インタビュー

サードウェーブ代表取締役社長 尾崎健介氏インタビュー

目標は2,000校! 全国高校eスポーツ選手権の手応えと今後のビジョン

――直近でのビッグイベントと言えば3月に実施された「第1回 全国高校eスポーツ選手権」でした。私も岡山の高校を取材に行ったり、予選そして本戦を取材をさせていただいて、この半年間楽しませていただきました。企画から第1回を終えられての感想を聞かせていただけますか。

尾崎氏: 大会の内容としては期待以上でした。大会のクオリティ、出場した高校生の真剣さや、勝って嬉しそうにしている姿など感動的な部分を見て、実際にやってみて本当にやって良かったと思います。

【第1回 全国高校eスポーツ選手権】
史上初の全国レベルの高校生eスポーツ選手権として話題を集めた「第1回 全国高校eスポーツ選手権」(参考記事

――実際、会場でも尾崎さんをお見かけしましたが、「LJL」の時のように心配そうに見ておられましたが、どのような気持ちで観戦されていたのでしょうか?

尾崎氏: どの試合の時の表情にもよりますね(笑)。やっぱり、負けている方が勝ったら嬉しいから頑張れと応援する気持ちにもなりますね。有名な赤バフ選手(岡山共生高校)など優勝候補筆頭の選手だと、もっと接戦になると面白いなとか、あまり大差をつけられ過ぎた時には「赤バフくん、頑張れ」という気持ちにもなりますよね。

――なるほど、主催者側として大会がトラブルなく成功しますように、と祈念していたということではなく、完全に試合に入り込んでいたということですね。

尾崎氏: そうですね。完全にいち観客ですね(笑)

(爆笑)

尾崎氏: 「ここまでいくと逆転はむずかしいかな?」とか思いながら見ていました。

【赤バフ選手】
本大会でもっとも注目を集めた赤バフ選手。筆者はたまたま、彼を事前に取材する機会があったのは幸運だった(参考記事

――全国高校eスポーツ選手権は第2回が現在進行中で「ロケットリーグ」の募集も行なわれていますが、どういう感じの大会にされたいと思われますか。

尾崎氏: 規模を大きくしたいですね。もっとみんなに認知されて、みんなに見てもらえるように。あんまり1回目、2回目であまり違いはないのですが、最終的には、県大会、地区大会などオフラインで各エリアの地方予選をしっかりやってから決勝という規模に持って行きたいなと思います。

――それはまさに甲子園スタイルということですね。

尾崎氏: そうですね。

――それは、第何回くらいでそういう形が実現しそうですか。

尾崎氏: 3年以内ですね。2年半というところでしょうか。

――やはり地方予選というのはやるべきだと。

尾崎氏: そうですね。絶対にやるべきですね。

――なるほど。それは地方のeスポーツ協会などと協力し合って、都道府県レベルの予選から始めるということでしょうか。

尾崎氏: そうですね。3年間で2,000校の規模にすることが我々の考えです。2,000校となると、50で割ったとしても1都道府県に40校という事になります。それが例え半分の20校だったとしても、20校が各都道府県から出るようになれば、自ずと県大会をするための組織も必要となってくるし、それを各地方新聞が取り上げてくれるようになると思います。県大会、地区大会でもスポンサーが付くくらい注目されるような規模の大会にしたいと考えています。

【第1回は153校】
第1回は出場校データベースから確認できるが「LoL」部門93校、「ロケットリーグ」部門60校の計153校

――私は2000年頃から長年eスポーツの取材をしてきていますが、「第1回 全国高校eスポーツ選手権」は、我々のようなeスポーツメディアだけでなく、テレビや新聞といったマスメディア、学校や役所といった自治体などもひっくるめて、日本でもっとも報じられたeスポーツ大会だったと思います。中の方たちがどのくらいの手応えを感じていらっしゃるのかを教えていただけますか。

尾崎氏: 手応えは感じています。ただ、やっぱり2,000校のイメージを持っているので(笑)。

――そうか、尾崎さんの壮大なスケールからすれば、まだまだだぞというところなんですね。

尾崎氏: そうですね、やりたいと思っているのはその規模です。甲子園は、毎年やって、沸くのが当たり前ですよね。毎年春と夏が来れば甲子園をやるのが当たり前ですが、開催が当たり前の存在になって「今年はどこの高校が勝つんだろう?」と考えるようになって初めて文化と言えると思っています。イメージをしているのはそこなんですね。ですから、大会が成功して嬉しいし、手応えもあるし、スタッフもよく頑張ってくれて感謝しているけれども、事業としてはそこまでいってやっと満足です。

――なるほど、かなり厳しいスタンスですね。

尾崎氏: やってくれているスタッフから見れば厳しい見方かもしれないですが、この規模で終わったらつまらないじゃないですか。自己満足じゃないですか。そういう規模になるまで、イメージしている規模になるまでは、満足ではないですね。

――第2回について、今年はこうしていこうという具体的なビジョンはありますか?

尾崎氏: いろいろあります。大会自体は、やっぱりもっと応援してくれる企業や、参加してくれる高校、部活を立ち上げる学校数、このあたりの規模を拡大していきたい。大きくなって活躍するようになってはじめて参加した選手の学校や、親御さんたちが「ゲームばっかやってないで」じゃなくて「うちの子はeスポーツで全校大会3位になったのよ」と自信を持って言えるような、そういった規模にしていきたいですよね。

――「第1回 全国高校eスポーツ選手権」の中で画期的だったのは、eスポーツ部設立支援プログラムだと思います。こちらの手応えはいかがでしたか?

尾崎氏: 手応えはありました。目標の100校まで少しだけ届きませんでしたが、夏休み前に発表して、夏休み明けに何十校も申し込みがあり、手応えを感じました。

 僕、実は中学時代にボクシング部を作りたいなと思ったことがあって。その時に学校に話したら「喧嘩になったら危ない」とか、「誰が顧問になるんだ」とか先生に言われてすぐに諦めてしまった経験があって。学校でクラブや部活を作るのって結構大変なんですよね。

【eスポーツ発足支援プログラム】
全国に散らばる支援プログラム利用校

――そうですね。私も取材の過程で知りましたけれど、学校に新たに部を作ることのハードルが高い。特に年度の途中から何かを動かすことの難しさを知りました。

尾崎氏: おっしゃるとおりです。そういう面で、今回大会自体は大々的にTVやその他メディアで取り上げてはいただきましたが、「eスポーツ部発足支援プログラム」は、報道が若干少なかったと思うので、78校が参加してくれたことは、私としてはほっとしたというか、良かったなと思いました。

――今年は、3年のうち1年有料という、少しシステムを変更して継続されましたよね。その理由は何ですか?

尾崎氏: 無料だからeスポーツ部を作る、ということではなくて、ちゃんと払う費用があって、それでもやりたいという風に徐々に変えていかなくてはならないと思うんです。その辺に、無料で配られているティッシュも、無料だからってもらうけど持って帰っても使わないとか。そういうところってありますよね。初めは当社では、出だしの所は支援して力を込めてやって行きますけれども、徐々に自分たちできちんと必要なものを揃えてそれでもやりたいっていう形にはしていきたいと思っています。

――これは来年も再来年もずっと、サードウェーブさんのレンタル事業のひとつとして続けていきたいと思っていらっしゃいますか。

尾崎氏: そうですね、悩ましいんです。レンタルで儲けるためにeスポーツをやっているわけではないし、レンタル事業をビジネスとして考えているわけでもない。今赤字だとしても部活を作ってもらいたいんですよね。考えなきゃいけないんでしょうけどね(笑)

――まずは、部を広げて行くと。

尾崎氏: そうですね。まずはeスポーツそのものが文化になれば、ビジネスは後からついてきます。本来だったら、ゲーム会社さんにたくさんお金を使ってみんなにやってもらうためのマーケティング費用だとかありますが、これが、多くの企業がスポンサードしてくれてみんなが見てくれて。そこでまわっていけば、マーケティング費用としては必要なくなっていくわけです。

――私が昨年取材に行った「LoL」部門準優勝高の岡山共生高校は、急ごしらえの古い部室に、支援プログラムで貸与されたピカピカの「GALLERIA」があって不思議な光景でしたね。それ以外に視聴覚室も視察させていただいたのですが、とても年代物のPCが置かれていて、その落差が凄いなと。今は何十校、何百台という規模ですが、何百、何千校という規模になったら黙っていてもeスポーツといえば「GALLERIA」という時代が来るのかなと。最初の投資としては、ちょっと重いのかもしれないですが、先行投資として非常にユニークなものだと思いました。

【岡山共生高校eスポーツ部】
部室に並ぶGALLERIA。「LoL」でチームが作れる5台分が用意されている

尾崎氏: ありがとうございます。アメリカのeスポーツはかっこいいんですよね。お金持ちの家の子が広い部屋の中で、高いゲーミングPCでヘッドセットをつけてゲームを遊んでいるというクールなイメージで。日本はまだ畳の上で座布団を敷いてみたいなイメージがあると思いますが、そういうものにしていきたいですね。

――今年は、全国高校eスポーツ選手権に加えて、テレ東さんと、「STAGE:0」という、こちらも高校生をターゲットにしたアマチュア大会を発表されました。すでに「全国高校eスポーツ選手権」をやっているにも関わらず、さらに「STAGE:0」もやりたいと考えられたのですか?

尾崎氏: 正直、想いは同じなんですが、私としては別種のものだと思っています。「全国高校eスポーツ選手権」は、甲子園のように学校の部活として高校単位でどこの高校が勝ったのかを決める大会です。一方、「STAGE:0」はどちらかというとコミュニティ大会に近くて、一応、学校単位ではあるけれども、PCゲームに限らず、コンソールゲームもあり、スマホゲームもありという感じです。私としては、オフィシャルな大会と、コミュニティ大会という分け方なんです。こちらをやっているから、こちらはもう支援しないということではなく、同じ高校大会ではあるけれども別物として考えています。そういう位置づけですね。もちろんどちらの大会も高校生を応援する気持ちは同じです。

――「STAGE:0」は今年第1回が開かれるわけですけれども、どのような期待をお持ちですか?

【STAGE:0】
「第1回 全国高校eスポーツ選手権」終了直後に突如発表された第2の高校生eスポーツ選手権「STAGE:0 eSPORTS HIGH-School Championship 2019」。決勝大会は8月にアンフィシアターで行なわれる

尾崎氏: 盛り上がって欲しいですよね、コミュニティ大会として。コミュニティ全体がもっと活性化するためにも参加者が多く入ってほしいですね。

――サードウェーブは今、大規模な高校生を対象とした大きな大会を2つもホストしておられますが、高校生にこだわる理由は何かありますか?

尾崎氏: ん~、それはやっぱり高校生ですよね(笑)。日本の文化として根付かせるには、高校生が一番良いと思っています。ちゃんとした答えになるかはわからないのですが、あの年齢の人たちって一番純粋ですよね。純粋ゆえに感動も多いし、ドラマも出てくるように思います。

――スポーツは小学生くらいから本格的に取り組むものですが、小中学生にフォーカスした大会やイベントなどには関心はないでしょうか。

尾崎氏: 今はないですね。うちが、そこに力を注ぐべきかといえば、今はそうじゃないのかなと思っていますね。

――一方、高校生を対象にした大会について、今後は第3の高校生を対象にした大会をホストされたりする予定はありますか。

尾崎氏: 可能性としてゼロではないですが、オフィシャルな大会とコミュニティ大会があるので。これ以外のもの、例えば、「STAGE:0」もオフィシャルに高校単位で、部活でやるんですとなったら、うちとしても考えただろうなと。

 「STAGE:0」はコンソールゲームとかも入っていますが、いくら部活といっても学校の中にコンソールゲーム機を入れるのは難しいと思います。学校の部活に、コンソールゲーム機を入れなければならないとなると、いつまで経っても広がらないので、コミュニティ大会としています。

――ちなみに2年前にシドニーでお話を伺ったときには、eスポーツを担当している人間は数人しかいないということでしたが、現在は何人くらいいるのですか?

尾崎氏: eスポーツ推進部が8人。E5 esports Worksが10人位なので、20人弱くらいですね。

――この人数をどのように評価されていますか。ちょっと多いか、それとも全然少ないか。

尾崎氏: やりたいことを考えると、全然少ないです。

――やりたいことを考えると、何人くらいが必要でしょうか。

尾崎氏: うちが全部やらなくても良いところもありますが、そういうのも全部ひっくるめて2~300人は必要でしょうね。

――想像を遙かに上回るスケールですね。ちなみに現在のeスポーツ推進部の役割というのはなんなのでしょうか?

尾崎氏: やっぱり、eスポーツ市場を広げることですね。広げるためにも興行としてプラスマイナスゼロ以上にならないとダメなので。そこがポイントですね。

――ちなみに今尾崎さんは、eスポーツ推進部に対してどれくらい関与、コミットしていらっしゃいますか?

尾崎氏: そこは榎本がやってくれています。会社の中でもeスポーツは非常に注目度が高いので榎本の担当になっています。私はサンディエゴに先日行ってきて、「ロケットリーグ」の開発元に交渉に行きました。その中身はお話しできないのですが、会社の代表として交渉してきました。そういうことをやっています。