Bruce Shelley氏インタビュー
神話世界を舞台にした「AGE OF MYTHLOGY」はどうなるのか?

3月1日 収録(現地時間)



 「AGE OF EMPIRES」のゲームデザイナとして知られ、現在は「AGE OF MYTHLOGY」を開発中のBruce Shelley氏に個別インタビューを行なった。


「AGE OF MYTHLOGY」はなぜ神話の世界でなければならなかったのか

編集部:「AGE OF MYTHLOGY(以下AOM)」ではなぜ神話の世界を採用したのか。なぜファンタジーの世界ではだめだったのか

Bruce Shelley(BS):まず、AGEシリーズで歴史的世界観をずっとやってきた経緯があり、我々はどうしても別のものもやってみたいという願望がでてきた。その際、なぜ中世ファンタジーやSF的世界観にしなかったかというと、やはり我々としては実際に人類の歴史に関係の深いものにしようと結論が出たためだ。

編集部:関係が深いとはどういう意味か?

BS:神話というものは、2000年前は本当のこととして信じられていた。そして今でも我々の文化や文明に大きく影響を与えているのは周知の事実だ。そしてもうひとつ。我々のAGEシリーズのファンに対しての配慮もある。あまりにも突拍子もない変革はファンが喜ばないことを私は知っている。

編集部:「AGE OF EMPIRES(以下AOE)シリーズのリードデザイナRick Goodman氏が手がけた「EMPIRE EARTH(以下EE)」こそが正当な続編だ」というようなことを言うユーザーもいるようだが、これについてはどう考えるか

BS:たしかにRickはオリジナルAOEのリードデザイナだ。彼は自分のやりたいことをEEで実現させたことは称賛に値するだろう。彼のEEと我々のAOMとで決定的に違うのは描こうとしている時代の範囲だ。

編集部:EEは人類の歴史を未来まで描いている

BS:そう。これに対してAOMは古代という、いうなればAOEと同じ狭い範囲の時代を取り扱っているという共通項がある。

編集部:その意味でAOMはAGEシリーズのうちのひとつであることは間違いないと?

BS:そういうことができるだろう。また、ゲームそのものの対象ユーザー層について、EEはよりハードコアRTSファン向けにデザインされている感が強い。一方、AOMはAOE同様に子供や老人といったカジュアルゲーマーにも楽しめるデザインになっている。

編集部:去年のE3で見せてもらったバージョンではヒーローユニット(英雄ユニット:強力なユニークユニット)がゴッドパワー(ミラクル、天変地異)を使っていたが、今回IGFで公開されたバージョンでは少々ルールが異なっていたように思えたが……?

BS:その通り。これはゲームモデルを再び考え直したからだ。現在のバージョンではゴッドパワーとヒーローユニットの存在は無関係となった。

編集部:それではヒーローユニットの存在意義とは?

BS:AOMには、メデューサやサイクロプスといった神話上の魔獣が強力なユニットとして活躍する。ヒーローユニットはこれに対するカウンターユニット(対魔獣ユニット)として設定した。

編集部:それではゴッドパワーは誰が使えるのか?

BS:神であるプレーヤーだ。繰り返しいうがヒーローユニットとは関係ない。ゴッドパワーを使いたい対象をマウスでクリックすれば使える。しかし、何度も使えるわけではなく、一度使ったゴッドパワーは二度と使えない。またゴッドパワーはゲーム開始時には一個しか使えない。時代を進化させると一個ずつ追加され、最終的には4個になる。

編集部:マップをクリックすればどこでも使えると言うことは射程距離的な概念はないということか

BS:自軍ユニットが見えていないとだめだ。同盟を組んでいる場合には同盟軍のユニットでもOKだ。

編集部:AOMの文化と神の関係がよくわからないのだが

BS:この部分も実は最終決定がなされていないが、文化としてギリシャ、エジプト、ノース(北欧)の3つが確定している。それぞれの文化には3つの神がいて、プレーヤーは文明を選ぶというよりは神を選ぶという感じになる。3文化×3神ということでAOEで言うところの文明としては9つあるというイメージになるだろうか。

編集部:神の名前について教えてほしい

BS:ギリシャはZeus、Poseidon、Hadesの3つ。エジプトはIsis、Seti、Raの3つ。ノースはOdin、Loki、Thorの3つだ。余談だが水曜日のWednesdayはDay of Odinから、木曜日のThursdayはDay of Thorから来ている。現在の曜日名はアングロサクソン系の神話からきているわけだ。

編集部:我々アジア圏の人間からするとアジア神話がAOMに出てこないのが残念なのだが(笑)

BS:我々は文化の選定に際してはかなりの研究を行なった。これは非常に苦労した部分でもある。ゲームにどうしても採用できないのはそのまま現在の宗教となってしまっている神話だ。インドをはじめとしてアジア神話にはそのタイプが多い。AOMは宗教戦争のゲームではないから(笑)、宗教問題に発展しそうなものは避けなければならなかったのだ。

編集部:AOMは非常にAOEライクな画面デザインになっているがプレイ感覚はAOEに近いといってよいか?

BS:その通り。AOEシリーズのファンならば、マニュアルを読まずにプレイすることもできるだろう。初心者でもチュートリアル編を15分程度もプレイすれば、操作系については全体像がつかめてしまうはずだ。


AOMはなぜ3Dベースで開発されたのか

「AOMの発売を今から心待ちにしていてほしい。期待に添えるものになっているはずだ」とBruce Shelley氏
編集部:AOMは3Dエンジンベースで作られている。これによってなにか新しいゲーム性というものが生まれたか

BS:3Dエンジンベースで開発しようとしたのは、やはり、よりリアリティの高い、そして臨場感のあるゲーム世界を表現したかったからだ。  また副次的な効果としてシングルプレーヤーのキャンペーンモード等においては演出やイベントシーンをシームレスに見せることができるようになり、プレーヤーをよりゲーム世界に引きむことができるようになったと思う。

編集部:ゲーム性というよりは表現力の強化手段として3D化したと言うことか

BS:どちらかといえばそういうことになるだろう。AOMでは空を飛ぶユニットや水中ユニット、水上ユニット等が多数登場するが、こうしたユニットの立体的な動きは2Dベースでやるとやはり嘘っぽくなる。またAOMでは稲妻、竜巻、雨、隕石落下、火山噴火などの各種天変地異が巻き起こるわけだが、こうしたエフェクトを効果的に見せるのにも3Dエンジンは一役買っている。

編集部:地形の高低差で有利不利が現れたり……というような3D的な戦術についての作り込みはないのか

BS:ふむ。実はそれについては我々は結論を出せないでいる。丘の上から麓の敵へ弓矢を射るとよく当たるとか、そういったことはやるかもしれない。しかし、「ダメージは正面からよりも背後からの方が大きい」というような、そこまで細かな戦術ルールは設定しないだろう。格闘ゲームとは違い、大量のユニット同士が入り乱れて戦うようなRTSでは、そこまで細かく設定してもあまり意味がないと思われるからだ。

編集部:3DエンジンはDirectXのどのバージョンをベースにして作られているのか?

BS:DirectX 8だ。エンジン名は社内的に“BANGエンジン”と呼んでいる。

編集部:どういう意味が込められているのか

BS:BigAss New Gameの略だ(笑)。
(※Bigassとは「とてつもない」の意がある)

編集部:ユニークな名前だ

BS:BANGという単語自体はありきたりで、すでに商標が取られているはずなので社内でしか呼んでない。Bigassの部分はBadassの意味もこめられている(笑)
(※Badassは「強力な」の意がある)

編集部:ゴッドパワーはとても派手だがどんなテクノロジーが使われているのか

BS:私はゲームデザイナなので、あまりテクノロジー関連に携わっていないから……。しかし、我々の3Dエンジン担当者はかなりのハイテク好きなのでいろいろやっていたと思う(笑)。たしか竜巻の表現にはパーティクルシステムを使っていると聞いた。

編集部:EEも3Dエンジンを使ったゲームだったが解像度を変えても描画範囲が変わらないという欠点(?)があった。AOMはどうか

BS:ふむ。EEがそういうシステムだとは意外だ。AOMの方がその点は優れているようだ。AOMでは解像度を変えればより広い範囲が見えるようなシステムにしている。プレーヤーが一番遊びやすいと思う設定にできるよう自由度を設けてあるのだ。

編集部:EEは視点の回転も行なえない

BS:それも意外だ。AOMでは視点回転はせずともプレイできるようにはしているが、やはりプレーヤーがプレイしたいようにプレイできるようにという見地から視点回転はできるようにしてある。AOMではライティングについても自由度を設けてある。ゲーム中、夜が来て暗くなる演出があるが、プレイしにくいようであればこれをカットすることもできる。我々はできる範囲でプレーヤーにオプションは提供していく方針をとっている。


「AGE OF MYTHOLOGY」と「AGE OF EMPIRES III」は別のゲーム?

編集部:話は変わるが、コナミが「AGE OF EMPIRES II」をプレイステーション 2に移植したが、この流れで「AGE OF MYTHOLOGY」が他のプラットフォームに移植される可能性はあるのか。たとえばXboxとか。

BS:Microsoftの指示でそういう展開もあるかもしれない。しかし現在の我々にAOMの移植版を作成するなんていう、時間的余裕はまったくない(笑)。

編集部:MicrosoftがEnsamble Studiosを買収してから約1年が経つが、なにか彼らの指示のもとに動いているプロジェクトはあるか

BS:ない。基本的に我々がやりたいことを自由にやらせてくれている。他にもMicrosoftの資本が入ったゲームスタジオはかなり多いが、それぞれがユニークなものを作れるようにと、あまり口出しはしてこない方針のようだ。

編集部:AOMが制作中なのにこんなことを言うのは気が引けるのだが、「AGE OF EMPIRES III」は出てこないのか

BS:いい質問だ(笑)。我々はAOEシリーズが強力なブランドであることは十分に理解しているし、市場から期待されていることを忘れてはいない。これはいつかやる可能性があるが、具体的にいつとか言うことは決まってはいない。AOMの次かもしれないし、場合によってはもっと後かもしれない。

編集部:ストラテジーゲーム以外にも作りたいゲームはある?

BS:ストラテジーゲームばかりに携わっていることについては不満はないが(笑)、パズルゲームが好きといえば好きだ。たとえば「COMMANDOS」シリーズや「DESPERADO」といったタイトルは私もプレイした。

編集部:あなたのゲーム開発においてもっとも時間を割いているのはどのプロセスか

BS:プロトタイプの作成ということになる。そのあとはバランス調整などだ。

編集部:World Cyber Games(WCG)のようなゲームオリンピックについてどう思うか?

BS:実は講演を頼まれたこともある(笑)。コンピュータゲームを広く人々に認知させるという意味において非常に意義のあることだとは思う。また、世界中のコンピュータゲームプレーヤー同士の交流を深めるという意味においても価値はあると思う。もっとも今のオリンピックみたいに商業的イベントみたいになってしまったらちょっといやだが(笑)。

編集部:AOEが競技種目として選ばれたことについては?

BS:誇りに思っている。高いゲーム性を評価されたと言うことになるわけだし、世界中に認知されているという証になるわけだから。

編集部:AOMが将来の競技種目として選ばれることを望む?

BS:もちろんだ。もっともAOMは今年9月の発売でWCGは12月だから、今年のWCGで選ばれる可能性は低いだろう。将来的にそうなるくらいの完成度の高いゲームになるよう、がんばって開発を続けるつもりだ。

編集部:プレーヤーにどんなプレイスタイルを望むか

BS:プレーヤーに依存するだろう。好きにプレイしてもらえればそれでいい。というか、カジュアルゲーマーからハードコアゲーマーまでが楽しめる幅広いプレイアビリティを実現しているつもりだし、理想的なプレイスタイルというものはないといってもいいだろう。プレーヤー側の研究が進めばスタンダードな戦術が開発される可能性は否定しないが。

編集部:そうだ(笑)。今回IGFで初公開された「RISE OF NATION(以下RON)」についてはどう思う?

BS:あれは素晴らしいゲームだと思う。ビジュアルの印象はかなりAOEに影響を受けているが、国境や交易の要素など、ゲームデザイナであるBrian Reynolds氏ならではのアイディアが満載されていて、それこそAOMともEEとも違う切り口のRTSになっているし。

編集部:というとAOEシリーズとはなんの関係もない?

BS:直接の関係はない。あえて共通点をあげるとしたら彼らの会社、Big Huge GamesもMicrosoftの資本が入っていると言うことくらいかな(笑)

編集部:日本のゲームファンに一言

BS:AOMは過去のAGEシリーズのファンであれば非常に快適かつ楽しくプレイできるはずだ。そして新しい要素についても感激してもらえることを確信している。

(2002年3月2日)

[Reported by トライゼット 西川善司]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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