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「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl」レビュー

没入感の高い冒険が楽しめる、間口が広く進化したサバイバルシューター

【S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl】

発売元:セガ

開発元:GSC Game World

11月21日 発売

価格:
通常版 7,950円
Deluxe Edition 10,499円
Ultimate Edition 14,499円

 11月21日、「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl(ストーカー2:ハート・オブ・チョルノービリ)」がついに発売された。本作はGSC Game Worldが14年ぶりに開発した「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズ最新作だ。

 「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズでは、「ゾーン」と呼ばれる世界が舞台となる。ゾーンは1986年に原子力発電所が事故を起こし、閉鎖されていたチョルノービリ原発の周辺地域が2006年に再度謎の大爆発を起こし、「アノマリー」という不思議な空間や、異常な姿に変貌したミュータントが跋扈する世界「ゾーン」になってしまった。ゾーンの面積はおよそ64平方キロメートル。壁によって閉鎖され侵入は困難だ。

 しかしゾーンには大きな秘密が眠っている。特に不思議な空間アノマリーの中にはこの世の物理法則を変える謎の物質「アーティファクト」が生まれるのだ。このアーティファクトを求め、禁止されているゾーン侵入、探索する「ストーカー」という人々が生まれた。ほかにも様々な人がゾーンの秘密を手にするためこの地域に流入した。彼等は派閥を形成し対立を繰り返している。

謎の爆発の後、変貌したチョルノービリ原発の周辺地域を旅するのが「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズの面白さだ

 「S.T.A.L.K.E.R. 2」での主人公はスキフという男だ。スキフは、ある機械での調査を依頼されゾーンに侵入するが、謎の一団に襲われすべてを奪われてしまう。彼は自分を襲った犯人を追いながらゾーンを旅し、やがてこの世界の大きな流れに取り込まれていく……。

 「S.T.A.L.K.E.R. 2」はサバイバルオープンワールドシューターだ。プレーヤーはスキフとなってゾーンを旅していく。ゾーンはいたる所が放射能に汚染されていて、ミュータントが跋扈する。しかもこちらを襲う強盗や、排除しようとする軍人が闊歩している。武器や弾丸は希少で、食べ物や回復薬も必要となる。「S.T.A.L.K.E.R. 2」は歩き回るだけでも必死になるような難易度の高さがある。

 ……しかしこのギリギリの感じがたまらなく面白いのだ。ゾーンは謎に満ちた世界であり、Unreal Engine 5で描き出された世界は美しく、恐ろしい。アイテムの有効な使い方を学んだり、モンスターへの対処法がわかってくるなど、プレーヤー自身がこの過酷な世界を生き抜く力を獲得していく"体験"は本シリーズならではだ。しかも最新作である本作ではプレーヤーのゲームの理解度に合わせたバランス調整が行われているだけでなく、序盤から強めの装備が手に入ったり、間口を広げる工夫をしていて、今作がシリーズ初挑戦という人にもオススメだ。それではゲームの魅力を紹介していこう。

【サバイバルホラーFPS『S.T.A.L.K.E.R.2: Heart of Chornobyl』ゲーム紹介トレーラー】

見ることでゲームにより深く没入できる制作ドキュメンタリー

 「S.T.A.L.K.E.R. 2」の最大の魅力はやはり「ゾーン」の描写だ。1986年の原発事故によりチェルノブイリ原発周囲に住んでいた人々達は強制的に移住させられた。それこそが命を守る行動ではあるが、結果として多くのものがそのまま放棄され、この地域は1986年という時代のタイムカプセルのように時の止まった世界になった。

 「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズは現実に存在しているチョルノービリ原発周辺の立ち入り禁止区域を実際に取材して製作されている。そしてこの地域にはゲームの「ストーカー」と呼ばれる人達のように、この地域を探索しガイドをしている人もいる。放射線量計を肌身離さず身につけ、この地域を探索したいという人を案内するのだ。

 「S.T.A.L.K.E.R. 2」製作のドキュメンタリー「War Game: The Making of S.T.A.L.K.E.R. 2」では、現実に存在するチョルノービリ原発周辺の立ち入り禁止区域を探索する様も収録されている。ゲームのゾーンと違い不可思議な現象は起きないものの、そこには"何か"があるような、独特の雰囲気を感じることができる。ドキュメンタリーではロシアの侵略により戦争に引きずり込まれるウクライナの中で、このゲームがどのように制作されたかも描かれる。「S.T.A.L.K.E.R. 2」をプレイするのに必見な映像となっている。

【War Game: The Making of S.T.A.L.K.E.R. 2 Documentary】

謎に満ちた世界、ゾーンを探索せよ!

 ゾーンは危険で、魅力的で、そして不思議な空間だ。放棄された様々な施設があり、家々がある。放棄されたゴミの中には放射線が強いものもあり、うっかり近づくと被曝の可能性がある。建物は草に覆われ、荒れ果てている。

元は放棄された建物だが、ゾーンでは様々な勢力の人々が利用している

 「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズでは2006年の謎の爆発により、ゾーンは生まれた。「アーノマリー」と呼ばれる、空間が歪んだような不思議な場所があちこちに点在するようになる。アーノマリーには道ばたの小さなものから、数十メートルに及ぶ大きなものが存在し、その様相も様々。空間が歪み近づくと引きずり込まれるもの、毒ガスを発するもの、炎を噴き出すもの……。物理法則を越えた現象をそこかしこで見ることができる。

 特に大きなアーノマリーは圧巻だ。周囲が電撃を放っていたり、炎を吐き出しているだけでなく、ガレキが巻き上げられ渦を巻いていたり、巨大な空間の裂け目が鳴動しているように見えるものもある。「S.T.A.L.K.E.R. 2」では「ポピーフィールド」という新しいアーノマリーも登場した。真っ赤なポピーが咲いている場所で、ここに長く留まると眠くなり、そのまま居続けると永遠に眠り込んでしまうと言う恐ろしい空間だ。

【アーノマリー】
小さなアーノマリーは道ばたなどそこかしこにある。これは空間が歪むアーノマリー。気がつかず触れてしまうとダメージを受けてしまうことも
重力が歪み、ガレキが空に舞い上がっているアーノマリー
周辺に電撃が走っているアーノマリー
巨大な空間の裂け目が呼吸しているかのように動くアーノマリー。近づくと引きずり込まれてしまう

 しかしこの恐ろしいアーノマリーこそが多くの人を魅了するのだ。大きなアーノマリーでは「アーティファクト」という希少物質が生まれる。このアーティファクトを探すためにストーカー達は探知器を持ち歩いている。アーノマリーは危険な空間であり、ストーカーは「ボルト」を投げ危険地域を確認しながら深く分け入っていき、探知器の示す場所にたどり着くことでアーティファクトを手にできる。

 アーティファクトは希少物質と言うだけでなく、重量を軽減したり、電撃ダメージを防いだりと様々な力を持っている。しかし多くのアーノマリーは放射能を帯びており、身につけていると被爆してしまう。しかし中には放射能を低減するアーティファクトもある。これらを組み合わせることで放射能の影響を受けずに様々な効果を得ることができる。

 そしてアーティファクトはゾーン内でも高く売れる。武器に弾丸、食料、薬、装備の修理費などゾーンの探索にはクーポン(お金)は必須だ。アーノマリーは危険であるがその危険を冒してでもアーティファクトを得る価値はある。「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズの醍醐味はこのトレージャーハントにある。探知器を片手に危険なアーノマリーに突入するのは、ゾクゾクする緊張感が味わえる。

【アーティファクト】
探知器を使ってアーノマリーでアーティファクトを探す
アーティファクトは様々な形がある
アーティファクトは放射能を帯びており、身につけるためには放射能を低減させるアーティファクトと併用したいところだ

 ゾーンは生物たちを歪ませる。イノシシは現実のものより大きく凶暴になっている。そしてゾーンで数多く存在する脅威は「犬」だ。ミュータント化した犬は集団でプレーヤーを襲う。さらには体を透明化しそのかぎ爪で襲いかかってくる「ブラッドサッカー」といった強敵もいる。

 しかも敵はミュータントだけでない。ゾーン内には犯罪者や通常の世界では生きれなくなった人達が逃げ込み盗賊としてと旅人を襲うだけでなく、この世界を軍事力で支配しようという軍人も襲いかかってくる。多くの敵がいる中で、ストーカー達は独自のコミュニティを形成しているが、その派閥もある。ゾーンでは幾つもの勢力が対立した社会を形成している。

【敵達】
集団で襲いかかってくるミュータント犬
巨大なミュータントイノシシ
姿を消し近づいてくる強敵ブラッドサッカー
人間を操りこちらを襲わせるという、驚くべき能力を持つコントローラー
こちらに敵対的な人間も多い
倒れた敵は物資の補給先として非常に有用だ。ちなみにミュータントからは何も得られない

 プレーヤーキャラクターであるスキフは自分が何を調査していたか、何者に襲われたかを探すうちにこの世界に深く関わっていくこととなる。1つの勢力に肩入れすることは他の勢力と対立することでもある。スキフは旅を続けるうちにゾーンの命運を左右する存在となっていくのだ。

装備を調え、ゾーンでタフに生き延びろ!

 「S.T.A.L.K.E.R. 2」はオープンワールドサバイバルシューターである。常に多対一の戦いを強いられるので慎重な戦いが求められる。難易度調整も可能なので、本作がシリーズ初挑戦という人には「ルーキー」でゲームを始めるのがオススメだ。

【広大な世界】
広大なマップを旅する楽しさ。メインストーリーによる導線は引かれているが、どこへ行くのも自由である

 今作はかなり間口の広いゲームバランスになっている。イベントで強力な装備が手に入りやすくなっている。本作は「アップグレード」という要素があり、一般的な装備でもアップグレードをすることで非常に強力な装備となる。これらを活用することで探索や戦闘に有利に立ち回れる。修理も重要だ。疲弊した武器は頻繁に弾詰まりを起こすので、特に武器はメンテナンスを心がけていなくてはならない。

 また、予約特典や、アルティメットエディションで入手できる「ジャーナリストの隠し場所」では軽量で強力なアーマーが手に入る。「ジャーナリストの隠し場所」は序盤の地点から至る所に隠されているので、優先的に探したいところだ。一方で特殊な装備は修理費がかなり割高になり、ミッションクリアで得た資金がどんどんけずられるという弱点もある。

【様々な回復】
瞬時に体力を回復してくれる応急キット
包帯は回復量は少ないが、出血ダメージを止める
歩いたままソーセージを噛みちぎる。これがストーカーの食事の流儀だ
眠気を誘うポピーフィールドでは、エナジードリンクが必須だ

 序盤では特に「回復薬と食料が足りない」という気持ちが強くなる。ソーセージやパンをかじってもすぐに空腹マークが出てしまう。さらにダメージを受ける場面が多く、回復薬を頻繁に使っていくので「手持ちでは足りないのではないか?」という不安は大きくなる。しかししばらくゲームを進め探索をこまめにしていれば、回復薬や食料はたっぷり手に入るので、不安は杞憂に終わる。

 放射能地帯に踏み込んでしまったときはウォッカを飲めば放射能が除去できるというのも面白い。歩きながらパンや缶詰を喰い、放射能地帯に足を踏み入れてしまったらウォッカを瓶のまま飲む、というかなりワイルドな行動が、ストーカーらしさというところだろうか。

 回復システムも独特だ。銃に撃たれたり、犬に噛まれたりするとキャラクターは「出血ダメージ」を受ける。回復薬には「回復キット」と「包帯」の2種類があり、包帯は回復量は少しだが出血効果を止められる。回復キットは大量に体力を回復してくれるが出血効果を直せないため、継続ダメージを受け続けてしまう。

 さらに敵から逃げようと走ったりすると回復アクションや武器のリロードといった行動がキャンセルされてしまう。敵との距離を取ったり、複数の敵と戦うときは遮蔽物に隠れてしっかり回復することが大事だ。

 「S.T.A.L.K.E.R. 2」のフィールドではミュータントやNPCは「A-Life 2.0」という独自のAIで制御されている。このためプレーヤーのいない場所でも偶発的に戦闘が起きたりしている。また敵と戦闘中、NPCが加勢してくれたりもするのだ。敵に追われているときに技と敵対勢力に飛び込み、戦いあってる中で両者を仕留めるといった戦略も有効だ。

【争う敵同士】
フィールドではA-Life 2.0でプレーヤーがいないところでも戦いが繰り広げられている

 そしてゲームになれてきたプレーヤーを苦しめるのが「重量」である。「S.T.A.L.K.E.R. 2」では重量制限が厳しく、複数の武器を常に持ち歩くことはできない。ゲームが進んで装備が充実してくると、今まで必死にかき集めてきた物資が重くなってくる。貴重だった食料や回復薬すら手放して身軽さを追求する場面も出てくる。

 しかし敵が落とす武器やアイテムは貴重な資金源でもあるのだ。このため戦闘が終わると敵が落とした武器を1つ1つ検討し程度の良い武器を拾い集め、重量制限ギリギリの足の遅い状態で拠点まで戻り武器を売り払うという行動が有効になる。また拾った武器はサブメニューから「抜き取る」を選んで弾丸を抜き取るのも賢い行動だ。売り払えない程度の低い武器も弾を得る貴重なリソースなのだ。

 そしてキャラクターの成長要素は「武器のアップグレード」で実現している。「S.T.A.L.K.E.R. 2」の武器や装備は、重量を低減させたり、反動を減らすなど様々なカスタマイズが可能になっている。これらはかなりのお金を使うことになるが、敵が落とした武器でもアップグレードを重ねることで貴重な愛銃に成長する、といった独特のドラマ性が生まれる。入手できる武器は多いが重量制限もあり、メインウェポンとして使い続ける武器は限られることとなる。アップグレードしていくことで思い入れは深くなるだろう。

【武器のアップグレード】
武器や装備には細かいアップグレード項目があり、標準的な装備もアップグレードで強力なものとなる

広大なゾーンを旅し、ストーカーになりきる楽しさ

 スキフは"機械"を持ってゾーンを訪れた。この機械でゾーンの調査を行っていたが、謎の一団に機械を奪われ、ゾーンに放置されてしまう。スキフの旅の大きな目的はこの奪われた"機械"と謎の一団の正体を追うことだ。この旅の中でスキフは様々なことを学んでいく。ゾーンの歩き方、物資の確保の方法、ミュータントの対処法、アーティファクトの入手法……。それはプレーヤー自身がこの世界に順応し、ゾーンでの冒険者、ストーカーになったかのような気持ちにさせてくれる。これこそが「S.T.A.L.K.E.R. 2」の本当の面白さだろう。

 最初は「ルーキー」として軽んじられ、時には騙されて痛い目を見たり、偶然思わぬ宝物を得たりする。本作には無数のサブミッションや探索要素があり、オープンワールドならではのフィールドを自由に旅し、様々なイベントに遭遇する楽しさがある。時には全然対処法がわからず這々の体で逃げたり、死んでしまって再スタートでは近づかない、といった場所もある。

【クエストと選択】
様々なキャラクターと出会い、スキフの選択が物語を分岐させていく

 本作はメインストーリーのみを進めても20時間以上かかるという。筆者は数十時間プレイしているが、探索、サブミッションもたっぷり楽しんでいるので、まだまだ道半ばだ。「S.T.A.L.K.E.R. 2」は4つのエンディングが用意されており、ゲーム内の選択肢で分岐していく。敵を殺すか、見逃すか、どちらの勢力に取り入るように動くかなど、いくつか決断しなくてはいけない場面があり、複数プレイしなければその全貌は見えてこない。たっぷりと楽しめるゲームである。

 「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズはサバイバル要素が強く、ハードルが高いところがあるが、「S.T.A.L.K.E.R. 2」は間口が広い作品になっており、シリーズ初心者にもオススメできる。同時にこれまでのシリーズをプレイした人、難易度の高さに投げ出した人にもぜひ本作に触れて欲しい。アップデートされたゾーンは、地形や建物などはこれまでのシリーズの面影を強く残しており、プレイした記憶を刺激してくれる。

 ゾーンの勢力図の変遷、これまでの主人公達がゾーンの秘密に迫った結果、何があったか? そして住人達はどう変わってしまったのか? 本作が初挑戦の人もこれまでのことを知りたくなるだろう。

【様々な驚異が待っている】
ゴミが積み上がったボタ山はストーカー達の拠点となっている
小さな家にもドラマが待っているかもしれない。近づく前にセーブを忘れずに
ストーリーが進むと探知器がアップグレードされ、アーティファクトを見つけやすくなる
空が真っ赤に染まる「光熱放射」。この現象が起きているときは建物に避難しないと死んでしまう
遠くに原発が見える
近づくと幻の兵士に襲われる「石の村」
放棄された施設には、秘密が眠っている
小さな穴の中にはストーカーが隠した宝を発見することも
ストーリーや演出は今作でかなり強化されている
ふわふわ浮かぶ謎の玉。近づくと毒のダメージを喰らう
放棄された船の中にストーカーの街がある。これまでのシリーズで見慣れた景色だ
様々な勢力の思惑が交差する。スキフはどのような役割を果たすのか

 これまでの3部作を「S.T.A.L.K.E.R.:Legends of the Zone the Zone Trilogy」でプレイした筆者にとっては「S.T.A.L.K.E.R. 2」で心置きなくゾーンを探索できるのが何より嬉しかった。これまでの作品は難易度や、ゲームシステムでとっつきにくいところがあった。今作は様々な点でアップグレードされ、表現、演出共に向上しているのがわかった。これまで以上にストーカーになりきれる作品だ。

 「S.T.A.L.K.E.R. 2」は強力な装備が手に入るイベントや、バランス調整、自分なりのカスタマイズができる装備など様々なポイントでプレイしやすいゲームとなっている。探索をこまめにすれば充分な資材が入手できる。

 加えてムービーシーンや、細かい表情描写といった演出でNPCに対しての思い入れも深くなっており、物語に没入しやすくなっている。駆け出しのストーカーでしかなかったスキフが世界の命運を握るようになる、そのダイナミックなストーリーの楽しさを、ぜひ体験して欲しい。