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「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」開発者インタビュー
新エンジンによって映画からシームレスにゲーム世界へ

12月3日収録

会場:エレクトロニック・アーツ

プレイステーション 2版のパッケージ写真
 壮大な物語世界をもつ「指輪物語」を3部作に分け、最先端の映像技術で迫力ある映画に仕立て上げ第1作、第2作とヒットを記録した「ロード・オブ・ザ・リング」。映画の制作と同時にゲームの開発も行なわれ、エレクトロニック・アーツ (EA) は1作目となる「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔」をプレイステーション 2、ニンテンドーゲームキューブで2003年2月に発売。今回、2004年2月に公開が予定されている映画のシリーズ完結編「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」の公開に先駆け、ゲームは1月8日に発売となる。プラットフォームはプレイステーション 2、ニンテンドーゲームキューブ、Windows。価格は6,800円。

 映画のゲーム化となると、グラフィックのギャップや、世界観の相違に始まり、映画の制作とは別スケジュールとなるため公開後しばらく経ってからの発売ということが多かった。ところが「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズは、映画の制作現場とゲーム制作現場が密接に連携することで、なんと映画公開前に発売されるという快挙を成し遂げた。

 ゲームは、前作「二つの塔」同様の3Dアクションゲーム。映画の映像が流れる中、そのままの情景からシームレスにゲームに突入。ゲームを1番最初に起動するとボタンが利かないままに映画のムービーが再生され、いつの間にかゲームに突入する。このため、まるで映画の続きを自分で操作するかの感覚にとらわれる。一瞬、ムービーなのかゲームなのかわからないほど。面の終了条件をクリアした時点でまたムービーシーンにシームレスに繋がりストーリーは進展していく。

 「王の帰還」では、ステージはじめにプレーヤーがキャラクタを選択。選択しなかったキャラクタは、CPUが操作するNPCとなりステージをまわることになる。前作より仲間とともに戦っているという感触がある。また、シングルプレイだけでなく、協力プレイも可能。また、ステージには投石機、槍などのオブジェクトがありそれを操作できることもある。

 シングルプレイにおいては、ステージ内のプレイ内容はPERFECT、EXCELLENT、GOOD、FAIRと自動的に判定され、それに見合ったスキルポイントが割り振られる。ステージ終了時にそのスキルポイントを使ってスキルを習得することができる。一度クリアしてスキルが決定したあと、セーブまで行なうと後戻りはできないが、ステージ終了時にスキルポイントに不満であれば、再度挑戦することができる。何度かチャレンジして「これだけスキルポイントがあればいいだろう」といった時点でスキルの購入、セーブに進むといいだろう。

 グラフィッククオリティも高く、“映画を体験できる”というゲームの目的は充分に果たしていると思われる本作だが、この度、制作を担当したEAのEA開発部門バイス・プレジデント/ロード・オブ・ザ・リングシリーズの統括プロデューサーの、NEIL YOUNG (ニール・ヤング) 氏にお話を伺う機会があったので、色々とゲームに関する質問をぶつけてみた。


■ ゲーム制作は映画の制作と並行して行なわれた

EA開発部門バイス・プレジデント/ロード・オブ・ザ・リングシリーズの統括プロデューサーの、NEIL YOUNG氏
編集部(以下、編) 映画に先駆けて発売されるということは、今まででは考えられなかったことですが、制作はどのように進めていったのでしょうか?

ニール・ヤング氏(以下、ヤング) 2つのポイントがあると思います。

 今回は、映画に先駆けてゲームが発売されるということになりましたが、通常であれば映画を作った後にゲームの制作にはいるといった感じなんですが、今回の作品に関しては映画を作っているフイルムメーカーと一緒に共同で開発したんです。このことから、映画で実際に採用された資産、例えば美術のスケッチなどをそのまま使うことができたんです。今回のゲームでは20万件以上を映画から取り込んでいます。

 監督も映画を作るとともに、ゲーム作りにも密接に関わっています。一緒にゲームを作っているという感じで、これまでのように映画とゲームは別々に作っている……後付でゲームを開発したという感じではないんです。そういったことが、今回は史上初めてできたのではないかと思います。そういった経緯の元で今回は、映画に先駆けてゲームを発売することが無事にできました。

 ただ、プレーヤーの中には、映画が公開される前にゲームをプレイするということはストーリーなどがわかってしまうのではないかと不安に思う人もいるかと思います。しかし心配は無用です。それは、映画監督といっしょに作っているので、ゲームにおいてどれぐらいまで語ればいいのか? 表現していいのか? 逆にどれくらいまで再現できるか? ということを話し合いながら制作してきました。ユーザーの人がゲームをプレイすることによって、世界観が深まり、ストーリーラインを理解できるようになり、さらに面白い旅ができるとおもいます。

 具体的に映画のスタッフとどんなやりとりがあったのでしょうか?

ヤング 映画を作るプロセス上では、まず最初にコンセプトアートが制作され、そのアートデザインが次の部署に渡されスケッチができあがり、アートディレクターに渡され、さらにデジタル化されていくといった過程が踏まれます。これを待っていると大変時間がかかってしまい、ゲームの制作が間に合わなくなってしまいます。

 なので、我々ゲームの制作チームとしては映画制作チームに対して「なにか制作過程でできあがったものがあれば、すぐに渡してください」と申し入れたんです。その中から我々のほうでゲームで必要なものを選択していくという方式をとったんです。さらに、できあがったものに対する説明や、ストーリーラインの方向性を知る必要があるのであれば、我々がもっと詳しくきちんと質問するようにしたんです。そのようなオープンな環境で制作が進められたので、制作自体は非常に楽でした。

 最終的には全ての資料を取り込むことは、もちろん不可能なことなんですが、どれを選択するかについては、かなり気を使いながら見極めました。これらの映画の制作陣とのやり取りを円滑に進めるために、ロケ地で映画のセットがあるニュージーランドと、EA本社のあるサンフランシスコの両方に部隊をおいておき、作業の進行がどこからでもわかるようなシステムを作り上げました。

 ニュージーランドの映画制作現場に常駐していたんですか?

ヤング 映画の撮影現場で、プロダクションスタッフが常駐して、映画制作チームと共同で作業してました。

 映画監督であるピーター・ジャクソン氏にもゲームを見せていると思いますが、例えば「ここはこうしたほうがいいのでは?」といった意見はありましたか?

 ヤング ピーター・ジャクソン氏とは、常にビデオ会議を行なったり、我々がニュージーランドへ行き、話し合いを行ないました。

 ピーター・ジャクソン氏は、本をベースにした世界観、そして映画のストーリーなど、もの凄く認識している。「ロード・オブ・ザ・リング」の世界観の中でなにができる、できないということをきちんと把握しているので、そういったアドバイスをたくさん貰うことがができました。実際にゲームをプレイして、ゲームをこうしたほうがいいといったアドバイスはありませんでした。

 ゲームの制作については、ゲームのスペシャリストに任せるということで、ゲームに直結するアドバイスはありませんでした。映画は映画、ゲームはゲームで任されるといった形でした。


■ 映像からゲームへ、シームレスな展開を実現するには

 「ロード・オブ・ザ・リング」といえば、RPGの原点とも言える作品ですが、今回のゲームではなぜ、アクションというジャンルを選択されたのでしょうか?

ヤング 今回のゲームに関しては、映画に基づいてインパクトのあるエンターテイメントを重視したゲームを作りたかったのです。

 映画を見ると、やはり戦いのシーンが印象的でした。それを再現するにはアクションをゲームに取り込んだほうが、ユーザーに理解してもらえると思いました。ゲームをプレイしている間はローラーコースターに乗っているようにハラハラさせるような感覚で、やり終えたときには、ドキドキするようなプレイ感を再現したかったのです。

 一方で、ゲームの中でもRPG的な存在を活かして作りたかったというのは確かにありました。敵を倒した時にスキルポイントを得て、キャラクタを育成していくといったRPG的な要素も用意しました。そういった意味では、例えばカプコンの「デビル・メイ・クライ」シリーズよりはRPG的な要素が入っていると思いますが、「ファイナルファンタジー」シリーズまではいかないと思います。あくまでもアクション重視ということで、それを再現するには、このゲームデザインがよかったと思います。

 初めて「王の帰還」をプレイした時に、DVD-ROMをセットし電源投入したら、コントーローラで操作できなくて、ムービーがザァーっと流れていたかと思ったら、いつの間にかゲームがスタートしていて、あまりにシームレスであったため、初めはそれに気がつかず、映画のままかなと思ってボーっと見てたら実はやられてて大変でした。 (メモリーカードをセットして普通にスタートすると、ゲームスタートかコンティニューの選択を行ない、難易度設定なども可能)

 このシームレスなシステムはすごいと感じましたが、例えばプレイステーション 2などではメモリの問題など苦労があったかと思いますが、そういった技術的な問題はありましたか?

ヤング 確かにプレイステーション 2で今回のシステムを実現するのは、難しいところでした。仕掛けとしては、独自のテクノロジーを2つ採用することによって、ゲームを実現することができました。1つ目はストリーミングテクノロジーを採用することによって、ロード時間を縮小することができた点です。ゲームプレイをしているユーザーがキャラクタが進む方向を決めた時点で、つねに次の画面をロードしておき、なるべくユーザーがシームレスな体験をできるよう配慮しました。

 例えば、ディスクをスクラッチしているときに、プレイ画面にローディングという表示がでているので、システム的にどういった流れになっているのかは、わかると思います。とにかく、ムービーとゲームをシームレスに繋げるためには、ゲームプレイ中は常にロードしていないといけないんです。このシステムを独自に開発したことによって、ユーザーの皆さんにシームレスな体験をしてもらうことが実現できたんではないかと思います。ストリーミングの中でも、テクスチャーや4chのオーディオ、そしてビデオの表示など、全てストリーミングできるような形になっていて、かなり高度なエンジンになっています。

 基本的なシステムとしては、ベースのゲームエンジンを一番最初にロードした上で、さらに映画を再生しています。ゲーム自体は常に最初にロードされていて、あとは各シーンでそれぞれテクスチャーやムービー、音声などロードすればシームレスな画像として再生されるようになっているのです。

 「王の帰還」の制作にあたって、グラフィックエンジンなどに手を加えたりはしているのでしょうか?

ヤング 今回の作品に関しては、技術的にハードルが高いものであったので、1作目で使ってたエンジンとは全くの別ものになっています。新たに作りあげたもので、ストリーミングの技術に関してはデータの受け取りなど全然仕組みが違います。

 例えて言いますと、前作の「二つの塔」では、1つの面をロードするのにスタートする時点でグラフィックやコードなどを1度にロードして、次のレベルにいくまではロードを行なうことはありませんでした。今回のゲームに関しては同じ面でも、その面をプレイしているうちに17回ぐらいロードが行なわれています。これはその場面場面で、テクスチャーであったり、モデリングデータであったり、その時々に応じたデータのやり取りが頻繁に行なわれています。 (前作に比べ17倍近くロードを行なっていると言うことは) 前作に比べ17倍ぐらい高度なグラフィックを実現できたということで、そういった部分でゲームに表現されていると思います。


■ ゲームバランスについて

 私は1人でプレイしたのですが、今回は2人でプレイすることが大きなポイントだと思いますが、1人でプレイすると仲間のキャラクタ(CPU)がボーっと見ているだけの時がありました。友達同士でプレイすると声などを掛け合ってプレイできると思うのですが、1人でプレイしたときは少し疑問に感じました。

 そこで質問なのですが、1つは、1人でプレイするのと2人でプレイするの難易度の変化などはあるのでしょうか? もう1つは、1人でプレイする時のCPUキャラクタがもう少し賢くならなかったのでしょうか? 例えば、橋を操作している時に、向こうから敵が矢を打ってくるシーンがあります。その時に、「矢を払え」と指示されるのですが、仲間のCPUキャラは“ボーっ”と見ているだけなんですよ。そういったところがなんとかならなかったのかと思いました。

ヤング まず1つめの質問についてですが、シングルプレイとマルチプレイでは難易度が違います。マルチプレイ対応ですと、シングルプレイより1段階、難しさのレベルがアップされています。マルチプレイでは、1人が死んだ場合には1度は復帰できますがもう1度どちらかが死ぬと、そのレベルのスタート地点に戻ってしまいます。チェックポイントが用意されておらず、一気に通過しないといけないという難易度に設定してあります。マルチプレイというのは、共同プレイが楽しいところなので、お互いに声を掛け合いながらプレイを楽しんでもらうために難易度を設定しました。

 2つめの答えですが、AIに関しては微妙にバランスをとらないといけないと思います。例えば、なぜ「仲間のCPUキャラが矢を払わずに立っているだけなのか」といった点についてですが、ゲームのシステムからみると、実際にプレーヤーキャラクタがその矢を払うことによってレベルアップするので、ほかのCPUキャラクタが矢を払ってしまうと、そのキャラクタがパワーアップしてしまいます。我々としては、仲間のCPUキャラクタがパワーアップするより、自分のキャラクタがパワーアップしたほうがいいと思い、こういったシステムになりました。

 ただし、おっしゃっている通り、ある部分ではAIが欠けている部分もあります。敵に囲まれた時に、ほかのCPUキャラクタが攻撃しないといったこともあります。バランスをとったという点で言えば、やはり、PS2の性能的な限界があります。全体的にゲームプレイを見てAIをより高度にすることはできたかもしれませんが、そうなると他のグラフィックやサウンドなどの部分とのバランスが悪くなります。そこで、このようなバランスとなりました。

 確かに敵がたくさん出現した時、仲間のCPUキャラクタも戦ってくれますがトドメをさすのは自分なんですよね。なので、自分がレベルアップするために、自分で戦わせるのかもと感じていましたが、その通りなのですね。

 制作者としては、プレーヤーにシングルプレイでプレイしてもらうより、マルチプレイでプレイして欲しいですか?

ヤング 今回の作品に関しては、積極的にマルチプレイでプレイしてほしいかといえば、そうではありません。シングルプレイで体験できる“楽しさ”というのは、マルチプレイ対応でプレイした時とは違う“楽しさ”だと思います。マルチプレイ対応というのは、友達とのコミュニケーションを作るきっかけの場であると考えています。そういった意味では同じゲームであっても違う楽しみかたができると考えています。

 日本とアメリカではプレーヤーの指向やレベルが違うのでよくわからないんですが、アメリカのゲームは一般的には難易度が高めに設定されているように感じます。日本人の大多数を占めるであろう「映画を見てゲームをプレイするライトユーザー」には、ゲームが難しすぎる感じることがあるかもしれません。そのあたりのレベル設定はどう考えていますか?

ヤング このゲームではゲーム開始時にレベルを選択することができますので、自分のレベルにあった難易度で楽しめると思います。北米市場について言えば、大多数の映画のユーザーはゲームユーザーでもあるので、ゲームも違和感なくプレイできると思っています。ただ、個人的な感想ですが、北米市場に関してはゲームの難易度が高めに設定してあるので、ゲームが“難しい”と感じるかもしれません。

 日本のマーケットに向けてこのゲームを発売するにあたって、ゲーム内容を多少変更しました。例えば、コンボ攻撃の攻撃範囲を広くしたりといった感じで、日本のチームと一緒に工夫をして作りあげました。あとは、設定の方でイージーなどに変更すれば、映画を見てからプレイを始めるユーザーでも受け入れられると思います。北米市場でプレイステーション 2はかなり普及していますので、映画を見てからゲームを購入するという人が増えれば、さらにマーケットが拡大してものすごいゲームになると思います。

 ステージごとに獲得ポイントでスキルを購入することができます。しかし一度面をクリアするとすべてゲームをクリアするまで再度そのステージをプレイすることはできません。例えば何度かそのステージをチャレンジし、ポイントを貯めることでより多くのスキルを身につけることができれば、初心者ユーザーでもプレイし続けることでいつかはクリアすることができるようになったのではないでしょうか?

ヤング いや、このゲームは映画を再現することがベースになっているため、最初から終わりまではジェットコースターに乗ったような気持ちで一気にプレイしてもらいたいということがあった。なので、プレーヤーには順番にストーリーをクリアしていってもらい、クリアしたステージにチャレンジするといったやりこみ要素については、1度すべて終わってからチャレンジして欲しいと思いこのようなシステムになっているのです。それはピーター・ジャクソンも同じ考えでした。


■ そして、今後の展開

 映画は3部作で終わってしまいますが、ゲームについては今後の展開があると聞いたのですが、新作を作っているのでしょうか? 映画はこれで終わりなので、ゲームも終わりかと考えてしまうユーザーが多いと思います。今後の展開があるなら聞かせていただけませんか?

ヤング 今、コメントできるのは、PCプラットフォームにおいては、現在リアルタイムストラテジー (RTS) のゲームを作っています。「バトルフォー・ミドルアーサー」というタイトルです。EAの「コマンド・アンド・コンカー」制作チームと「ロード・オブ・ザ・リング」のチームがともに最強のRTSを2004年中に発売する予定です。

 また、今回アクションアドベンチャーというジャンルの中で、このゲームで終わらせるとは考えていません。「ロード・オブ・ザ・リング」に関して言えば、ものすごく大きな世界観がありますので、今後も、それをよりリアルにインタラクティブ性をもたせることで、物語の作品世界をゲームで再現できると個人的には考えています。なので、今後もどんどんとゲームを出せると思います。

□エレクトロニック・アーツのホームページ
http://www.japan.ea.com/
□「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」の公式ページ
http://www.mabinogi.com/jpn/default.html

(2003年12月22日)

[Reported by 船津稔]


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