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どうなるフェニックス年!? 「ハースストーン」クリエイターインタビュー

ゲームディレクターBen Lee氏らに新拡張版の開発秘話やeスポーツに関する取り組みなどを聞いた

2月18~21日開催

会場:AV Irvine

 Harthstone Summit 2020では、「ハースストーン」の開発主要メンバーへのインタビューの機会も与えられた。ここでは「ハースストーン」のすべてを統括するゲームディレクターBen Lee氏へのグループインタビューとシニアナラティブデザイナーValerie Chu氏およびゲームデザイナーLiv Breeden氏への単独インタビューの内容を紹介する。

 「ハースストーン」のゲームディレクターは、2018年4月に「ハースストーン」の生みの親であるベン・ブロード氏が退社以降、長らく不在だったのだが、昨年Ben Lee氏がBlizzard Entertainmentに入社し、その後釜を務めることになったのだ。Ben Lee氏がチームに加わったことによって、「ハースストーン」が新たな方向性を目指すことになったのだ。

 Ben Lee氏には、「ハースストーン」の課金システムやeスポーツなどに関する今後の方針を中心にお聞きし、Valerie Chu氏とLiv Breeden氏には、新拡張版「灰に舞う降魔の狩人」のデザインやメカニクスなどを中心にお聞きした。

【「ハースストーン」開発メンバー】
ゲームディレクターBen Lee氏
シニアナラティブデザイナーValerie Chu氏(左)、ゲームデザイナーLiv Breeden氏(右)

「ハースストーン」6年間の歴史で初めてクラスが追加されたことは大きな出来事

――「ハースストーン」の担当分野を教えて下さい。

Valerie Chu氏: 私はシニアナラティブデザイナーの一人で、ストーリーを担当しています。今回の序章では、復帰者向けのストーリーと各種フレーバーテキストと、イリダン関連を担当しました。

Liv Breeden氏: 初期デザインチームの一員として、各種メカニクスとかゲームプレイに関することをデザインしました。

Ben Lee氏: ゲームディレクターです。今ここにいない、ネイサンと2人でほぼ同時期にチームに加わりました。私が何をしたいというビジョンを挙げて、ネイサンがそれをどう実現させるか考えます。2人がうまく噛み合っています。やはり、自分がハースストーンの開発チームに入って、チームにもたらしたこというのは、物の新しい見方、新しい考え方ですね。それから、実験を恐れないということです。その甲斐があって、ドラゴン年では、一人用のアドベンチャーに力を入れたり、バトルグラウンドを新たに開始したり、そういう新しい試みをやることができました。フェニックス年でもまた新しいことに挑戦していきたいと思っています。他が真似できないような新しい挑戦をしたいというのが、一番のモチベーションです。

――今回、ドラゴン年が終わって、新しいフェニックス年が始まるわけですが、フェニックス年の目玉、アピールポイントは何でしょうか?

Liv Breeden氏: やはり、このイリダンが、Warcraftの世界においてとても人気があるキャラクターなので、彼の話があるということと、この6年間「ハースストーン」を運営してきて、初めてクラスを追加するということはかなり大きいと思います。フェニックス年の初めとしては、その辺がアピールポイントになります。

Valerie Chu氏: 新拡張版においても、序章があったり、復帰するプレーヤーに対する奨励があったり、カードパックを開けたときにカードがダブらなくなるようになったりとか、プレーヤー視点にたった要素も盛りだくさんなので、まずはその辺に注目していただきたいです。

――復帰プレーヤー向けのソロ・アドベンチャーで、イリダンの過去、若い頃の話があるそうですが、それは最初拡張版と同時にソロ・アドベンチャーとして追加されるのか、それとも拡張版とは別に、ソロ・アドベンチャーだけ追加されるのでしょうか?

Valerie Chu氏: ソロ・アドベンチャーモードとして追加されます。4ミッションしかないので、他のソロ・アドベンチャーよりはかなり短くなります。ストーリーに重点をおいています。デーモンハンターの序章は、新拡張版のリリース約1週間前の4/3からスタートします。そのミッションをクリアすれば、デーモンハンターのカードとデーモンハンターが、拡張版のリリースに合わせて使えるようになります。

【新ヒーローであるイリダン・ストームレイジ】
デーモンハンターの新ヒーロー「イリダン・ストームレイジ」

――「ドラゴン年」を振り返っての感想はいかがでしょうか?

Liv Breeden氏: ドラゴン年は、皆様の受けもよかったです。また、数年間温めてきて、やっと1年通しての大きなお話を作り上げたこともよかったと思います。また将来やりたいけど、今年はやりたくないかなと。それはまた先の話であって、今のところはまた各章ごとに違うテーマになっています。

――今回のフェニックス年に関しては、1年で繋がった大きな話ではなくて、各章ごとに話が完結するわけですね。

Liv Breeden氏: 今年はそうです。

――ドラゴン年の1年がもうすぐ終わりますが、Benさんはどう評価されていますか? また、プレーヤーからのフィードバックなどはありましたでしょうか。ネガティブな面とポジティブな面両面で。

Ben Lee氏: 一番ネガティブなこととしては、ワイルドのカードのスタンダードへの期間限定復帰の件ですね。問題があったのは上級者だけでしたが、そのアクションを起こすのに時間をかけすぎたことを反省していますし、その経験を通していろいろ学びました。

 ポジティブな面としては、1年を通して長いストーリーを展開したり、素晴らしいカードデザインができたり、バトルグラウンドが大成功だったりしたことですね。それを次のフェニックス年でも、デーモンハンターをはじめとして、いろいろ楽しいことを予定していますので、引き続きポジティブな感じになるといいなと思います。

【ゲームディレクターのBen Lee氏】

【シニアナラティブデザイナーのValerie Chu氏】

【ゲームデザイナーのLiv Breedden氏】

当初は他のクラスでも異端を使えるようにしようと考えていた

――今回、新しいクラスが初めて追加されたというのが、目玉だとおっしゃっていましたが、カードの新しいキーワードとしてはOutcast、日本語だと「異端」が追加されました。異端はなかなか面白いと思いました。トップ勝負での逆転とか。異端についてはいかがでしょうか?

Liv Breeden氏: 昔、ウォーロックで、右端に寄せるとか、左端に寄せるとか、一番マナコストが低いカードとか高いカードとか、そういう条件のものがありました。今回も何か似たようなことができないかと。左端で何かするとか、右端で何かするとか、それなら両方したら面白いじゃないかということで、異端的存在であるデーモンハンターの強さとかを考えると、両端からがいいだろうということで、世界観としてもいい感じにまとまりました。

――異端に関しては完全にデーモンハンターだけの能力で、他のクラスには使われないということですか?

Liv Breeden氏: 最初のうちは、この異端を数クラスが使えるキーワード能力にしようと思っていましたが、テストプレイを繰り返すうちに「何かちょっと違うな」という感じになりました。どうせなら、一番これが似合う、シナジーの多いデーモンハンター専用として出そうじゃないかということになりました。ローグにコンボがあったり、シャーマンにオーバーロードがあるように、デーモンハンターには異端をつけたいと。

――今度の新拡張版が出ると、その目玉であるイリダンを使ったデッキが上位になるとお考えですか?

Liv Breeden氏: やはり、せっかく出したからには、出した直後にはみんなに遊んで欲しいと思うし、実際に遊んでくれると思うので、メタの上位には入ると思います。もちろん、デーモンハンターも無敵というわけではなくて、アグレッシブにいけるし、生命奪取もあるし、ミニオンを一杯だせるけど、そびえ立つ壁みたいな感じのヘルスが多いミニオンが相手の場にあると苦戦します。

――先ほど少しデーモンハンターで遊ばせてもらいましたが、アグレッシブに相手のフェイスを殴っていくので、こちらのヘルスも減りますし、エキサイティングで面白かったです。

Liv Breeden氏: デーモンハンドはウォーロックみたいに、ヘルスを使うというコンセプトですが、生命奪取で回復しやすくなったことにより、より自分の命をリソースとして使うというコンセプトがうまくいったと思います。

――今回、新たに殿堂入りした中立のカードが5枚ありましたが、それによって環境がよりバランスのとれたものになったのでしょうか?

Liv Breeden氏: やはり、リロイとかは長年人気で、特にローグとかではよく使われており、2回出すテクニックとか、よく見られてるので、マンネリ化してちょっとつまらないなと。殿堂入りすることで、他のカードなり、他のプレイスタイルなりが、日の目を見るようになることによって、メタがもっと新鮮に感じるようになると思うので、いいことだと思います。

――今回は、バトルグラウンドについてもいろいろ拡張されるというお話があったと思うんですが、フレンド内でメンバーを募るなど、ローカルで大会ができるような可能性はあるのでしょうか?

Liv Breeden氏: バトルグラウンドそのものがまだβ版なので、まだ他にいろいろ模索していて、ローカル対戦のバトルグラウンドは模索している中の候補の一つになっています。

【生命奪取持ちの武器アルドラキ・ウォーブレード】
デーモンハンタークラスのアルドラキ・ウォーブレードは、3マナ2/3の生命奪取持ちの武器だ

【生命奪取持ちの呪文御魂斬り】
デーモンハンタークラスの御魂斬りは、3マナでランダムな敵のミニオン2体に2ダメージを与える生命奪取持ちの呪文だ

新しいゲームモードは多人数戦

――プレゼンテーションで紹介された「ニューゲームモード」とは何ですか? これはバトルグラウンドのような全く新しいものですか?

Ben Lee氏: 多人数戦で、たくさんの人が遊べるようになっています。今回は詳細はいえませんが、バトルグラウンドみたいに8人でゴチャゴチャやる感じより、どちらかというと闘技場寄りのコンテンツになります。今はまだ全く話せないんですが、さらに他のゲームモードもいろいろ模索していて、それが発表できる段階になったら、「ハースストーン」に情熱を燃やす方々を集めて、その方達のフィードバックを得るために公開したいと思っています。

――このタイミングで、実績システムを実装することになった経緯について教えてください。

Ben Lee氏: 私がチームに入ったことでもたらした新鮮な考えとして、やはりそういう実績があったほうがいいんじゃないかと。私も何年か前から、実績があったほうがいいと個人的には思っていました。実績は、昔から遊んでくれているプレーヤーも、新規プレーヤーも、多人数戦プレーヤーもみんなが幸せになるようなシステムです。現段階では今の環境寄りになっているかもしれませんが、ゆくゆくは昔のコンテンツの実績も実装したいと思っています。それによって、何年か前にこのゲームに金銭的に貢献してくれた人への恩返しができるのではと思っています。

――「ハースストーン」には今までも実績みたいなシステムはありましたよね? それとは何が違うのですか?

Ben Lee氏: 前より細かく、明確になりました。例えば、ある拡張版のカードを75%集めたら、何かスキンがもらえるよとか。そういう外見的なものであれ、金銭的なものであれ、何かしらの報酬がもらえる実績システムを作りたいと思っています。それも1つのゲームモードに限らず、「ハースストーン」のいろんな魅力を知って欲しいので、「ハースストーン」の色々な要素に対する実績を用意します。実際にどんな実績があるかという具体的なことはまだ発表できませんが、プレーヤーの人たちが満足するような、特に昔から継続的にずっと支援してくれる人に何か恩返しができればいいなと思っています。

――ランク戦はどこが具体的に変わるのでしょうか?

Ben Lee氏: スターボーナス制度の導入によって、長い目で見たときの成長がわかりやすくなっています。今までのラダーと変え過ぎちゃうと、逆に「これ全然分からないや」といってやめちゃう人もいるので、一応なんとなく分かるけど、同じところもあれば違うところもあります。逆にこのスターボーナス制度で、例えば、スターボーナスの倍率が5だったら、1勝するたびに星が5個もらえます。だから、長いスパンで見れば、上達していけば、自分の上達の速度が分かります。現状のラダーだと勝ち負けによって結果的にプラスマイナスゼロになってしまいますが、新しいシステムでは、MMRのデータが残るので、プラスマイナスゼロにはならず、少なくとも自分が上達していることが分かるので、モチベーションになります。

――今後、「ハースストーン」において新しい課金モデル、例えばスキンを買えるとか、eスポーツバンドルを増やすとか、そういう施策の予定はありますか?

Ben Lee氏: 最近、ショップの機能がアップデートされたので、例えば、クラス別のパックなどもまた視野に入れています。今後もいろいろ考えていきたいです。お買い得であるということをアピールしていきたいと思っています。今回採用されたダブり防止もその路線に基づいたものです。

――SNSなどでの公式からもう少し発信していただければと思います。

Ben Lee氏: SNSについては、自分もそうですが、もう少しちゃんとファンの方達と話し合いたいと思っています。開発者がSNSやメディアを使って、ファンと交流をしたいと思っていますので、気軽に聞いてくれれば答えます。積極的に開発者に声をかけてください。

eスポーツと「ハースストーン」のクライアントを結ぶものを開発中

――eスポーツについてですが、選手の立場としてはマスターズ選手権に不満も感じました。とりわけグランドマスターになれなかった人への配慮が足りないのではないかと感じています。

Ben Lee氏: 今年は、マスターズ選手権を増やします。より多くの人がより多くのチャンスを得られますし、今は試験的段階ですが、「ハースストーン」のゲームクライアントの中から予選をできないかということも模索しています。

 まだお見せできる段階ではないので、詳細は説明できませんが、eスポーツとハースストーンのクライアントを結ぶ何かを今模索しています。それは大会モードとは別なのですが、お見せできる段階になったら発表します。

――競技プレーヤーからの意見ですが、今年と去年行なわれているマスターズツアーの大会において、大会の準備期間、例えば新拡張版やアドベンチャーがリリースされてから大会までの準備期間が徐々に減っている傾向があります。マスターズツアーソウルの時は1週間だったものが、最新のアーリントンですと、新しいアドベンチャーが出てから、2日から1日ほどしか調整する期間がありません。これは何か意図があってやっているものなのか、選手からすると、デッキの選択は非常に慎重に行ないたいものなので、もう少し時間が欲しいです。

Ben Lee氏: 開発のスケジュールとeスポーツのスケジュールはすべて別々に決められています。開発中にカードの内容が変更されたり、追加されたりすることがあるため、開発スケジュールが延びることで、eスポーツのスケジュールとの衝突がどうしても起きてしまいます。eスポーツも会場を抑えるために、かなり前からスケジュールを組んでいるので、どんなに頑張っても、スケジュール的な衝突を回避することはできません。そのため、参加選手にとって苦痛を強いるようなスケジュールになってしまうこともありますが、それは意図的なものではありません。

 開発側が新しいものをどんどん追加する頻度が高まっていまして、eスポーツ大会とのバッティングが起こってしまいます。1か月かけて毎週少しずつ出していくコンテンツがあって、そのど真ん中に9か月や1年前に会場を抑えたeスポーツの大会があったら、コンテンツを出すのをやめてもプレーヤーの皆さんに悪いし、大会をやめても選手に悪いしということになって、結局、コンテンツを出さざるを得ません。ただし、eスポーツ側で、直近に登場したコンテンツのカードを使用禁止にできるようになりました。だから、参加選手が今回は新しいカードを使わないほうがいいということで意見が統一されれば、新しいコンテンツを出すことと、選手に負担をかけないeスポーツ大会を両立できます。

――去年、eスポーツ大会の方式を大きく変えて、マスターズ予選とマスターズツアーという形にしましたが、今年もそれを受け継ぎ、さらに開催数を増やすということですが、このマスターズツアー制度は、Blizzard Entertainmentとしては成功したと考えているのでしょうか? 競技プレーヤーからもこの形式が支持されていると判断されたのでしょうか?

Ben Lee氏: まだ結論を出すには時期尚早だと思います。去年1年間、マスターズツアー制度で、選手からもいろいろ話をききました。今年ももっと選手達の意見をきいて、よりよくしていきたいと思っていますし、それでどうしてもこの方式ではダメだということになれば、他の大会形式に変える可能性もあります。

【ゲームディレクターのBen Lee氏】
Ben Lee氏はさまざまな質問に真摯に答えてくれた

――最後にGAME Watch読者へのメッセージをお願いします。

Liv Breeden氏: ハースストーンは今、始めるのにも一番いい時期だと思います。デーモンハンターも楽しいし、私もこの新しい拡張版が出るのを楽しみに待っています。

Valerie Chu氏: 皆さんに新拡張版を存分に楽しんでほしいので、やっぱり強いデーモンハンターになってほしいですね、新拡張版の新しいメカニクスなり、ストーリーなりを、楽しんでいただければ幸いです。

――ありがとうございました。