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★PS2ゲームレビュー★

作業感を感じさせない本格的アドベンチャー
「ミッシングパーツ sideA / sideB the TANTEI stories」

  • ジャンル:アドベンチャーゲーム
  • 発売元:株式会社フォグ
  • 価格:各7,140円
  • プラットフォーム:プレイステーション 2
  • 発売日:発売中(「sideA」:2003年11月27日発売/「sideB」:2月19日発売)



 近年、テキストタイプのアドベンチャーゲーム(以下、ADV)はコンシューマプラットフォーム向けにも確実にその数を増やしている。これはマシンスペックの向上により、良作なADVが豊富なPCゲームから移植できるようになったことが大きな要因と思われる。つまりプレイステーションからゲームを遊び始めた方々ならば、実写と見間違うほどのグラフィックやリアルに話すキャラクタ達に何の驚きもないだろう。逆に、ファミコン世代のユーザーに“ADVとは何か?”と問えば「ポートピア連続殺人事件」などに代表される、謎や事件を解決するタイプの推理モノを想像するはずだ。

 今回ご紹介する「ミッシングパーツ」はドリームキャストで3作が発売され、この度PS2においても「sideA」、「sideB」が発売されている。本作は、前述のタイプ分けでいえば後者に属する本格的なADV。グラフィックは当然ながらなかなかの仕上がりになっているが、テキスト主体ということで、キャラクタヴォイスはなし。また、かわいい女の子と恋愛を楽しむ、といった要素は全く含まれていない。

 しかしながら、「話す」、「調べる」といったコマンド型の推理ADVの類では、秀逸の出来映えとなっている。感動的なシナリオで話題を呼んだ同社の「久遠の絆」が好きなユーザーはもちろん、サウンドノベル型のADVしか体験したことがないユーザーにこそプレイしていただきたい作品である。

オープニングムービーより。サスペンスドラマを髣髴させるムービーだが、こういった細かいところにも繊細なゲーム作りの過程が感じられる。ここでは物語の中心となるキャラクタ達がカットで紹介されている



■ コマンド総当たり型アドベンチャー独特の作業感を払拭したゲームシステムに注目

 コマンド型ADVというと、いわゆる総あたり型のものを想像する方も少なくないだろう。本作もそういった状況になる場面がないわけではないのだが、少なくとも旧来からのコマンド総あたり型ADVに比べると、特定の選択肢を選ばない限り先に進めない、といった状況になることはほとんどない。この「手詰まり」状態が嫌でコマンド総あたり型ADVを食わず嫌いしている方にこそ本作が存在している、といっても過言ではない。

この状態がプレーヤーの任意で捜査を進めることができる通常画面。それまでの捜査状況を考えて、主に「移動」で捜査に必要な箇所を訪れることで話が進展していく 「人物ファイル」では、そのシナリオの中のキャラクタに関して情報を確認することができる


 つまり本作は、コマンド総あたり型のADVでありながら「手詰まり」の状況に落ちいることがほとんどなく、推理モノが持つ緊張感や、プレーヤーに問い掛けられた謎を自分で解決する楽しみはきちんと残されているのだ。では、具体的にコマンド総あたり型のADVがもつ作業感を本作ではどうやって解決しているのか? という話になると思うが、まずは本作の仕様について解説していきたい。

物語の主人公である「真上恭介」。突如、行方不明になってしまった鳴海探偵事務所の所長である「鳴海誠司」の穴を埋めるべく、唯一の所員として仕事をこなしている。真面目でお人よしな性格のため、貧乏くじを引くことが非常に多い
 本作は鳴海探偵事務所「唯一」の所員である「真上恭介」となり、次々と起こる事件を解決していくとこになる。物語は全6話構成になっていて、sideA(1話~3話)とsideB(4話~6話)の前編、後編にソフトも分かれている。1話につき10時間前後と結構ボリュームある内容となっているのだが、筆者が遊んだ感じではどの話も秀逸なストーリーであり、かつ推理モノとしての謎解きも程よいバランスで、さくさくとゲームを進めることができた。

向かって右にいるチンピラ風の男が恭介の相棒として活躍する「白石哲平」。見た目はこんなでノリも軽めだが、実のところは思いやりが強く恭介のピンチに駆けつけてくる頼もしい存在
 つまり2話以降は依頼や頼み事を解決するために、物語の舞台である「遠羽市」の様々な場所を聞きこみに回るなど、プレーヤー自身で行動を判断する必要がある。これによって同じ場所で先に進むことができない、といった状況に陥ることはほとんどなく、一定以上行動することでゲームの中で時間が経過し、話が先に進んでいくのだ。この時にある程度の捜査プランや推理もなく闇雲に動き回っていると時間だけが経過してしまい、捜査に必要である重要な情報を聞き逃してしまうこともある。とはいえ、各話を通して1日の始まりに恭介がある程度の行動プランを教えてくれるので、基本的にはその通りに捜査を進めていけば事件の解決にかかわる重要な情報を聞き逃すことはまずない。特に物語の序盤である1話から3話ではこれが顕著なので、推理モノが不得意だったりあまりプレイしたことがないユーザーでも安心して遊ぶことができる。

 では、“行動を誤って、事件解決に関する重要な証言や情報を聞き逃してしまった場合はどうなるのか?”と疑問に感じた方もいると思うが、ここが本作の特筆すべきポイントだ。通常のADVならば、物語を進める上で重要なポイントを逃してしまった場合、聞き逃さないように(フラグが立つまで)話が進展しない、もしくはゲームオーバーやバッドエンドになることがほとんどだろう。本作の魅力は、不正解を選んだ瞬間にゲームオーバーという展開にはほとんどならず、どんな捜査や選択肢を選んだとしても、大抵は物語の最後まで話は進展する(全ての日程が描かれることなく間が抜けることはあっても)。つまり、謎解きを間違えるたびにセーブポイントからやり直すさずとも、別のエンディングが用意されていることが多く、そのバリエーションが巧妙にできているという点が挙げられる。これにより、シナリオを重視するプレーヤーでも、謎解きがメインのAVGである本作を作業感なく遊ぶことができるはずだ。

 また、話の道筋によって物語の最後に出てくる「評価」が変化する。評価はAからCに分かれていて、これが「A」だったならば、その話を完全に解決した、ということになる。逆に「B」や「C」の場合はゲームオーバーではないが、完全にその事件を解決できていない、ということになるのだ。補足として、物語が突然終わってしまう展開も存在する。これは主人公である「恭介」が事件の途中に死んでしまった場合などだが、それでも通常のAVGに比べてストーリー性が非常に重視されており、話がぶつ切りに終わってしまう展開はほとんどない、ということを強調しておきたい。当然、「A」のルートを見たければ、途中でやり直ししなくてはならないこともあるが、逆に、巧妙に伏線が張り巡らされているため、何日か戻ってプレイする必要も出てくる。コマンド総当り式と違い、ちゃんと推理しながらプレイする必要性があるわけだ。フラグの仕込みがいろんなところにあるので、マニアな遊び方をする人は、見たいシーンをなかなか見られないこともあるようだが。

物語の所々にこういった選択肢が現れる。それまでの状況を考えて推理できれば正解の選択肢を選ぶことができるはずだ。それまでの捜査に関係がない雑学が必要になったりする設問が殆どないことは評価したい 探偵モノではおなじみのサーチシステム。怪しい箇所を選んでクリックすることで、捜査に必要な情報や証拠を探していく


 このシステムにより事件を解決するために何回も同じ話をプレイする必要はなく、初プレイ時にわからなかったことや評価が気になるプレーヤーのみ、もう一度やり直せばよい仕組みになっている。これらのシステムによって「作業感のないプレイ感覚」と「初プレイ時での事件解決」を上手く両立させているのだ。


■ 秀逸なシステムを支える心温まるシナリオと魅力的なキャラクタ達

 ここまでは本作のゲームシステムを紹介してきたが、「ミッシングパーツ」ならではの魅力はそれだけに止まらない。くどいかもしれないが、本作は次々と起こる殺人事件を中心とした結構きつめの内容になっている。それにも関わらず筆者のプレイした印象では、各話の最後には心に暖かいものが残った。小説やドラマにも言えることなのだが、人が死ぬ物語で最後まで心温まる瞬間がないものは、どんなに秀逸なシナリオであったとしても不快な印象が残るだろう。そういった意味で本作は次々と人が死んでいく中で最後の締めくくり方が非常に上手いと感じた。

 その理由として、感情移入しやすい魅力的なキャラクタが多数登場していることが要因にあげられる。本作のキャラクタはしゃべらない。つまりテキストだけで話を読み進めていくのだが、アドベンチャーゲームにキャラクタボイスは必須と考える方も少なくないと思う。かくいう筆者もその1人であるのだが、実際に物語を進めていくとキャラクタボイスの有無以前に、秀逸なストーリーとしっかり作られた設定がゲームを進めていく間に気にならなくなっていることを体験した。

エプロンを掛けている女の子がネットカフェ「サイバリア」でバイトをしている「鴨居奈々子」。本人に全く悪意はないが、店のメニューを独創的なものに変えている張本人で、その被害に毎回あっている恭介曰く「人類の最終兵器」 謎の失踪を遂げた「鳴海誠司」の娘であり、「鳴海探偵事務所」の所長代理を務めている「鳴海京香」。父親譲りの正義感からか、困っている人を見ると無償でも依頼を受けてしまう性格なので、所員である恭介は困り果てている
骨董屋「セクンドゥム」の店主。とはいったものの店主とは名ばかりで、昼間は明るいのが苦手なため表には出ず、愛猫の「ヘルシング」と怠惰に暮らしている。夜はいきつけのバー「スピリット」で飲んでいることが多く、恭介や哲平は付き合わされることもしばしば 探偵モノといえばやはり刑事の存在は欠かせない。向かって左の男が「氷室裕」。遠羽警察署捜査課の刑事。普段は昼行灯を装っているが、実はかなりの切れ者。若い頃に「鳴海誠司」の部下だったらしく、恭介や京香には協力的。右の男が同じく遠羽警察署捜査課の刑事で氷室の部下である「森川直治」。探偵が嫌いらしく、恭介とは会うたびにケンカになる
第1話である「鳴らないオルゴール」より。先に紹介したキャラクタ達は毎話登場するのだが、ここで紹介しているキャラクタ達は第1話のみの登場。1話のみではもったいないほど魅力的。中でも中心となる人物がピアノを弾いている盲目の少女「嘉納潤」。潤の周りで次々と起こる事件を解決していくところから物語はスタートする


 また、システム面に関してもADVには必須とも言える既読文のスキップ機能や読み返し機能は搭載されているので安心してほしい。アクションやパズルなどのジャンルに比べると、ADVは発売されているソフトの本数と共に一般的な認知度が低い感は否めないが、それらのジャンルに属するゲームしか遊ばない方や、ADVを食わず嫌いしている方は、本稿を機会にプレイしてみてはいかがだろうか?

(C)2002,2003,2004 FOG/O-TWO/SYSTEM PRISMA

□フォグのホームページ
http://www.fog.jp/
□「ミッシングパーツ sideA the TANTEI stories」」のホームページ
http://www.fog.jp/main/products/mpa.htm
□「ミッシングパーツ sideB the TANTEI stories」」のホームページ
http://www.fog.jp/main/products/mpb.htm

(2004年4月13日)

[Reported by 林 智加良]


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