|
★GBAゲームレビュー★
ゲームボーイアドバンスにプラットフォームを移すことで、画面比率やサウンドに若干のアレンジが加えられているが、「MOTHER」と「MOTHER2」のどちらも再現度は高く、雰囲気も損なわれてはいない。 いまさら述べることもないと思うが、「MOTHER」と「MOTHER2」には、監修に糸井重里氏、サウンドにはムーンライダーズの鈴木慶一氏と、今では「ポケモン」でも有名な田中宏和氏といったビッグネームが制作に参加している。
「MOTHER 1+2」のキャッチコピーは、「MOTHER」のCMコピーをアレンジした「おとなもこどもも、おねーさんも、ふたたび!」。このコピーを裏付けるかのように、コンピュータエンターテインメントレーティング機構(略称CERO)のレーティング制度も全年齢対象と、世代を越えて誰もが楽しめるRPGとなっている。
■ ファミコンの名作RPG復活 …… 「MOTHER」 ここから先は「MOTHER」と「MOTHER2」にパートを分けて進めてみたい。 '88年、アメリカの田舎町マザーズデイにある主人公の家で、電気スタンドやミルク飲み人形が飛び回るラップ現象が起きる。パパに電話をかけて、ひいおじいさんが研究していた超能力(PSI)の存在を知る主人公。そしてそれは、壮大な冒険の幕明けだった。 プロローグからもわかるとおり、「MOTHER」はアメリカを舞台にした現代RPG。街にはビルが立ち並び、ファーストフードショップやデパートで買い物をしていくという我々の日常に近い世界観となっている。主人公の少年も、赤い帽子に黄色いリュックというスタイル。戦闘ではバットを奮い、オレンジジュースを飲んで体力を回復する。プレーヤーの感情移入のスムーズさを問うならば、これ以上ないほど普遍的な設定といえる。 「MOTHER 1+2」の「MOTHER」では、プレーヤーの移動に走る機能(Rボタンと方向キー同時押し)や、べんりボタン(Lボタンで「はなす」や「チェック」が行なえる)が新た実装されている。ゲームの攻略にはこの上なく重宝する新機能だが、ファミコン版の再現度の高さを求めるプレーヤーにとっては、無用の長物といえるかもしれない。
そして、物語の中で重要なウェイトを占めるのがBGMだ。従来のゲーム音楽の多くは「ゲームの主役になってはいけない」という暗黙の了解があり、あくまでも演出のひとつという位置付けにあったが、「MOTHER」ではBGM=クリアの手がかりという主役級の扱いを受けている。どの曲も、ファミコン音源であるにも関わらず耳に残る名曲ばかり。当時を知る者はノスタルジーにひたりながら、新規プレーヤーは「ファミコンでもここまで耳に残る曲ができたんだ」と感心しながら聞くといいだろう。
「MOTHER」のバトルは、オーソドックスなコマンド選択方式。モンスターとのエンカウント率は若干高めなので、フィールドやダンジョン探検では多少のストレスを感じるだろう。当時は対策として、テレポーテーション歩行など変なテクニックが流行していた。 バトル画面は、黒いバックにモンスターがいるだけで「さすがはファミコン」という感じの極めてシンプルなもの。逆に新鮮という見方はできなくもないが、次世代機のRPGを見慣れたプレーヤーたちのことを考えると、さすがに古臭さは払拭できない。 しかし、いざバトルが始まると、そこには磨き抜かれたギャグとユーモアが幾重にも仕込まれているのがわかる。メガホンで恫喝してくるおにいさん、暴走し排気ガスを撒き散らすタクシーなど、現代RPGという設定を活かした攻撃方法は実に多彩。「くまはおとなしくなった」、「おばさんはわれにかえった」などフレキシブルに変化するメッセージも、見ていて飽きがこない。
バトルに超能力(PSI)を持ち込んだのも、革新的な試みだ。効果はいわゆる西洋ファンタジーRPGで言うところの魔法と大差ないのだが、現代という時代設定にマッチングさせるには最適の方法であるといえる。もちろん、超能力を組み込んだ謎解きなども存在するので、単に魔法と同じという代物ではない。
■ 様々な限界を打ち破り世界観の拡張に成功 …… 「MOTHER2」 「MOTHER2」の舞台は199X年の地球。主人公の少年ネスが住む、緑豊かな田舎町オネットにも、大都会で発生するような事件の記事が載るようになる。そんなある日、ネスの家の裏山に巨大な隕石が落下。落下現場で、謎の生命体から「人類の運命を担う子供」であることを告げられるネス。ここから長い冒険の旅が始まる。 シリーズの特徴である、アメリカンポップな雰囲気の現代RPGという世界観は「MOTHER2」でも健在。少年少女たちが勇気を持って困難を乗り越えていく過程を、センス溢れるシナリオと、日常の延長線上にある冒険というスタイルで描いている。攻撃手段はバットやフライパン、データのセーブは電話、銀行に振り込まれるお金など「MOTHERらしさ」はしっかり継承されている。 もちろん、「MOTHER2」でもサウンドは単なる添え物ではなく、ゲームの根幹にある存在としてポジショニングされている。自然音をサンプリングして作った音色を挿入し、物悲しくも温かみのあるサウンドに仕上がっている。そんな新手法を導入しながらも、前作のリメイク曲が随所に流れるという、ファンには感慨深いサービスも満載だ。 街の人々との会話も楽しみのひとつなのだが、プレーヤーによっては受けを狙いすぎと思われかねない人名のネーミングや、会話のギャグが肌に合わない部分もあるかもしれない。また、今作では「スリーク」という街から登場するヒント屋のおじさんが、適確な攻略ヒントを授けてくれる。攻略本要らずなのはいいことなのだが、通行人から情報収集(=会話)をする必要性がなくなってしまったのが残念だ。
通行手段の乗り物が増加したことも「MOTHER2」の特徴。身近なところでは、アイテムとして持ち運びできる自転車。ボタンを押すとすぐに自転車を降りてしまう乗りづらさは、確認ダイアログを出すなどして改善してほしかった。街から街への移動はバス、さらには秘密の乗り物など、旅情を満喫できる乗り物が多数登場する。テレポーテーションを覚えて任意の場所への移動が可能になっても、たまにはバスや自転車に乗って旅を堪能してみたくなるほどだ。
次に「MOTHER2」のバトルだが、「MOTHER」から様々な変更が追加されている。まず、モンスターがフィールド上に表示されるようになり、接触することでバトルに入る仕組みに変更された。モンスターと真正面、真横からぶつかれば通常のバトルがスタート。プレーヤーがモンスターに後ろからぶつかられた場合は、モンスター側が先制攻撃といったペナルティが加えられる。、プレーヤーがモンスターの背後からタッチした場合、プレーヤーの先制攻撃になる。障害物に敵を引っ掛けてバトルを回避することもできるが、主人公たちの低速な移動速度では回避不可能なシチュエーションが大半。下手に逃げて先制攻撃を受けるよりは、腹をくくって真正面からぶつかったほうが良い。 バトル画面は、一度見ただけで記憶に焼き付くほど印象的。サイバー(サイケ?)なパターンがギラギラとスクロールするバックに、「あるくキノコ」、「ガミガミレディ」といったミョーなモンスターが鎮座しているのだ。そこにトリップを誘うBGM、SEが追い討ちをかけ、規格外のシュールさを醸し出すことに成功している。不思議な世界の視覚化を現実のものとしているのだ。モンスター、BGM、アイテムまでも奇天烈でツッコミ所が満載のバトルだが、「MOTHERだから」というだけで流せてしまえるのが、このシリーズの偉大さでもある。 戦闘中の情報オブジェクトでは、HPメーターという珍しい形式を採用している(スーパーファミコン版の「MOTHER2」では、ドラムロールという呼び方をしていたような記憶もあるが……)。このHPメーターでは、敵の攻撃によるダメージや、体力回復PSI(超能力)のライフアップによるHPの増減がすぐには適用されない。「カタカタ……(音はしないが)」とアナログ的に時間をかけて増減するのである。 引き合いに出す例が古くて恐縮だが、いわゆるクイズダービーの点数表示みたいなものだ。気絶に至るダメージを受けても、メーターが0になる前に体力回復の手段を講じれば、気絶を防ぐことができるというわけだ。リアルタイム制のバトルではないが、それに近い緊張感がHPメーターのおかげで保たれている。
レベルアップの結果、一撃で倒せるモンスターに接触した場合、バトル画面に切り替わる前に決着がつけられる。これも便利なシステムだが、強くなると「おじさん」や「おにいさん」のグラフィックが見られなくなるのは、少し寂しい感がある。
現在は量販店のゲーム売り場に「MOTHER1+2」の再販分の赤いパッケージが並んでいるが、発売日から一週間ぐらいは品薄状態が続いていた。従来の「MOTHER」ファンだけではなく、新規プレーヤーの獲得なくしてはあり得ない状況だ。名作RPGソフト2本が4,800円で購入できるのだから、コストパフォーマンスの良いタイトルといえる。 筆者はファミコン版とスーパーファミコン版をプレイしたクチで、今回の「MOTHER 1+2」は“寝かせておいた名作に再挑戦する”という感覚で楽しんでいる。小学生だった頃、友人たちと「すげー、RPGで斜め移動ができる!」と盛り上がりながらプレイしていた当時とは違い“終電の中でゲームボーイアドバンスを取り出し30分遊ぶ”というプレイスタイルに変化している。セレクトボタン+Lボタン+Rボタンを押すことで発動するスリープ機能のおかげで、僅かの時間でも楽しめるのが嬉しい。
まさに「たちばをかんがえている」状態。結論としては、小難しく考えず、ファミコン版、スーパーファミコン版の記憶の有る無しに関わらず受け入れられる良質なエンターテインメントが詰まったソフト、といった所に落ち着くのだが。
一時は開発中止がアナウンスされた「MOTHER3」も、ゲームボーイアドバンスソフトとして制作が再開された。「MOTHER 1+2」で予習をして、この長丁場に及んだ三部作の完結をじっくりと待ち焦がれたいところである。
□任天堂のホームページ (2003年7月10日) [Reported by 福田柵太郎]
また、弊誌に掲載された写真、文章の無許諾での転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2003 Impress Corporation All rights reserved. |
|