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なんと新卒3年後離職率は2年連続0%! Cygamesは若手エンジニアをどうやって育成しているのか?

若手のハードスキル・ソフトスキルを伸ばす育成専門チームの取り組み

9月3日 開催

 「グランブルーファンタジー」や「シャドウバース」、「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」などなど、数々の人気作を抱えるCygames。主なプラットフォームはスマートフォンだが、端末の性能向上やユーザーニーズの多様化によってゲームの内容は日々複雑化している。

 開発期間は長くなり、運用スタッフも増加。開発プロジェクトそのものがどんどん大規模化しているが、そこで問題となるのが「新卒エンジニアのような若手は大規模プロジェクトで即活躍できるか?」という問題だ。

 大規模プロジェクトになるほど、技術だけでなく働き方、コミュニケーション能力などで高いレベルを求められることになる。となれば当然、ついていけない若手がいてもおかしくはないのだが、Cygamesでは2016年と2017年入社のエンジニアに関して、新卒3年後離職率は0%だったそうだ。

 なぜこの数値が達成できたのか。CEDEC 2020において、Cygames技術研修・育成チーム サブマネージャーの藤井崇渡氏より、これまで行なってきた取り組みが話されていった。

0%という驚異的な数字

若手は入社前から育成期間を設ける!

 Cygamesでは、若手育成のために技術研修・育成の専門チームを立ち上げている。このチームでは技術力や専門知識を「ハードスキル」、働き方やコミュニケーション能力を「ソフトスキル」と定義し、この両面におけるスキル育成を目的としている。

高レベルの仕事を求められるが、若手にはどうしてもハードルが高い

 問題はこうした育成が、入社後の現場配属前の研修で終えられるかどうか。答えは「ノー」で、もっと早くから育成を始めないと間に合わないとした。

 さらに育成を促し、大きく成長してもらうには失敗と成功を繰り返す場と機会が大切となるが、運営中のプロジェクトでは失敗=ユーザーへの影響となるため、経験の浅い若手は難易度が低い仕事をアサインされやすく急成長はなかなか見込めない。

 そこで育成チームは、新卒内定者に「内定者アルバイト」という形でロールプレイ期間を設け、そのまま入社して配属が決まるまで育成チームのもとで学ぶ機会を作っている。

学生期間のうちからハードスキル、ソフトスキルをしっかり高めていく

人に合わせて課題を調整するハードスキル育成

 では、実際にはどのような現場づくりをしているのか。まず「ハードスキル」面では、技術課題を通じた個別指導を行なっている。ポイントは、その人の持つスキルセットによって難易度やテーマを調整すること。たとえば同じ「Unityでゲーム制作する」という課題であっても、人によって設計重視だったり実装重視だったりを変えるわけだ。

 課題のレビューでは、単にコードの問題点を指摘するだけでなく、あらかじめ若手に設計や実装の意図をヒアリングしておく。こうすることで、方針や考え方では対処できない問題点を伝えられて、指摘に対して若手が納得感を得やすいそうだ。

頭ごなしではなく「納得感」がポイント

 さらに技術課題の題材としているのは、Cygamesが実際にリリース、運用していた「LINE ペーパーダッシュワールド」。仕様追加や不具合の調査と修正など、実際の業務をロールプレイしていく。より業務に直結した課題に取り組むことで、実際の業務のイメージや運用プロジェクトの規模感に触れられる。

 課題の中では様々なテーマを扱い、各人の興味のない分野や苦手な分野にあえて取り組んでもらうことがポイント。技術や知識の引き出しを増やし、結果としてエンジニアとして大きく成長できるからだとした。

「LINE ペーパーダッシュワールド」を用いて、リアリティのある課題設定を意識いるところが興味深い

日々の小さな積み重ねでソフトスキルを向上

 「ソフトスキル」面では、開発現場でしか意識しにくいソフトスキルをテーマに討論する時間を設けている。

 若手の中にはそもそもソフトスキルの概念を知らなかったり、知っていたとしても重要性を理解していなかったりする場合もある。そこで若手同士で討論することにより、現場配属前からソフトスキルを意識できる。

 なお討論テーマについては、Cygamesが新人スタッフ向けに作成したマンガ「シゴトのアタリマエ」や、社内に貼り出されているCygamesスタッフ向け行動規範「THE PROJECT」が使用されている。「シゴトのアタリマエ」では「新人の悩みあるある」が盛り込まれ、「THE PROJECT」は現場での実体験が活かされているので、リアリティをもって若手にポイントを伝えられるとした。

討論することでソフトスキルについて意識を向ける

 とはいえソフトスキルは、意識したからといってすぐに行動、改善できるわけではない。そのためには日頃の技術課題への取り組みの中で、定期的に個別指導を行なう必要がある。ポイントは、改善点があればその場で理由も含めて指摘し、本人に納得感を持ってもらうこと。

 たとえば寝坊による遅刻が続くようであれば「決められた時間に仕事が始められないと、責任のある仕事が回されにくくなるよ」などと本人が解決すべき理由も合わせる。改善の糸口は、その場で確実に掴んでもらうことが大切だとした。

 一方で、「仕事をひとりで抱え込みすぎる」などその場で指摘できにくいタイプのソフトスキル改善点もある。これは短い期間で実施する個別面談を設けて、ここでフォローしていく。長所も短所も含め、自分で気づいていない部分を自覚してもらうことで、成長と改善を促していく。

改善点はその場で指摘し、成長を促す。ここでも「納得感」がキーとなっている

驚異の新卒3年後離職率0%達成! ノウハウ蓄積はまだまだ続く

 こうした取り組みによって、ハードスキルは100%、ソフトスキルは76%の若手が成長を実感できたという。ソフトスキルが向上しなかったとした24%は「非エンジニアとのコミュニケーション」、「複数の仕事を並行してこなす働き方にギャップがあった」との回答が主な理由で、テーマ討論に関しては96%がポジティブな意見を寄せたそうだ。

 現場目線での技術力向上だけでなく、課題を通じて先輩や同期と関係構築できる点などは新卒1~3年目には好評で、育成チームとしても新卒の相談場所となれていたり、育成ノウハウの俯瞰的な蓄積ができている点はいい効果が出ているとした。

課題も残るが、若手エンジニアは成長と効果を実感していることがわかる

 育成チームが発足したのは2015年。それまでCygamesの新卒3年後離職率は2割から3割り程度だったが、2016年と2017年入社の新卒3年後離職率は両年とも0%。目に見えて、凄まじい効果が表われているわけだ。

 現在、Cygamesでは出社して対面による若手育成は行なえていないが、リモートワークで育成を継続しているという。藤井氏はリモートでも育成方法についても、「区切りがいいタイミングでまたご紹介したい」と述べて締めくくった。