インタビュー
サードウェーブ代表取締役社長 尾崎健介氏インタビュー
2019年6月7日 00:00
尾崎氏のeスポーツの出発点とは?
――さすがにシビアですね。次に、尾崎さんがeスポーツを志向されたきっかけ、原点を探ろうと思っています。尾崎さんがeスポーツを意識されたのはどのくらいで、どういった出来事があったのでしょうか?
尾崎氏: 12、3年ぐらい前ですかね。ちょうど私が社長になるかならないかぐらいの時から、気になっていました。出だしは、たわいもないことなんですが、うちの顧問弁護士と話をした時に、当時うちはBTOを中心にしていて、これからはゲーミングPCに力を入れていくぞ、という時に社長になったんです。そのタイミングで「eスポーツ」という言葉を耳にして、海外では当時小さなブームになっているというような言い方をされたんですね。その頃からずっと気になっていました。
――十数年というと、ちょうどサードウェーブさんが秋葉原で「PCゲームフェスタ」をされていた頃ですね。
尾崎氏: そうですね。ありがとうございます。今では知っていてくださる人が本当に少ないので(笑)。
――PCゲーム系のメディアの人間は全員覚えていますよ。年の瀬に開催されて、とにかく寒かったですからね。強烈に記憶に残っています(笑)。
尾崎氏: ははは(笑)。そうでしたね。「やるぞ」と言ったのは私です。はじめはみんな言われたからやるといった程度の感じだったと思います。
――え、それはなぜですか?
尾崎氏: 「また、社長が思いつきで始めたぞ」、「また社長の趣味が出たぞ」という雰囲気があったと思います(笑)。
――私は、第1回から6回まで毎回全て取材しました。尾崎さんの中で、実際にされてみて手応えはいかがでしたか。
尾崎氏: 色々ありましたが、やって良かったと思いますね。ベルサール秋葉原でやって、その後に食事するために入った地下の中華料理屋さんの中に、ゲームフェスタに来た方がおられて。初めてオフラインで会ったようなグループが多くいて、その店の中がいろんなグループのオフ会のようになっていて、ゲームコミュニティが生まれていることを体感することができました。
――PCゲームフェスタは、ゲーミングPC「GALLERIA」のプロモーションを兼ねたイベントでしたが、「eスポーツ」という言葉は影も形もなかったと思うんです。尾崎さんが社内でeスポーツという言葉を使い始めたのはいつ頃でしょうか?
尾崎氏: 実は12、3年前から社内でも結構言っていたんです。そんなに強くではないのですが、eスポーツも関わりたいし、我々はゲームPCをやるべきなんじゃないかと。当時はeスポーツと言っても、JeSU(一般社団法人日本eスポーツ連合)の前身、JESPA(一般社団法人日本eスポーツ協会)がまだ設立準備委員会だったり、サンコーさんがやられていた「LJL」は、まだ千葉の小さなコミュニティの集まりだったので、そんなに来てない(盛り上がっていない)という話がほとんどだったんです。
ですから気にはなっていたんですが、会社としては動き出さなかったんです。実際、本気でやっていこうと思ったのは、いろんな要素が絡んでいるので、なんとも言えないんですが、うちがちょうどJESPAに加盟したりだとか、海外の大会の話をWEBで見たりだとか、そういうのが全部重なって「eスポーツやるぞ」と言うことになったんだと思います。
――それは尾崎さんがですか?
尾崎氏: そうですね。うちの場合、初めは大体私ひとりで動くので、JESPAの理事会の人と話をしたり、平方さん(平方彰氏、当時JESPA委員長補佐)、筧さん(筧誠一郎氏、当時JESPA事務局長)もそうですが、いろんな人たちと話をして、とにかくやると決めました。
――今サードウェーブが“eスポーツをやっている”のは誰の目から見ても明らかですが、その“やらない”から“やろう”に転じたきっかけは何なんですか?
尾崎氏: 自分が本当に“これ”ということがあったわけではなく、いろんな情報の積み重ねなんですね。例えば自分たちのビジネスでも、ゲーミングPCを製造するだけではなくて、マーケット自体をお客様と近くならなくてはいけないというのはずっとあるわけです。
スペックがどうということではなく、ユーザーの人たちが楽しめるような環境というか、そういう形で市場をもっと広げていかなくてはならない。たとえば、ヤマハがピアノを広げるために全国にヤマハのピアノ教室を開いたように、PCを普及させるためにそういった取り組みも考えていかなければならない。
そのときに、我々はまずゲーミングPCを立ち上げようとしていて、うちの海外の取引先とかと話をしていても、ドイツ人の放射線事測定器を扱うPCとは別の事業の方が、日本で会ったときに「このビデオカードが欲しいんだけど、ドスパラで売ってる?」という話をしてきたんですね。私より大分年上なのに、ゲームをするためにビデオカードを安く買いたい人がいるということを知って、自分の中でちょっとフックした所があったんです。
そこで何のゲームをしているのかと聞いたら「Counter-Strike: Global Offensive(以下、CS:GO)」をやっていると。もちろん日本にも「CS:GO」が好きなお客様がたくさんいらっしゃるんですが、なんかこう凄く特別なのかというと、そんなに特別じゃないですよね。でも彼にとっては「CS:GO」は特別な存在で、快適な環境で遊びたいと考えている。アメリカの大きな会社で働いて、インターナショナルで営業をしている、おそらく高学歴高収入の家庭持ちで子供もいるそれなりのポジションの人がそういうことを聞いてきたと言うことが自分の幅が広がるところがあったんです。
それまでは正直ゲームは、本当に単なる娯楽で、自分が楽しければいいや、というすごく狭い世界だけでやっているという認識がベースにはあったんですが、海外ではPCゲームというのはそういった人も夢中にさせるものなんだということがわかって、そこで意識が変わったというか、もっとお客様と近いところでやりたいという気持ちが出てきたんだと思います。
――長年PCを商売にされながら、PCの奥に未知の領域、何か得体の知れないでっかいものが広がっているぞという。そこに気付いた。それがeスポーツだったということなんでしょうか。
尾崎氏: そうですね。もっと日本でも一般的になってもいいんじゃないかと。ゲームをやってない人は野球をやったことない人に比べて全然少ないと思うんですよね。だからもっと普通になっても良いのにな、とどこかで思ったんでしょうね。
――私は、ゲーミングPC事業の事業の一環としてのPCゲームフェスタを知っているので、今のサードウェーブのeスポーツ事業は、その延長線上ではないなとは思っていたんです。では何なのかとずっと思っていたんですが、海外の影響が大きかったんですね。
尾崎氏: そういうことになりますかね。
――2018年4月のGALLERIAの発表会では、榎本さん(榎本一郎氏、サードウェーブ取締役副社長)が壇上に立たれて「eスポーツに3年で20億の投資」と発表されました。またとんでもないことを言い出したなとワクワクしましたね。
尾崎氏: あれは榎本が入る前に私が言ったのかな。私が決めたことです。
――これぐらいやるつもりだからきてください、と?
尾崎氏: そうですね。
――尾崎さん自身がビジョンを語らないのは何故なんですか?
尾崎氏: だって榎本の方が、迫力がありますもん(笑)。
――「確かに」とかいうと榎本さんにもの凄く怒られそうですが(笑)。
尾崎氏: 当然榎本が入ってからもずっと話をしていて、同じ想いを共有しています。
――それは確かに感じてますね。尾崎さんもビジョナリストとしてeスポーツに対して熱いものをお持ちですが、榎本さんは榎本さんで野球人、スポーツマンとして別種の「熱さ」がある。その2種類の熱がサードウェーブのeスポーツ事業を牽引しているのは間違いないですね。
尾崎氏: そうですね。