インタビュー
ノビ選手「自分の“鉄拳力”でパキスタン勢をねじ伏せたい」 「鉄拳ワールドツアー2019」決勝を控えたノビ選手・チクリン選手に緊急インタビュー
2019年11月27日 00:00
- 11月24日収録
11月24日にnamco巣鴨店で開催された「鉄拳7FR ROUND2」交流イベント「NEXUS」は、家庭用機全盛期の時代にも関わらず60名以上が来場し、大盛況のうちに幕を閉じた。そして本イベントにゲストとして出演したのが「鉄拳」プロ選手Team YAMASA所属のノビ選手とTeam遊ING所属のチクリン選手だ。
日本の「鉄拳」eスポーツシーンを牽引する両名だが、彼らは12月8日にタイにて開催される「鉄拳ワールドツアー 2019」の決勝大会を控えている。そしてその決勝大会には、ノーマークのままパキスタンから来日しEVO Japan 2019にて名だたる強豪を破って優勝したArslan Ash選手や、先日の「TOKYO TEKKEN MASTERS 2019」にて驚愕の強さを見せた同じくパキスタンのAwais Honey選手なども出場する。
今までそこにコミュニティがあることすら知られていなかったパキスタンのプレーヤーたちが、次々と世界大会を優勝し、勢力図が大きく塗り替えられることとなった「鉄拳」eスポーツシーン。その最前線を戦うプロプレーヤー両名に、今の「鉄拳」業界のあれこれを伺った。
――大盛況に終わった「NEXUS」ですが、お二人の感触はどうでしたか?
ノビ選手: 僕が8年前くらいに、namco巣鴨店で勤務していた時代は、ずっと満席だったり、イベントをすれば100人規模が集まるくらいの盛り上がりはあったんですが、オンライン対戦が主流になるにつれてゲームセンターは本当に厳しくなっています。僕たちも、大会が家庭用なので、必然的にそちらへシフトしなければならず、ゲームセンターを盛り上げたいのに、プロとしてプレイしなきゃいけないのは家庭用だというジレンマがあったりします。
ただ今日こういうイベントをやってみて、沢山のプレーヤーと交流できて、家庭用では普段できないことがゲームセンターには沢山あるなと改めて感じました。今日も初めてゲームセンターに遊びに来たと言ってくれた人もいて、そういう人の楽しんでいる姿を見ると、やっぱりゲームセンターはなきゃダメなんだなと思いました。
チクリン選手: 僕も5~6年くらいゲームセンターで働いていたことがあって、格闘ゲームが盛り上がっていた時期も知っているので、最近のゲームセンターの衰退に関しては悲しいと思っていました。そんな中これだけの人が集まってくれたのは嬉しいです。ゲームの友達は一生モノだと思っているので、こういうイベントで交流の場を作っていけたらと思っています。
――初心者講習はかなり慣れていたようでしたが、以前からやられていたんでしょうか?
ノビ選手: 世界大会で優勝した時に、その知名度を使って何をするべきかを自分なりに考えたんですが、ゲームの普及活動だと思ったんです。僕は元々全部のキャラクターある程度使えたりしたので、それを活かして全国で講習を始めました。「鉄拳」って結構とっつきにくいゲームなんです。初めての人には入りにくいというイメージが強くあったので、それをできる限り緩和できればと思って講習の活動をしています。実況も練習していました。誰かの実況を聞きながら吸収し、自分で対戦動画に一人で実況して練習していましたね。僕は楽しく実況がしたいので、プレーヤーをいじりながら、盛り上がる実況を心がけてます。
――プロになりたての頃は、どういう環境でしたか?
ノビ選手: 僕は「鉄拳」で最初の日本人プロになったんですが、なりたての頃はかなりキツい時期が続きました。EVOを優勝したのが4年前で、その時に初めてスポンサーがついて渡航費を出してもらったんですが、日本に帰ってきたらその会社なくなってましたからね(笑)。
それで、EVO優勝の翌年にプロゲーマーとしてもらえた仕事はたったの2つ。それも1日中働いて、12時に家に帰ってきても、交通費差し引いたら5千円程度にしかならない仕事です。それでも僕は、プロゲーマーとして生活していくっていう夢を持って地道にここまで続けてきて、今ではやっと余裕を持って生活できるまでになりました。
それを考えると、今のプロの待遇ってありえないんですよ、僕からしたら。若手の選手とかが、スポンサーの話があった時に「ノビさん、この条件どうですか」って相談してくるんですけど、ありえないくらい良い条件ばっかなんですよ。「お前、こんなんありがてえやん」って思います。僕がプロになりたての頃は、自分が成功して「プロゲーマーでも食ってける」っていうのを周りに示さなきゃいけない立場だったんですが、ようやくそれが定着してきたな、と思っています。だから、そういう意味では達成感はありますね。あとは現役でいられる間、全力を尽くすのみです。
チクリン選手: 僕は昔からプロになりたかったんですが、住まいが長崎ということもあり長年それが叶わなかったんです。それが、個人での配信や、大会での成績が実った形でようやく今年に入ってスポンサーがつきました。運良く地元長崎の企業にスポンサーしていただけて、とても厚くサポートしていただいてます。今では子供の夢の職業にもなっているプロゲーマーなので、自分がその立場に居るのは不思議な感覚ですね。
――若手のプロプレーヤーも数多く出てきていますが、彼らの印象はどうでしょう?
ノビ選手: 僕たちは間違いなくこの先年老いてって引退していくんですけど、だからこそ今の若手の子たちには、今の環境が当たり前とは思ってほしくないですね。今でこそゲームを練習して、プロを目指してっていう環境が整ってますけど、その前にそういう道を切り拓いた人がいるんです。だから、それを引き継ぐんだっていう自覚を持ってほしい。自分が切り拓いた1人だからこそ、プロゲーマーという仕事が笑いものにされるような未来だけは絶対に嫌なんです。
プロゲーマーっていうのはやっぱり、見られる職業だっていうのを意識しなきゃいけないんですよ。例えば僕によくツイッターのDMで、「○○っていうプロの方がゲームセンターにゴミ置き去りにしてました」って、信じられないかもしれないですがそういう連絡がくるんですよ。バカバカしい話かもしれないですけど、こういうことでまたプロゲーマーの品位が下がっちゃうんですよ。ぶっちゃけ今のプロゲーマーって全員運命共同体なんです。今ってスポンサーがつけばプロって名乗れますけど、誰か1人がなにかやらかしてしまったら「『鉄拳』のプロってやべえな」という風に、僕ら全体に影響が来るんです。だからこそ、見られながら生活してるっているのは意識しないといけないですよね。
――昨今の「鉄拳」といえば、パキスタンの選手が注目されていますが、実際彼らは強いんですか?
両名: 強いですね、それは間違いないです
――彼らと他国の選手の差は何でしょう?
ノビ選手: 「鉄拳TAG TOURNAMENT2」の時代って、何があっても日韓が強かったんです。アメリカとか含め他国は全然強くなかったんです。それはずっと続いてきたゲームセンターの歴史があって、そこにコミュニティが保たれていて、全ての情報がゲームセンターにあったからなんです。それが今では、僕たちはオンライン化してしまって、これは上級者にとってはかなり厳しいことだったんです。例えば今まで共に競い合ってきた仲間とも家に居ながら対戦するのが当たり前になって、つまり、対戦後の反省や改善点が全く共有されないんです。
パキスタンのプレーヤーは、対戦をする時はみんなで集まってやるんです。対戦の後にお互いの課題を指摘し合うことだってできるし、様々なキャラクターの使い手がいるから特定のキャラクター対策もし易いんです。そこでめちゃめちゃ差が開いているのが現状です。
チクリン選手: 僕はパキスタンに実際に赴いて彼らと交流しましたが、一番思ったのは彼らのゲームに対する姿勢ですね。これは日本のどのプレーヤーとも比べ物にならないと思います。命を懸けてやってるのかなっていうくらい真剣に映りました。
これは地元のゲームバーの店員さんに聞いたんですが、パキスタンのプレーヤーってスポンサーが付きづらいんです。ビザの問題から国外への渡航も制限され、活躍する機会もあまり与えられないんです。それでも、彼らにとってプロゲーマーという一筋の希望はあって、皆その狭き門を目指している感じですね。
ノビ選手: それは僕も思います。彼らの負けた時の悔しがり様はすさまじいです。そういう面でも彼らには見習わなきゃいけない部分が多くありますね。
チクリン選手: あとはやっぱりコミュニティの深さですね、彼らはとても仲がいいんです。大会でもみんなで試合中の選手に駆け寄ってアドバイスをしたり、勝てば全員で喜んだり、大会を見ていれば分かると思います。Arslan Ash選手(EVO JAPAN 2019/EVO 2019優勝)が最初に日本に来た時も、みんなで彼を見送って、そして本国で配信をみんなで見ていたらしいです。そういったのも強くなる秘訣のひとつかなと思います。
――日本では、プロ同士で集まって練習しようという動きはありますか?
ノビ選手: 本当に最近ですけど、そういう動きは出てきています。オンライン対戦をしてるだけでは、世界との差が開く一方だと認識して、いろんな人たちの協力の下オフライン対戦も精力的にやっています。
――では、TWT2019ファイナルでパキスタンのプレーヤーと当たった場合、勝算はありますか?
ノビ選手: 僕は勝つ自信相当あります。相当対策をしてきました。
チクリン選手: 僕はあまり自信ないんです……。パキスタンのプレーヤーは豪鬼を使ってくるんですが、日本ではどれだけ探しても強い豪鬼がいなくて、中々実戦練習ができないんです。
――それはやはり豪鬼というキャラクターが難しいからでしょうか?
チクリン選手: それももちろんありますが、日本の「鉄拳」プレーヤーは2Dキャラクターが嫌いという……。
ノビ選手: ええ。そういう文化があるんですよ。「他のゲームから来たやつは受け入れない」みたいな、本当はそんなの関係ないんですけどね、いる以上は。
チクリン選手: なので動画とかを見て、トレーニングモードで詰めたりはしているんですが、いかんせん実戦が足りていないので。挙句自分で豪鬼を使ってみたりもしていますが、どうなるか分からないというのが正直なところですね。
――ノビ選手はどういった対策をされたのでしょうか?
ノビ選手: 僕は動画を真剣に見れば、そのプレーヤーのことが大体分かるんですよ。僕は合計で9年くらい「鉄拳」のプロみたいなことをやっていますが、僕の中での一番の課題は実はモチベーションなんです。ずっと同じことをやっている中で、「鉄拳」をやめたくなった事なんて何回もあります。でもその都度、折角やってきたのだから、簡単にやめるんじゃなくて、限界までやってみようと思ってここまで続いてきました。
それで今、「鉄拳」のモチベーションが凄くあるんです。ある意味一周まわったというか「このクソゲーが!」から「やっぱりまあまあ面白いな」という感じになってきていて(笑)、動画の研究には余念がないつもりです。
――パキスタンのプレーヤーの強さと、豪鬼というキャラクターは、どの程度関係しているんでしょうか?
ノビ選手: 例えば、Awais Honey選手とAtif Butt選手だったら、結果を多く残しているのはAwais Honey選手ですが、「鉄拳」がうまいのはAtif Butt選手なんです。じゃあAwaisの何が強いかというと、それは「2D力」です。彼は実は元々「KOF」の強豪プレーヤーで、「鉄拳」は始めてわずか2年です。だから、彼は2D特有の差し合いがめちゃめちゃ上手いんです。
「KOF」で培った距離感と、卓越したコンボ精度が圧倒的で、「鉄拳」で強いというよりは、「豪鬼が死ぬほど上手い」という感じです。他の上手い豪鬼と比べてみても、精度が段違いなんですよ。豪鬼に関して言えば、彼は天才なんですよね。
チクリン選手: スカの感覚でいくと「なんでこんな反応早いの?」って感じになりますけど、あれは差し合いで入れてるんですよね。
ノビ選手: あいつに若干イラついたのは、僕は彼と仲良くて一緒にタバコ吸いながらしゃべったりするんですが、「鉄拳」を「簡単」って言ってたんですよね。「こいつやりやがったな」と思いましたね(笑)。
チクリン選手: それはあかん(笑)。
ノビ選手: 「KOF」の方が難しいとか言ってましたからね。「こいつ絶対大会で当たったらボコボコにする!」と思っています。
――豪鬼はゲージ面で弱体化されましたが、それは関係してきますか?
ノビ選手: あんまり変わらないです、正直。豪鬼は他にも強いところが3つくらいあるので。TWT2019ファイナルでも彼はまだ全然強いと思いますよ。
――ノビ選手は、どれだけ豪鬼が強くとも、「鉄拳」のキャラクターで勝ちたい、と仰っていたようですが、その信念をお聞かせください。
ノビ選手: 前提として、例え豪鬼にしても、ゲーム内にそのキャラがいる以上、どんなキャラでも否定することは絶対にしたくないんです。ただ、豪鬼に関しては、使ってるプレーヤーは大嫌いです。なんでかと言うと、その人たちは「鉄拳」から逃げたと思っているからです。
今まで何十年とやってきたこの「鉄拳」というゲームに対して、培ってきた“鉄拳力”とは違うところで戦おうとするのは認められないですね。ギースや豪鬼などのキャラクターはやはり、鉄拳力とは違う、2D力で戦うキャラクターなので。だから僕はそういう人たちを、自分の鉄拳力でねじ伏せたいんです。
そのためには、負けても文句言わずに対策するしかないんで、十分やってきたと思います。ただ正直、豪鬼はクソですね。「クソですね」までちゃんと載せといてください。お願いします(笑)。
――最後に、TWT2019ファイナルに臨む意気込みを聞かせてください。
チクリン選手: パキスタンに行って地元プレーヤーたちと対戦した時は、自分はかなり負けてしまっていました。そこで一番思ったのは、彼らは「鉄拳」でこんなにも強いのに、ゲームで生活することはできていない。反面自分は、こんなに弱いのにプロとして生活ができている。この現状に申し訳なさと恥ずかしさを感じたんです。
やはりプロを名乗る以上、誰よりも強くなくてはいけないと思ったんです。そういう経験をしてきた身なので、TWT2019ファイナルでは「他とは一味違うな」と思わせられるようなプレイをしたいと思っています。
ノビ選手: 「鉄拳」のプロシーンが今こんなに注目されているのって、やっぱりパキスタンのプレーヤーたちのおかげなんです。今まで知らなかった地域から名もない強豪プレーヤーたちが沢山でてきて、それに希望を感じて「鉄拳」を始めてくれる人も沢山いると思うんです。その注目があるからこそ、自分がパキスタンの快進撃に終止符を打って、TWT2019ファイナルを優勝できればと思っています。「やはり日本だ!」と思わせたいですね。
――ありがとうございます。TWT2019ファイナル、頑張ってください。