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■「天原」に1人の侍が現れた時、物語は動き始める
物語の舞台は「天原」とよばれる街。中央に大きな遊郭を配し、“出島”として異国との貿易も行なっている街だ。他の街には見られない異人たちが通りを闊歩し、商業も発達、店先には異国の品々まで並んでいる。 しかし、この天原には現在、暗雲がたち込めている。天原を仕切るやくざ組織「青門組」。かっては任侠道を重んじ、町人からも信頼されていたこの組が、組長が変わった頃からガラリと性格を変えてしまったのだ。いまや麻薬である「素魔」にさえ手を出し、中毒に苦しむ人々から金を搾り取っている。 強力になった青門組に対抗するため、奉行所もその方針を強攻策に。今では日中ですら、2つの勢力が町中で戦いを繰り広げるほど街は荒廃してしまっている。人の心もまた荒み、犯罪がたえない。 この街に、1人の侍が訪れる。長い旅をしてきたであろう彼は、持ち金もゼロで持っているものは刀のみ、行き倒れ寸前である。ふらふらの彼に、1人の童女が握り飯をふるまい、彼は息を吹き返す。やがて彼と彼の刀が、天原に新しい風をもたらすことになっていくのだ。 3つの勢力が争い、それぞれに属する人々が、主人公の剣の腕に惹かれてドラマを繰り広げていく。主人公は何を想い、そしてこの天原で何をなすのか? プレーヤーは優れた剣の使い手として街の住人に関わっていくことになる。 前作「侍」では、時代が江戸から明治に、価値感が変わっていく中、最後の矜持を持った侍の生き様を描いた作品だったが、今作は江戸時代の街そのものが舞台となる。やくざと奉行、そして町人、裏で動く“幕府”の思惑。王道とも言える「時代劇」のドラマを堪能できるだろう。 登場人物はそれぞれ、ちょっと奇天烈な格好をしていて、多少悪ノリ気味なところもあるが、非常に魅力的だ。性格設定も、セリフも、持っている武器にまで、ひとつひとつにスタッフのこだわりが感じ取れる。 口がきけないため、自らの名前すら名乗れない、名なしっ子。彼女を温かく、それでいながらこの厳しい世の中をきちんと渡っていけるようにきちんと見守っていく花魁の舞風、用心棒の団八。 生真面目な性格がとんでもなく過激な行動に発展してしまう若き同心、武藤郷四郎。オカマっぽいなよなよとした言動に、深い知性と鋭い剣の腕を隠した中村宗助。子ギャル言葉の異人の花魁・奈美。まさに「雑魚」という言葉がふさわしい非常にわかりやすい悪役の3人組……。これら主要キャラクタ以外にも、チンピラはインネンつけて蹴ってくるし、露天商は腰を低くしながらも借金の踏み倒しを狙ってきたりと、すべてのキャラクタの設定、描写ともに非常にこだわっており、ニヤリとさせられる。 筆者の一番のお気に入りは、陰沼京次郎。青門組に所属する、血と殺戮を好む狂気の女用心棒だ。完全な悪役なのだが、声優のキレた演技と相まって、本作で一番インパクトのあるキャラクタといえるだろう。「逆らうやつは……いや、誰であろうと皆殺しにしちまいな」こういう台詞が言える、非常にカッコイイ人物なのである。クセの強い、雰囲気のある登場人物との駆け引きが楽しめる作品なのだ。 ■「生活」が楽しめる侍シミュレーター
1日の時刻は未明、朝、昼、夕刻、夜、と5つに分かれている。店は朝から夕刻までしか開いていないし、時間によって往来の人は変化する。夜は、人通りが少なく、辻斬りが出たりする。 基本的には、後述するイベントを起こすためにゲームを進めていくことになるのだが、今作はフリーシナリオとも言える部分にも力が込められて制作されており、プレイを始めた当初は、この「生活感」でも、充分満足できるものとなっているのである。 多くの資料によって作られたことがわかる天原の街の再現度も見事の一言。3Dグラフィックスで描き起こされ、路地の雰囲気から建物、店の中まで再現された空間は、強い没入感をもたらす。ひとつのマップがちょっと狭い気もするが、イベントを詰め込むには適度な大きさである。 この江戸時代の空間を自由に動き回れる感覚は、海外のゲームにも引けを取らないリアリティーをプレーヤーにもたらしてくれる。いわば、時代劇のセットの中を手軽に歩くことができるのだ。町の住人に話しかけることももちろんできる。チンピラや、食い詰めものの侍、岡っ引きから、おばさん、子供などなど往来を行き交う人は多彩で、用意されているセリフも多く、雰囲気を盛り上げてくれる。 この天原は、奉行所、青門組、そして町人という3つの勢力のバランスの上で成り立っている。プレーヤーはシナリオとは別に、各勢力が提供する「仕事」をこなすことで、このバランスに干渉できるようになる。 町人勢力の仕事は、家出人捜しや、誘拐された赤子の捜索。奉行所の仕事は秘密文書の届けや、失せもの探し。青門組は、スリや、場所代の取り立てなどだ。面白いのが、奉行所と青門組の仕事が対立しているところ。奉行所の仕事をしているときはスリに狙われるし、自分がスリの時は秘密文書を持った同心がターゲットになる。 仕事は数をこなすことで勢力からの信用度が上がり、重要な仕事を任されることになる。町人勢力の場合は、奉行所と青門組が白刃をかざして往来で大規模な戦いをしている中に割って入り、ふたつの勢力を相手に戦わねばならないことも。奉行所や青門組勢力でも、暗殺など、剣にものをいわせた、血なまぐさい仕事をこなすことになっていく。 町人勢力を上げることで、商店の品揃えは良くなる。しかし、どこの勢力に荷担しても町は一層殺伐として、抗争を激しくしていってしまう。それを止めることは、主人公の剣だけでは不可能なのだ。街の平和を成し遂げるには街の住人自身の力でなくてはできない。そこに深く関わっていくには、後述するイベントを進めていかねばならない。 イベントを進め、ストーリーを楽しむことがこのゲームの重要な目的だ。しかし、そのイベントからはずれても、風来坊がたまたま立ち寄った街、という感覚で生活を楽しむことができる。主人公は、斬られれば体力を失い、時がたてば気力を失う。それを回復するために、食料などのアイテムを使うのだが、それ以外にも食べ物屋で名物やおすすめメニューを食べたり、銭湯で湯船につかったり、ボロ長屋の空き部屋でごろ寝したりして回復することができる。作りこまれた街の完成度を体感するのも、ひとつの楽しいプレイの仕方だ。 街につくなり長屋で横になり、ひたすら時間を進めていくことすら可能なのだ。主人公がこの街に逗留するのは最長10日間。プレーヤーの思惑とは別に、大きな事件がおき、天原はその流れに巻き込まれていく。プレーヤーの選択次第で、主人公はその渦に深く巻き込まれていくことになる。 戦闘にも少し触れておこう。本作は難易度が選択でき、特に「やさしい」だと、初心者でもかなり楽に戦うことができる。むやみやたらに斬りかかると刀の疲労度があっという間に限界に達し、刀が折れてしまう。敵の攻撃を受け流し、隙ができたところを一気に斬りかかる、というのが初心者にお勧めの戦術だ。隙をつくことで、ザコキャラクタならば一撃で倒すことができ、実に爽快感のある戦いが楽しめる。 敵の攻撃を受け流す“さばき”はガードボタンであるR1を押しっぱなしにしておきながら、レバーを前か後ろに倒すだけ。防御ばかりしていても剣は折れてしまうが、「やさしい」なら無茶をしなければ大丈夫。敵の攻撃にあわせて前か後ろを選択、うまくかみ合えば敵はよろける。一撃で敵を倒し続けることで、多人数の敵を華麗にさばく「時代劇」のヒーロー体験ができる。さらに後述する刀にこだわることで、強力な刀を入手できる上、二刀流や、忍者刀の剣舞も可能。華麗な「チャンバラ」を演出することができるのだ。 生活にこだわり、チャンバラにこだわることができる。時代劇にあこがれを持つ人にはたまらない作品となっているのだ。
■「王道」を狙ったストーリー展開が楽しめるイベント 冒頭、おむすびを施してくれる口をきけない少女・名なしっ子。ここで3つの選択肢が出る。そのうちのひとつを選ばなくては、もう彼女と関わるシナリオはなくなってしまう。本作のイベントは、ゲームの自由度とちょっと相反する性質を持った、フラグ性の強いものである。攻略情報などをチェックしてない場合、シナリオを完遂させるのにはかなりの試行錯誤が必要となるだろう。 状況確認画面を呼び出せば、ヒントは出る。それに従うことでプレイも可能だが、間違って長屋で寝過ごしてイベントの時間を逃してしまった場合、もう後戻りはできない。そうなると、ラストにしかイベントがおこらない、平坦な展開になってしまう。 しかし、完遂することが難しいからこそ展開するストーリーは非常にドラマ性が高く、面白い。名なしっ子とかかわることで、彼女が遊郭で幼いながらも、お使いをしていることを知り、さらに用心棒の団八や、花形花魁の舞風に温かく見守られていることを知る。しかし、名なしっ子は、口がきけないために自分が思っていることを人に教えられず、自分の名前すら人に名乗ることもできない。主人公は彼女に文字を教えることを約束する。 健気な名なしっ子が主人公の優しさに触れ、うれしそうな仕草をする。プレーヤー自身も「よかった」と思える演出とエピソードが見事だ。名なしっ子はますます主人公になつき、主人公はやがて彼女に訪れる恐ろしい運命から彼女を救うため、奮戦することになる……。 また、主人公が青門組の先代組長の娘、かすみに肩入れをする展開もある。組を奪った高沼半左衛門は任侠道を忘れ、暴力と恐怖で街を支配していく。父親の誇りであり、街の守りであった青門組がまったく違うものにされてしまっている。しかし、若い娘でしかない彼女には、何もできない。彼女を助ける選択を主人公がするとき、彼女もまた決意の証をもって、主人公に応える……。 この他に、同心達の同志になって正義を取り戻す戦いをするストーリーや、高沼半左衛門に力を貸し、天原を暴力で支配することに協力をするシナリオまで用意されている。この4つのストーリーは、さらに細かいいくつかのエンディングに分岐していく。これらのストーリーが展開する日数は10日間、1プレイは長くても10時間程度で終わるようになっている。ストーリーラインの基本は4つだが、主人公の選択で展開は変わっていく。より納得するエンディングを探すプレイも楽しい。 ストーリーを追っているときは、「お約束」ともとれるシチュエーションと、セリフ回しに注目して欲しい。ちょっと間抜けな悪役3人組のやりとり、不敵な高沼半左衛門、なよなよした言動の中に鋭いものを秘めた中村宗助、そして、話す言葉ひとつひとつが完全にイッちゃっている陰沼京次郎などなど、いかにも芝居じみた、しかし、そのハマリっぷりが楽しい会話が展開するのだ。これは制作者が、キャラクタの描写を、狙い、こだわり抜いた結果である。厚みのあるキャラクタ描写は、実に気持ちがよく、思わず口元に笑みが浮かんでしまう。 これらをさらに補強し、プレーヤーの心にストーリーを刻み込むのは、「熱い展開」である。「今日は死ぬにはいい日和だ」こんなセリフを、一生のうちに言える瞬間があるだろうか? 侍は自分が信じるもののために命をかける。そんな、ロマンあふれる、“男”の生き様が、プレーヤー自身の選択で展開するとき、思わず鳥肌が立ってしまいそうな興奮が背筋をかけぬける。こんな感覚を体験したい人には、是非ともオススメしたい。
■刀にこだわるやりこみプレイ 本作では主人公自身は成長をしない(アイテムによって体力の上限値は増える)。成長要素、そしてやりこみ要素を持つのは、「刀」なのである。ゲームでは刀を持った敵と戦い、勝利をするとその敵の刀を奪うことができる。琥徹、兼定といった、本物とは字が違うが新撰組好きならばニヤリとしてしまうものから、村雨といった有名なもの、さらには美帝骨(びていこつ)といった悪ノリ気味なユニークな刀など、65種が用意されている。中段で使用するもの、上段でつかうもの、忍者刀から、二刀流、薙刀など、種類もさまざま。長大なものから、鋸状のものなど形も多彩だ。 シナリオの終盤で戦うボスがいい刀を持っているのは当然だが、それ以外にも戦うはずのないキャラクタを襲い、奪うこともできる。さらに情報屋に金を渡し、いい刀を持っている人物を闇討ちするという“仕事”まで用意されている。刀のみを求める、刀に魅入られたロールプレイも可能なのだ。 入手した刀は使い込むことで技がひらめき、より使いやすくなる。さらに沼田町にいる刀鍛冶・堂島に刀を鍛えてもらうことで攻撃力や防御力を上昇させることができる。外見にこだわるも良し、刀を振る技にこだわるも良し、思い入れを込めた「剣舞」を追求することができる。上級者になれば敵を浮かして切り刻む「空中コンボ」をやすやすと使いこなす、「戦いの鬼」になることができるだろう。 また、主人公の「外見」そのものも多彩なものが用意されている。最初は若者、青年、老人の3種類だが、ゲームをクリアしていくことで女性剣士になることもできる。もっとも性別を変えてもシナリオでは変化がなく、「男」として扱われるのは残念だが……。女性剣士が涼しい顔をして遊郭に入っていくのは変な感じがして面白い。 さらにクリア時やゲーム内で入手できる小物によってキャラクタをカスタマイズできる。お面をかぶってしまうと特にシナリオ展開中には爆笑必至。この人、お面の下でどんな表情をしてるんだろうと想像させられてしまう。ゲームをクリアしていくとさらに「アフロ頭」といった前作のファンにはニヤリとさせられるアイテムも。他にも、世界観を壊してしまうような奇天烈なアイテムもたくさん用意されている。これらをコレクションするために、プレイを重ねるのもまた楽しいだろう。 非常に個人的な話であるが、このゲームのシナリオが筆者にとって大変ツボにはまったため、シナリオライターをチェックしたところ納得した。筆者の好きなゲームであるメガCD版「LUNA I&II」を手がけたシナリオ工房 月光の重馬敬氏がメインシナリオを手がけていたのである。 「侍」シリーズのファンにとって、前作とストーリーのテイストが少し変わっているのは賛否両論あると思うが、個人的に彼が手がけるゲームをプレイし、変わらず楽しめたことは、喜ばしいことであった。 この、お約束の嵐とも言える、カッコよく、強く感情移入ができるストーリーは、時代劇好きの人にはもちろん、万人にお勧めできるものである。是非、このストーリーと、完成度の高いシステムによって構築された「侍シミュレータ」で体験できる“高揚感”を味わって欲しい。 (C)2003 Spike/ACQUIRE □スパイクのホームページ (2004年1月28日) [Reported by 勝田哲也]
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