インタビュー

「3D エコー・ザ・ドルフィン」インタビュー

丁寧なローカライズが生んだ3D立体視化に伴う困難とは!?

右より奥成氏、長谷川氏、堀井氏
6月26日 配信

価格:600円

CEROレーティング:A(全年齢対象)

 ニンテンドー3DSで展開中の「3D復刻プロジェクト」第5弾「3D エコー・ザ・ドルフィン」が6月26日に配信される。価格は600円。

 今回も本プロジェクトのプロデューサーであるセガの奥成洋輔氏、開発を担当したM2の堀井直樹氏に加え、ゲストとしてオリジナル版「エコー・ザ・ドルフィン」のローカライズを担当した長谷川亮一氏にもご同席いただいたので、「3D エコー」の開発エピソードを中心に、メガドライブ版当時のエピソードなど、ネタバレを含むが、盛りだくさんでインタビューをお届けする。

 また、同時に発表された次回作「3D ギャラクシーフォースII」に関しても、コメントを頂いた。最後までご覧頂きたい。

「最後まで遊んで欲しい」からこその「スーパードルフィンモード」

今回の「SPECIAL」は「スーパードルフィンモード」

奥成氏:まずはできたばかりの「3D エコー・ザ・ドルフィン」をプレイしていただけますか? 無敵で息継ぎの必要のない「スーパードルフィンモード」でプレイしてもらうのがいいですね。

堀井氏:オリジナルは普通にクリアするのが難しいゲームだったので、こちらの方がいいと思います。

――うーん。立体視になるとやはり違う気がしますねー。単に立体視になったから、じゃないですよね。これ。違って見えるというか。

奥成氏:昔、メガドライブのゲームを初めて見たとき、背景が2重スクロールになっただけでも感動したじゃないですか。「アレックスキッドの天空魔城」で「凄い! 背景が2重スクロールしてる。うれしい!」って。家庭用ゲームソフトでも2重スクロールの奥行きのある演出が味わえた、という技術方面での進化の感動。3DSの立体視というのは、当時のそれに近い感じかなと。

堀井氏:たぶん、それに近い感覚な気がしますね。

――水の表現が、すごく綺麗に感じられます。目の錯覚かなとも思うんですが。絵はそのままのはずなのに「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のときも、単純に空が綺麗だな、と思ったり。

堀井氏:空間を感じるからだと思うんですよね。

奥成氏:迷路の移動は、「アリの巣」を横から見る感覚ですね。今回「スーパードルフィンモード」を使えば、時間制限無しで、じっくりと迷路を探索できます。ただ、なんでも簡単にするというところまではしていなくて、無敵にしても謎解きはそのままですので、パズル部分をゆっくりとお楽しみいただけます。

――ラスタースクロールが綺麗ですねー!(以下もくもくとプレイし続ける)

奥成氏:メガドライブのスクロール機能の綺麗さがもともとあったので、それが気持ちいい効果を生んでいるのではないかと。

――いやー、普通に楽しんじゃいました(……そこに長谷川さんが登場)。

長谷川氏:どもー。

【長谷川亮一氏】

「エコー」といえばこのメッセージ。「体力を回復するにはエサを食え」というセリフを日本版で「こざかなは おいしい」と訳したのは長谷川氏である

 1992~1998年、2007~2012年の2回に渡りセガに在籍。現在はソーシャルアプリケーションの開発を手掛けるクルーズ株式会社にてプランニングとローカライズを担当。

 入社して最初に配属された「企画制作部」は国内外の様々なサードパーティーのタイトルを取り扱う部署だったが、ここで最初に担当する事になったのが「エコー・ザ・ドルフィン」。このタイトルの日本版をリリースできたのがセガ時代を通じて最大の功績だと自認している。
(ちなみに2番目は当時海外版の作詞で参加していた「バーニングレンジャー」の主題歌「Burning Hearts ~炎のANGEL~」のコーラス部分を「Sight of night I cheer to embrace a magic」という歌詞にし、各単語の頭文字をつなげて読むと…というネタを仕込んだ事)

 なお、長谷川氏の「エコー」に関してのインタビューは、セガ公式サイトの「名作アルバム」にて語られている。未見の方は、本稿をご覧頂く前に、1度目を通していただきたい。

 ちなみに、セガ時代にも、弊誌のインタビューなどに登場していただいている。

手付けによる深度情報が加わり、立体感が増した「3D エコー」

奥成氏:今回はゲストとして、オリジナル版の開発に参加された長谷川さんにも来ていただきましたので、長谷川さんにも触っていただきながら、お話を始めましょうか。

長谷川氏:(さっそくプレイしながら)おー、タイトルの文字が浮き出してる! さすが! おぉ、水面が奥行きのある平面になってて、そこからエコーが顔出してる感じが出てますね。水面をこんな風に意識した事無かったなぁ。ジャンプするとホントに奥行きがあるように感じる。気持ちいい! ところで、「スーパードルフィンモード」ってなんですか?

奥成氏:エコーを誰にでも楽しんでもらうための超・無敵モードです(笑)。

長谷川氏:無敵の時のエフェクトが、エコーの周りにキラキラしていて、本当に体の周りを取り囲んでるように見えますねぇ。へなちょこフォントがそのままだ(笑)。(当時)「一太郎」を使って手書きで書いたフォントに、向こうのスタッフがグラデーションをつけちゃったんで、すごくヘンな感じに(笑)。

奥成氏:長谷川さんは開発者であると同時に、「エコー」を最も愛している1人ですから、お見せできて光栄です。

――さて、第5弾が「エコー」ということで、またまた意外だと思ってらっしゃる方も多いと思うんですが。

奥成氏:メガドライブタイトルの人気タイトルを選んでいくと必然的に2D横スクロールタイトルが中心になりました。アーケードでは3Dタイトルを中心に選んでいるので、メガドラなら横スクロールものをやりたいとは考えていたんですよ。「3D ソニック」があって「3D 獣王記」があってと。それから、「3D復刻プロジェクト」の裏テーマとして、「もう1度このゲームをチャレンジしてもらいたい」というものもあって。3D立体視に対応させることで、新鮮な感覚で遊んでいただくというのはもちろんなのですが、「3D スペースハリアー」の時に確信した、「ハードルを下げる」ということもありまして。

 そういったことを検討していく中で、「エコー」はもともと難易度がとても高いゲームだったということもあったので「難易度を下げたら、今度こそ最後まで遊んでもらえるのでないか?」ということがあったんですね。

堀井氏:遊びきっている人が少ないだろう、ということで、そこをフォローする意味で「エコー」を選んだという趣旨ですね。

奥成氏:「エコー」って、動いている時の気持ちよさ、見た目の美しさというところがメガドライブタイトルの中でも特に印象が強かった。水の表現が際立ってよかったので、「これは3D立体視で見てみたいよね」ということもありました。その一方で、実際にオリジナルの制作に関わった長谷川さんが目の前にいるのに言いづらいんですが(笑)、「エコー」って、実際に最後まで遊んだ方は少ないんじゃないかと。最初のステージで、気持ちよく飛び回っているだけで満足するのも1つの楽しみ方だとは思うんですが、実は後半すごいシナリオが展開していって、どんどんとんでもない方向に物語が進んでいくんですが、体験者が少ないんじゃないかと。

堀井氏:そこを見て欲しいですね。

奥成氏:「3D復刻プロジェクト」のコンセプトは、オリジナルが持っていた気持ちよさを3D立体視で表現することと、ハードルを下げるという2点ですね。今回の「3Dエコー」の場合、まず難易度を下げるという部分では、まず、「エコー」の最大の弱点だった息継ぎをしなくてもいい、“魚類になったエコー”にしました。

 オリジナル版の裏技にあったデバッグモードにも「UNLIMITED LIFE」という機能があって、単に敵に当たっても平気にできたんですが、今回の「スーパードルフィンモード」では、さらに進めて、常に無敵アイテムを取った状態にしています。具体的には、敵に触れるだけで敵をやっつけられて、障害物に触れれば障害物が壊れます。これで、謎解き要素に集中して遊んでもらえるのではないかと。

 謎解きに関してはオリジナルそのままなので、貝殻をぶつけないと壊せない崖とか、岩を使わないともぐれない水流のある海底だとかは、同じように進めていただく必要があります。でもオリジナルでは、このアクションパズルの部分を2~3回ミスしている間に、酸素がなくなってミスになってしまっていたんですが、それが無くなった。

堀井氏:純粋にアクションパズルを楽しんでいただければ。オリジナルを“積みゲー”にしちゃって20数年経ってしまっている方にも、これなら遊べそう、というところまでハードルを下げようと。

長谷川氏:(プレイしながら)うーん、確かにヒトデを音波で誘導して岩を壊すパズルとか、これを今の時代に酸素の時間制限アリでプレイするのは厳しいだろうなぁ。「スーパードルフィンモード」は良い判断だと思いますよ。

奥成氏:アドベンチャーゲームとしての「エコー」も、もっと楽しんでもらいたいんですよ。今なら、ネットで動画を見たり、長谷川さんのインタビューがうちのサイトに掲載されたりしているので、情報としては知っていると思うんですが、いざ最後まで遊んだ人というのは、日本に何人いるんだろう? と。「3D エコー」で今度こそ自力でエンディングを見たい、見てみたいと思ってもらえるといいなと。

堀井氏:「途中セーブ」を使えばずっとプレイできますしね。そういえば、メガドライブ版って、日本ではどれぐらい売れたんですか?

長谷川氏:たしか、日本では7万本ぐらいだったかな。

「『エコー』は海が綺麗で気持ちいいゲーム」という印象を持つ方は多そうだが、最後まで体験できた人は……

堀井氏:だとすると、クリアした人って4ケタいるかいないかですね。おそらく。ほとんどの人は「海が気持ちいい」で終わってる可能性がある。

――僕もその「海が気持ちいいゲームだな」レベルで止まっていた1人です。

長谷川氏:だけど、あの当時って、ゲームを買ったら最後まで必死こいて遊んだじゃないですか? だから、クリアした人は3ケタってことはないだろうと。でも5ケタでもないだろうなぁ。

堀井氏:僕も途中でメゲましたね。

奥成氏:とにかく「エコー」で1番苦労したのが、「酸欠」ですよね。

一同:うんうん。

奥成氏:酸欠が無くなっただけで、とにかく移動がバツグンに快適になりましたので、是非体験してもらいたいです。

――「3D復刻プロジェクト」だからなんですね。「バーチャルコンソール」のときはここまで手を入れませんでしたよね?

奥成氏:VCは「当時のものを限りなくそのままで提供する」というコンセプトがはっきりしていて、何も足さない、何も引かないということがありますので。去年リリースした「SEGA AGES ONLINE」では、新しい遊びを提案してみたり、オリジナルのゲームを極めていくために、スコアアタックを入れてみたり、「競争してください」というコンセプトでしたが、途中セーブができる以外のことは基本的にしていませんでした。

 今やっている「3D復刻プロジェクト」では、携帯ゲーム機への移植ということで、オリジナル通りのコントローラーでないこと、そして電車の中などでも遊んでいただけるよう、面白さを残しつつできるだけハードルを下げる、という考えでやっています。「3D ソニック」も「セーブを繰り返して初めてクリアした」というお客さんがいらっしゃって……ちょっと遊んですぐにセーブしてということを繰り返していけばいつかクリアできる。「3D エコー」も遊びやすくしたので、そういった感じで遊んでいただければ。美しい背景もじっくり鑑賞できますよ。

長谷川氏が絶賛した「タコ」のグラフィックス。青系統の色が主体の「エコー」において、特殊な色合いのキャラクターの代表格

長谷川氏:(プレイしながら)水流の泡とか手前のサンゴとかの動きがキッチリ3Dに対応してますね。「3D スペハリ」とか「3D スーパーハングオン」みたいな派手さは無いけど、ちゃんと海水で満たされている洞窟を泳いで移動している感じがします。おぉ、今見ても相変わらずタコのグラフィックスは美しいなぁ。

――(笑)。

奥成氏:タコの美しさは3D関係ないですけどね(笑)。もうタコまで来ましたか。さすが!

3D立体視用の「エコー」専用マップエディターを制作!

途中から登場する「迷路」。背景はBG1枚絵で、当たり判定をつけて行動範囲を制限する作りになっていた。「3D エコー」では、これに手前の岩の部分と奥の壁に深度情報を付けることで立体視に対応させている

奥成氏:というわけで「難易度を下げよう」という部分に関しては、割とうまくいったんですが、「3D立体視」に関しては、やっぱり今回も最初は「やってみたらイマイチだった」んですよ(笑)。

堀井氏:「3D ソニック」のときもそうでしたが、「エコー」も最初のROMを見せたときは「やめましょう」と言われるレベルでしたね。

奥成氏:「3D ソニック」のときにお話しましたが、メガドライブのスクロール面を多重スクロールにしたことで、3D立体視に対応させたときに、立体感が出たんですよね。「エコー」も最初は、「おお、なかなかいいじゃん」と思ったんですが、ちょっとゲームを先に進めて、海底の中で迷路が出てくると、途端に立体感がなくなっちゃったんです。

堀井氏:背景が1枚しかないところが出てきますから。

奥成氏:BG面に描かれた背景に、コリジョン(当たり判定)だけある1枚の絵で描かれた迷路では、途端に2Dの「エコー」に戻っちゃうんですよ。しかも遊んでみるとステージの半分ぐらいがそういう立体感の無い2重スクロールしない背景だったことがわかって、「これじゃ3Dにしてもダメなんじゃないか?」と。このような悩みが出てきたんですが、問題が大きすぎたので、まずは「3D ソニック」を先に開発しようと(編集部注:「3D ソニック」と「3D エコー」の開発期間は重複している)。

堀井氏:その状況の中で、うちのプログラマーがまず、バイナリを直接いじる形で立体感を付けてみたんですよ。手付けで。そうすると割と見ごたえがあったんですが、1ステージの画面数がだいたい50画面分ぐらいあるんですね。それに全部プログラマーがデザイナーと話をしながら、手で立体化していたら話にならない、ということになって、仕方がないので今回、デザイナーにもある程度使える形で、「3D エコー」専用の立体感をつけるマップエディターを開発することになったんですよ。

長谷川氏:そこまでやりますか!

堀井氏:そこまでやらないと、地味になってしまって。

――(笑)。専用開発なんですね。

堀井氏:ゲームが変わると変わっちゃいますしね。

長谷川氏:逆を言えば、それを使えば新しいマップの「エコー」Ver1.4とか、1.6ができたりしちゃうんですか?

一同:(笑)。

堀井氏:できるかもしれませんが、それをやるにはマップ自体の改変をするためにまた頑張らなければならなくなっちゃいますね(笑)。……いずれにしろ、立体マップエディターまで作って、奥成さんがようやく首を縦に振る(開発にGOサインが出る)3D立体感が出せたと思います。

――エディターを起こしても、深度設定の部分はあくまで手付けなんですか?

堀井氏:エディターを使って手付けになります。「3D 獣王記」のときはステージ数が5で、スクロールスピードも遅いので、画面数にすると多くはないのでどうにかなった。「3D 獣王記」でもエディター的なものはあったんですが、「エコー」は動きが速いから1ステージあたりのマップも広く、さらにステージ数が多くて立体化しなければならない場所もあちこちにあって。エディターがあってもデザイナーは死んでましたね。

奥成氏:「エコー」の1ステージ分のマップは、「獣王記」の全ステージを足したものより大きいよね。

堀井氏:それはもう間違いない(一同笑)。

長谷川氏:いい話だなー。

――でも、そうなりますよね。昔、攻略記事を作るとき、1画面ずつ撮影してマップを張りましたが、シューティングゲームの高速スクロールのゲームとか、長かったなー。

奥成氏:メガドライブぐらいの時代から、雑誌にマップが掲載されるとき、写真じゃなくてイラストになることが増えましたよね。量が多すぎて。それぐらいの量はあった。

――それに手付けで深度情報を加えていったと。

堀井氏:ステージ1だけの話で言えば、デザイナーはノリノリで、50画面分ぐらいを一晩であげてきたんですよ。それで「『エコー』もいけるな」って思ったんですが、そのスピードが5日続くとか、10日続くとか思っちゃいけないんですよね……。

――迷路部分はどんどん増えていきますよね。

奥成氏:「エコー」はステージ数も多いので、かなり苦労したのですが、1回始めてしまったら、最後までやるしかないんですよ。引き返せない。「3D ソニック」のときは、「目に付いた、絵的に立体感のあるところを手付けで直しましょう」、「ラスタースクロールのところも立体感をつければいいね」というソフト的な対処で済んだんですが、「3D 獣王記」のときは、3面のマップみたいに「手でつけるしかないね」みたいなところが一部出てきて、「3D エコー」になると、全体の半分ぐらいはそういう状態で……立体視のクオリティもリリースするごとにどんどん上がっていると思うんですが、どんどんやることも増えているという。

堀井氏:真綿で首を絞められているわけですね。それでも、メガドライブからギガドライブ(※ギガドライブに関しては「3Dソニック」のインタビューをご参照いただきたい)に移植するタイトルを最初に選んでいる時に、「(開発スタッフが)死なずにできそうなもの」を選んだつもりがこの有様ですよ。よく皆さんが言ってくださっている「ガンスター(ヒーローズ)」とか、僕もやりたいですけれども、もしやったら「3D エコー」の開発時の状態だと、終わりが見えないですよね。今ならようやく「こうすれば……」というプランがないわけではないですが、当時は「あれだけは手を出しちゃだめだ。手を出していいレベルまで僕らはまだ筋力ができていない」と思いましたね。

奥成氏:現状では「ガンスター」の移植予定はありませんが、堀井さんが今、立体化のプランを考えたそうなので、メガドライブのシリーズが好調ならば、そのうち実現できるかもしれませんね!

(佐伯憲司)