ニュース
アイドル愛は止まらない! 5年アップデートし続ける「デレステ」の攻める3DCGビジュアル
190人全アイドル対応のハイタッチ機能から特殊衣装の実現まで、惜しみないこだわりを披露
2020年9月2日 19:37
- 9月2日 開催
この9月に配信5周年を迎えるiOS/Android「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」(デレステ)。過去にもCEDECでは「デレステ」のアイドル愛溢れる開発事例が公開されてきたが、本作の強みは常に新機能を追加し続けるアップデートにある。
現在、登場するアイドルは190人、SSレア衣装モデル数は400着以上、さらにMV(3Dミュージックビデオ)化楽曲は200曲を超えている。特にビジュアルにおけるアップデートのこだわりは、「新しい技術を取り入れつつ、コンテンツを進化させる」ことだ。
CEDEC 2020では、Cygames 3DCGアーティストチーム デザイナーの五十嵐蒼氏、Cygames クライアントサイドエンジニア エンジニアの横山亜弥氏より、MVや衣装に関するアップデートの実例が公開された。
全アイドル対応! ハイタッチ演出を可能にするIKモーション
五十嵐氏からは、MVでの新規仕組みの実装例が紹介された。まず紹介されたのは、「お願い!シンデレラ(GRAND VERSION)」だ。
楽曲としての「お願い!シンデレラ」そのものは本作の配信直後からあるものだが、2019年に追加されたこの「GRAND VERSION」では、15人のアイドルがパフォーマンスをする(それまでは最大5人)。一気に10人ものアイドルが画面上に増える、挑戦的なMVとなる。
このMVでは、15人のアイドルが躍動する「リアルなライブ感の演出」をコンセプトとし、そこで着手したのが「コール」と「ダンス以外のモーション」の追加だ。
「コール」では、Cygames社内での“有志のプロデューサー”を募り、声を録音した。ライブの臨場感をサウンド面で演出する狙いだ。
より大胆に追加、変更しているのは「ダンス以外のモーション」だ。ダンス以外、つまりアイドルのステージ間の移動、プロデューサーへのアピール、そしてアイドル同士の“絡み”などをふんだんに入れ込むことで、「GRAND VERSION」ならではの臨場感を生んでいく。
通常のMVでは1曲を通してダンスモーションを撮影しており、1曲につき基本的にダンスは1~5種類、ポーズや演技によって+αのモーションで構成されているが、15人のアイドルの動きに差をつけるため「GRAND VERSION」では60以上のモーションが実装されている。似た動きでも演技内容を変えて複数撮影したため、この数字になったという。
さらにアイドル同士の“絡み”は、ハイタッチで表現することにしたが、問題もあった。つまり、既存機能では身長差のあるアイドル同士では手の位置がずれて、タッチができない状態となっていた。
そこで導入されたのが、身長差のあるどのアイドルでもモーションの破綻を起こさずにきれいな接触ができる「IKモーション」だ。
本作では、最も身長が低い「横山千佳」と最も身長が高い「諸星きらり」がきれいにハイタッチするモーションを表裏2パターン、あらかじめ作っている。このモーションをアイドルに合わせてブレンドすることで、どんなアイドル同士でもきれいにタッチできるようにしている。
このIKモーションは、「M@GIC☆ (GRAND Version)」、「Secret Daybreak」、「幸せの法則 ~ルール~」などでの手つなぎや手合わせでも活かされている。
さらに、「Unlock Starbeat」では「アイドルに楽器を演奏させたい!」との思いがあったそうだが、ここでもアイドルの体型差がネックとなった。
まず身長差分については、キーボードなどすべての楽器にアイドルと同じスケールをかけてモーションの反映に違和感がないようにしている。
またSS、S、M、L、LLと5パターンある胸差分(胸のサイズ)に合わせて、ギターやベースのストラップの位置が変わる機能が「Unlock Starbeat」のために実装されている。
さらに木村夏樹を始めとしたレフティのアイドルもいるため、その場合はモーションを反転。そのままではカメラ位置がずれるため、左利き用のカメラの分岐も用意されている。
カメラ演出では、ギターとベースが一緒に映り込む場面もある。ここは右利き/右利き、右利き/左利き、左利き/左利き、左利き/右利きと、立ち位置と利き手の組み合わせごとに4パターンもカメラを作って対応している。
なお、楽器演奏のモーションキャプチャーは「デレマス」のライブを担当するバンドメンバーの動きを撮影している。ただし指の動きまでは上手く追えなかったため、指に関してはすべてモーションデザイナーによる手付けとなっているそうだ。
ほかにも、複数のカメラのレンダリング結果をマスクで切り抜く「マルチカメラ」、ダンスモーション途中に別のモーションを差し込む「Chara Motion Overwrite」、風が吹いているように揺れものを揺らす「風機能」、特定アイドルやユニット限定で特別な演出が発生する「Timeline分岐機能」など、数々の新機能が実装されている。
ちなみに、もともと「速水奏」の髪には揺れ骨がなかったのだが、「風機能」を実装した「Secret Daybreak」によって揺れ骨が追加された。以降、他のMVでも「速水奏」の髪は揺れるようになったそうだ。
衣装も全力! 制限の中で要望を最大限叶える
横山氏から話されたのは、アイドルたちの衣装について。衣装は、衣装デザイン班からの発注を受けて、そこから実際に3Dモデル化できるかどうかを検証、制作していくことになる。
衣装の制作ではポリゴン数やテクスチャ容量などを仕様内に抑えること、全MVの中で不自然さを感じさせないことが最低条件となるが、一方で「衣装はMVでアイドルをより魅力的に輝かせるアイテム」であるため、条件の中で要望を最大限実現するため様々な工夫を行なっていくという。
事例として挙げられたのは、4周年記念衣装。肩から腰にかけてのタスキが特徴的な衣装だが、要望は「虹色と星を動かしたい」というものだったそう。虹色と星はスクロールアニメーションで動かすことにしたが、よりきれいに、なおかつ魅力的に見せるために虹と星は別々の速度で動かしている。
虹と星は情報を与えるテクスチャを変えており、虹は「カラー」、星は「スペキュラカラー」をコントロール用としている。それぞれでスクロールアニメーションをさせつつ、星についてはスペキュラカラーマップのRPGチャンネルそれぞれに星の情報を分割。3つとも違う動きをさせることで、動きに豪華さを出していった。
また、裾長ロングスカート衣装が実装された例では「裾が床に埋まる」ことを避けるために、床へコリジョンを追加している。これによって、アイドルがしゃがんだときに裾が広がるような動きとなった。
ほかの要望では、「大きな翼を着せたい」というものもあった。大きい衣装の場合、最大の懸念点はアイドル同士が接近したときに衣装が干渉してのめり込んでしまうこと。これは、衣装にコリジョンを追加することで解決した。コリジョンがあるため、アイドルが接近しても翼が自動的にスッと避けてくれる。アイドルを接近させつつ、MVの品質を落とさないまま要望を叶えられた事例だったとした。
横山氏はほかに、ドレスコーデ機能やスピンオフアプリ「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトスポット」の3Dコミュにおける負荷対策などを話していった。
セッションの総括として、横山氏は「常にユーザー新しい体験を届け続けるためには同時にいくつものコンテンツを開発、運営することが大切」だと語った。その上で、「デレステ」ではアイドルをより輝かせるための「目指すビジョン」、それぞれのアイドルがアイドルらしくあるための「譲れないポイント」を明確化することを心がけているという。
横山氏いわく、「デレステ」開発スタッフすべてに共通しているのは、「アイドルへの愛が開発の原動力」となっていること。5周年以降はどんなアップデートが用意されているのか。今後の展開にも大いに期待したい。