【特別企画】

ゲーム開発こそ侵略への抵抗。ウクライナ「S.T.A.L.K.E.R. 2」ドキュメンタリー映像を紹介

「War Game: The Making of S.T.A.L.K.E.R. 2」

【S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl】

11月21日 発売予定

価格:
通常版 7,950円
Deluxe Edition 10,499円
Ultimate Edition 14,499円
※デジタル版のみ

 Xbox およびGSC Game World のYouTube チャンネルは、サバイバルホラーFPS「S.T.A.L.K.E.R. 2」のドキュメンタリー「War Game: The Making of S.T.A.L.K.E.R. 2」を公開した。

 「S.T.A.L.K.E.R. 2」はウクライナのゲーム開発スタジオGSC Game Worldの作品。第1作「S.T.A.L.K.E.R. SHADOW OF CHERNOBYL」が2007年に発売、シリーズ3作目の「S.T.A.L.K.E.R. Call of Pripyat」が2009年に発売されてから、15年を経ての新作リリースとなる。

 ウクライナで開発された本作は、現在も継続中であるウクライナがロシアからの侵略に抵抗する戦争のただ中に開発が進められた。ドキュメンタリーでは戦争を察知してウクライナの首都キーウから離れる決断をした人、ウクライナに残ること、戦うことを選んだ人などの心情、困難な状況の中進められた「S.T.A.L.K.E.R. 2」の開発の背景が描かれている。

 今回、公開に先立ち映像を見ることができた。映像は1時間半に及ぶ大作で、非常に見応えがある。本稿ではその魅力を紹介したい。なお、「S.T.A.L.K.E.R. 2」のゲームそのものは先行プレイレポートや、スタッフインタビューなども行っているので、併せて読んで欲しい。

【WAR GAME: THE MAKING OF S.T.A.L.K.E.R. 2 | OFFICIAL FILM | XBOX】

ゲームを完成させることがロシアへの抵抗の証

 映像は「チョルノービリ原発周辺」の立ち入り禁止区域から始まる。この地は1986年にずさんな管理などが原因で爆発事故を起こした。以降立ち入りが禁止されている。「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズではこの後2度目の謎の爆発が起こり、ZONEという不思議な現象の起こる地域となってしまうが、現実のチェルノービリ原発周辺地域は1986年以降は放棄され、時が止まったような空間になっている。

 開発チームは実際にこの地域を歩いてゲームに取り入れている。その場で起こった事件と歴史を肌に感じることでさらなる臨場感のあるゲームが開発できるという。映像では放棄され自然に浸食されていく現在の禁止区域が映し出される。それはプレーヤーが「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズで見てきた風景そのままだ。

ヨーロッパ最大のゲームショー「Gamescom 2023」で「S.T.A.L.K.E.R. 2」。多くの人が期待しているタイトルだ

 「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズはまさにウクライナのキーウにあるGSC Game Worldだから開発できたゲームだった。個人や国が経験したものを形にした本シリーズはこれまでの作品ではないもので、特にヨーロッパをはじめとする西側地域に大きな衝撃を与えた。映像には「S.T.A.L.K.E.R. 2」の開発チームも多数登場する。「S.T.A.L.K.E.R.」の初期にはプレーヤーだった立場の人も多く、本シリーズで「ウクライナ」という国と歴史を世界にアピールできる作品として誇らしかったとも語っている。

 GSC Game Worldは1995年に設立。当時ウクライナにはゲーム会社もなかったような状況だったという。「S.T.A.L.K.E.R.」の開発初期はマヤ文明の遺跡を舞台に宇宙人と戦うようなコンセプトだったが、「ウクライナのゲームを」という想いでチョルノービリ原発周辺の立ち入り禁止区域を取材、この時の衝撃がゲームのコンセプトを決定づけたという。

 チェルノービリ原発事故は当時はソ連と呼ばれていたロシアのずさんな管理だからこそ起きた事件だった。開発スタッフには原発事故の対処に尽力した身内を持つ人や、自身の親がその経験をした人もいる。そしてその事件はウクライナ独立の大きな引き金にもなった。1991年、ウクライナは国として独立を果たす。

 2000年以降、チョルノービリ原発周辺の立ち入り禁止区域は許可を受けることで入れるようになった。実際この禁止区域を探索するゲーム内の「ストーカー」のような人物もいるとのこと。彼等が手放せないのは放射線量計で、被爆のリスクまで冒して探索をしているとのこと。映像ではそんな“案内人”と一緒に区域を探索したスタッフのレポートも挿入される。立ち入り禁止区域は自然が無秩序に広がっており、イノシシや野生馬も闊歩しているという。

 禁止地域は1986年のまま時が止まっている。強制的に移住させられた人々の持ち物が残っていることも多く、住人の手記などの痕跡も見ることができる。オカルト的な噂もあり謎めいた雰囲気がある。この地を探索した経験がゲーム開発に活かされていくのだ。

 2018年、GSC Game Worldは「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズの続編を発表。かつて1作目のプレーヤーだったコンセプトアーティストはその情報でGSC Game Worldの門を叩いたという。多くのスタッフが「S.T.A.L.K.E.R.」に関わりたいために集結した。「S.T.A.L.K.E.R. 2」は2021年リリースを目指し開発が進んだ。……しかし2022年2月24日、ロシアがウクライナを再び侵略したのだ。

開発チームはキーウから、そしてウクライナから離れゲーム開発を進める
兵士として戦う道や、キーウに残ることを選択したスタッフも

 ロシアのウクライナ侵略は2014年に一度行われている。ウクライナ紛争と呼ばれる戦争に続き、2022年にはロシアによるウクライナへの全面的な軍事侵攻が行われた。2011年にはその緊張が高まっていたが、ウクライナでは楽観的な人もいた。一方でエクゼクティブプロデューサーのMARIIA GRYGOROVICH氏はロシア軍の侵攻でも開発ができるようキーウからの移動計画を進めていた。「人が第一の企業」それがGSC Game Worldの理念だった。ロシアから反対のウジボドロという国境周辺の街に向け、スタッフを運べる手はずを整えていた。

 2021年末に移動計画が発表されスタッフは動揺した。大きな戦争が現代に起こる、そんなことを考える人は社内でも少なかった。一方でロシアが来てもキーウに残る、戦う、ということを選んだスタッフもいた。そして2月20日、多くのスタッフ達がウジボドロへ移動するバスに乗った。「ここには戻ってこれないかも」という悪い予感を抱えたままスタッフは大急ぎで開発機材を積み込み、バスは出発した。ウジボドロまでの道のりでスタッフ達は沈み込む気持ちだったという。

 2月21日、プーチンが演説を行い、ロシアの侵略が決定的になった。そして国境からのロシア軍の侵攻、キーウへの爆撃、ロシアからの攻撃が本格化した。キーウの人々は地下に隠れるしかなかった。GSC Game Worldは「S.T.A.L.K.E.R. 2」の開発を続行するためハンガリーへ脱出する手配を進めた。ドキュメンタリーでは侵略される母国から脱出するスタッフの苦悩と葛藤が赤裸々に語られている。

 兵士として、医療ボランティアとしてロシアの侵略と戦う道を選んだスタッフもいた。GSC Game Worldは彼等にも給料を払い続けているという。キーウやウクライナは数日で敗北すると分析した人もいたが、侵略から2年たった今でも彼等は頑強に戦い続けている。

 開発チームは、「母国が侵略されている」という現実と向き合うには「S.T.A.L.K.E.R. 2」の開発を進めるしかない。この状況下でゲームを完成させることがウクライナの抵抗の証になる。開発チームはチェコ共和国のプラハで開発環境を再構築し、ゲーム開発を進めた。

チェコ共和国のプラハで開発環境を再構築し、ゲーム開発は進められた

 「S.T.A.L.K.E.R. 2」ではロシアでの販売をしないことを宣言、ロシア語のデータをすべて削除した。この発表はロシアのファンを激怒させ、誹謗中傷やハッキング、スタッフの個人情報の拡散など悪質な嫌がらせが続いているという。

 2023年、ヨーロッパ最大のゲームショー「Gamescom 2023」で「S.T.A.L.K.E.R. 2」のプレイアブルなデモが公開された。好意的な反応を得たが改善点も指摘された。開発を続け改良をするという選択肢もあったが、正式発売日を2024年11月20日に決定した。


 かなり重い内容ではあるが、今回公開された映像は「S.T.A.L.K.E.R. 2」の生まれた環境をより深く知ることができる。彼等が本作に何を込めたか改めて深く理解できる。「S.T.A.L.K.E.R. 2」のファンはもちろん、そうでない人にも“現在世界ではどんなことが起きているか”を知ることができる映像である。ぜひ見て欲しい。