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European Computer Trade Show 2003現地レポート「S.T.A.L.K.E.R. Oblivion Lost」プレビュー |
今回、「STALKER」の解説してくれたGSCのSENIOR MANAGERを務めるOLEG YAVORSKY氏 |
■ ライバルは「HalfLife2」と明言する物理エンジン
今回のデモで主に示されたのは物理エンジンとゲーム内容について。残念ながら撮影許可がおりず、デモそのものの内容の映像は今回ここで見せることができない。しかし、GSCから提供して頂いた動画像に、今回プレゼンしてもらったデモ内容に近いものが収録されているので、そちらを見て頂ければエンジンの強力さがイメージできるはずだ。
GSCはE3におけるValveの「HalfLife2」シアターの見せ方に影響を受けたのだろう。今回のプレゼンはあのときの「HalfLife2」のデモの構成にとてもよく似ていた。ゲームエンジンの名前は「X-RAYエンジン」。GSCは、かつてチェルノブイリ原発事故があったウクライナを本拠地としているため、しゃれで付けている名前だと思うが、なかなか大胆なネーミングセンスだ。
X-RAYエンジンはGSC自らの手による100%オリジナル制作によるもので、非常に柔軟性に優れたものになっている。特に物理エンジンには力を入れており、名指しで「某HL2には負けていないはず」とGSCスタッフは笑いながら語るほど。ゲーム内物理はゲーム世界に存在するほぼ全てのオブジェクトに作用し、それぞれのオブジェクトが相互に物理干渉するように設計されている。
まず、最初に見せられたのは人体をパチンコ台のようなセットからバラバラと落とすデモ。最近のゲームエンジンデモでは定番ともいえるRagdoll物理(Ragdoll=ぬいぐるみ)とよばれるものだ。各人体モデルにはキネマティックス制御のボーン(骨)を仕込んであり、体の関節は一般的な人間の可動範囲でしか曲がらない。しかし、完全に力が抜けている状態なので、パチンコの“釘”に相当する張り出しに手足が引っかかったりして落下運動に偶発的な回転要素が加わったりする。複数の人体が衝突すれば作用反作用の法則で互いはバウンドして離れる。こんな人体の衝突物理実験が現実世界で行なわれたらきっとこうなるに違いない、と見る側に確信させるほどのリアリティが実現されている。
続くデモでは、主人公が乗る車両がテストフィールド上を走り回るというものであった。車両物理も、車体のホイルベース、車重、路面状況なども考慮される走行運動、四輪独立サスペンションのシミュレーションをサポートした強力なものを開発。もちろん、その他の衝突物理などとの相互干渉性も同時に配慮される。このあたりをアピールするために、車両同士の衝突を見せたり、倒した車両の上を乗り越えさせたり、あるいはフィールドに横たわらせた無数の人体モデルを轢き回す様子を見せてくれた。
スピードを出した状態で人体を片輪で轢くとそちらのサスペンションが沈み車体も傾く。轢かれた人体は車両の力積を受けて地面を少々滑り、衝突時の衝撃が手足を波打たせる。おぞましい描写で申し訳ないのだが、X-RAYエンジンの物理エンジンの汎用性の高さはイメージして頂けたのではないだろうか。
車の端にキャラクタが乗るとシーソーのようにバランスが崩れて、キャラクターが乗っている側に車体が傾く | X-RAYエンジンは本格的な車両物理を構築 | |
コンテナをロケット弾で砲撃するとコンテナがバラバラと相互に衝突しながら崩れていく | 背景のグレア効果がじゃまでわかりにくいが、梁の上の敵兵を狙撃して落下させる。すると…… | 車の後部に衝突。車の後部サスペンションはこの衝撃を吸収。車体の後部のみが深く沈み込む |
■ グラフィックスエンジンはNVIDIA全面協力の下に開発
NVIDIAの全面協力のもとに開発が進められているX-RAYエンジンのグラフィックスは、さすがに見所も多い。
シーン内に描画される植物は、最近にわかに採用例が目立ち始めている、パラメータ設定で自動生成するプロシージャル技法が採用されている。人体モデルに仕込むことができるボーン(骨) 数に制限がないのもX-RAYエンジンの特徴で、現在「STALKER」で動作している人体キャラクタの多くは50程度のボーンからなっているという。
「15(fifteen)の間違いではないのか」(筆者)
「50(five zero)だ。指の各関節にも1本1本のボーンがある」(YAVORSKY氏)
ボーンは双方向キネマティックス制御され、手や足が障害物に衝突した場合には自然な形で各関節が回転し、人間的な姿勢に落ち着く。人肌にはシワの法線マップが用意され、顔も生き生きしている。人体表現へのこだわりは、現行ゲームエンジンの中ではトップレベルといっていいだろう。
注目の影生成については基本的には「HalfLife2」と同様の投射テクスチャマッピングを使ったプロジェクション・シャドウ技法によるもので、セルフシャドウ表現は今回は見あたらなかった。ただ、投射距離が長ければ長いほど半影(薄い影)になり、短ければ短いほどエッジが強くなる影生成エンジンが搭載されており、シーン全体のビジュアルとしては非常にリアリティが高い。懐中電灯のような光源アイテムによって照らされる影はジオメトリ構造を複雑に配慮して相互投射されるために、こうしたケースでは別の技法が使われている可能性もある。
投射テクスチャマッピングはスポットライト表現や映写機表現などにも使われており、さらに、その際の高輝度部にはグレア効果がかかるなど、光と影の演出に関しては「HalfLife2」や「DOOM III」に負けていない。
■ チェルノブイリへの取材を敢行して作り上げたショッキングなゲーム内容
これまで謎めいていた「STALKER」のゲーム内容だが、今回のプレゼンテーションでかなりの部分が明らかになってきた。バックストーリーはこうだ。
'86年、チェルノブイリ原子力発電所がメルトダウン事故を起こし、周囲に甚大な放射能汚染をもたらす。事件現場周辺は全ての生物が死滅したかのように見えたが、人間を含む突然変異を起こした生物たちが新たなる生態系を形成しはじめていた。政府当局はこの地域を厳重警戒地域に指定し、外界との関わりの一切を遮断してその管理下に置くが、実は政府はこの生態系を利用した生物兵器の開発をもくろみ、秘密裏に研究所を建設していたのだ。
2012年、今度はこの研究所が事故を引き起こし、事態はさらに悪化。汚染はさらにすすみ、凶暴化した生態系がついには人類に牙をむくようになる。
ゲームタイトルにもなっているキーワード「STALKER」とは、「執拗に特定の人をつけ回す」あのストーカーとは違い、このゲームでは「獲物を求めて忍び足で徘徊する」といった意味で用いられている。この汚染地域に危険を顧みず潜入する賞金稼ぎ達をゲーム世界では「STALKER」と呼んでいるのだ。
GSCのスタッフは、このゲーム制作のために、危険を顧みず、それこそゲーム中のSTALKERのように、あの原子力発電所事故で著名なチェルノブイリ地域へ2回もの取材を敢行。現地の景観や放棄された都市の様子、そしてこの土地に住む生物に関する調査を行なってきたとのこと。「チェリノブイリでは3メートルのナマズなんてのが平気でいるんだよ! 取材の後、我々の事務所は、何者かに荒らされたんだ。あれはKGBの仕業に違いない!」と、YAVORSKY氏は当時の様子を笑い話のように語ってくれたが、彼らのゲーム開発は、いろんな意味で命がけなようだ。
開発スタッフは禁断の土地チェルノブイリへの取材を敢行 | 実際のチェルノブイリの情景 | STALKERのゲーム世界に再現されたチェルノブイリの情景 |
汚染地域には自分以外のSTALKER達も徘徊している | こうした廃墟シーンの造形にチェルノブイリ取材が活かされている | |
巨大ねずみの大量発生。撃ち殺してエサにするか? |
■ STALKERは放射能汚染地域で繰り広げられるサバイバルゲーム
STALKER達の獲物は、汚染地域を徘徊する新種生物やあるいは事故の副作用で生み出された新エネルギー物質。これらを「必要としている者達」へ売り渡すことで、STALKER達は生計を立てている。プレーヤーが扮するのは、この汚染地域への冒険を試みるは新米STALKER。ミッションをこなして金を稼いでいくことで、より強力な装備や武器を身につけられ、自分のスキルが向上するにつれて、より危険なミッションにも挑戦できるようになる。
敵は、この汚染地域に済む異形の生物はもちろんとして、この地域の秘密をもみ消そうとする政府軍、そしてこの地域を徘徊するSTALKERギルドの過激派敵対組織など。自分以外はあまり信用にならないという三つ巴戦感覚のシチュエーションも、なんとなく「HlafLife」に似ている気がする。
ミッションはストーリーに影響するキークエストと、自動生成されるミッションの2タイプが用意される。ストーリー進行に影響するミッションをどう解決していくかで、ストーリーは分岐していき、最終的には8タイプのエンディングのいずれかに到達するという。
ゲームビジュアルはFPSスタイルだが、ゲームシステムはRPGに近いシステムを採用しているのが本作の特徴。スキルをパワーアップし、装備や武器を充実させていくことで強力なキャラクタに育て上げていくことができるようになっている。プレーヤーの状態を指し示す、主要パラメータは体力(ヒットポイント)、空腹感、意識、放射線汚染度の4つ。
「STALKER」では、ゲームのテーマに「サバイバル」が掲げられており、ただ敵を倒して進んでいけばよいというFPSではないのだ。時間が過ぎるとプレーヤーは空腹になり、何かを食べなければならないのだ。何も食べずに空腹感が増長すると“意識”が低くなり、視界に影響が出たり攻撃の精度が下がったりする。
基本アイテムにはガイガーカウンタがあり、防御服のレベルが低い場合には、放射能汚染度が高いエリアには侵入ができないのだ。攻撃を受けて防御服が破損すれば、もちろん汚染は進行してしまう。汚染が進行すれば体力が消耗しやすくなり、意識も低くなってしまう。
■ 倒した敵の死体をエサに別の敵をおびき寄せろ!
敵は、プログラムされた挙動をただ再生することはなく、基本的には一体一体が自律行動アルゴリズムでゲームフィールドを徘徊しているのだという。X-RAYエンジンではこれを「Life Simulation(ライフ・シミュレーション)」機能と呼んでいる。
NPCやモンスターはただ「プレーヤーを攻撃してくる」ことはなく、それぞれの目的を持ってこの汚染地域を徘徊するのだそうだ。だから、NPCがモンスターに食われているシーンに出くわすことがあるかもしれないし、自分の戦闘中に誰かが加勢してきたりすることがあるかもしれないのだという。
YAVORSKY氏に言わせると、サバイバルが基本コンセプトとなる本作では様々な意味で「流血は命取り」になるのだそうだ。というのも敵や自分が流した血はゲーム世界に一定期間残り続けるためで、これを辿って敵を追跡したり、あるいは自分が追跡を受けたりすることもあるのだ。倒した敵の死体も放っておくと、別の捕食生物が現れてこれを食らったり、逆にこれを餌に別の生物や敵をおびき寄せたりすることもできたりするという。
YAVORSKY氏は「STALKERの敵、NPC達は自分で考えて行動する。プレーヤーはMMOゲームをプレイしている感覚に陥ると思う」と語る。「単なるFPSではない」というのは、新しいFPSが発表されるたびに、使い回されるイディオムだが、「STALKER」はたしかに「HalfLife2」、「DOOM III」などとはだいぶ違ったゲームになっているようだ。
さて、古くからの映画ファンはこのゲームの名称の「STALKER」、そして禁断の地への潜入というコンセプトがロシア映画の「ストーカー」に似ていると思ったのではないだろうか。最近ハリウッドでリメイクされた「惑星ソラリス」とともにロシア出身のタルコフスキー監督の代表作として知られる「ストーカー」は'80年カンヌ国際映画祭特別賞を受賞したサイコSFスリラーだ。原作はやはり旧ソ連出身のSF作家A&Bストルガスキー。このゲームの開発元もウクライナ。こうしたロシア映画でロシアのSF観を学んでからゲーム「STALKER」に挑んではどうだろうか。
発売時期は2004年第一四半期を予定。プラットフォームは現在PCのみ。
マップの広さは最大30平方キロ。全部で18ステージが用意される | 君はこの画面から敵を見つけられるか |
(2003年8月30日)
[Reported by トライゼット西川善司]
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