【特別企画】

神奈川の綾瀬でGALLERIA GAMEMASTERを7分で組み上げるマイスターに出会った

孤高の“eスポーツマシン”はどのように作られているのか!? 最新の現場を覗いてみた

4月訪問

取材地:サードウェーブ綾瀬事業所

 サードウェーブのゲーミングブランド「GALLERIA」には、スタンダードな「GALLERIA」シリーズとは別に、「GALLERIA GAMEMASTER」と呼ばれるハイエンドモデルが存在する。PCゲームファンの中には「とっくに俺の愛機だぜ」という人もいるだろうし、eスポーツファンならその名を冠したeスポーツ大会「GALLERIA GAMEMASTER CUP」の存在から馴染みのブランドとして認知している人も多いだろう。

【GALLERIA GAMEMASTER】

 「GALLERIA GAMEMASTER」はGALLERIAのトップブランドとして2016年8月に誕生し、ゲーミングPCではお馴染みとなっている「特定ゲームの推奨PC」というカルチャーを発展させて一気に40タイトルの推奨を取り、24時間体制のサポートを実現。翌2018年4月には、側面に硬化ガラスを採用した新筐体に刷新し、“eスポーツマシン”と再定義。同年9月には、スポンサーとして参画している日本eスポーツ連合から公認を獲得し、日本唯一の“JeSU公認PC”としてゲーミングPCの枠を超えた“eスポーツグレードのゲーミングPC”として活動の幅を広げている。

【新モデルを発表する榎本副社長】
2018年4月の発表会で新筐体採用の新モデルを発表するサードウェーブ取締役副社長榎本一郎氏

 そんな「GALLERIA GAMEMASTER」だが、「GALLERIA」オーナーの1人として、ドスパラやソフマップで盛大に売っているところや、eスポーツイベントやネットカフェで大量に使われているところはたくさん見てきたが、よくよく考えたら、作られているところは1度も見ていない。これはeスポーツ担当として問題があるのではないか。というわけで本稿では、GALLERIA GAMEMASTERが生まれる現場を単独取材してきたのでさっそくお届けしたい。

PC製造のすべてをワンストップで担うサードウェーブの中核拠点「綾瀬事業所」

 今回訪れたのは、サードウェーブが販売するすべてのPCの製造を行なっている綾瀬事業所。実際には製造のみならず、部材をストックする倉庫の機能から、受注、製造、検査、配送、修理、カスタマーサポートに至るまで企画以外のすべてのことをワンストップで担当している。まさにPCメーカーサードウェーブの中核拠点だ。

【綾瀬事業所】

 場所は神奈川県綾瀬市に日本通運が所有する巨大倉庫の中にあり、3階建ての巨大な建物の大部分をサードウェーブがワンストップ工場として事業を行なっている。ここは以前は日本IBM(当時)が倉庫として使用していたものを、元日本IBMで、元サードウェーブデジノス代表取締役社長の松野康雄氏が社長就任後の2012年に居抜きで契約。IBM時代からの夢だったというワンストップ工場を自らの手で実現した。その際、松野氏の右腕として“PC工場のスペシャリスト”として連れてきたのが、現サードウェーブ執行役員で生産物流統括本部長兼綾瀬事業所長の田名後保彦氏だ。

【綾瀬事業所の皆さん】
左より順番に生産物流統括本部 品質保証部部長 片野勇次氏、生産物流統括本部 製造技術部部長 飯生隆浩氏、生産物流統括本部長兼綾瀬事業所長 田名後保彦氏、生産物流統括本部 修理部次長 高橋翔太郎氏、生産物流統括本部 CS部次長 松尾秀樹氏

 田名後氏は、日本IBM時代、滋賀県の野洲事業所で、ThinkPadの液晶パネル生産ラインの設計・開発を行なっていた。その道25年、まさにPC工場の大番頭といっていい。

「倉庫、ロジスティック、サービス、修理、電話対応、技術、製造。ここには注文を受けたPCを作る機能がすべてあります。コールセンターもあることで、たとえば問題を受けても、問題が発生した箇所を、担当者が隣で作っている工場にすぐ見に行けて、その場ですぐ解決できる、このスピード感がセールスポイントです」(田名後氏)

 実は綾瀬工場は、一度メディアに公開されており(参考記事)、GAME Watchや兄弟誌PC Watchでもレポートしている。そして今回も快く取材に応じていただいた。なぜこんなに開けっぴろげなのか。

「全部オープンにしています。月に数社見学が来ていて、主にパートナーとなる外部のお客さんを営業部門が連れてきて全部お見せしています。そもそも隠すほどのものがない。見られて真似されるようなところはない。家内制手工業というか、最新設備もありませんし、お金の掛かった設備もありません。ただ、工夫と人材、これはあります」と田名後氏は直接目に見えないところに強みがあると語る。

 綾瀬事業所がPC工場として画期的な点はどこにあるのだろうか?

「レイアウトでしょうか。倉庫と作業エリアがワンフロアなのはなかなかないと思います。工場によっては倉庫内で組み立て作業をしたりすることもありますが、作業環境として劣悪ですし、倉庫から部品を持ってきて、あとは一切フォークリフト不要で、注文を受けて出荷までに最短1日でできる。最大でも2日で作りきれるというのはなかなかないと思います。これは松野がIBM時代に使っていく中で思い描いていた“あるべき物流の姿”なんです。松野は、“物流の中に工場があるべき”という考えを持っていた。IBM時代は綾瀬と藤沢、物流と工場が別々だった。松野が理想を叶えた場所がここなんです」と“親分”を偲ぶ表情で熱っぽく語ってくれた。

【ワンストップ工場】
大会議室にはワンストップをアピールする展示が行なわれている

 実は田名後氏の隣には、綾瀬事業所を運営しているあらゆる部門の幹部の皆さんがズラリと勢揃いしている。筆者は秋葉原にある本社に定期的に足を運び、広報チームをはじめ、マーケティング部門やeスポーツ部門と日頃からやりとりがあるが、本社スタッフがスーツをパリッと着こなした官吏タイプだとすれば、こちらは漆黒の作業着に身を包み、精悍な顔立ちをした野戦攻城タイプといった感じで、モノ作りに対して強いこだわりと誇りが感じられ、基本的な“圧”が凄い。思いつきでえらいところに軽々しく足を踏み込んでしまったなというかすかな後悔が頭をよぎる。

 実際は、その後に始まった工場見学ツアーでは、極めて親切に対応していただき、筆者のド素人質問に対してもイヤな顔一つせず丁寧に答えていただいた。気づけばなんと3時間以上も滞在してしまい、「大満足の1日でした」という東京ディスニーランドに行った子供のような感想しか出てこない有様となった。さっそく工場見学ツアーで得た大戦果をここにお届けしたい。

PCがよく分からないからGALLERIA GAMEMASTERを買う!

 最初に訪れたのは2階にあるサポートセンターを担うCS部門だ。事業所の皆さんと顔合わせをした大会議室のすぐ隣にあった。学校の教室より少し広いぐらいのスペースに数十名がデスクに座り、サポート業務を行なっていた。対応していただいたのは、生産物流統括本部 CS部次長の松尾秀樹氏。

【サポートセンター】

 CS部門は、GALLERIA GAMEMASTERを筆頭としたあらゆるPC、ドスパラが扱う単品パーツについて、購入相談、購入後のトラブルシュート、そしてサポートを受け付けている。スタッフは50名ほどで、訪れた時間帯には30名ほどがいただろうか。サポートの比率は、電話が6、メールが3、チャット1ということで、現在力を入れているのがチャット対応だという。

【チャットサポート】
サードウェーブでは2018年11月よりチャットでのサポートを実施している

 問い合わせの傾向は、GALLERIAについては、当然のことながらゲームに関する問い合わせがもっとも多いという。中でも多いのが「インストールができない」という基本的なものだという。筆者のような自作DOS/V PCからたたき上げだと、ある程度PCの使い方に慣れて、ゲームに必要なものが理解できてからゲーミングPCを買うというイメージがあるが、今のPCゲーマーは、欲しくなったらいきなりゲーミングPCを買うわけだ。

 コンソールゲームはディスクを入れるか、ダウンロードを完了させると簡単にゲームが始められるが、PCの場合は、ゲームも1つのアプリケーションとしてインストールを完了させなければならないが、ここで躓くゲームファンが以外に多いようだ。

 聞いていて特におもしろかったのが、GALLERIA GAMEMASTERのオーナーでもゲームのインストールの問い合わせが多いということ。CS部では、問い合わせがあればその都度、インストール完了までお手伝いするため、場合によっては新しいゲームを買う度に問い合わせしてくるユーザーもいるという。

 GALLERIA GAMEMASTERはゲーミングPC/eスポーツPCの頂点として、“PCをわかっている人間が買う”という盲信があったが、実際には“まったくわからないが、良いものだから買う。わからないところは全部聞く”というポリシーで運用をしているゲーマーがいるということを知って、「なるほどなあ」と思った次第だ。こういう部分は実際に話を聞いてみないと分からないところだ。

【驚きの24時間対応!】
GALLERIA GAMEMASTERのゲームサポートは驚きの24時間対応。わからなければ何でも聞けるのが強みだ

PCビジネスの躍動が感じられた約4,300坪の広さを誇る広大な倉庫群

 続いて訪れたのが倉庫だ。1階、2階、3階にそれぞれ用途の異なる倉庫が存在しており、1階は入荷、出荷、検品を行なうためのエリア、2階は検品済みの部材を利用頻度の高い順に並べて棚卸しするエリア、3階はドスパラや上海問屋、ドスパラ通販が扱う単品パーツが置かれている。各倉庫は350坪のブロックごとに構成されており、総面積4,300平米の広さを誇る。ここは田名後氏と、倉庫担当スタッフが説明してくれた。

 1階は、常にコンテナトラックが出入りできるように開け放たれ、届いたばかりの部材、あるいは完成したばかりのGALLERIAがうずたかく積まれている。入荷と出荷で場所が完全に分かれており、それぞれ同時に作業ができる。運搬用のフォークリフトも目立つが運用はすべて日本通運が担当。「餅は餅屋」(田名後氏)ということで、得意な部分はできる限り日通にまかせ、PC製造というもっとも強みが活かせる部分のみをサードウェーブが担当するという分業制が計られている。

 筆者が訪れたのは夕方だったが、朝には50フィートのコンテナが横付けされて、大量の部材が入荷し、11時、14時、17時と1日3回、ヤマト、佐川、日本郵便など、様々な業者によってPCやパーツが出荷されていくという。夕方でもいくつかのフォークリフトがせわしなく動いており、PCビジネスの躍動を感じることができた。本来であれば、おもむろに構内にしゃがみ込み、風景の一部と化して、2時間ぐらいモノと人の動きを眺めたかったところだが、後がつかえているため、そそくさと2階倉庫へ。

【1階倉庫】
部材の入荷作業が行なわれていた
入荷し検品を待つ部材。ドスパラが扱うモニターなどの商品も含まれている
ドスパラ新潟店より届いた中古のGALLERIA。こちらは修理部門に送られる

 2階は検品の済んだPC用部材が山と積まれている。バルクを多く扱う秋葉原のパーツショップを、何百倍か巨大化したような風景だ。ケースに、マザー、ビデオカード、ストレージ、電源なんでもある。まるでPCパーツ専門のコストコ(COSTCO)みたいだ。

 凄まじい風景にワクワクが止まらなくなり、担当者の説明がほとんど説明が耳に入らず、「これは何ですか?」、「光学ドライブです」、「おー!」、「このデカいのは何ですか?」、「これはスリムPC用の電源です」、「おーー!」、「ビデオカードはどこですか?」、「これですね、モノによって箱のサイズが違います」、「おーーー!」ということを十数回繰り返して、担当者を無駄に疲弊させてしまったことを正直に告白しておく。

 ここにおかれているパーツは500種類ほどで、個数にして25万個。日々の生産台数に応じて補充数を決め、かなり短いサイクルで1回転するという。ここの運用も日通が担当。入荷、出荷のみならずパーツの検品から棚卸も日通が担当している理由は、人材の確保だという。時期によって生産量が数十%ほど増減するということで、それに応じて必要となるスタッフも数十人単位で変化するというが、倉庫運営を本業とする日通側にはそれを吸収する力があるということが大きいようだ。

 素人目で見ると、適当にドカドカ置いているように映るが実際には法則がある。直結している製造エリアのすぐ近くから奥に向かって、足がはやいものから順番に並べているという。人気モデルで採用される人気のパーツなどは、製造エリアの境目に置かれており、すぐ台車で運び込めるようになっている。なお、CPUのみ専用倉庫になっており、外部に見せていないということだ。

【2階倉庫】
山と積まれた部材
GALLERIA GAMEMASTERのケースが入った外箱。段ボール箱もちょっとリッチだ
こちらはGeForce GTX 1660。ビデオカードはいくつか見たが、モノによって段ボールのサイズが全然違う
足がはやいものは手前にということで、製造エリアのすぐ近くに置かれていたストレージのバルク品

すべて手作業で行なわれる製造準備&パーツピックアップエリア

 2階倉庫のすぐ隣に、綾瀬事業所の心臓部である製造エリアが広がっている。正確には倉庫エリアと製造エリアの間には、製造前の準備をするエリアが広がっている。

 具体的には、製造担当がすぐ組み立てができるように、段ボールからすべて部材を取り出して並べ、かつ注文に応じて使用する部材を箱の中に入れていく。ちなみにここも日通のスタッフが担当している。

 このエリアは中央通路を挟むように左右にわかれており、入口から向かって右側がPCケースとキットボックス(付属品をまとめて入れるボックス)を対にして並べるエリア、左側がケースの中に入れる全パーツが並べられ、注文に応じてピックアップするエリアだ。

 まず、PCケースエリアは、GALLERIA、GALLERIA GAMEMASTER、raytrek(クリエイター向けPC)などモデルごとにズラリと何十台分が並べられている。中身は空っぽで、各ケースの上に、キットボックスが置かれている。キットボックスにはマニュアルや、Office等のソフトウェアのライセンスシートなどが入れられる。

【PCケース&キットボックスエリア】
ずらっと並べられたケース
ケースとキットボックスが必ずワンセットになっている
ケースと、後述のパーツピッキングエリアで集められたパーツのセットを4つセットにして並べる
一目でわかるGALLERIA GAMEMASTER

 パーツピッキングエリアは、CPU、GPU、メモリ、電源、グリスなどなど、PCの中に収納されるあらゆるパーツが棚にまとめられており、まるで秋葉原のバルクショップのようだ。担当スタッフは空の黒箱が配置された台車を持ち込み、注文書の内容に従って、1台分ずつパーツを用意していく。言うまでも無く正確性とスピードが求められる作業となるため、ある程度キカイの力が導入されているのかと思いきや、ほぼ人力だった。唯一、2014年のメディアツアーの時点から進化しているのは、オーダー(注文書)の内容を表示させる端末がノートPCから、タブレットに変わっていたところぐらいだという。

【パーツピッキングエリア】
ここは梱包を解くエリア
パーツが棚に収められ、ピックアップするエリア
ここはCPUゾーン
タブレットの指示に従いながらこの黒いボックスに入れていく

 ここで「なぜ製造エリアにパーツを並べて製造担当者が直接ピックアップできるような体制にしないのか?」と思う人もいるだろう。実際、筆者は最初に見たときそう思った。「調理場で料理人が料理の具材や調味料を手にするような感覚で、パーツに囲まれた状態でPCを組んだ方が速いのではないか?」と。

 筆者の素人丸出しの疑問に対して「そこがBTOの難しさなんです」と教えてくれたのは、生産物流統括本部 製造技術部部長の飯生隆浩氏だ。

 GALLERIA GAMEMASTERをはじめとしたサードウェーブが扱うPCは基本的にすべてBTOに対応している。オンラインでの注文時にチェックボックスで、メモリを増量したり、CPUをアップグレードしたりするアレだ。飯生氏によれば、カスタマイズ率はほぼ100%、まず標準モデルそのままでの注文はほぼないという。もっともカスタマイズ率が高いのはメモリ容量で、そのほかストレージの容量やオフィスの追加などが上位に来るという。1台1台組むPCが違う、だからこそ準備工程が大事になるのだという。なるほど!