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CEDEC 2003 セッション講師インタビュー
ムームー 森川幸人氏、ナムコ 赤尾容子氏

    森川幸人氏 (写真左)
      有限会社ムームー 代表
      '95年ムームー設立。同代表。主な作品として、CG制作として「アインシュタイン」、「ウゴウゴルーガ」、ゲームとして「がんばれ森川君2号」、「アストロノーカ」、「ここ掘れプッカ」

    赤尾容子氏 (写真右)
      株式会社ナムコ CT技術環境グループ
      '90年ナムコに入社。 研究部門に在籍し、人工知能をはじめとした新規技術の調査・研究等に携わる


 9月4日と5日の2日間にわたって開催される「CEDEC 2003 (CESA デベロッパーズカンファレンス)」。このカンファレンスでは、今後も日本のゲームを国内のみならず世界に向けて発信していくにあたり、最先端の技術動向だけに留まらず、「情報の共有化と開発環境の向上」を促進していくために企画、開催されるものである。

 今年5回目となる「CEDEC」ではこれまでで最も数が多い40セッションが開催されるほか、マイクロソフトのDirectX関連セッションを集めた「Meltdown」、NVIDIAの「開発の鉄人」、ソニー・コンピュータエンタテインメント「ゲーム機アーキテクチャの進化とソフトウエアの最適化」なども開催が予定されている。

 興味深いセッションが目白押しだが、今回はこのなかなか5つのセッションを行なう講師の方たちにインタビューを行ない、セッションでどのようなことが話されるのか、その一端を探ってみた。なお、セッションの申込みは8月22日までとなっている。


Q:今回、CEDECで講演を行なうことになった経緯を教えていただけますか?

森川氏:CEDECさんから依頼があったんです。私は去年も講演したのですが、今年もということで。

Q:今回の講演タイトルが「アリの知恵はゲームを救えるか?」ということで、大変面白そうなタイトルなんですが、どういった講演になる予定なのでしょうか?

森川氏:“アリの知恵”というのはいわゆる“群知能”のことなんですが、ひとつひとつの個体はすごく単純なプログラムなのに、集団としてはすごくうまく動くというのが“群知能”の基本的な原理で、それを実世界で一番上手くやっているのはハチやアリなどなんです。で、今、ゲームを作るのってすごくお金がかかったり、開発費がかかったりするので、その開発コストを下げるひとつの手法としてそういった仕組みが成り立つんじゃないかと。プログラムの作成やパラメータの調整も含めて仕事に直結する部分ですね。開発者にとってこの技術が役立つかどうかといった観点からお話しすることになると思います。

赤尾氏:前半はプログラムなどのリアルな話が多いと思うんですが、後半にいくにしたがってこの技術を使うとどうなっていく……といった話題になると思います。森川さんの今後のゲームがどうなっていくかといった話につなげられるかなと。

森川氏:ようするに開発側にしても、“群知能”を使ってこういったものが開発されましたといったような実用例がないんですよ。「こういったゲームにこういった風に使えるんじゃないか」とか、「この技術を使うとこういったゲームが作れるんじゃないですか?」といった提案をしていく事になると思います。

赤尾氏:人工知能に関する専門的な話は大学の先生が人工生命に関する講義をもたれているそうなので、私たちはもう少し現場レベルの話をしようとを考えています。CEDECさんからは基礎的なことを話して欲しいと言われているので、“群知能”の基礎からどんな風にゲームに使われていくかといった話をして、では実際にどうなっていくのだろうと話をつなげていくと思います。

 現実問題として、人工知能の中において“群知能”が一番使いやすいんですよ。ゲームにすぐにもっていける。ほかの……例えばニューラルネットワークなどはちょっと重かったり、バランスを取るのが大変だったりするのですが、群知能だったら今すぐ使えますよって感じで、今回それで選んだというのもあります。今ゲームを作っている人が、作ろうかなと思ってすぐに使えるのが群知能なんです。今回テーマとして群知能を選んだのは、そういった意味もあるんです。

森川氏:ニューラルネットワークモデルは、ひとつのモデルの中をより複雑に複雑にしていって、ひとつの脳の仕組みがより多くのことを処理できるようにしていき多機能にしていくのに対して、群知能はひとつひとつはシンプルでもいいけど、それが集団になったときに個体では起こり得ないことが起こると言うことなので、全く逆の発想で、ひとつひとつの個体の処理はすごく楽ですよね。

Q:今回のセッションで何か伝えていきたいことはありますか?

森川氏:僕は、人工知能はこれからだと思うんですよ。一番ブームだったのが'80年代だったんですが、それ以来下火で、いまでは人工知能と言ってもなにもできないんじゃないかと言われているんです。人間にとってかわると言われていた時代もあったのに、今では昆虫ぐらいの事しかできないんじゃないのと。近年コンピュータ処理が飛躍的に向上してこともあって、科学者はシミュレートモデルを色々とやってみたんだけど、実際にやってみると意外にダメで。人間のような曖昧な処理ができないといった致命的な問題もあるんですが、そういった問題を突破するアイディアがなかなか出てこなくて。今あるいくつかのモデルですらうまくいかないんです。

 そういった意味からも下火なんですけど、今ではネットワークがこれだけ繋がって個々のPCの処理能力が上がってきた今となっては、群知能として人工知能が今一度脚光を浴びるんじゃないかと思っているんです。その突破口となるのがおそらくゲームだろうと。ネットワークゲームと直結するかどうかは別にして、ゲームがインターネットと無縁でいられるのはそう長くはなくて、近いうちにくっついてしまうと思う。その時の他のマシンとの協調関係はまさに群知能の考え方なので、そこでまた新しい遊びが出てくるのではないかと思う。

Q:そうなったら新しいゲームのデザインのしかたが出てくるのでしょうか?

森川氏:変わってくると思いますね。現在の群知能って、“群知能”とは言ってはいるけど、ひとつのPCで分散処理したりしているんです。端末自体を個体として、沢山の人と協調したり競合したりしたほうが本来の群知能になるし、面白いことが起こると思う。久夛良木さんが仰っている“Cell”もまさにグループコンピューティングという点で同じなんですけど。

 あとはそこをどうエンタテインメントに結びつけていくかというのが、今はないですよね。そこのきっかけですね。

Q:現状のゲーム制作に対して、新しいゲームの作り方の一端をこのセッションの中でお話しされると言うことですね

森川氏:いわゆる一般的なゲーム……ゲームデザイナーやプログラマーが一から十まですべて組み立てた世界の中で、組み立てた通りに遊んで下さいというゲームが、このところ特に強くなってますよね。RPGにしても、自由な旅はさせない、うちが作ったエピソード通りに歩いていけ! そのかわりグラフィックやムービーを豪華にしますよと。本当にガイド付きのツアーに出ているみたいで、いっさい自由時間はないような作り方をしていて、それはゲームとしてつまらないと思っています。それに、一から十まで沢山のボリュームを手作りで人間が作るという作り方をしているため、制作者側もすごくコスト高になってしまっている。このままいくと、ビジネスとして成り立たなくなるし破綻してしまう。そういった意味で、(コンテンツ内容と制作手法の) 両面から改善していかないとダメだろうと。そのひとつとして、人工知能も利用できるのではないだろうかと考えています。

 例えば、ユーザーがルートの決まっているところを遊んでいくのではなく、ユーザーがやったことに対して道ができていき、遊び方ができていく。ユーザーがゲームとの対話の中で道筋を作っていくというのは、人工知能がわりと得意とするところで、ユーザーに新しい遊び方を提案できる。もうひとつは、開発者が一から十まですべて作らなくても、最初のきちんとしたシードと、人工知能のシステムがきちんとしていれば、あとはプレーヤーとシードとの関係で伸びていくといった作り方をすれば、少し開発が楽になる可能性がある。

 逆に、そういった曖昧な作り方でも面白いですよといったところをユーザーにも啓蒙していかなければ、どんどんボリュームがかさんでいき開発費がかかっていく、死のロードに入っていきますよと。もちろん人工知能以外にも解法はいくつでもあると思うんですが、そのひとつとして人工知能の可能性を説明したいと思うんです。

赤尾氏:現場レベルの話で言えば、ゲーム機がどんどん進化している中で、昔はできなかったような絵を出せるようになり、グラフィックはすっごく良くなってるのに、やってることは同じ。絵はどんどん良くしていくけど、それを自在に動かしていくのがまた難しい。昔はスプライトの制約などで不自由していたのに、その制約が取り払われてたくさんのオブジェクトを表示できるようになったが、その大量のオブジェクトをどうやって動かせばいいのか。それを動かすために、今は一生懸命人海戦術でやっているんですが、そうじゃなくて、たくさん作ったら、それは自立的に、勝手にやらせとけばいいじゃないかと。そうすれば人件費も削れますから。短時間で、省エネで、たくさんのものを高機能なゲーム機の上で動かすことができる。

森川氏:みんな現状がヤバイと言うことはわかっているんだけど難しいんだよね。'70年代にハリウッド映画が陥ったワナだよね。「~2」や「~3」ばかり制作されてしまうという。

赤尾氏:作り方自体を変えてはいかなければならないと思うんですが、なかなか難しい。本当は制作人数減らして、期間減らして、ユーザーがビックリするようなものが作れれば一番幸せなんですけどね。

森川氏:でも、そこしか突破口はないよね。

Q:その方法論のひとつが、人工知能であり群知能と言うことですよね。

森川氏:まさにそうですね。そこに繋がりますね

赤尾氏:私も森川さんと一緒で“人工知能”とか好きなんですが、なかなか応用できるところがなくて、せっかくだからゲームで使えればなぁと思っていたんです。で、今回できるだけ基礎から始めて、話題を広げていって、いろんな方に簡単に使えるんだよというのを感じてもらえればと思います。

ありがとうございました。

□CEDECのホームページ
http://cedec.cesa.or.jp/
□受講申込みページ
http://cedec.cesa.or.jp/regist/
□ムームーのホームページ
http://www.muumuu.com/

(2003年8月15日)

[Reported by 船津稔]


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