ニュース
メンタル不調に「Minecraft」が効く。公認心理師推奨、休職からも回復するゲーム×メンタルの可能性とは
2020年9月4日 00:00
- 9月3日 開催
世の中はストレスの原因が溢れている。長時間労働、低賃金、職場の人間関係やハラスメントといった環境もそうだし、責任感が強かったり、完璧主義、他人の意見を尊重しすぎるなど性格の傾向も要因となる。
そうしたストレスが積み重なって心身の健康状態を害し、普段の生活にも影響が出てくると、「メンタルヘルス不調」と呼ばれる状態だ。不調はうつ病や適応障害、自律神経失調症など様々な症状を伴って発現し、時には休職を余儀なくされる。そして、そうした人たちが再び社会生活に復帰できるようサポートするのが厚生労働省が推奨する復職支援プログラムだ。
CEDE 2020では、こころケアクリニック 心療内科 臨床心理士・公認心理師の大塚舞子氏より、この復職支援プログラムをテーマにした講演が行なわれた。大塚氏のクリニックでは、復職支援プログラムに「Minecraft」を使用しており、しかも効果が上がっているという。「Minecraft」を一体どのように活用しているのか、その方法が大塚氏から語られた。
「現代型」のメンタルヘルス不調とは?
復職支援プログラムに「Minecraft」を取り入れた背景には、「現代型うつ病」と呼ばれる新しいタイプのメンタルヘルス不調が増えてきたことがある。
メンタルヘルス不調になる性格傾向としてこれまで典型的だったのは、生真面目で仕事熱心、さらに他人に気を遣う「定型(メランコリー親和型)」。一方で近年増えているのが「現代型(ディスチミア親和型)」で、自己中心的で自己愛が強く、規範など縛り付けられることを嫌う傾向がある。「定型」とは真逆のタイプだ。
「現代型」が出てきた背景には、多様化を尊重し、自由であることを認められた豊かな社会がある。成長過程で家庭環境が過保護であったり、自由であるがゆえに逆境を経験したことが少なかったり、褒められたり叱られたりすることによる精神的な成長のタイミングを逃している、という場合もこれに当てはまる。
しかし実際に社会に出てみると、ルールはきっちり守らないといけないし、成果主義による競争原理は大きく働いている。自由に育ってきたのに、目の前に自由さがないことが本人にとっては大きなストレスとなってのしかかってくる、というわけだ。
こうした「現代型」の人物がメンタルヘルス不調に陥った場合、慢性的な抑うつ状態であっても好きなことには打ち込めるなど、「一見自分勝手でわがまま」に思えると大塚氏。しかし、もし心身に不調をきたしているのであれば、それは「決して甘えではない。どんな人物でも適切な支援やサポートが必要」なのだとした。
メンタルヘルス不調の治し方には、静養や休養、薬物療法、精神療法などがある。またメンタルヘルス不調によって休職した場合は、復職支援プログラムを通じてメンタルを回復させて、主治医や職場が復帰可能と判断することが大切となる。
一般的な復職支援プログラムには、軽作業や通勤訓練、自分の性格と向き合う心理療法などが行なわれてきた。ただし職場に復帰したとしても再休職する人が増加したり、業務遂行能力が回復していなかったりと、課題もあった。
特に「気が乗らないとやらない」タイプの「現代型」には、何かをさせることは逆に強いストレスを与えることにもなる。そこで代わりになるようなプログラムとして登場したのが、「現代型」でも自主的に楽しめる「Minecraft」というわけだ。
有効性が証明された「Minecraft」の復職支援プログラム
大塚氏が復職支援プログラムに利用しているのは、PC、Java版の「Minecraft」。活動は平日の午前10時から13時、午後13時30分から16時と決まっており、そのときに集まった平均4、5人でグループワークをしていく。
テーマは「街づくり」で、ひとつのプロジェクト期間は3カ月。これまで、イタリアのブラーノ島、スペインの街ロンダを再現した街が実際に「Minecraft」内で作られている。
ポイントは、街のコンセプト決めの方法から建設場所の選定、計画立案、タイムラインや資材の管理、役割分担などはすべて参加者に任せていること。最初の話し合いも含めて、いちからすべてを作ろうとするとかなりやることが多く、これが立派な仕事のモデルケースになる。
グループメンバーの参加条件は、休職中で、状態がある程度回復していること、また主治医がプログラムへの参加を許可していること。回復の状態に合わせて参加ペースを変えることもあれば、中には途中で体調を崩す人もいる。そうした場合に、大塚氏らがいつでもサポートできるような体制を作っている。
参加者たちは1日の最初に議事録の確認や作業進捗の引き継ぎを行なったあと、その日の役割分担を決めていく。参加者は3つのクラスに分けられていて、参加直後はBeginnerに入り、上位クラスのAdvanceはBeginnerにやり方やチームのルールを伝える。さらに上位のMasterは、AdvanceにBeginnerの教育方針などをアドバイスする。
やっていることはかなり本格的で、計画書を立てるだけに留まらず、綿密な設計図を描いたり、大量に必要な資材の在庫を管理したり、あるいはガントチャートを作って進捗を確認していくなど、実質的な業務そのものとなっている。
また、使用するゲームモードはあえてサバイバルモードとしている。これは、サバイバルモードの方がより危険があるため。特に必要な資材を遠方に取りに行く際などは危険度が増し、対策を含めた準備が必要となる。進捗とのせめぎあいの中で、参加者を考えさせる“難易度”がいいのだとした。
作業する中では、参加者同士の諍いがよく起こるという。しかし、それは復帰後の仕事でも起こることであり、むしろその後の大塚氏との個人面談で、なぜそれが起こったのか、本来はどうしたかったかなどフォローや対応を一緒に考えることができる。仕事で起こり得ることを総合的に体験することで、復帰への準備が整っていくわけだ。
参加者には普段ゲームをやらない人もいて、最初は「Minecraft」のプログラム参加へ難色を示すこともある。ただ、このプログラムが復職に繋がることを伝えて納得してもらえると、参加後は面白さに気付いて楽しんでやっているケースが多いそうだ。
大塚氏は「Minecraft」でのプログラムについて、「作業するほどに即成果が見えるため、実際の仕事よりも達成感が得られやすい。またグループワークにすることで、いいことも悪いこともチームで共感しあえる」と推察。実際、就労再開率や就労継続率に関して統計的に有効だとの研究結果も出ており、今後も実施していきたいとした。
今後の課題は、予後への影響を検証すること、そして復職成功者の行動を分析して共通の特性を見つけることだという。復職成功者の共通の行動が見つかれば、その方向に参加者を促すことでさらに復職率を高められる可能性がある。この「Minecraft」をきっかけとして、ゲームからメンタルを整える事例は今後も広がっていくかもしれない。
【訂正】 講演者からの要請によりスライドを削除致しました。(9月8日)