インタビュー

「S.T.A.L.K.E.R. 2」開発者インタビュー。「この世界が好きだから」、最新テクノロジーで描写される「ZONE」の世界

【S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl】

11月21日 発売予定

価格:
通常版 7,950円
Deluxe Edition 10,499円
Ultimate Edition 14,499円
※デジタル版のみ

 ウクライナのゲーム開発スタジオGSC Game Worldは、11月21日発売予定のXbox Series X|S/PC向けサバイバルホラーFPS「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl」(以下、S.T.A.L.K.E.R. 2)の体験会を行った。

 「S.T.A.L.K.E.R. 2」は、第1作「S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chornobyl」から続く「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズ最新作。本シリーズでは謎の爆発を起こしたチェルノービリ原子力発電所を中心とした半径30kmの地域が舞台となる。この地は「ZONE(ゾーン)」と呼ばれ、ミュータントが闊歩し、「アノマリー」と呼ばれる不思議な現象が起こる地になっていた。

 この地には「アーティファクト」という様々な機能を持つ物質が精製される。人々はアーティファクトを求め、ZONEに侵入し幾つもの勢力が権力争いを始めている。プレーヤーは探索者・ストーカーの1人としてこの地を探索していく。「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズはこの世界観とシビアなゲームバランスが魅力のサバイバルアクションシューターである。「S.T.A.L.K.E.R. 2」は「Unreal Engine 5.1」で世界を描写、より臨場感のあるゲームが楽しめる。

 体験会には本作を開発したGSC Game Worldからテクニカル・プロデューサーのEugene Kulik氏と、マーケティング・プロデューサーのVlad Novikov氏が来日し、ゲームの紹介を行なった。

 本稿ではEugene Kulik氏とVlad Novikov氏へのメディア合同インタビューをお伝えしたい。作り手の強い想いとこだわりが感じられるインタビューだ。

【『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl(ストーカー2:ハート・オブ・チョルノービリ)』Trailer 「The Time of Opportunities」】

最新テクノロジーで、奇妙で過酷な世界を生き抜くサバイバルホラーを実現させる

――まずは「S.T.A.L.K.E.R. 2」の発表会を開催した感想をお願いします。

Vlad氏:本日ご参加いただきありがとうございます。まだもう少し開発はかかり、今回発売を11月21日の発売となったことをお詫びします。私たちは強い愛情を持って、ウクライナへの想いを込めて、高品質の完成度の高い作品にゲームを仕上げたいという想いからです。

 そしてもちろん、こうしてメディアを通じてファンの皆さんに見ていただけることはとてもエキサイティングなことです。

GSC Game Worldからテクニカル・プロデューサーのEugene Kulik氏
マーケティング・プロデューサーのVlad Novikov氏

――「S.T.A.L.K.E.R. 2」は、当時シリーズ最新作であった「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Prypiat」が発売された2010年から、かなり時間がたちました。「S.T.A.L.K.E.R. 2」開発のきっかけはどのようなものでしょうか?

Eugene氏:「S.T.A.L.K.E.R. 2」の開発は2012年から開発が始まっています。しかし当時の技術は私たちが求める水準には到達できていませんでした。それから「Unreal Engine 5.1」が登場したことで、必要なツールが出そろった状況になりました。これにより詳細な世界を描くことが可能となり、興味深いストーリーを構築することができました。

Vlad氏:技術的な限界が、開発に時間がかかった理由です。

――発売を遅らせた理由を教えてください。

Vlad氏:我々のビジョンを完全に実現するために、もう少しだけ時間が必要でした。「S.T.A.L.K.E.R. 2」ほどの規模のゲームを開発するのは時間のかかることで、多くのパーツを並行して開発しながら進めているのですが、最終的にこれらは1つの作品になります。

 リリースが近づくにつれ、「もう少しだけ時間があればここを作り込める、ここのポテンシャルが上げられる」といったことが見えてきたので、ファンの期待に応えるためにも、延期をすることを決定しました。時間はかかってしまいましたが、待っていただく価値のあるものになったと自負しています。

Eugene氏:我々のスタジオでは「Unreal Engine 5.1」という新しいテクノロジーを活用しています。「Unreal Engine 5.1」のゲームというのはまだ出ていない、「S.T.A.L.K.E.R. 2」はこの新しいゲームエンジンをアピールできるタイトルになります。

――14年ぶりの新作ですが、シリーズとして受け継ぐ部分、変える部分の選択は難しかったと思います。シリーズの要素として伝統を守った部分と、改善した部分を教えてください。

Vlad氏:「S.T.A.L.K.E.R.3部作」には明確な特徴がありました。それはファーストパーソンシューター、そしてサバイバルホラーという点です。ですので、プレーヤーを世界に没入させる作品を目指しました。「S.T.A.L.K.E.R. 2」は最新のテクノロジーを積極的に取り込んでいますが、ゴールそのものは明確です。

 最新のテクノロジーは私たちの考える「ZONE」をより明確に表現することを可能としました。どのような世界を見せることができるか、どう感じていただくか、プレーヤーの方に是非感じていただきたいです。

「S.T.A.L.K.E.R. 2」は変貌したチェルノービリ原子力発電所を中心とした地域・ゾーンを探索するFPSシューターだ。「Unreal Engine 5.1」で世界を描写、そのリアルな世界が大きな魅力だ

――「Unreal Engine 5.1」による美しいグラフィックス、ゲーム世界での独自の生態系、生き物の営みを表現する「A-Life2.0」など、「S.T.A.L.K.E.R. 2」はたくさんの魅力的なポイントがありますが、特に見てもらいたい所はどこでしょうか?

Eugene氏:私自身もゲーマーなのですが、その視点からやはり魅力的なのは「atmosphere(環境)」です。本作の環境はストーリー展開に合わせてだけでなく、プレーヤーの行動で変化します。進行していく中に出会うキャラクター、出会い損なうキャラクターで展開は変わってきます。さらに動植物、これらもプレーヤーが選ぶルートやランダム要素で変化する。もちろん入手できる武器なども状況で大きく変化します。

Vlad氏:銃の描写は注目してほしいですね。私たちは銃が好きで、シューティングレンジで様々な銃を撃ってきて、その音を収録しました。

 私は積極的に戦闘をしないタイプのプレーヤーですが、そういうプレイスタイルでも本作の世界で生き残れる。どこに行っても良いし、誰に会ってもいい。「S.T.A.L.K.E.R. 2」は様々な生き方が可能な、間口の広い部分のあるゲームだと思っています。

 そして「サバイバルホラー」というのも魅力的なポイントですね。自分が生き残るには何が必要か、その何かを得るためには時にはリスクを冒す覚悟も必要です。「冒険を必要とするための計画」をしっかり意識する必要があります。「ZONE」に踏み出す前に、地図を眺め、バッグの中身を確認して、自分が生き残るための計画を立てる、そして「自信を持って出かける」。この感覚は「S.T.A.L.K.E.R. 2」ならではのものです。

 もう1つ、「ZONE」には大事なことわざがあります。「自信が高ければ高いほど、死ぬのが早い」。自分を過信せず、慎重で、そして大胆な行動が求められるのです。

――今回、シリーズ4作目にしてナンバリングを冠したのはどうしてですか?

Vlad:それはとてもシンプルな理由です。前作に当たる「S.T.A.L.K.E.R.3部作」は大きなタイトルではありますが、この3作で1つの作品と私たちは捉えています。一方、「S.T.A.L.K.E.R. 2」は全く新しいストーリーを全く新しいテクノロジーで描いています。これまでとは異なる新しい作品として数字を上げるのにふさわしい作品だと判断しました。

Eugene氏:一方世界観はシリーズから受け継がれています。体験会では「S.T.A.L.K.E.R.3部作」のキャラクター達にたくさん出会われたと思います。そしてゲームメカニクスは新しいものが採り入れられています。新しいアノマリー(※)、エナジードリンクを飲み続けなければ突破できない「ポピーフィールド」や、「ブルバ」といった新しい要素が盛り込まれています。

※:アノマリーとはゾーンの中にある不思議な現象が起こる場所。放電現象があったり、突然火が地面から噴き出してきたり、強い放射能があったりと危険な場所だ

アノマリーは様々な性質を持っている

――今回、シリーズのファンとしてシビアなゲーム性が受け継がれているのが嬉しかったです。一方で、今回はXbox GAME PASSにも登録され、本作に触れるのがはじめて、というユーザーも多くなると思います。初心者に向けて配慮した要素はありますか?

Vlad氏:私たちはできるだけプレーヤー層を広げたいと思っていますが、「S.T.A.L.K.E.R. 2」は万人向けのゲームというわけではありません。プレイしていてリラックスできるタイプのゲームではありませんから。それでも勇敢にこのゲームに挑戦する人のために、いくつかの難易度を用意し、プレーヤーが選ぶことができるようにしています。

 さらにこれまでにはなかった「チュートリアル」を設けました。生き残るために必要な最小限の情報はゲームを進めていけば得られると思いますが、大事なのはプレーヤー自身が積極的に探索し、「自分のプレイスタイル」を見いだしていくことです。積極的に戦闘を行なうか、別の方法を探すか、様々なことを試していただきたいです。

――「S.T.A.L.K.E.R.3部作」はメインストーリーだけをクリアするならばプレイ時間そのものはそこまでかかるものではありませんでした。「S.T.A.L.K.E.R. 2」はどのくらいのプレイ時間を想定していますか?

Eugene氏:「S.T.A.L.K.E.R. 2」には多くの"枝"が設定されています。物語は様々な所で枝分かれし、1つの結末にたどり着きます。最初のプレイでは20~40時間ほどで何らかの結末に到達できると思います。そしてゲームのすべてのナラティブをカバーしたい場合、100時間、あるいはそれ以上かかると思います。

――アノマリー「ポピーフィールド」では"幻聴"が聞こえてきます。これはこの世界の不思議な空間である「アノマリー」の現象と理解していいのでしょうか。死者の声が聞こえるような、オカルティックな要素ではなく、あくまでこの世界ではアノマリーならではの不思議な体験、ということでしょうか? いきなりオカルト要素を入れるとファンはがっかりすると思うので、その確認をさせてください。

走破するにはエナジードリンクが大量に必要となる「ポピーフィールド」、幻聴も聞こえる

Eugene氏:間違いなくアノマリーです。アノマリーはそのように不思議なことが起こります。ポピーフィールドなどのアノマリーは"パズル"となっています。解法があり、安全に解き明かせばフィールドにあるアーティファクトを安全に入手できる。

 パズルに関しては全くガイドがありません。これらをどう解き明かしていくか、ゲーム内の様々なメカニクスを駆使し、プレーヤーの試行錯誤や、ゲーム内で得られる情報を当てはめて解いていきます。得られるアーティファクトが有用なものか、そうでないかもヒントはありません。

Vlad氏:先ほどのオカルト要素に関してですが、「S.T.A.L.K.E.R. 2」はSFであり、ファンタジーではありません。幻聴は死んだ人・ゴースト(幽霊)がいて、彼等がささやいている、というわけではありません。「S.T.A.L.K.E.R. 2」でのほとんどの現象は科学的に説明ができますが、ゲーム内のキャラクターはその現象に恐怖を感じたり、誤解してしまうということです。

――改めて、今作の時系列を教えてください。3部作の時代からどのくらい離れているのでしょうか?

Eugene氏:ほぼ我々と感覚が近いです。「S.T.A.L.K.E.R.3部作」はリリース時期と同じ2010年頃の時代設定であり、「S.T.A.L.K.E.R. 2」は現代、前作からおよそ10年以上が経過した時代を扱っています。前作から10年以上たっていることで廃墟となった世界と、現代のテクノロジーのコントラストがこれまで以上にはっきり見せられると思います。

 「S.T.A.L.K.E.R. 2」には前作以上に現代のデバイスが出てきます。ラジオから音楽も流れたりします。「S.T.A.L.K.E.R. 2」は大昔を扱ったというわけでも、遠い未来でもなく、ちょうど良い時代感覚が描けたと思っています。

――今回、日本語でのサポートが早い段階でアナウンスされ、1プレーヤーとして安心しました。スムーズな日本語サポートを実現できた理由を教えてください。

Vlad氏:今回、世界で人気のある言語はすべてターゲットとするようにしました。ボイスオーバーに関してはウクライナ語です。こうすることで雰囲気がよりリアルになるからです。そして:「S.T.A.L.K.E.R.3部作」の反応が良かった国はサポートに含めました。

 日本では「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズは比較的新しいフランチャイズですが、非常に熱心なファンが多く、その人達の期待に応えたかったのです。

Eugene氏:今回の「S.T.A.L.K.E.R. 2」はナラティブ、物語が非常に面白いものがたくさん盛り込めました。だからこそできるだけ多くの人に遊んで欲しいと思っています。

Vlad氏:「S.T.A.L.K.E.R.3部作」と「S.T.A.L.K.E.R. 2」の違いと言えば、「S.T.A.L.K.E.R. 2」はよりストーリーテリング、映画的展開を重視した作品と言えます。ゲームプレイと共に、ストーリーを楽しんで欲しいです。

――続編になり大きく世界観やシステムが変わるゲームも多いと思いますが、「S.T.A.L.K.E.R.」チームはZONEであり、アノマリーがあるこの世界をひたすら作り込んでいます。「S.T.A.L.K.E.R.」の世界にこだわり続けるのは何故でしょうか?

Eugene氏:「この世界が好きだから」というのが最大の理由です。私たちは現実のチョルノービリの立ち入り禁止地域を何度も訪れ、取材を重ねています。ゲームの中に登場する様々なもの、小道具、動植物、風景……これらは実際に現地にあったものです。私たちが現地で写真を撮り、それをスキャンして使用しています。

Vlad氏:もちろんこのフランチャイズを拡大したいという野心は持っています。新しいメディア、新しいジャンルで表現したいという想いもありますが、しかし今は「S.T.A.L.K.E.R.3部作」が出てから10年以上がたち、今の最先端技術やゲームメカニクスを活用し、しっかりとした基盤を築く事が大切だと思っています。廃墟がそのままならば、ゲーム内の世界でもそのまま。「S.T.A.L.K.E.R. 2」は、あの世界に再び帰ることができる作品です。

地形、植物相、廃墟の雰囲気など「S.T.A.L.K.E.R. 2」のフィールドは熱心な取材で生み出されている

――今回気になった点ですが、はしごなど先に進むポイントを目立たせるために黄色いペンキが塗られていますが、昨今では「ゲーム的すぎる」と嫌う人もいます。この目立つ印のON/OFFをできる機能などはありますか?

Vlad氏:現在実際に遊んでもらうプレイテストを繰り返しています。ガイドのON/OFFを選べれば素晴らしいとは思いますが、よりプレイしやすいゲームとしてガイドは表示する方向で調整しています。チャレンジはゲームのルールで行なうものであるべきで、インタラクションの方法論でのチャレンジではないと考えています。「S.T.A.L.K.E.R. 2」ではどうすればいいか、そこも議論していただければと思います。

――ほかにもアピールしたい部分はありますか?

Vlad氏:今の質問で、「ZONEのモンスターを黄色くピックアップするのはどうかな?」と考え始めました(笑)。もちろん冗談ですが、私たちは困難な開発環境の中、「S.T.A.L.K.E.R. 2」に情熱や魂、すべてを注ぎ込んで開発をしています。気に入っていただければ幸いです。「S.T.A.L.K.E.R. 2」の世界に、皆さんを喜んでお迎えします。

Eugene氏:私も同意見です。付け加えるならば私たちは誇りを持ってこの"ドリームプロダクト"に注力をしてきました。そして皆様にお見せできたことに喜びを感じています。このゲームのメカニクスとストーリー、複雑で巨大でアメージングな「S.T.A.L.K.E.R. 2」をぜひ皆様で楽しんでいただければと思います。

Vlad氏:私たちは日本も含めた全世界のファンからサポートを受けています。改めて皆様に感謝します。

――ありがとうございました。