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宮武氏のテーマへのこだわりによって生まれた世界観
「STEEL FANG」開発者インタビュー

2月8日収録

会場:株式会社ネクステック本社ビル


 株式会社ネクステック本社ビルにて、「STEEL FANG」の世界観設定を担当した株式会社スタジオぬえデザイナー宮武一貴氏、ネクステック第3開発部部長の寺岡大介氏のおふたりに話を伺った。

 宮武氏は、これまで「宇宙戦艦ヤマト」から、「マクロス」シリーズ、「聖戦士ダンバイン」、さらには「ラーゼフォン」などなど、名だたる日本アニメーションの制作に携わっている。氏が生み出す、生物的であり、機械的でもあるそのデザインからうまれる世界観はとても個性的なものであり、強い印象を残す。SFマガジンのイラストなど、アニメーション以外の分野でも幅広く活躍をしている方で、日本のSF史を語る上でにおいて欠くことのできない人物である。

 その宮武氏の協力の下に制作された「STEEL FANG」は、どのようなゲームに仕上がったのか。今回はそのポイントを中心にお話ししていただいた。

■タイトルを起点に生み出される、本作のSF世界

スタジオぬえの宮武一貴氏
ネクステック第3開発部部長 寺岡大介氏
編 まず、宮武さんがこの作品に関わることになった経緯を教えてください。

寺岡 それについては、まず私から。ネクステックはずいぶん前に「ダークアイズ」というオンラインゲームを手がけました。そこから「新しいオンラインゲームを作りたいね」ということで、カプコン、セガとの3社プロジェクトとしてこの企画が立ち上がりました。

  その時、テーマとして“近未来、そしてSF”というものを取り上げることが決まり、最初にスタッフの頭に浮かんだのが、「ブレードランナー」でした。僕らで「ブレードランナー」に匹敵する世界観が作れるのか? という問題になりまして、「それには宮武さんの協力を仰ぐしかない」という上司の意見で、来ていただくことになったのです。

 僕自身宮武さんの大ファンでして、「是非に!」ということでプロジェクトに参加していただくことになりました。宮武さんが参加をしていただく前に、「STEEL FANG」というタイトルだけは決まっていました。このタイトルから広がっていくイメージを宮武さんと共に構築していったわけです。

 宮武さんに決めていただいたことを挙げていけばきりがないのですが、なによりも僕らがネットワークゲームを提供する上で、「どうあるべきなのか?」という考え方そのものを決めていただいたことが大きかったです。実はこの作品は2000年から作られ続けている作品でして、企画は変化を遂げていきました。そのとき、宮武さんが「STEEL FANG」というタイトルの示す意味を、もう一度僕たちの前に示してくれたんです。

宮武 最初に提示されていたアイデアの中に、「ロボットと人間の対立」というものがあったのですが、これにまず反発を感じたわけです。まず、対立するためには理由を作らなくてはならない。僕はまずこういった理由の問いかけから入るんです。ここからさらに、対立、そして人間とは何か? というところまでさかのぼっていった。ロボットと人が対立するのは何故か、サイボーグは人なのか、人間なのか? 人工物と自然物、さらにコンピュータが介在してくるともう訳がわからなくなってくる。

 最初は見えてこなかった答えが、結局タイトルに戻ることで見えてきた。STEELとFANG、これがすべてを物語っているじゃないか。この感覚から、バックグラウンドを構築していきました。バックグラウンドというものは、作品にカラーを与えるため、個性を与えるためのものです。テーマやコンセプトは作品に個性を与えるために機能すればいいものだと僕は思っています。これによって、独特の雰囲気、デザインが生まれればそれでいい。この視点から生まれたのが、金属の骨格によって、人工筋肉で駆動するロボットです。生物とも、機械とも違う境界線に立つ2人の戦士がコンビを組んで戦っていく、という方向性が見えてきました。

 本作において、人間とロボットがペアを組み、戦うことになるのですが、この世界ではロボットは人間そっくりに作ることも可能だし、人間もまた金属の固まりの姿をしていても全く違和感がない。両者は本質的にはそれほど違いがないんです。タイトルから始まった世界の模索は、僕を追い越してスタッフがどんどん突き詰めていくようになった。その段階が見えてくると、僕は見ていけばよくなっていくわけです。キャラクタ的にも、動き的にもふつうのロボットや人間とは違うものができたと思います。アクションゲームとして彼らが動くバックボーンをデザイン的に提示できたと思いますね。

■「避ける楽しさ」設定から生まれる、日本人ならではのリアリティ

 この作品に対して、ユーザーに感じてもらいたいことはありますか?

寺岡 アクションを楽しんでもらいたいですね。敵と撃ち合うゲームですが、「避けられる」というところに、快感を覚えてほしい。さらに一歩進んで“避けつつ当てられる”というところまで極めてほしいですね。ここまでいくと神業のようになってしまいますが、経験を積み、工夫をすることでそれが可能になっています。自分が「かっこいい」と思えるプレイが可能なゲームです。

 また、単に戦闘のうまい人が勝てるというゲームではありません。いくら敵を倒せるようになっても、自分のロボットを壊されてしまえばそれで終わりな訳です。敵に勝つには、自分の命綱であるロボットをいかに守るかも重要なことになる。アクションだけではなく、ロボットをうまく隠すといった作戦も含めた「総合力」が重要になります。

 キャラクタの動きや、細かいグラフィックにも注目してほしいですね。壁を蹴って高く上ったり、背中にいきなりバーニアがついていたり、身体の各部が光っていたりと、アクション、デザイン共にちょっとした“違和感”が生じるものになっている。とても人間には不可能な動きをキャラクタがしたりする。

 たとえばこのゲームでは、ロボットがしゃべりまくります。プレーヤーの援護を要請したりと、音声で状況を伝える。反面、プレーヤーが操る“人型”のキャラクタは言葉をしゃべらない。「人間って何だろう? 機械って何だろう?」という疑問が生じさせる工夫もしています。ゲーム的なギミックも、たくさん仕掛けています。背景が意外な足場になったりと、極めるほどに気がつくポイントもあります。

 キャラクタの超人的な動きは、日本人である私たちが求めたものだと思います。海外のFPSとは違う感覚、「弾撃たれても避けちゃうもんね」というのは、SFというテーマの追求と共に生まれた、海外とは違うリアリティーの上で作られた日本的なギミックです。是非、敵の攻撃をよけつつ撃って戦ってください。海外のFPSで有効な「キャンプ」、待ち伏せが一番有利だというルールを否定した戦い方を目指してください。

宮武 「余韻」を楽しんでほしいですね。まず、ふつうとは少し違ったロボット、キャラクタを操って戦うことで生まれてくる気持ち、そして戦いの感触を楽しんでほしいですね。「STEEL」と「FANG」。これは、対立するものなのか、イコールのものなのか、そういう疑問も生まれてくるゲームです。本作を独特なものにしている要素だと思います。

 アクションゲームは、たとえ同じ状況に立たされたとしても、人が違えば全く違う判断をする。それが実際に起きるのが本作のおもしろさであり、またキャラクタを変えることでまったく違う感触も生まれる。かなり雰囲気のある作品になったと思います。後に余韻の残る作品になっていると思いますよ。これを楽しんでほしい。

 なにも考えずに戦い続けてきたけど、終わりにはいつのまにか頭の中に何かが残っている。そうユーザーが感じてくれればうれしいですね。ロボットとキャラクタは大事な仲間であり、相棒です。ロボットを守り抜き、共に戦ったとき、生まれてくる感触があると思います。

寺岡 私たちや宮武さんが考えたものを、ストーリー的にすべて展開させることは難しかった。だからこそ、デザインに様々なものをつぎ込んでいます。ふつうにプレイしていても十分楽しめるゲームですが、よく見ると様々な疑問が浮かんでくる。そして、その答えは実はきちんと用意されているんです。そこを見いだしていただければ、コンセプトワークとしては最高ですね。「STEEL FANG」をより好きになってもらえるひとつのきっかけになってくれればと思っています。

宮武 設定というのは、本来は裏に隠れていて、雰囲気があがっていればそれでいいんです。僕の仕事というのは、本来はそういうものなんです。今回に関しては、これは理想的な仕事ができたな、という気持ちもあります。大変でしたけどね(笑)。

編 このプロジェクトの満足度と、今後の展開などは?

宮武 いや、うれしかったですね。電話で完成を知らされたときは、「おめでとう」と、電話に向かっていってしまいました。プロジェクトは生まれ出た姿が最高だと思っていますから、心残りはないです。

寺岡 企画を立ち上げたとき、そして現在も、ネットを取り巻く状況ははどんどん変化していますよね。ネットゲームの世界で、ファンタジーは生き残っているけれども、SFはいまひとつの状況にある。今後は、この作品の反響がよかったら、「STEEL FANG2」を作ることがあるかもしれない。アクションとは違う形でこの世界をみなさんにお見せできればと思います。もちろん次回も、宮武さんとがっぷり組んで作っていきたいですね。その時には“ネットに住む”という方向で提示をしていきたい。いわゆるMMORPGとは、ちょっと違うものにする自信もありますよ。

編 ありがとうございました

□「STEEL FANG」の公式ページ
http://www.steelfang.net/

(2004年2月23日)

[Reported by 勝田哲也]


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