ミスター「ゲームブック」は、英ゲーム界の良き相談役
Eidos会長イアン・リビングストン氏インタビュー

3月20日収録(現地時間)

会場:Wimbledon Bridge House

 「Tomb Raider」の新作発表会が行なわれる前、我々日本プレス陣は、WimbledonにあるEidos Interactive本社にお邪魔する機会に恵まれた。同社はいまや英国を代表するゲームメーカーだが、本社は大型テナントビルの2階(日本でいう3階)の3/4ほどのスペースしか占めていなかった。もちろん、この中にCore Designを初めとする開発チームは含まれておらず、ここではおもにマーケティングや営業、ヨーロッパ各言語へのローカライズ、テスティングといったゲーム開発以外の業務が行なわれている。

 社内には女性スタッフも多く、ヘッドクォーターという感じにはほど遠い、アットホームな雰囲気が印象的だった。内部の様子や現在進行中のプロジェクトに関しては社外秘ということでここで触れることはできないが、同社の会長イアン・リビングストン氏のインタビューに成功したのでその模様をお伝えしよう。


■ ピーター・モリニューとは10日に1度ボードゲームをプレイする仲

Eidos会長イアン・リビングストン氏。手にしているのは「Fighting Fantasy」シリーズ。右手にあるのが氏の代表作「死のワナの地下迷宮(Death Trap Dungeon)」だ。
編集部 まず最初に現在、Eidosでどういう仕事をしているのか教えてください

イアン・リビングストン 役職はExective Chairman(会長)ということになっているが、実際にはゲームのコンセプト作りやアドバイスを行なっている。私は'60年代末からさまざまなゲーム作りに携わってきた。ボードゲームやゲームブックなどだが、その過程で得た経験や知識をEidos内部や開発会社に提供している。また、これまでに得たゲーム業界の人脈を活かして新しいネットワークを作っている。ピーター・モリニュー(英国を代表するゲームクリエイター)もそのひとりで、彼とは今でも数日おきにボードゲームをプレイする仲だ。

編 数日おき! それはたとえば、どういったゲームをプレイしているのでしょうか?

イ 彼らとは'86年からずっと、10日に一度に私の自宅に招いてあらゆるボードゲームをプレイしている。私がクラブの責任者として定期的にニュースペーパーを作成していて、これには現在誰がどのゲームで何位なのかが一覧でわかるようになっている。あまり真面目ではない軽いお遊びだ

編 メンバーは何人なのでしょうか

イ 6人だ。私とピーター・モリニュー、スティーブ・ジャクソン(イアン氏と並び称されるゲームブック界の第一人者)、クライブ・ロバート(「Beach Life」の開発元Deep Redのクリエイター)、それから販売会社の人間がふたり。クラブの名前は「Games Night Club」だ

編 日本では「イアン・リビングストン」というと、ゲームブック「Fighting Fantasy」シリーズの作者としてあまりにも有名ですが、新作を書くつもりはないのですか?

イ アイデアはあるが、執筆する時間がないというのが実情だ。今度、いくつかの作品をリバイバルとして復活させるが、そのあとに新作を出すかもしれない。「Fighting Fantasy」シリーズのオリジナルタイトルだ

編 ゲームブック界からコンピュータゲーム界に転身した理由というか、きっかけがあったら教えてください

イ '70年代にD&Dをヨーロッパに紹介したり、Games Workshopでゲームブックを出版したりしたが、'80年代になってコンピュータゲームが出てきた。そのインタラクティビティを素晴らしいと思った。これまでのように一方的ではなく双方向のゲームを作成できる。これならもっと私がやりたいことが実現できると考えた

編 とすると、ゲームブックの延長線上にコンピュータゲームがあったと?

イ そのとおり

編 現在、「ハリー・ポッター」や「ロード・オブ・ザ・リングス」など英国製のファンタジーが世界中で人気を集めていますが、それについてどうお考えですか?

イ イギリスは創造的な国で、ゲームや本だけでなく、広告や映画、ファッションなどあらゆる部分で、イマジネーションするということを広く世界に伝えたと考えている

編 なるほど。これは日本人にはちょっとわかりにくい部分ですが、アメリカとイギリスのファンタジーの違いについて教えてください

イ イギリスを含むヨーロッパ各地には素晴らしい神話と歴史がある。ローマ帝国、ギリシャ帝国など、そういった要素が作品に深みをもたらしているのではないだろうか。それに比べアメリカは神話がなく、歴史も浅い。あと、英国人はイマジネーションが豊富でファンタジーを作る際にも歴史の深いところから素材を持ってくる。その辺の違いだろうか

編 日本の歴史についてどう考えていますか

イ 日本の歴史にあまり詳しくないが、日本は素晴らしい歴史を持っていると思う。興味もあるが、私が好きなのは魔法とドラゴン、イリュージョン、魔術といったものなので、直接の題材にすることはないだろう

Wimbledon Bridge House内部の様子。建物の真ん中は吹き抜けになっており、常に明るい光が差し込んでいる。ちなみにEidosはフットボールのマンチェスターシティの公式スポンサーになっている


■ イアンが新たに贈る別種のファンタジーゲーム「Beach Life」

長距離バスを降りてホテルに向かう観光客一行。ホテルに荷物を置くと、めいめい好きな服に着替え、浜辺に向かって歩いていく
編 それでは引き続き現在開発に携わっているゲーム「Beach Life」について質問させてください

イ 「Beach Life」は、また違った形のファンタジーだよ(笑)

編 「Beach Life」開発のきっかけを教えてください

イ 現在、さまざまな形のゲームが存在するが、自分の中で10文字以下で説明できるような単純で本能的なゲームが作れないかと考えた。そこで、これまでにないゲームの題材としてホリデー(休日)を選択した。我々にとってホリデーとは非日常であり、それも単にくつろぐだけでなく、クレイジーになったり、まるで別人のように活動したりする。「Beach Life」はそういったホリデーをフォーカスしたゲームだ。

 経営マネジメントゲームではあるが、浜辺のバーの酒の値段を決めながらその一方で、島のリゾートに訪れる人々がそこでどういった行動を取るのか。たとえばくつろいだり、喜んだり、怒ったり、犯罪を犯したりを見て愉しむゲームにしている。

編 モデルとなったリゾート地はあるのですか

イ ない。我々が考える理想のリゾート地という架空の島を舞台にしている

編 「Beach Life」のウリとなる要素を教えてください

イ 人間として一番理想的な場所をゲーム上に再現し、シミュレーションゲームとしてプレイできるようにしたことだ。リゾートに訪れる人々は、なめらかなアニメーションで怒り、喜びといった感情を表現するんだ

編 アメリカではすでに「Tropico」、「The Sims」といった楽園シミュレーションゲームが存在しますが、これらとはどの辺が違うのでしょうか?

イ 大変残念な偶然だ。しかし、「Tropico」は政府を運営するという要素が含まれているし、「The Sims」は家の中でしか生活できない。「Beach Life」は島全体が舞台で、「Tycoon」もののように大富豪を目指してもいいし、自由な楽しみ方が用意されている。基本的には人々の生活ぶりを見るのが一番の楽しみになる。プレイ中、何度も笑ってしまうことになるはずだ

プレイスタイルは「Tropico」や「The Sims」とほとんど変わらない。建物を選んで土地をクリックすると、建物の規模に即して鉄版で囲われ、建設作業人がよたよた歩いてきて、一気に建てあげる。グラフィックは2Dだが拡大縮小は自由で、描き込みも実に緻密だ

時間はリアルタイムで経過していく。時刻に合わせて景色が変わり、人々の望むものも変わっていく。昼は泳ぎ、夕方は食事、夜は飲み明かす。二日酔いになった観光客のために薬屋を設置することも忘れてはならない

編 マルチプレイには対応しますか?

イ 対応しない。1人プレイのみだ

編 なるほど。ちょっとこれは「Beach Life」とは離れた質問になりますが、Eidos Interactiveはマルチプレイに対して消極的な印象がある。これは何か理由があるのでしょうか?

イ それはハードウェア不足が原因だ。特に英国場合、まだインフラが整っておらず、ネットワーク環境は大多数のユーザーがナローバンドの状態にある。この状態で無理にネットワークゲームをリリースしようとするとハードウェアのコストがかさむだけでなく、カスタマーサポートや課金の問題も解決しなければならない。PS2でいえば、ハードディスクのサポートやネットワークへの対応など、SCEIの都合も加味しなければならない。もちろん、将来的には世界的におもしろいネットワークゲームを提供していくつもりだ

編 それは楽しみですね。個人的には数千人が同時に潜れるオンライン版「Death Trap Dungeon」(「死のワナの地下迷宮」)を希望したいのですがいかがでしょうか。出口にたどり着けるのはやはり1人だけという(笑)

イ いいアイデアだ(笑)。1,000人ぐらい希望するユーザーがいれば開発を考えよう。ネットワーク上でみんなで一斉に競争させるのは確かにおもしろい要素だが、ゲームブックをプレイしていればわかるはずだが、クリアするためにはダンジョンの途中で友を犠牲にしなくてはならなかったりする。乗り越えるべきハードルは高そうだが、実にいいアイデアだ

編 最近プレイしておもしろいと感じたゲームはありますか

イ この間、プレイした「Acquire(アクワイア、獲得)」というボードゲームがおもしろかった。コンピュータゲームでは「Championship Maneger」(全世界の選手データを集めたEidosのサッカーシミュレータ、日本未発売)が最高だ

編 Eidos会長として日本市場についてどのように考えていますか

イ 素晴らしいゲームを開発する日本の開発者は尊敬している。日本市場は大変有望だが、日本のゲームは非常に作りが細かく、クオリティも高い。日本市場で彼らと競争するのは困難が予想される。文化の違いもある。有望だが難しい

編 なるほど。それでは「Fighting Fantasy」シリーズが日本で300万部というとてつもないベストセラーを記録したその理由は何だと考えていますか

イ いい質問だ。えっと……実は私が知りたいぐらいだ(笑)。それは冗談として、私も当時、日本市場での大ヒットはまったく予想できなかった。私が考えているのは、これまで本は常に受け身で物語を受け入れるだけのものだったが、「Fighting Fantasy」シリーズは自分が主人公になって、自分の考えたとおりに物語を展開していくことができる。そういうものが日本になかったからだと思う

編 それでは最後の質問です。これからEidosが発売するタイトルの中で、Eidos会長として一番お気に入りのタイトルを教えてください

イ もちろん「Tomb Raider」最新作だ。プレイステーションの売り上げにもっとも貢献した人気シリーズだし、プレイステーション2でも売れると確信している。プラットフォームをプレイステーション2にジャンプしたことで、グラフィックも見違えるように美しくなった。「Tomb Raider」以外にも「Time Splitter 2」(PS2版)、「Deus Ex」(PS2版)、「Hitman2」も気に入っている。

編 今挙げたゲームタイトルの中で、具体的なアドバイスを与えたものはありますか?

イ 「Tomb Raider」は、コンセプトづくりには参加していないがアイデアは良く出した。Laraの動きなどをエイドリアン・スミスに何度かアイデアを伝えた。あと「Deus Ex」も、Ion Stormのウォーレン・スペクターとよく合って話をしているよ。

編 ありがとうございました

会長室にはコンピュータゲームを始め、ボードゲームやゲームブック、フィギュアなどが所狭しと飾られていた

□Eidos Interactiveのホームページ
http://www.eidosinteractive.co.uk/
□関連情報
【2001年10月26日】Eidos、リゾート経営SLG「Beach Life」を来夏に発売
原案はEidos会長のイアン・リビングストン
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20011026/beach.htm

(2002年3月23日)

[Reported by 中村聖司]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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