噛み合わないため、意図した通りの攻撃がまるでできないという現象も起きるので注意したい。このあたりはトライ&エラーの繰り返しで、どう設定すればどんな状況でどんなフリーランが発動するのかを見極めていく必要があるだろう。
フリーパスとフェイントのおかげで、プレーヤーはバレロンにもなれればトッティにもアンリにもなることができるが、どこにボールを持ち出せば誰がどう動くのかという見極めなくして美しい攻撃は成り立たない。組織を打ち破るのは個の力、個の力を封じ込めるのは組織力という現代サッカーの定義そのままに、結局のところは個人技を磨きつつ、チームを有機的に機能させるための役割も覚えていくということが重要。監督としてマイチームを構築した後は、選手兼監督として、チームの約束事を見つけだしていく。このあたりは、デフォルトで用意されている代表チームでは味わえない、キングダムモードならではの楽しみだと言えるだろう。そして、このキングダムモードで理想的なチームを作り上げたときには、本作のすべての楽しさを味わえるようになっているはずだ。
■ 攻撃偏重のバランス調整 30戦を超えるエキシビションと、キングダムリーグを10戦ほどこなしたところで見えてきた傾向としては、ゲームのバランスが攻撃偏重の方向に調整されているということ。フリーランとフリーパスというシステムの性格上、2対3や2対4の局面であっても容易に打開することができ、パスの強さを絶妙にコントロールすれば、ゴールキーパーが飛び出せない、という状況も多々ある(こちらが守備側、または対戦であるなら任意でGKの飛び出しを行なえるので、この限りではない)。
また、ゲージ最大でフリーパスを出しても方向の精度にブレがほどんどなく、受け手の思考も賢いため、センターサークル付近から相手ゴール前や、逆サイドにいる受け手に向かって、レーザービームのようなパスが通りやすいという現象が起こる。乱暴に言ってしまえば、適当に強めのフリーパスを出していれば、悪くない確率で決定的な状況を作り出すことができるのだ。サイドチェンジに関してはまだいいとして、縦に強く出すフリーパスの威力は疑問。おそらくは、これを防ぐために守備側のラインコントロールが容易になっている(右スティックの左右で簡単にラインの上げ下げができる)と思われるが、リアリティに欠ける感は否めない。次回作では、このあたりのバランスに気を配って欲しいところだ。より完成度が高まるであろう次作に期待を込めるという意味で、最後に苦言を呈して本稿を締めくくらせていただくことにする。
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□ナムコのホームページ (2004年5月24日) [Reported by 平田 洋]
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