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CEDEC 2020いよいよ開幕! 口火を切ったセッションは「ポストコロナ社会とVRとゲーム」

VRは「モノ」から「サービス」の体感へ

【CEDEC 2020】

開催期間:9月2日~4日

 9月2日、コンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス「CEDEC 2020」が開幕した。

 CEDECはゲームを中心とするコンピュータエンターテインメントの開発やビジネス、関連する技術や機器の研究開発などに携わる人々の技術力向上と知識や情報の交流を促進するために行なわれる催し。2020年は新型コロナウイルス感染症の影響を考慮し、オンラインでの開催となる。

 3日間に渡って行なわれるCEDEC 2020の口火を切ったのは、東京大学先端科学技術研究センター 東京大学名誉教授 サービスVRプロジェクトリーダー廣瀬 通孝氏によるセッション「ポストコロナ社会とVRとゲーム」。セッションではVRの歴史を紐解きつつ、関連する技術や発明などが次々と紹介された。

【CEDEC 2020 セッション中継【9/2(水) 第1会場】】
CEDEC 2020開催の挨拶を行なったCEDEC運営委員 委員長のヘキサドライブ取締役齊藤 康幸氏
セッションを行なった東京大学先端科学技術研究センター 東京大学名誉教授 サービスVRプロジェクトリーダー廣瀬 通孝氏
そもそもVRとは、というところから、技術や機材の発展、実用例なども紹介された

 基礎研究の一例としてはマウスを操作中にカーソルが止まると、物理的な装置は無いにも関わらず”重さを感じて”思わず力が入ってしまうという「疑似触覚」や、VR上で「食品を食べる」という疑似体験をするときに、食品のサイズが大きいほど早く”満腹感”を得られる「拡張満腹感」といった実験結果により、仮想現実故に本来は知覚し得ないはずの環境下でも人間の五感に訴えることができる、という非常に興味深い研究結果なども紹介された。

急にマウスカーソルが止まるとカーソルにたいして本来は存在しない”重さ”を感じるという「疑似触覚」
食べ物のサイズによって、得られる満足度が変化するという「拡張満腹感」
VRによって教師と学習者の動きをシンクロさせ、学習者に身体スキルを身に着けさせる、という「融合身体VR」。VR上での動作の反映比率を調整することで、学習者に上手くできたときのイメージや成功体験を身に着けさることができる

 また、廣瀬氏はVRの持つ職業訓練への可能性についても示唆しており、例えば航空会社向けのフライトシミュレーターなどは既に実用化されているが、セッションでは航空会社の窓口で係員に詰め寄る役割を演じるAI技術を駆使したアバター「井上さん」の怒りを鎮める訓練の模様なども紹介。平成のVRを「製造業のVR」、令和のVRを「製造業のVR」として、「物」相手のシミュレーションではなく、「人」を相手にしたシミュレーションに耐えうるVR技術の重要性についても言及した。

既に実用化された仮想現実による職業訓練の例として上げられたフライトシミュレーター
顧客に対して適切な対応をするとアンガーレベルが下がる、という窓口業務のトレーニングの例として紹介されたAI井上さん。最初はアンガーレベルが高く怒り散らしているが、謝罪と適切なフォローをすることで態度が軟化する

 廣瀬氏はポストコロナの時代を「カプセル化された個人を基本とする自立強調型社会」として、「時間と空間を超えられる技術」であるVRは、実際の行動を代替しうるものと語った。ただし、現在のVRは必要な機材や設備的な面でまだまだ敷居が高く、個人の自宅に当たり前にあるものには慣れていない現状があり、「Zoom」や「Teams」などのWebアプリを例に挙げつつブラウザのみで使える「オンラインVR」など、普及には手軽で誰でも使えるような進化が必要だとした。

 また、”白黒画面に実は犬がいる”という画像を例に、「一度見えてしまったものをもう一度見えなくすることはできない」と語り、「在宅勤務がこんなに楽しいものだということに気づいてしまった人たちが社会に出てくるということは、技術をやっている人間からすると新しい方向への進化が期待できる」として、今後のVRの発展に対しての期待を覗かせた。

犬が一度見えてしまったら、もうなかったことにはできない。在宅が当たり前になり、その良さが”見えてしまった”今、それを当たり前とする人たちがVRに新たな発展をもたらしてくれるのではないかと廣瀬氏は語る