インタビュー

「ファイナルファンタジーXVI」吉田直樹氏、髙井浩氏、鈴木良太氏インタビュー

カプコン出身のバトルディレクター、鈴木氏が語る「FFXVI」のバトルシステム

――鈴木さんはカプコンからご転職なさったということですけれども、長年アクションゲームを中心にお作りになられてきて、「FFXVI」チームに入って感じられたことなどをお伺いしたいです。

鈴木氏:僕自身、これまで2D対戦格闘ゲームと3Dアクションゲームの開発を専門に携わってきていまして、「FFXVI」チームに入って前社の時の作り方の当たり前だったところが当たり前じゃなかったり、前の会社だと難しいとされていたところが逆に作りやすいということは結構ありました。

――何か印象的だった出来事はありますか?

鈴木氏:ほかが違うというわけではありませんが、「FFXVI」チームでは、僕が「こういうことをやってみたい、検証してみたい」というところに対してプログラマーさんがすごく協力的で、非常にやりやすかったですね。技術的な水準も高く、僕が「こういうことをやりたいんですよね」と相談したことに関しては、最大限の形で実現できたように思います。

――鈴木さんは、スクエニにはどういうイメージをお持ちだったんですか?

鈴木氏:RPGがすごく強くて、アクションがちょっと苦手という印象があったんですけれど、中で一緒にアクションを作った印象としては、単純に技術力の問題ではなく、あまり経験がなかっただけだと思いました。今回の「FFXVI」で、「スクエニはアクションゲームが苦手」という印象を払拭できるレベルにはなったかな、と個人的には思っています。

――それは、鈴木さんのお力がそれだけ大きかったということですよね。

吉田氏:いやもう、今の良太くんの発言は、だいぶオブラートに包んで言ってくれていると思いますよ……。実際のところは、あまりのレベル差に相当驚いたと思います。

 うちの会社は、極端なんです。特定のパートは、前職ではできないと言われていたことがめちゃくちゃあっさりできたりしますし、逆に前職なら2日でできるようなことが1カ月かかってもできなかったり。

――言語化してうまく伝わるかとかの差もありそうですしね……。

吉田氏:言語、文法の違いみたいなのは、すごくあったと思いますし、そこのギャップをとても献身的に埋めていってくれました。それと、人間性がすごく優しいんです。「何でこんなこともできないんだ」みたいなセリフを1回も聞いたことがないですし、怒らないですし、能力のところもそうですが、その人間性にすごく助けられた部分は大きかったです。

髙井氏:アクション部分で、なかなか二転三転してうまくいかない時に、ちょうど良太くんと知り合うきっかけがありまして。お話をして、良太くんも次のキャリアを考えているという時期だったので、手伝ってくれないかとお願いしたんですよね。

――なるほど、鈴木さんが入られてからアクションに舵を切ったのではなく、アクションにしたいけどうまくいかないという時に鈴木さんとお知り合いになられたのですね。

髙井氏:はい、そうなんです。その後チームに入ってもらったら、彼自身にため込まれたノウハウがすごく大きかったですし、自分が「こういう風になるといいんだよね」と話した時にすぐに理解してもらえて、「じゃあ、こうじゃない?」っていうものがさっと出てきて、その時点で「もうこれで充分です」みたいなクオリティのものがどんどん出てきました。おかげで、開発の序盤がスムーズに進んだのは印象に残っています。

――今回はアクションに全部振り切っていくということで、手触りなどで力を入れられた部分はどこですか?

髙井氏:召喚獣と召喚獣が戦うパートは最初から吉田に言われていたところで、それをまず達成しなければいけませんでした。今日皆さんに体験していただいた召喚獣と戦うシーンは、実はプリプロダクション(準備段階)で作っていた部分なんですよね。

――そうだったんですね。すごくかっこよかったです。

髙井氏:ありがとうございます。ガルーダとの戦いのイベント辺りが、プリプロのために作っていたシーンになっていて、それをこうしてようやく触っていただけたというのは、私たちとしたら非常に感慨深いところがあります。まずあそこが物になるかどうかというので、開発を始めましたから。

 それと同時に全編をアクションに振るという方針があったので、まず一番はプレイフィールであり、手触りの部分を模索しながら頑張りました。例えば、動きに重さを感じさせるにはどうするかなど、核の部分を決めていく感じで進めました。

 良太くんが合流してくれた時は、ようやくキャラクターが移動して攻撃できる、くらいまで進んでいた頃でしたよね?

鈴木氏:ええ。今回は、召喚獣にフィーチャーしたストーリーとバトルにする、というテーマがあったので、軸がはっきりしている分、比較的考えやすかったですね。

 クライヴのアクションを構成する際、表現のひとつとっても「召喚獣の力を使っているからこそ、こんなすごいアクションが行えるんだ」ということを、説明を受けなくてもわかるように落とし込みました。アクションもテーマに沿う形で構成しています。

――「FF」というシリーズだから、という点で意識された点はありますか?

鈴木氏:「ファイナルファンタジー」という歴史の長いIPの中で、完全ターン制の時代の「FF」を遊んだユーザーさんもいれば、アクション要素もある「FF」を遊んだユーザーさんもいます。バトルそのものはアクションゲームとして高い完成度を目指しつつ、どの「FF」ファンの人もちゃんとバトルを楽しめる敷居の低さ。ここは一番意識しました。

 いままで「FF」シリーズを遊んできてくださったファンの方もしっかり楽しめるようにすることをマストとし、その上でトータルのバトルの難度、最初にクライヴを操作した時のアクションの触り心地、初見でも理解しやすいバトルルール、この辺もかなり意識していました。

――遊びやすさを追求すると、どうしてもライト層に寄せた作りになってしまいそうですが……。

鈴木氏:そうですね。ライト層に寄せすぎると、今度はアクションヘビーユーザーさんに「バトルが単調」と感じられたり、「やれることが少ない」と言われてしまうのはよくある話です。ですが、「FFXVI」ではアクションに振り切るという決意のもと、アクションヘビーユーザーさんでも楽しめる、やりこみの天井の高さは絶対に捨てない、という点も意識しています。

 アクションが苦手なユーザーさんでもストーリーフォーカスモードでしっかりアクションを楽しめ、アクションヘビーユーザーさんが遊んだ時は“技術介入性”の高さを感じてもらえるようにしています。とにかく幅広い層に受け入れてもらうことを常に意識し、企画立案から最終調整まで行ってきました。

髙井氏:良太くんは召喚アビリティの技のバリエーションからトルガルとの組み合わせまで含めて全部考えてくれています。

吉田氏:バトルディレクターという役職にはなっていますが、良太くんはバトルプランナーでもあります。ゼロベースから、このラムウのアクションはこれとこれで、それぞれにこういう効果があり、ここの別の召喚獣のこのアクションと連携したらこうなる、みたいなことまで考えてくれています。

 多分彼は、クライヴができることの広がりを想像してから、それを召喚獣に落とし込んだのだろうな、と感じました。これらをプログラマー、アニメーターとべたつきで作り込んでいく、データも自分で移していくという感じで。陣頭指揮というタイプじゃないですね。完全に職人オブ職人です。

鈴木氏:クライヴアクションを自ら企画立案し、実装と調整も行いましたが、バトルというのは対立するエネミーがいて初めて全体で面白さが構築できるものです。クライヴアクションを作りつつ、エネミーを作るバトルプランナーと密に連携を取り、召喚獣バトル含めて、全体をパッケージングした中でのディレクションというような役回りでした。

髙井氏:自分が上手く言語化できない注文を色々聞いていただきました。「こうじゃないんだよなぁ」って曖昧なことを言って「じゃあこういうことですか?」と返ってくるみたいな(笑)。

鈴木氏:高井さんから「ここはこんな風になってほしいんだよね」というニュアンスで要望を受けた時に、「その要件を満たすための手段はいくつか考えられるので、その手段は僕の方で決めさせてくださいね」という形でやらせてもらうことが多くあって、非常にやりやすかったです。

――今回のバトル制作で一番時間がかかった部分ってどこでしょう?

髙井氏:全部かかってるかなぁ(笑)。召喚獣対召喚獣の戦いは複数作っていますが、1個1個相当にかかってますね。

吉田氏:召喚獣バトルはどうしても第三開発事業本部だけで作りきれなくて、社内では「キングダム ハーツ」チームや、アクションが超絶すごい会社さんに制作の一部を「一緒に作ってくれませんか」とお願いしてやってもらったりしていますから、召喚獣バトルはもう“業界オールスターズ”に近いかもしれません……。その辺りについては、発売が近くなったら改めてもう少しきちんとお話ししようと思っています。

――おお、意外ですね、外部への発注もしていたんですね。

吉田氏:もうこのレベルのゲームを、何から何まで一社単独で、というのは無理なのです。召喚獣バトルは特に作る側の演出センスやアニメーションセンスに、求められるハードルが高かったので、多くの方に協力していただいています。あとはβ版としてできあがってきたそれらを、部内でどうやって組み上げるのかという問題があって、ここは結構時間がかかりました。各チーム、めちゃくちゃ気合い入れて作ってくださったのは本当に有り難かったのですが、これら全てをシステム上に落とし込み、デバッグまでやり切っていくのは部内になるので、その着地点に関してはみんなとても必死でした。

――クライヴは全部内製ですか?

吉田氏:クライヴ周りはガッチリ内製です。ただ内製だと、いつまでもいじくり回せてしまうという罠もあって……(笑)。(鈴木氏の方を向いて)だから、「まだそこいじってんの!?」っていう感じでしたよ(笑)。

髙井氏:もうこれ以上いじったらダメだって言ってるのにね(笑)。

鈴木氏:プレイすればするほど欲が出てきてしまうといった感じですね(笑)。僕自身、ゲームに”完成”はないと思っていて、時間をかければかけるほどより面白くすることができますし……。もちろん、「FFXVI」は自分の中での合格ラインはしっかり超えています。それは自信を持って言えますし、それが言えないものはリリースしたらダメだと思っていますので。ただ細かいところの磨き上げは、時間があればやれるものなので……。

――どういうところが気になるのですか?

鈴木氏:例えば、自分がプレイして「OK。これでしっくりきた」という風に思っていたとしても、他の人にプレイしてもらった時に「そこで引っかかるかー」となったり、あとは操作感の部分で……本当に細かいところなんですけれど、攻撃後の硬直時間だとか、攻撃を敵に当てた時のヒットスロー時間だとか……ほんの数フレーム単位刻みの調整ではあるのですが、ここの調整でアクションの性能だけでなく、触り心地もだいぶ変わります。一発ではなかなかOKがでません。

 自分でプレイしつつ、あとは人に触ってもらって、どういうところで喜びを感じて、どこで不満を感じてるのかを横で見ながら、いじくりまわすような……(笑)。

吉田氏:良太くんは特にプレイが超絶うまいんです……。彼はフレームが見える系の人なので、僕らは割とニュアンスで遊ぶんですが、良太くんは「避けれるフレーム数にしたんだけどなー」という感じで、避けられない人たちのプレイを見ていて「なるほど。あと2フレ猶予をあげないとダメなんだ」みたいなところをずっと触って、「よしよし」ってなるんですよね(笑)。

髙井氏:開発の段階がだいぶ過ぎ去ってから、「ここは5フレで補完して今データロックしていますけど、10フレに変更していいでしょうか」とかくるから「エー」っていう(笑)。「そこ、まだ気になっちゃう?」っていう感じで、良太くんはあちこち気にしていますね。

――もう次元が違いますね。それが今も現在進行形でくるんですか?

髙井氏:いやいや! もう現時点で数値変えられたらやばいです!(笑)

吉田氏:もしかしたら、良太くんのローカル環境では数字変わっている可能性はありますけどね。僕たちが「もう組み込むのはだめだからね」って言っているから、表向きは変わっていませんが。ローカルで誰も見たことのないパラメータが動いている可能性はありますね(笑)。

髙井氏:その2フレの変更でバグが出るんだよ、っていう(笑)。怖い。

――そんなこだわりの塊のアクションバトルなんですね。

吉田氏:こだわりといえば、カットシーンチームと、実際にイベントを組んでいる人たちの工夫みたいなのもあるんです。これはもう本当にベタな努力なんですけれど、「この時バトルの決着の瞬間で、どの方向を向いている可能性が高いか」というようなことを全シーンでやっています。

――えぇ?

吉田氏:ロードが入らないということは、全てのシーンがダイレクトにつながっているんです。時間経過を示したり、シーンを変える時に暗転はさせますが、あくまでもそれは演出です。多分これ気にしないと誰もわからないと思うんですが、唯一のシステム暗転らしいものってバトルリザルト画面だけなんです。だからクライヴの向きが突然変わったとしても許されるのが、その瞬間だけなんです。

――なるほど……。

吉田氏:それ以外は全てカットシーンの方角がプレイに繋がっていくので、全ての細かいシーンの繋ぎは、全員で演出をやっているといっても過言ではないです。クライヴの向きはここで右肩が前に出てる状態で停止して、プレーヤー側の操作はそこから繋がる形になります、みたいな感じでやっています。あの辺りは技術的苦労ではなく、ひたすら論理的に破綻のないようにという途方もないすり合わせをジリジリとやっていて、相当辛かったと思いました。でも、だからこそ違和感なく繋がっているように感じていただけるんだとも思います。