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レコーディングは“時短”になる! スクエニ、「FFVII REMAKE」を事例にレコーディング活用のメリットを紹介

【CEDEC 2020】

9月2日〜9月4日 開催

 全世界500万本を突破したプレイステーション 4用RPG「FINAL FANTASY VII REMAKE」(以下、FFVII REMAKE)。カット曲120、戦闘曲70、フィールド曲70を含み、総曲数が300曲を超える本作で、オーケストラレコーディングがどのように活用されていたのだろうか。CEDEC 2020では、スクウェア・エニックス サウンド部プロジェクトマネージャーの小林征夢氏および土岐望氏により、オーケストラレコーディングの活用方法やメリット、海外のボーカリストをアサインする際の注意点などの実例が公開された。

右:小林征夢氏 左:土岐望氏

レコーディングは“時短”になる! 打ち込みとレコーディングの違いとは

 そもそもなぜレコーディングをするのか? 小林氏は、楽曲のクオリティアップのためであったり、ボーカルやコーラス、ソロのバイオリンなどのモックアップが難しい楽器を含む場合であったり、開発の総仕上げとしてテンションが上がるからといった理由を挙げたが、今回伝えたいことは……

「レコーディングは時短になる!」

 なのだという。

 小林氏は続けて、「FFVII REMAKE」では、「コンポーザー」と「アレンジャー」、「写譜」、「奏者」、「エンジニア」という5つの段階でレコーディングが進んでいったことを紹介した。まず、「コンポーザー」としてオリジナルの植松伸夫氏の楽曲があり、それを「アレンジャー」が現代風にアレンジし、現場のプレーヤーが演奏しやすいように「写譜」し、「奏者」が演奏、そして「エンジニア」がレコーディングから最後まで仕上げるという流れだ。

 次に、「FFVII REMAKE」終盤で登場する楽曲のRECスケジュールを公開。この楽曲はボスにダメージを与えていくと音楽が変わっていくインタラクティブミュージックになっており、全部あわせるとおよそ10分ほどの長さになる。

 この楽曲はフルオーケストラの編成で録ったとのことだが、もし、この10分の曲をモックアップで作成した場合は、10日より15日程度の時間がかかるのだが、これがレコーディングだと、なんと8時間程度に抑えられるのだという。

 しかし、これはあくまでアレンジャーの当日の稼働だけを見た場合であり、実際はもう少しかかる。まず、8時間をレコーディング拘束時間でみれば1日であり、レコーディング用のトラック、譜面などの前準備や、レコーディング後のミックスチェックが追加である。

 また、インタラクティブミュージックであれば、空気感が変わってしまわないように、同じ日に違うフェーズを録りきらなけなかったり、後日の修正であってもレコーディングスタジオやエンジニア、奏者は揃えたほうがいいという制約もあるという。

 では、どのようにレコーディングと打ち込みを使い分けるか。それは、レコーディング向きの曲と打ち込み向きの曲を把握することにある。打ち込みでは難しい表現や人間的な揺らぎが映えるシーンの曲はレコーディング向けで、かっちりとした曲や打ち込みで表現しやすいもの、打ち込みならではのタイト感を表現したいものは打ち込み向きの曲になる。これらを理解することで、どの曲をレコーディングにするか、どの曲を打ち込みにするかを判断しやすくなるのだろう。

レコーディングの場合はコストの問題も。時間をとるか、コストをとるか……
また、取りこぼしに備えてこれらを考えておく必要がある

スケジュール調整を慎重に。海外でのボーカル収録におけるノウハウ

 次に、土岐氏が、海外でボーカル収録をした経験を体験談として紹介した。

 はじめに、なぜ海外でボーカル収録したかというと、「英語がネイティブ」かつ「複数曲のジャンルにマッチ」、「過去に依頼実績がない」という3つの条件を満たしているボーカリストを探す必要があったからだという。具体的には、東京やロンドン、LA、カナダなどにSNSやエージェンシーを使ってアプローチをしたとのこと。

ボーカリストの本来の良さを殺さないために、仮歌はフラットな表現にしているという
渡航費などは場所や時期にもよる

 土岐氏は、海外のボーカリストとやり取りする際に気をつけなくてはいけないのが、思った通りのスケジュールで進まないことだと語る。時差があるため、全般的にやりとりに時間がかかるということや、権利まわりの調整に時間がかかるのだ。初期プランが実現しなさそうであれば、別のプランに移行するタイミングを見極めなければならない。

 また、依頼したボーカリストと仕事の経験がある人に現地のコーディネートとディレクションの通訳をお願いしたことが良かったらしい。当日の雰囲気作りや機材の設定相談などをスムーズにできたほか、ムーディなブースのライティングでボーカリストがリラックスして歌ってもらうための環境を作れたという。

 最後に土岐氏は、新型コロナウイルスの影響により、リモート収録が増えて海外ボーカルを起用する総コストは下がっていくと語った。これにより、場所の制限を超えて、表現の幅を広げていけるのではないかとしている。

 新型コロナウイルスの流行が続けば、レコーディングや海外でのボーカル収録などは行ないにくくなるだろう。今後は、リモート収録など、これまでとは違う新たな方法でのレコーディングが増えていくのかもしれない。