インタビュー

“ゲン・バク”栄誉の殿堂入りの理由、その影響は!? 「ハースストーン」クリエイターインタビュー

2月25日、26日開催

会場:Hotel Irvine

 2月25日、26日の両日、Blizzard Entertainmentのお膝元カリフォルニア州アーバインにて「ハースストーン」の未来を語るサミット「Hearthstone Summit 2019」が開催された。その詳細についてはイベントレポートを参照いただくとして、本稿ではその後に行なわれた日本メディアの合同インタビューの模様をお届けする。

 新拡張版発表前のインタビューと言うことで、2019年に起きる「ハースストーン」の変化を中心に質問している。「ハースストーン」開発チームの“変革と原点回帰”にかける意気込みを感じ取っていただければと思う。

【インタビュイー】
プレゼンテーションを終え、リラックスした雰囲気で笑顔を見せる2人。左がクリエイティブディレクターのベン・トンプソン氏、右がシニアゲームデザイナーのマイク・デネイ氏

――2人の自己紹介を。

ベン・トンプソン氏: 「ハースストーン」のクリエイティブディレクターを務めている。Blizzardではずっと「ハースストーン」チームにいて10年になる。リードアーティスト、アートディレクター、クリエイティブディレクターを担当してきた。

――私の認識では「ハースストーン」チームは、「World of Warcraft」から生まれたと理解しているが正しいか?

トンプソン氏: 正しくない。色んな部署からメンバーが集まっている。

マイク・デネイ氏: 「ハースストーン」のリードゲームデザイナーを担当している。1番最初に雇用されたデザインナーの1人で、ゲームディレクターとベン・ブロードしかいなかった時代から担当している。現在では20名を超えるプロダクトチームになっている。私は「World of Warcraft Trading Card Game」というカードゲーム開発のバックグラウンドから来ている。

――栄誉の殿堂入りについて、もともと栄誉の殿堂入りはクラシックカードを対象にしたもので、今回の“ゲン・バク”の1年での殿堂入りは様々な点でレギュレーションに反した決定だと思うが、これはどういう判断か?

トンプソン氏: そのポリシーは間違っていない。クラシックは不定期で殿堂入り、拡張版は2年使えることを明言してきた。ゲン・バクは特別で、コミュニティのフィードバックが多かったのと、2018年にハマり過ぎていたため、ゲームを進化させ、新鮮なプレイフィールを提供するために、必要不可欠な措置だった。

 ゲン・バクの殿堂入りは、今回のセットローテーションを考える上で、新鮮なメタが生まれるように、ユニークな決断を行なった。2018年は多くの奇数偶数デッキがあって、コミュニティの声をきいて、2019年のセットローテーションでは、新しいメカニクスを導入するために決断した。間違いなく例外措置、今後そういう変更は考えていない。コミュニティの声を聞いた結果。プレーヤーの皆さんが満足できるように開発を考えている。

――発表時に海外メディアから拍手が生まれていたが(笑)。

トンプソン氏: ドラゴン年という新しい年に変化が取り入れられることを歓迎してくれているのだと思う。

――ゲン・バクが殿堂入りするタイミングは?

デネイ氏: 次の拡張版が公開されてドラゴン年がスタートし、セットローテーションが変わるタイミング。

――ゲン・バクのようなメタに直接インパクトを与えるカードを今後も開発する予定はあるか?

トンプソン氏: 「ハースストーン」はパワフルなカードを導入するのが魅力的なこと。今後もゲン・バクみたいなカードを開発する可能性はある。ただし、プレイフィールを満足させるために、どのような形でメタにしていくか、状況によって判断する。

――奇数・偶数が強いのはかなり初期段階でわかっていたはず。このメカニクスを維持するために、これまでゲン・バクの犠牲になる形でナーフされてきたカードを、ゲン・バクの殿堂入りに合わせて元の性能に戻す計画はあるか?

デネイ氏: その予定はない。ゲン・バクの殿堂入りを決める前に、そういうプランもあったが、全体のバランス、クラシックのバランスも考えて、奇数・偶数のメカニクスは関係なしでナーフを行なうことにした。たとえば「平等」だ。2マナで非常に強力なパラディンのカードだが、4マナにナーフしても依然として強力さを維持していると思う。我々は長期的な視点でクラシックのバランスを考えている。

――ドラゴン年は、ワタリガラス年で主流だった奇数・偶数のメカニクスがなくなることでゲームプレイにどういう影響があると思うか?

トンプソン氏: 影響は大きなものになるだろう。「大魔境ウンゴロ」、「凍てつく玉座の騎士団」、「コボルトと秘宝の迷宮」がスタン落ちする。これらの拡張版にはデスナイトカードをはじめゲン・バクと同様に非常に強いカードが含まれていた。ドゥームガードや、自然への回帰といった強いカードの殿堂入りもある。使われていなかったカードが使われ出すこともあると思う。まったく予想も付かない変更になると思う。

――デッキ自動完成ツールについて詳しく教えて欲しい。

デネイ氏: 内部的にずっと使っていたツールを流用する形で公開する。ランク5位以上のハイスキルのプレーヤーのデータを見てデイリーでデータベースを更新する。今回の新拡張は、セットローテーションが変わり、3つ拡張版が一気になくなり、多くのプレーヤーが新たなデッキのトライアンドエラーを繰り返すため、しばらくデータが安定しないタイミングも出てくると思う。ただ、デッキ自動完成ツール自体は、新拡張版をリリースする1カ月前に公開する。新拡張公開直後はデータが不安定になるが、その後は常に毎日アップデートしていく。ちなみにカードバックランダマイザーも同じパッチで1カ月前に実装予定だ。

――ストーリーについて、今回公開されたものが三部作の1つ目なのか?

トンプソン氏: その通り。2つ目以降はその話をさらに展開させる。365日プレイして貰えるように、それは拡張版のシングルプレイを介して、ストーリードリブンな展開になっていく。

――プレイした感じだと、今回の拡張版で完結したストーリーのようだが?

トンプソン氏: 今回プレイした側だとそう感じられたかもしれないが、別の思惑もある、これ以上は話せない(笑)。3部作というのがコンセプトで、1つ1つが独立しているストーリーになっているが、全体としてみると、あとで気づきがあったり、サプライズ要素がある。そういった部分は「ハースストーン」のそもそもの原点でもあるので大事にして作っている。

――ワタリガラス年を振り返っての所感を聞かせて欲しい。

トンプソン氏: それぞれの拡張版が思い出深い。「妖の森ウィッチウッド」では気味が悪くてダークな雰囲気があったし、「博士のメカメカ大作戦」は爆発したり、サイエンスというテーマがおもしろかった。「天下一ヴドゥ祭」ではトロールを紹介できたり、色々な思い出がある。今回お見せした2019年の拡張版を体験した時に、過去の拡張版から学んでいたことを感じて貰えたんじゃないかと思う。PvE、ダンジョン攻略といった要素をまとめて、過去の産物を使って素晴らしいものを作るという学びの場だった。まとめるとストーリーが素晴らしかったことと、多くの学びがあったと思う。

【ドラゴン年】
マンモス、ワタリガラスと来て、真打ち的なドラゴンとなる

――ドラゴン年のテーマについて、変革と原点回帰を挙げているが、代表的な要素を挙げて欲しい。

トンプソン氏: 過去の拡張版のキャラクターにスポットライトをあてて、「ハースストーン」のストーリーラインを強化し、昔のキーワードやメカニクスを新拡張に取り入れて、懐かしさを表現したい。昔あったメカニクスとキャラクターを取り入れることで、新拡張として新しいメカニクスを導入しつつ、前のメカニクスも取り入れたおもしろい環境になることを考えている。

――マナワームが良い例だと思うが、クラシックカードをどんどんナーフすることによって、クラシックカードのプールが弱くなって、復帰してきたときに手持ちのカードが弱くてプレイできなくなる可能性があることについてどのように考えているか? 

デネイ氏: 確かにそういう側面はある。現在のデッキに占めるクラシックカードの割合は40~45%だが、それは高すぎると考えているので20%ぐらいにしたいということがある。クラスのアイデンティティにあわないものはナーフの対象になる。たとえば、「自然への回帰」によるミニオン除去はドルイドのアイデンティティではないので、パワーバランスを見ながら調整していきたい。

【自然への回帰】
ドルイドデッキにはほぼ採用されてきた確定除去の「自然への回帰」が突如として殿堂入り。影響が大きすぎる修正は避けてきた印象があるが、アイデンティティに即さないものは今後も修正を掛けていくようだ

――ドゥームガードのように、クラシックカードが栄誉の殿堂入りすることで、全体の数自体も減っているが、新しいクラシックカードを導入する予定は?

デネイ氏: 今までにも新たなクラシックカードは導入しているが、使われていないカードもあるし、今後も導入する予定がある。

【ドゥームガード】
キューブロックや破棄系デッキのコアカードとなっていたドゥームガードも殿堂入り

――非戦闘タイプの遭遇について教えて欲しい。

デネイ氏: 詳しくは言えないが、PvEに非対戦型のマッチも入っていて、レジェンドプレイヤーではない人たちが、ゲームを勧めていく上で、とても役にたつ機能になっている。

――名前が挙がっては延期を繰り返している「トーナメントモード」は、いつ実装するのか?

トンプソン氏: 今のところステータスに変更はない。チームとしてはやりたいと思っていたが、もともとやりたかったことと、現在のプレーヤーの状況を鑑みて、プレーヤーの皆さんを平等に満足させられるようなものがない。皆をケアできるようなシステムが準備できない限り、実装しない。

――「Heroes of the Storm」のeスポーツからの撤退、Blizzard自体のレイオフなど気になるニュースが多い。「ハースストーン」はどうなるのか?

トンプソン氏: 違うゲーム、違うチームだ。懸念はわかるが、「ハースストーン」のeスポーツは今年は大きく見直すし、サム(Sam Braithwaite氏、シニアグローバルフランチャイズリード、ハースストーンesports)というeスポーツチームのメンバーが話したとおり、今後もっと情報もでてくるし、チャンピオンシップもある。「ハースストーン」というゲームをプレイするのも、観戦するのも楽しくなるように努力していて、その結果、全体的に良い影響を及ぼすのではないかと思っている。

【Blizzard本社訪問】
イベント終了後、短い時間だったがBlizzard本社を訪れることができた
Blizzard本社のランドマークであるオーク像
この像のモチーフは、ウォリアーのヒーロー「ガロッシュ・ヘルスクリーム」やレジェンドカード「グロマッシュ・ヘルスクリーム」と思いきや、シャーマンのヒーロー「スロール」。「ハースストーン」とはずいぶんイメージが違う
受付エリアに鎮座するゴアハウル。「ハースストーン」ではウォリアーの武器として実装されている
この建物が「ハースストーン」の開発チームTeam5が入る第5ビル
ビルの入口に置かれていた等身大ジェイナ
スロールの銅像は夜になるとライトアップされる