「あつまれ どうぶつの森」レビュー・ソロプレイ編
あつまれ どうぶつの森
深すぎる懐と驚愕の作り込み! 島生活にハマるべくしてハマるこだわりの“分厚さ”
- ジャンル:
- コミュニケーション
- 発売元:
- 任天堂
- 開発元:
- 任天堂
- プラットフォーム:
- Nintendo Switch
- 価格:
- 5,980円(税別)
- 発売日:
- 2020年3月20日
2020年3月19日 00:00
Nintendo Switch「あつまれ どうぶつの森」が今までの「どうぶつの森(以下、ぶつ森)」と違うのは、すべてたぬきちの管理下でゲームが進むという点である。
今作「あつまれ どうぶつの森」は何もない無人島での暮らしを気ままに楽しむスローライフゲーム。かつていちタヌキ商店の店主だったたぬきちは不動産業「たぬきハウジング」創業を経て、今作では「たぬき開発」といういち企業の社長として登場する。“不便さを楽しむ無人島への移住プラン”という殺し文句を武器にパッケージを販売し、無人島の生活では住民たちに「住みやすい環境」を提供する(結局、住民自身に整えさせているが)。
移住後のサポート、家の改築などはたぬきちがやってくれるが、もちろん費用は住民持ち。住みやすくなった島にさらなる移住者が現われれば、開発は加速度的に進んでいく……。行き着く先は、きっと高級リゾート化。どう考えても、島の開発が進むほどたぬきちの懐が潤う恐ろしいビジネスモデルであるが、そのプロデュース力をまざまざと見せつけられるのが「あつまれ どうぶつの森」である。
やや早口でたぬきちの所業について語ってしまったが、さらに恐ろしいのは無人島生活が「居心地良すぎ」という点である。たぬきちはいつも笑顔で接してくれるし、まめきちとつぶきちが拙いながらも一生懸命に接客してくれる(かわいい! ずるい!)のでついつい気を許してしまう。周りの住民も、挨拶すれば絶対に返事をしてくれるし、ときにプレゼントをくれるいい人たちばかり。つまるところ、こんなに素晴らしい生活を提供してくれるたぬきち社長には感謝しかないのです(ニコニコ)。
今作ではプレイエリアの範囲が広がり、さらに地形には段差もできた。ここに特定の行動で溜まる「マイル」システム、素材から家具などを作り出す「DIY」などが加わり、プレイの幅をグッと広げている。
中でも最も驚くべきは、小物類の細かい作り込みである。家具や小物アイテムはただ用意されているのではなく、木材なら木材、金属なら金属、機械なら細かい配線などが精緻な質感をもって再現されている。その質感はビジュアルから手触りが伝わってくるようであり、どれもじっくり眺めてしまうような魅力がある。
たぬきちの思惑通りと心のどこかで感じながらも、むしろ積極的に無人島開発を進めてしまう……。本稿では、特にソロプレイにフォーカスし、そうした「あつまれ どうぶつの森」の魅力をもう少し具体的に見ていきたいと思う。なおマルチプレイについては別記事で手触りをご紹介しているので、そちらもご覧いただきたい。
新システム「DIY」と「たぬきマイレージ」がモチベーションを持続
「あつまれ どうぶつの森」を改めて紹介すると、本作は無人島生活をほぼゼロから始める生活シミュレーションである。到着した無人島は、木と雑草が生い茂る本当に何もない場所。プレーヤーは無人島移住プランに応募し、無人島にやってきた住民のひとりとなる。
無人島の好きな場所にテントの位置を決めれば、いよいよ無人島生活がスタートする。……たぬきちから渡される多額の請求書とともに。
木になっている果物、浜辺に落ちている貝がら、またサカナつりやムシとりなどで生き物やアイテムを集めれば、それらを売ってお金(通貨名はベル)に変えられる。借金を返すため、様々なアクティビティで資金を集めていく、というのはこれまでのシリーズと同じ要素だ。
その上で、今作ならではのシステムのひとつが「DIY」である。DIYは、特定の材料を使って別のものを作り出す要素。たとえば、木を揺すって落ちてくる「きのえだ」を5つ使えば、「ショボいつりざお」が完成する、といった感じ。
DIYを使用するには「レシピ」を覚える必要があり、これは自然に思いついたり商店で購入するなどして徐々にバリエーションが増えていく。DIYで作れるものと買い物できるアイテムはまた別なので、自分好みのアイテムは買い物とDIYの両軸で揃えていくことになる。
また先につりざおと書いたが、「ぶつ森」では欠かせないつりざおやあみ、スコップ、ジョウロなどはすべてDIYで作成できる。その一方で、これらの実用系アイテムはある程度使うと壊れる消耗品となってもいる。
つまりDIYは、プレーヤーの好きな家具を作ると同時に、サバイバルゲームに見られるようなクラフト要素も兼ねているわけだ。最初は「ショボい○○」しか作れないが、たとえば「ショボいつりざお」と「てっこうせき」を合わせれば「つりざお」が完成する。「ショボいつりざお」はすぐ壊れるので心許ないが、「つりざお」になると耐久性が一気に上がる。外で行動する時は、道具が壊れることを想定した活動やアイテム管理が大切になるという、プチサバイバルが繰り広げられる。
またプレイ中のモチベーション維持に大きく役立っているのが、「たぬきマイレージ」だ。これは釣りの成功数や草むしりの回数など、ゲーム中に取ったあらゆる行動がカウントされて、達成した数などに応じて「マイル」がもらえるシステム。「マイル」は最初の借金返済に充当できるほか、マイルの交換でDIYレシピやファッションアイテムなどが入手できる。
マイルは、指定のプレイを繰り返すことでコツコツ溜められる。また「揺すった木からベルが落ちてきた」などハプニング的な出来事と遭遇しても溜まる。ゲームを進めると「たぬきマイレージ」は「木を1本伐採する」、「写真を1枚撮る」など短期的でハードル低めの目標が延々登場し続ける「たぬきマイレージ+」へとアップデートする。
「とりあえずやること」が常に目の前にできるし、個人的にはマイル交換で「たぬき開発」グッズが手に入るのも熱い。アロハシャツやキャップ、スリッパ、リュック、そして壁紙や床など、自分の暮らしを「たぬき開発」色で染められる。単純にかわいいし、事業に(いつの間にか)加担したなら、身も心もたぬきちに染まってみせるプレイも悪くないと思うからである。
すべて自分で進める無人島の発展が楽しい!
ゲームは、たぬきちの話に沿っていくなら最初はプレーヤーの住居のアップグレードと島の発展を同時に進めることになる。住まいはテントから始まり家、居住空間を広げた家と改築が可能で、その度にたぬきちに返済するローンが組まれていく。まあ、借金はいつものことなのでいいとして(感覚の麻痺)、今作ではこれから新たにやってくる住民の家の場所を決め、内装と外装用の家具をDIYで揃えることも必要となる。
他の住民の家の場所を決められる、というのは意外に大きな要素で、前作で見られた「ある日突然、せっかく作り込んだ場所を潰す形で家の予定地が決められた」という事態がなくなることを意味する。自分自身で理想の無人島を作るというコンセプトにも合っているし、一石二鳥の措置だろう。
プレイの序盤は、多くの人が「ざっそう」むしりから始めることと思う。土地にはびっしりと雑草が生えていて、ひとつひとつ雑草をポケットにしまうだけでも相当苦労する。雑草は99個までひとつのアイテムとして扱われるが、そんなもんじゃ到底足りない量である。雑草はひとつ10ベルで売れるので、最初期の貴重な資金源にもなる。
また、施設も徐々にできてくる。最初はたぬきちがいる「案内所」だけだったものが、捕まえたムシやサカナをたぬきちに渡しているうちにフータがやってきて、博物館をオープンすることになる。一方でまめきち、つぶきちはおなじみの「タヌキ商店」を開店し、島はだんだんと社会性を帯びてくる。特に博物館は、これまでのシリーズ史上最高に力が入っている。詳しくは別記事でお届けするので、ぜひそちらもご覧いただきたい。
序盤でとても印象的なのは、「最初は川を越えて向こう側のエリアへはいけない」点。今作ではどのマップに決めても、川で囲まれた内側のエリアからゲームが始まる。つまり、見えているのに行けないエリアが誰の島にもある。これが開拓意欲をさらにそそる。
本作には「たかとびぼう」という、川を棒でピョーンと飛び越えられる道具があるのだが、これをDIYできるようになるまでは、いくら川の向こうに珍しいチョウが飛んでいようと木に果物がなっていようと、誰かが歩いていようと手を出すことができない。
ああ、はやくゲームを進めたい! と間違いなく思うだろうし、その分「たかとびぼう」や段差を登り降りできる「はしご」を作れたとき、これらの道具を使うことが楽しくて仕方ない。
「本当に何もない島で、借金を返すためにいろいろやらなきゃ」という感覚から、「こういう環境を整えたいな」と、マズローの欲求5段階説を徐々に上っている自分に気づく。操作すべき要素は前作よりも増えているが、誘導が丁寧なのでどんどんと「ぶつ森」の世界に入り込んでしまう。
そうして視点が家具や服装、小物に移っていくと……その作り込みにもっとハマっていくのである。
ハムスターが回る! 家具の細かい作り込みに驚愕
筆者がまずびっくりしたのは、家具アイテムの「ハムスターのかご」を見たとき。いわゆるハムスター飼育用のかごなのだが、中でハムスターが回し車の中を常にカラカラ回っているのである。今作では、家具や小物がこれまでのシリーズ以上に細かくアニメーションする。こうした演出が、プレイ体験の質を向上させていると感じるのだ。
家具のアニメでもうひとつ筆者が気に入っているのは「くんせいマシン」。大人一人分ぐらいはある大型の燻製器だが、正面からアクションをすると、蓋がパカッと開いて中から煙がモクモクッと上がる。煙がだんだんと消えると、中に燻製されたソーセージやチーズが入っている、というもの。実際にやったら歓声が上がりそうなシズル感だ。
それぞれたったひとつのアイテムに過ぎないが、小さなオブジェクトの中にストーリー性が詰め込まれているところがいい。プレイしてすぐに入手したアイテムでこんな感じなので、プレイを深めればもっとニクい演出に出会えることだろう。「あつ森」は、この“尋常じゃないこだわり”の層がとても分厚い。
すでに公式映像などでも紹介されている通り、家具や小物の設置はインドアでもアウトドアでもOK。家を飾り付けたり、キャンプ風に楽しんだりとあらゆるものがあらゆるシチュエーションで使える。実際の家具屋の展示風景ではないが、かっちりとテーマを決めて設置アイテムを揃えるほど、“映える”風景が作られるようなイメージである。
下記に家具イメージの参考画像を掲載しているが、まさに「精緻」という言葉がぴったりである。かわいらしくもリアリティがあり、しかもバリエーションの底が知れない。やればやるほど、深淵に触れるようなタイプのゲームなのではないだろうか。
島の改造が「あつ森」の可能性を無限大に
そして、「あつ森」がさらにさらに恐ろしいのは、島の構造そのものを変えられる要素があることだ。今回のプレイ範囲では残念ながら触れられなかったが、島の構造的な制限を地形ごと改善できるシステムである。
島を改造できるようになれば、川の形を変えたり、段差に階段を作ったりとまさに自由自在。「たかとびぼう」も「はしご」も、最初こそ嬉しくて使っていたものの、いちいち取り出すのが段々と面倒になっていくなぁとは感じていたところ。島が改造できるようになったあとこそ、本格的な「自分だけの無人島づくり」がスタートするのではないかと思う。
ひとつ予感としてあるのは、島の構造変化要素で様々な“作品”が生み出されるだろうこと。たとえば「ゼルダの伝説 夢をみる島」のコホリント島を再現してみるなど、可能性は無限大に広がっていると思う。
筆者はこの要素を初めて目にした時、任天堂 代表取締役フェローの宮本茂氏によるCEDEC 2018の講演を思い出していた。宮本氏は講演の中で、ブロック3Dビルダーについて実験したがうまくまとまらず、その分「『Minecraft』の成功は驚くと同時に悔しかった」と話していた。この話を踏まえると、今作の島の改造要素は本作のすべてではないが、ある意味でブロック3Dビルダーにもつながり、「Minecraft」をはじめとしたサンドボックスゲームへの任天堂からの回答のような気がしてならない。
無人島では博物館コンプリートに根を詰めてもいいし、社会性を帯びていく街をさらに心地よくしていってもいい。インテリアを充実させて友人とそれぞれの島を見せあってもいいし、島の改造をマルチで極めて誰かを驚かせてもいいだろう。
あるいは、たぬきちの本心をまったく気にしない子どもたちなどは、無邪気に釣りをしたりムシを捕まえたりといった生活を、のんびり楽しめることと思う。つまり、「島での生活」という最低限の共通点を持たせつつ、どこに喜びを見出すかであらゆるプレイが許されるのが「あつ森」ではないだろうか。その許容範囲が、それこそ全年齢に及ぶ。本当に、懐の深いタイトルが出てしまったなと思う。
©2020 Nintendo