インタビュー
「TWT 2019 Finals」に参加した「鉄拳」原田勝弘氏に直撃インタビュー
日本のeスポーツ/「鉄拳」の盛り上がりをどう見ているのか? eスポーツシーンの未来とは?
2019年12月13日 00:00
- 12月8日収録
eスポーツというキーワードが各所で話題になっている昨今だが、国産ゲームにおけるeスポーツタイトルの筆頭と言えば、やはり格闘ゲームだろう。とりわけ「鉄拳7」は、国際的に幅広い人気を誇り、世界中で大会が開催されている。
そんな「鉄拳7」だが、今年は特に話題の多い年になった。今まで欧米・アジアを中心に盛り上がりを見せていたシーンに、突如パキスタンの選手たちが現われ、ベテランの選手たちを抑えて様々な世界タイトルを獲得していった。こういう動きが起きるのも、「鉄拳7」が国際的なゲームである証拠だろう。
本稿では、バンコクで行なわれた「鉄拳7」の世界大会「TEKKEN World Tour 2019 Finals」の開幕を直前に控えた12月8日の朝、「鉄拳」シリーズチーフプロデューサーの原田勝弘氏に話を伺うことができた。原田氏は日々進化する「鉄拳」、そしてeスポーツシーンをどう捉えているのか、そしてこれからのeスポーツの課題とは何かを取材した。
――2019年は鉄拳eスポーツシーンは国内外で様々な盛り上がりを見せましたが、どのように感じられていますか?
原田氏: 手応えは良いですね。まずJeSU発行のプロライセンスを、鉄拳の場合は比較的上手く使えていると思います。大会上位者にライセンスを付与するプロライセンス発行大会を開催していて、これが選手たちの大会出場へのモチベーションになっています。ライセンス取得後もプロ同士の大会に賞金を出すことで盛り上げとプロ選手ならではの活動を支援をしていますし、独自の試みを通して、我々は日本の現在の環境を上手く活かせているほうだと思います。
また、我々はアーケードの時代から全国規模のイベントを催してきました。eスポーツというのは本当にここ最近のバズワードですが、我々はその前から、四半世紀近く鉄拳の競技シーンに注力してきたので、その経験が今につながっていると思います。もちろんeスポーツの発展でやりやすくなった部分は多くあります。例えばアーケードの時代は賞金問題以前に、風営法を含め様々なしがらみがありました。当時だと16歳未満だと、店舗大会で決勝に進出しても、時間の関係で大会中にも関わらず退店してもらわなければいけない、なんてこともありましたからね。
ただ個人的に、国内のeスポーツシーンをこれから発展させていくうえで課題となってくるのは、実は法律以外のところにもあると思います。まず一つは、今までにない事業を展開するという意味で、リスクを負わなければいけないというところです。個人であれば簡単な事でも、企業がそういうリスクを負う際には、慎重にならざるを得ません。
そして2つ目は日本におけるゲーマーの社会的地位です。ゲームが上手い、ゲームでプロを目指すというということが、僕はもう25年業界を見てきていますが、やっぱり日本では認められていないと感じます。これは日本の業界しか知らない人には理解してもらえない感覚かもしれませんが、僕はこの25年間でアフリカ大陸を除けばほぼ世界中を周ってきていて、いろんな国の状況を見てきました。その経験を踏まえたうえで、日本と世界を比較すると、アマチュアやプロ問わず、そもそも「ゲームが趣味」であることを含め、ゲーマーの社会的地位は高くないと感じます。
もっというと、eスポーツというキーワードが注目を浴びたことで、ゲーマーの社会的地位の低さが一層世間に露呈する形になったとも思っています。欧米諸国だとeスポーツが世間から一定の評価というか、日本と比べると認められているため、色々な挑戦ができますが、日本ではそうはいかない。なのでやはり法整備以前にゲームというホビーやゲームの文化の良さを伝える活動はもっと協力にやらないといけない、と感じた1年でしたね。
――たとえば「ストリートファイターV」では、国内リーグを始め、プロの活躍の場が着々と増えていますが、今後「鉄拳」にもそういった動きは出てきますか?
原田氏: カプコンさんがやっているリーグなどの取り組みは、ゲームをやらない人にも働きかけ、観戦すること自体に価値を見出させる、eスポーツのステージを何段階も上げる大胆な取り組みです。かなりの労力がかかっているだろうし、カプコンさんの本気が垣間見える施策だなと思います。
一方でバンダイナムコは、グループ会社としても非常に大きく、総合エンターテインメントとして様々な施策を展開しています。事業の幅もビデオゲームだけではなく、ライブエンターテイメントで東京ドームを埋めることもできるIPを保持しています。収益の柱が沢山あるので、会社としてeスポーツにどこまで注力するかというのは、まだまだ模索している最中です。先ほど言ったように、会社を動かすのは簡単ではないですからね。
これは個人の見解ですが、ここからバンダイナムコがeスポーツ事業を加速させていくには、アメリカ中心に展開させて行く必要があると感じています。鉄拳ワールドツアーもアメリカ・ヨーロッパの大会が中心ですしね。色々と法に縛られないだけでなく、協賛スポンサーがとても積極的ですから。これからは、如何に海外の会社やオーガナイザーにリーチできるかが重要になってくると思っています。
――今シーズン大活躍したパキスタンの選手たちについてどのような印象を持たれていますか?
原田氏: 最初にパキスタンのArslan Ash選手が話題になったと時、朝日新聞の在パキスタン記者が興味をもって現地を取材してくださって、その記事がデジタル版で人気になると、後に本誌も掲載されました。その結果、一般の方々からも沢山の問い合わせが来ました。
ファンの人たちからしたら、パキスタンに鉄拳コミュニティがあること自体驚きだったと思います。僕ももちろん彼らがここまで強いのには驚きましたが、鉄拳プロジェクトとして今まで世界中を周って、色んなコミュニティを見てきているので、パキスタンにしろ南米にしろ、鉄拳コミュニティがそこにいることは、僕らは知っていたんです。
ただ面白いのは、今パキスタンや、最近ではペルーやコートジボワールからも強い選手が出始めているんですが、これは彼ら自身にとっても驚きだと思うんです。というのも今騒がれている彼らは、これまでアメリカや日本で開催されていた大会を動画サイトや配信で見てきているはずなので、彼らにとっても日韓のトッププレーヤーは憧れの存在だったんです。
彼らは今まで参加する術を持っていなかったので、鉄拳ワールドツアー以前の大会には一切出てこれなかったんですが、鉄拳ワールドツアーという取り組みが、点在していたコミュニティを線でつなぎ始めました。すると自分らの地元に今まで憧れだったプレーヤーがやってくるようになり、そしていざ対戦してみると、勝ててしまう、という現象が起き始めたんです。
そして今年に限って言えば我々はDojoシステムというのを導入しまして、これによってツアーの大会数は6倍や7倍なんかでは済まないほどに増えました。世界中でツアーポイントが付与される大会が開催されることでプロたちが各地へ飛ぶようになり、そして先述の現象に拍車がかかったんではないかと思っています。
Arslan Ash選手なども、自分たちに実力があることに気づいてはいたでしょうけど、実際大きな大会を優勝した時なんかは驚いたんじゃないかと思います。なので、我々が知らない土地を発見したというよりは、元々あったコミュニティ同士がつながったという印象ですね。
――これからの鉄拳ワールドツアーはどう展開されていきますか?
原田氏: 僕が思うeスポーツの一番の魅力は、普段ネットワーク対戦をしているプレーヤーたちが一カ所に集まってプレイできるところだと思うんです。オフラインイベントの熱量はすさまじいですからね。実際パキスタンやペルーといった国は、インフラがまだまだ整わない国です。そんな中彼らは日々集まって鉄拳をプレイし、それも彼らの実力につながっていたんです。
昔は世界各地にゲームセンターがあって、強ければ強いほどワンコインで長く遊べる、というのが普通でした。その当時は各国の実力の違いなどは比べようもなかったんですが、今はそれができてしまうんです。ゲーセンの熱量をそのままに、世界規模の大会ができれば、eスポーツはより魅力的なものになります。
もちろん、そうやって人が動くことによって宿泊費や渡航費がかかります。しかしeスポーツという流れによって、外部の資本が沢山入ってくるようになったんです。我々のゲームの市場に入ってきてくれる他の企業を、どう巻き込むかで資金面をクリアしていきたいですね。
例えば今のパキスタンの選手たちの多くは、1つの大会限定でのスポンサー、いわゆるスポットスポンサーの支援で大会にやってくる選手も居ます。これをいい形でもう少し長期の支援を安定させてあげれないかな、と考えているところです。例えば今は欧米の企業が中心になってスポンサーがついていますが、選手たちの地元の企業を巻き込むのも手かなと思っています。日本だと県や市がeスポーツを町おこしに使おうとする例もあります。国際的な例では、サウジアラビアの大使館から、日本とサウジのプレーヤーで対戦して交流を深めないかという提案もありました。
今のプロシーンでは、成績を残した選手に気が付いたらスポンサーがついている、といった状況ですが、これをもう少し体系的にできないかなとも考えています。もちろん管理やマネジメントをする元締めのような真似をするつもりはありませんが、国によって事情が違ったりする選手の境遇をクリアにする手伝いができれば、スポンサーも安定するのではと思っています。
また今の鉄拳ワールドツアーは既存の大会の盛り上がりに頼っている部分があるので、これをもう少しユナイトできればとも考えています。俯瞰的に見れば、各地が自発的に動いているからこその盛り上がりとも取れますが、それぞれの大会がただの個人間の勝負ではなく、国同士の交流の場になるように働きかければ、ツアーの国際色も増すと思っています。ゲームによって国同士が交流出来た時こそ、それをeスポーツと呼べるんじゃないかなと思っています。
――最後に鉄拳ファンへ一言お願いします。
原田氏: 今鉄拳ワールドツアーは、ストリーミングで見ている人がほとんどだと思います。もちろんそれは入り口として良いのですが、そういう人たち、とりわけ日本の人たちに、イベント現地まで足を運んでほしいと思っています。配信の画面に映るのは、イベントの本のごく一部なので、実際の熱量を感じて欲しいですね。旅行がてら訪れるだけでも、きっと沢山発見があって、それを踏まえてまた配信を見れば、以前より楽しめるようになると思います。なので是非一度、イベントを実際に訪れてください!
――ありがとうございました。