インタビュー

「BlueStacks 4」ベータ版について、BlueStack SystemsのCEO Rosen Sharma氏にインタビュー!

最新バージョンは「より軽く、より速く」がコンセプト

【ベータ版】

8月13日 配信開始

 PC上でAndroidアプリを起動することができるエミュレータ「BlueStacks」。今年の2月からリリースを開始した最新版「BlueStacks 3N」ではAndroid 7.xへと対応するとともに、従来バージョンよりも互換性と動作スピードが向上。高い実用性を獲得するに到った。9月には次期バージョン「BlueStacks 4」のリリースがアナウンスされていて、それに先立ち、β版の配信が8月13日に開始された。

 現バージョンのリリース前と同様、開発元であるBlueStack SystemsのCEO、Rosen Sharma氏が来日し、新バージョンの特長などをアピールする共同インタビューの場が設けられたので、そこで得た情報をお伝えしたい。

 従前より毎回書いていることではあるが、今回もまず最初に断っておきたいのが、「BlueStacks」は完全に合法的存在である、という点。日本ではエミュレーターというと過去のあれこれから法的にグレーなイメージを抱く人も少なくないと思うが、AndroidはそもそもがオープンソースのOSであり、「BlueStacks」に違法性はまったくない。

 チートの排除にも積極的で、アプリを開発する各メーカーとの協力体制もどんどん拡大してきている。BlueStack Systemsの株主にはAndroidのハードウェア開発を推進する「オープン・ハンドセット・アライアンス」の中心であるQualcommをはじめ、Intel、AMDといった大企業が名を連ねていることからも、そのクリーンさがうかがい知れる。ついでに述べておくと、「BlueStacks」は広告収入に依るビジネスモデルを構築しているため、無料で利用することができるのも大きな特長である。

 今回はβ版がリリースも行なわれていない段階であるため、最新版の画面を紹介できないのが残念だが、Rosen氏の言葉からも非常に期待できるものであることが十二分に伝わることと思う。

見た目の変更は少ないもののアーキテクチャを大きく刷新

 今回のインタビューはRosen Sharma氏が話を進め、それをカントリーマネージャーの松本千尋氏が通訳していくというスタイルで進行した。

 Rosen氏から開口一番に語られたのが「BlueStacks 4」では「アーキテクチャが新しくなっている」ということ。そのコンセプトは「軽く、速く」。このコンセプトの実現を含めた新バージョンの特徴として、Rosen氏は4つのポイントを挙げた。

 まず最初のポイントが、オンデマンドシステムの採用だ。従来のバージョンでは特定のアプリだけを使うライトなユーザーと、さまざまなアプリをいくつも立ち上げて持てる機能をフルに活用するようなハードコアなユーザー双方に同様の高いパフォーマンスを得られるよう、最適のバランスを取るのがとても難しかったという。

 しかし次期バージョンではAndroidアプリを動作させるにあたり、必要なリソースだけを用いる構造が採用されたため、無駄がなくなって高いパフォーマンスを発揮できるようになった。

 この“オンデマンド”はコアな部分からUIに到るまでの全てにおいて採用されていて、たとえばグラフィックスのシステムについても同様。高度な処理を必要としないアプリではそれに必要なサブシステムなどは読み込まれず、ユーザーが起動するアプリが求める機能に必要なモジュールだけがメモリ上に読み込まれていくわけだ。

BlueStack SystemsのCEO、Rosen Sharma氏。こう言っては失礼かも知れないが、実はRosen氏もかなり茶目っ気のある方で、キーボードのライトアップ機能の話などのときは非常にうれしそうに笑顔を浮かべていた

次バージョンは「BlueStacks」のロードマップにおけるターニングポイントに

 「『BlueStacks 4』ではプロダクト全体のアーキテクチャを見直すことで、幅広いユーザーのプレイスタイルに対応した」とRosen氏は語る。その際にはたとえばIntelなど、資本に協力している大手企業との対話をより深くとり、それをプロダクトに反映させていて、これが2つめのポイントなのだそうだ。

 WindowsとAndroidという本来はまったく別のアーキテクチャを持つOSを両立させるのが「BlueStacks」であり、技術的なハードルもまさにそこにある。先にも少し触れたが、BlueStack Systemsの株主にはIntelやQualcommといった両者のハードウェアのカギを握る企業も名を連ねているが、そういったところとより密な情報交換を行ない、その成果が今回のバージョンアップには活かされているとのこと。

 Rosen氏は「バーチャライゼーション」、「仮想化」という言葉を使ったが、「BlueStacks」はWindows上にAndroidの仮想マシンを構築するものにほかならない。今回の細部にまで及んだアーキテクチャの改変ではここに「深みを持たせる」(Rosen氏)よう注力したといい、今後のロードマップにおいても大きなターニングポイントになるそうだ。つまり、それほどに大きな変革が内部的に行なわれたということなのだ。

 多くのユーザーが実感していることと思うが、Androidスマートフォンの機能、性能は日々進化している。特にグラフィックス表現に関しては難なく3D表現をこなせるようになって久しく、その後の進化も目を見張るものがある。この部分のエミュレーションは相当神経を使うものと思われるが、今回リリースされる「BlueStacks 4」では、「最新のGL3」(Rosen氏)への対応もより精度が向上しているという。

 Androidでは3DCG用のAPIとしてOpenGL ES(OpenGL for Embedded Systems)を採用しているが、この話題においてRosen氏が用いた「GL3」という表現は、これのバージョンナンバー。より高度な3D表現を可能にする3.0以降へさらに高度に対応できるようになったということだ。

 また、現在のバージョン「BlueStacks 3N」では、メインメモリが4GB程度しか搭載されていない端末では、「GL3」への対応が不十分だそうだ。しかし、次バージョンではそうした低いスペックの端末でもグラフィックス表現の再現性が高まり、より快適に利用ができるという。これは前述の通りオンデマンドな構造を採用したことにより、より効率的にリソースを活用できるようになったことの恩恵のひとつと言える。

 実のところ、BlueStack Systemsが集計しているランキングで上位に入っていながらも、現在のバージョンの「BlueStacks 3N」では動作しないアプリがあるそうだ。しかし、そのアプリも「BlueStacks 4」では問題なく動作することが確認され、この場でその様子を見せていただくことができた。これは主にグラフィックスのアクセラレーションなどに関する精度、そして互換性が向上した結果だとのこと。

UIもユーザーの好みに応じたカスタマイズが可能に

 3つめのポイントは、Rosen氏はプラットフォームとしてユーザーカスタマイズの幅が広がったことを挙げた。

 現バージョンの「BlueStacks 3N」では、起動すると「アプリセンター」と名付けられた画面がトップページとして開かれる。ここには前述したBlueStack Systemsが集計したランキングやオススメのアプリなどが表示されている。自分がGooglePlayストアからダウンロードしたアプリのアイコンは「マイアプリ」というまた別のタブにまとめられていて、起動する際にはそちらのタブに切り替える必要がある。

スタートアップ画面である「アプリセンター」。「BlueStacks 4」ではこれを閉じてしまうなど、UIのカスタマイズが可能になった

 アプリセンターからどんなゲームを遊ぶか選ぶのを好むユーザーもいれば、すでに遊びたいアプリが明確に決まっているユーザーにしてみれば、いきなりマイアプリが開いてくれたほうが使いやすく感じるだろう。

 次の「BlueStacks 4」では、アプリセンターはアプリのひとつとして起動するかたちへと仕様が変更され、ユーザーはこれを通常のアプリと同様、閉じてしまうことが可能になった。これもまたオンデマンドな構造となった新バージョンならではの変更点だ。閉じてしまえば以降はマイアプリがメイン画面となる。

 この変更は、見た目とランチャーのスタイルに好みを反映させられるだけがメリットではない。アプリセンターの画面は、多数のアイコンが並び、またいくつものバナーが切り替わりつつ表示されるという、かなり派手なもの。そのため、閉じてしまえば使用するリソースを削減できるというメリットが生まれるのだ。先にRosen氏はオンデマンドな構造はUIにも採用されていると語っていたが、この部分のことを述べていたわけだ。

「BlueStacks 3N」のアプリセンター。“Top Charts”コーナーでは「人気」「売上げ」「急上昇」という3つのランキングから人気タイトル、ガチ勢に好まれるタイトル、最近のトレンドを知ることが可能だ。遊びたいゲームを広く探すのにはかなり便利だが、すでに起動するアプリが決まっているような場合には煩雑さが気になることも

 後述するが、BlueStack Systemsでは、YouTuberとの取り組みを強化していく方針にある。リソースを極力使わないオンデマンドなシステム構造は、「BlueStacks」と同時に起動するストリーミングサービスなどへリソースを割けるという点でも有利と言える。

ゲーミングキーボードのライトアップPCのハードウェアリソースを

 スマートフォンに比べてPCはより多くの機能を備えている。それらをどう活用していくかが、「BlueStacks 4」の特長をなす最後のポイントだ。その1例として、「BlueStacks 4」では、ゲーミングキーボードのライトアップを制御できるようになるという。

 これは、ゲーミングノートやマザーボードで知られるメーカー、MSIとのパートナーシップのなかで実現したもの。MSIの最新ゲーミングPCには標準でMSI向けにカスタマイズされた「BlueStacks」にあたる「MSI APP Player」がインストールされ、こうした環境では、「BlueStacks」上のキーマッピング機能で割り振ったキーだけがライトアップされるのだそうだ。

 この機能は9月の正式リリース版からの搭載で、β版では見送られるとのこと。詳しくは後述するが、今のところMSIのゲーミングノートに搭載されたキーボードでしか使えないものの、正式版リリースの際にはこれと連動した機能が盛り込まれるそうだ。9月に開催される東京ゲームショウ2018では、MSIに加え、BlueStacksと相性のよい「アビス・ホライズン」や「神無月」をリリースしているMorningTecのブースでもこれのデモが見られる予定。

 これはこちらからの質問で判明したことだが、この機能は専用のAPIを利用して実現しているそうだ。プレーヤーが設定したキーマッピングに応じて光るキーもきちんと変わるほか、「BlueStacks 4」のデフォルトでは対応していないキーボードも、機能的に可能であればユーザーが適宜設定をすることで対応させられる仕様になるとのこと。

 暗い場所では利用するキーだけが浮かび上がるこの機能は見た目のインパクトが強いだけでなく実用性も高く、Rosen氏もお気に入りだそうだ。「Very Cool!」と笑顔を浮かべていた。

配信者目線での情報発信に注目

 ここから話題は新バージョン「BlueStacks 4」の主な変更点から、コンテンツ寄りの内容へと移っていった。日本向けにカスタマイズされた「BlueStacks」がリリースされてから約1年が経過したが、BlueStack Systemsではこの間、日本のユーザーがどういったアプリを好むのかという市場調査も続けていたという。

 その結果判明したのは、GooglePlayのランキングで上位のものが必ずしも「BlueStacks」上でも高い人気を誇るとは限らないということ。こうした理由のひとつとして、日本では好みのゲームをどう探すか、その方法に変化が生じてきているそうだ。

 具体的には、たとえば「人狼殺」や「人狼ジャッジメント」など、YouTubeやニコニコ動画のコンテンツをきっかけに広く遊ばれるようになったタイトルがいくつも見られるとのこと。動画の配信者が抱えるコアなファンが、「BlueStacks」上で遊ばれるアプリの動向に影響を与えているわけだ。BlueStack Systemsの見解としては「これは日本のゲーム業界では今まであまり見られなかった流れ」という。

参加メンバーのなかから会話を頼りに“人狼”が誰なのかを見破る「人狼殺」、「人狼ジャッジメント」は「BlueStacks」で人気。特に「人狼ジャッジメント」は文字によるチャットでゲームが進行するため、キーボードが使える「BlueStacks」を利用している動画配信者が少なくないという

 現在は遊びたくなるゲームを探す手段としてGooglePlayのランキングやサジェストがまだまだ強いが、BlueStack Systemsでは今後はこうした動画配信などで情報を得るケースはどんどん増えていくと見ている。

 そこで今後、日本ではゲーム実況者との協力に取り組んでいく方針で、すでにニコ生の集客率No.1を誇るという加藤純一氏を“広報大使”に任命。実況する動画のなかで「BlueStacks」の名前を出してもらったり、また、「BlueStacks」のアプリセンターで加藤氏がオススメするアプリを特集としてピックアップしたりといった施策を打っていくほか、「配信者が実際に使用しているキーマッピング」を配布したりといったことも行なっていく予定があるそうだ。この辺りの事情に関しては加藤純一氏がYouTubeにアップした動画「加藤純一、仕事を承る。」や「加藤純一の人狼殺」を見ていただくのが早いかもしれない。

【加藤純一、仕事を承る。】
【加藤純一の人狼殺】

 現在の「BlueStacks」には攻略動画へのリンクや、「BlueStacks」のマイアプリに表示される専用の壁紙といったコンテンツをまとめて紐付ける「xpack」というものがアプリごとに作れるようになっている。その代表的な例が「荒野行動」で、これをインストールしたうえでxpackを適用すると、壁紙が専用のものに切り替わるなど、“「荒野行動」仕様”とも言うべきカスタマイズが行なわれる。

 xpackはメーカーサイドに対する施策だが、今後はムーブメントを生み出しうる配信者の目線で情報を発信していく流れにも注力していく予定であるとRosen氏は語っていた。影響力のある配信者からの働きかけでユーザーコミュニティを活性化させ、PCでAndroidアプリを楽しむ「BlueStacks」自体の動きを活性化させるのがその狙いだ。

キーボードによる文字入力やキーマッピング機能が改善&大幅に進化

 最後に今回のインタビューで判明した「BlueStacks 4」で変わったところ、変わってないところをまとめておきたい。

 まずはキーマッピング。ここに関する機能も大きく進化している。「BlueStacks」でのキーマッピング機能では、カスタマイズ専用の画面をアプリの画面にオーバーレイさせ、タップしたい画面の位置にキーバインドを配置していくという方式が採られている。

 これはこれで直感的で悪くない方式ではあるのだが、ゲーム内の状況によってまったく違う操作を求められるゲームでは、設定に苦労することがある。その最たる例が「PUBG MOBILE」で、このゲームではクルマやバイクなどの乗り物に乗ると、専用の操作モードに切り替わる。

「BlueStacks 3N」のキーマッピングモード。オーバーレイでキー設定をマッピングしていく現状の方式は直感的でわかりやすいが、ゲーム中でないと精確な位置にキーをバインドできないうえ、こうした状態では各キーがそれぞれどういう機能を担うのかがわかりにくいのが欠点

 その解決策として、「BlueStacks 4」では、例えば“「前進」は「W」”といったように、機能一覧を表示したうえでキーバインドの指定ができるようになった。この機能を実現するためにはアプリ側の対応も必要だと思われるが、まるでPCのゲームにおけるキーバインド設定と同様の感覚でキーを指定できるのはかなり便利だ。

「BlueStacks 4」のキーマッピングモード。より直観的に設定できるようになったほか、タイトルによってはまるでPCでのキーバインドのように設定もできる

 個人的に興味があったのが、グラフィックスエンジンの切り替えについて。現状の「BlueStacks 3N」ではDirectXとOpenGL、さらにそれの上位モードと計4種類のグラフィックスエンジンが用意され、ユーザーが適宜それを切り替える仕様になっている。

 たとえば「PUBG MOBILE」を起動するためには上位モードへの切り替えが促され、また、切り替えの際には自動で実行されはするものの、再起動が必要と、今ひとつスマートではない仕様になっていた。

 残念ながら「BlueStacks 4」でもこの点は変わらず、4通りのエンジンが用意されていることに変わりはない。Rosen氏によると、起動するAndroidアプリ、Windowsのバージョン、そして端末のハードウェア環境と、各要素がそれぞれに影響するために、一概に「これがベスト」と言い切れないのだという。そうした個別の環境へ対応するための措置として、仕方のない部分らしい。

 もっとも、「BlueStacks 3N」でも現在は上位バージョンへ切り替えずとも「PUBG MOBILE」の起動は可能になっている。「BlueStacks 4」を待つまでもなく、グラフィックスエンジンなどコアな部分の改良は日々進められていることの証であり、どのエンジンにおいても互換性が向上しているのだ。「BlueStacks 4」が正式にリリースされた際には、今以上にグラフィックスエンジンの設定など意識せず済むようになっていることだろう。

これは「BlueStacks 3N」のグラフィックスエンジンに関する設定画面だが、「BlueStacks 4」のβ版でもほぼ同様の画面が確認できた。しかし1度自分の環境にあったエンジンを選んでしまえば、切り替える必要に迫られることはほとんどないだろうとのこと

さらに実用性が向上した「BlueStacks 4」に期待

 文字入力を多用するもの、画面をタッチするよりもマウスのほうが遊びやすいものなど、「BlueStacks」で遊んだほうが快適なゲームキーボードは意外なほど多い。PCでは画面がスマートフォンより広く、また処理速度の面においても、Windows10が快適に動作し、それなりのビデオカードを乗せたPCであれば、「BlueStacks」ではたいていのスマートフォンよりも高速にAndroidアプリを動作させられる。

 実際に使ってみるとわかるが、「BlueStacks」の実用性はかなり高いのだ。そのうえ、オンデマンドにより必要な機能だけを読み込むという次バージョン「BlueStacks 4」は、高速な動作が期待でき、メモリやCPUパワーに乏しい環境でも実用性が向上しそうだ。

 また、並列して複数のアプリケーションを起動できることなどから、確かに動画配信などには「BlueStacks」は最適なコンソールであると言える。動画配信者とタッグを組んで広報を進めるというBlueStack Systemsの方針は2重3重の意味で効果が高いと思われる。今後、「BlueStacks」を用いてWindows環境でAndroidアプリを遊ぶのは急速に一般化していくのではないだろうか。

 「BlueStacks」を起動しない日はほぼない筆者としては、β版の入手が待ち遠しくて仕方が無いのである。