インタビュー

当時を振り返る貴重な話題が満載!「ヘラクレスの栄光 サウンドクロニクル」作曲者座談会

あの印象的なメロディはいかにして生まれたのか? 「ヘラクレスの栄光」シリーズ作曲秘話

発売中(6月23日発売)

価格:9,180円(税込)

 さる6月23日、スーパースィープよりゲームミュージックCD、「ヘラクレスの栄光 サウンドクロニクル」が発売されたことをご存じだろうか?

 同サントラは、1987年に今はなきメーカー、データイーストがファミリーコンピュータ用ソフトとしてシリーズ第1弾を発売したRPG、「ヘラクレスの栄光」シリーズ全タイトルのオリジナル、アレンジ曲をCD6枚に収録したもの。

 「ヘラクレスの栄光」シリーズとは、ギリシャ神話の世界観を取り入れたコマンド入力式のRPGで、神の子ヘラクレスが主人公、または主人公をサポートする勇者として登場する作品である。

 アテネ、トロイなどの地名が登場し、時にはギリシャを飛び出してエジプトやペルシャ、天界、冥界までもが冒険の舞台となり、ゼウスやアテナ、アレスなどの神々との出会いも訪れる。地上に住む人類が滅亡の危機に瀕したり、世界を手中に収めたい神々たちの思惑が交錯するなど、壮大なストーリーが展開されるのが特徴だ。

 ストーリーだけでなく、実はサウンドのクオリティが非常に高いのも、「ヘラクレスの栄光」シリーズの大きな魅力である。筆者はゲームボーイ版をのぞき、全タイトルをエンディングまでプレイした経験があるが、どれも名曲ぞろいで、機会があればぜひメディアを通じて紹介したいなと思っていた。そして今回、たいへん失礼ながら予想だにしなかったサントラ化が実現し、再び日の目を見る機会ができたことは、本シリーズのファンのひとりとして本当に喜ばしい。

 そこで、この機会を利用させていただき、「ヘラクレスの栄光」シリーズのサウンドの素晴らしさをお伝えすべく、歴代のシリーズ作品で作曲を担当したサウンドコンポーザーのみなさん、さらにはシナリオを担当した野島一成氏にもお集まりいただき、たっぷりとお話を伺った。「ヘラクレスの栄光」シリーズ好きの方はもちろん、「デコゲー」ことデータイースト作品のファンにもお楽しみいただける座談会となっているので、ぜひご一読を。また、シリーズ作品をご存じない方にも、本座談会を機に「ヘラクレスの栄光」シリーズの魅力を知っていただけたら幸いだ。

【「ヘラクレスの栄光」シリーズ作品リスト】

・「闘人魔境伝 ヘラクレスの栄光」(ファミリーコンピュータ:1987年6月12日発売)
・「ヘラクレスの栄光II タイタンの滅亡」(ファミリーコンピュータ:1989年12月23日発売)
・「ヘラクレスの栄光III 神々の沈黙」(スーパーファミコン:1992年4月24日発売)
・「ヘラクレスの栄光 動き出した神々」(ゲームボーイ:1992年12月27日発売)
・「ヘラクレスの栄IV 神々からの贈り物」(スーパーファミコン:1994年10月21日発売)

※上記以外にも、ニンテンドーDS版「ヘラクレスの栄光 魂の証明」があるが、こちらの発売元はパオン(現:パオン・ディーピー)であり、今回のサントラには収録されていない。

「ヘラクレスの栄光 サウドトラック」座談会参加メンバー

【中本博通氏】

 1985年にデータイースト入社。初代「ヘラクレスの栄光」のほか、「B-ウイング」、「バギーポッパー」、「ホームランナイター」などのファミコン用ソフトでサウンドを手掛け、「ドナルドランド」、「大怪獣デブラス」では企画も担当。同社の3代目ファミコン博士「ドクター中本」の名前でメディアにも度々登場していた。現在はサミーネットワークスに勤務している。

【酒井省吾氏】

 「ヘラクレスの栄光II」ではサウンドのリーダー的立場で開発に参加し、以後のシリーズ作品でも多数の曲を制作。ファミコン用ソフト「メタルマックス」やPCエンジン版「ブラッディウルフ」など、数多くのデータイースト作品で作曲を担当した。現在はハル研究所チーフクリエイターとして、「MOTHER3」「星のカービィ」シリーズ、スマホアプリ「はたらくUFO」などの作曲を手掛けている。

【高濱祐輔氏】

 データイーストにアルバイトとして入社し、最初に作曲を担当した作品が「ヘラクレスの栄光II」。ファミコン用ソフト「ダークロード」やPCエンジン版「ブラッディウルフ」をはじめ、退社後は「仮面ライダー」、「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズなどの作曲を担当。現在は有限会社ターゲット・エンタテインメント代表取締役を務め、アニメ「アキラ」のサウンドも手掛けるなど、多岐にわたり活動中。

【岩崎正明氏】

 1988年にアルバイトでデータイーストに入社。「ヘラクレスの栄光II」からSE(効果音)の制作を担当し、ゲームボーイ版「ヘラクレスの栄光」ではサウンド制作の中心メンバーとして活躍。メガドライブ版「チェルノブ」やアーケード用マシン「スタンプ倶楽部」、「MOTHER3」、「大乱闘スマッシュブラザーズX」、「星のカービィ」シリーズなど、現在に至るまで幅広いジャンルにわたりサウンド制作を担当している。

【濱田誠一氏】

 1989年データイースト入社。最初にサウンド制作を担当したのはファミコン版「ロボコップ」で、「ヘラクレスの栄光」シリーズは「II」以降の全タイトルでサウンド制作に参加。現在はロゴスグルーブ代表として、「探偵 神宮寺三郎PRISM OF EYES」などの作曲を担当。2013年に再結成した同社のゲームミュージックバンドGAMADELIC(ゲーマデリック)のメンバーとしても活動している。

【桃井聖司氏】

 1990年データイースト入社。「ヘラクレスの栄光III」、「大怪獣デブラス」のほか、海外版ファミコン(NES)用ソフト「Captain America and the Avengers」などの作曲を担当。退社後も「ヘラクレスの栄光IV」で作曲を担当し、「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズのアレンジ曲なども手掛けた。現在は彩響舎にてミュージカルや映画などの作曲、指揮など幅広く活躍。ゲーマデリックでは「せいんと☆ぴーち」名義で活動中。

【野島一成氏】

 1986年データイースト入社。「ヘラクレスの栄光II」にはプランナーとして開発の途中から参加し、以降のシリーズでもシナリオやゲームシステムの開発を担当。ファミコン用ソフト「ゴルフ倶楽部バーディーラッシュ」、「探偵 神宮寺三郎」シリーズでも企画を手掛けた。スクウェア入社後は「ファイナルファンタジーVII」、「キングダム ハーツ」シリーズなど、多くの有名タイトルでシナリオ制作を務めている。

栄光よ再び! 「ヘラクレスの栄光」作曲回想録

――まずはみなさんに同じ質問をさせていただきます。スーパースィープから、「ヘラクレスの栄光 サウンドクロニクル」が発売されると最初に聞いたときは、率直にどう思われましたか?

中本氏: えっ今頃? 恥ずかしい。でも嬉しい! 以上です(笑)。

酒井氏: 桃井君が手掛けた、「ヘラクレスの栄光III」の曲が日の目を見ることになって良かったなって思いましたね。

――確か、過去にサントラが商品化されたのは「II」と「IV」の2タイトルだけでしたからね。

酒井氏: はい。実は、「II」のサントラを作るときに生の音を入れようという話が出まして、それが後にゲーマデリック結成のきっかけになったんです。結成当初は、まだバンド名はありませんでしたけどね。

岩崎氏: 私も中本さんと同じで、なんで今頃出すのかなって正直思いました。で、いざ出来上がったものを聞いてみたら当時のいろいろな思い出が蘇ってきて、個人的にも楽しめたのでとてもありがたかったです。

高濱氏: 昔の作品が、今こうしてクローズアップされることになったのは素晴らしいなと思います。でも個人的には、「もう昔の曲は聞かないで!」って思ってますけど(苦笑)。

桃井氏: 「III」のサントラはずっと発売されていなかったので、今回サントラができてとても嬉しいです。ゲーマデリックの活動を通じて、日々オールドゲームファンのゲーム音楽愛をすごく感じているのですが、「ヘラクレスの栄光 サウンドクロニクル」の発売への反応からも、「ヘラクレスの栄光」シリーズファンの愛情を感じましたね。

濱田氏: もう随分前からサントラ制作をしていたことは知っていましたので、ようやく発売することができて感慨深いものがあります。個人的には、ゲーマデリック名義でアレンジ曲を1曲担当させていただき、過去と現在がつながったなあという嬉しさもありますね。

野島氏: 「ヘラクレスの栄光」に限らず、昔のゲームが何らかの形で復活して、数年前から今でも遊べるようになっていますよね(※1)。今回のサントラもそうですが、まさかビジネスになるなんて思ってもいませんでした。でも、今まで出ていなかったのが不思議な気もしますけどね。確か、「III」のサントラCDは自分でも持ってた気がするんだけど……。

※筆者注1:現在でも、Wii Uのバーチャルコンソールで「III」と「IV」が、同じく3DSにてゲームボーイ版がパオン・ディーピーから配信されている。

桃井氏: それは多分、「ヘラクレスの栄光 ギリシア回想録」ですよね。

野島氏: ああ、それですそれです。

酒井氏: 「ギリシア回想録」というのは、斉藤君という当時宣伝課にいたスタッフが、「シンセサイザーだけで最初に作ったデモ音源の状態のものをCD化しましょう」ということで頑張って動いてくれて、とりあえず非売品で作ったものです。

――それでは、ここからは各シリーズのタイトルごとに質問をさせていただきます。まずは初代「ヘラクレスの栄光」の曲を作られた中本さんにお尋ねしますが、本作で作曲をするにあたり、ギリシャ神話の本を読んだりとか、何か曲のイメージを膨らませるような工夫はされたのでしょうか。

中本氏: サントラのライナーにも書いたのですが、まず大前提として「ドラゴンクエスト」を意識して作らなくてはいけなかったんですよ。つまり、音楽も「ドラクエ」とは全然違う、離れたものを作ろうと思っていました。ゲームの主人公の名前はヘラクレスに決まっていましたので、何か男臭い、泥臭いような曲にしようと思っていました。

 逆に、ヘラクレスが訪れる場所とかエンディング曲については、当人とは関係ないと言いますか、何か癒されるようなイメージの曲に分けようとして作っていたような記憶があります。本当はギリシャ神話なのに、なぜか頭の中にあったのは中世のヨーロッパ的なイメージで、神話の時代まで戻ってなかったように思いますね。実際の曲にも、それが表われちゃったかなあと。

――ゲームを企画したスタッフから、こういうイメージの曲が欲しいとか、あらかじめ何かオーダーがあったのでしょうか。

中本氏: まず最初に企画の方に聞きに行ったのですが、割と好きにやらせてくださいましたね。「ヘラクレスっぽくなってればいいよ」って言われて、「ヘラクレスっぽいて何だよ?」って思いましたけど(笑)。それから、鼻歌を歌いながら「こんな曲を入れてほしい」というオーダーが1曲だけありました。

――グリーグ作曲、「ペール・ギュント組曲」の「朝」のイントロを編曲したものですね。

中本氏: そうです。私はクラシック曲は全然詳しくなかったので、ピアノやギターが弾けて音楽に詳しそうなスタッフに、鼻歌を自分で歌いながら聞いて回っていたら曲名がわかりました。

――当時のROMカセットはプログラム容量がかなり少なく、当然ながらサウンドも限られた容量の中で作る必要があったと思います。作曲やプログラムをするにあたり、かなりご苦労があったのではないしょうか。

中本氏: 限られたリソースの中でいかに短く、コンパクトにまとめるかというのが当時の作り方になっていましたが、サウンド自体は音声合成とかを入れなければ、それほど大した容量は使わないんです。容量を多く使うのは主にグラフィックスのほうで、そこにゴソっと使うとシナリオとかがその分消えてしまうので、企画と絵描きさんのほうが泣いていましたね。

――サウンド部分のプログラムは、中本さん自身でなさっていたのですか?

中本氏: 担当したのは作曲と、曲をMIDIデータにするところまでですね。作曲をする前に、当時の会社で使っていたサウンドドライバーが正直ひどかったんですよ。矩形波のデューティー比(※2)の幅を変えられるようになっていれば、いろいろと音色も変えられるのですが、それが固定されていたドライバーだったので、ずっと同じ音しか出せなかったんですね。

 実は、ファミリーベーシックの中にあったサウンドツールが結構優れていたんです。それを使って、デューティー比を変えて出した音をプログラマーとデータを打ち込んでいたスタッフに聞かせて、「こんなに音色が変えられるんです、だから設定できるようにして!」ってお願いして、ドライバーを組み立てていただきました。それから、データモジュレーションや音声合成が使えるところまで対応できるようにしていただきましたね。

 これは余談になりますが、OEMで発売した「タッグチームプロレスリング」(※3)のゴングの音はフライパンを叩いたときの音で、レフェリーの「ワン、ツー、スリー!」のボイスは、実は私の声をサンプリングして作りました。(一同爆笑)

※筆者注2:デューティー比とは、矩形波の1周期における、パルスがオンになっている時間の比率のこと。

※筆者注3:1986年にナムコ(当時)から発売された、ファミコン用のプロレスゲーム。「イテェ!」、「ギブアップ!」など、レスラーが発する声も収録されている。


――ちょっとお話がそれますが、「ヘラクレスの栄光」は発売当時テレビCMを流したり、テレビ番組の「ファミッ子大作戦」でも新作情報コーナーで度々紹介されていましたよね。

中本氏: はい。番組はだいたい月に1回、テレビ東京のスタジオで4本撮りで収録するのですが、せっかく機材があることですし、じゃあ収録が全部終わった後にCM用の素材を撮って、後でそれを編集して作ろうという形で始めました。CM制作のときも、企画者からああしたい、こうしたいというはっきりした意見は出るのですが、「ヘラクレスの栄光」に関しては、やはり「ヘラクレスっぽくして」と言われただけでしたね。

――中本さんご自身で、特にお気に入りの曲は何かありますか?

中本氏: 天界の曲、「神々の願い」ですね。デバッグしていて疲れたときに聞くと、「ああ気持ちいいなあ、ずっとここにいたいなあ……」って思えるような曲になったので、プレーヤーのみなさんにも同じように聞いてもらえるような曲になったのではないかと思います。

「ヘラクレスの栄光」(初代)

代々引き継がれるオープニング曲が生まれた「ヘラクレスの栄光II」。高濱氏の作曲冒険譚には主人公も顔負け!?

――「ヘラクレスの栄光II」の曲は、前作とはイメージがかなり変わったという印象を当時遊んでいて受けました。企画担当のスタッフから、何か曲についてのオーダーはあったのでしょうか?

酒井氏: はい。サウンドにいろいろと意見を出す企画の方がいまして、「最初の町の曲がギリシャっぽくない」と言われて書き換えたことがあります。野島さんは後半から参加して、企画じゃなくてテキストの制作をやっていたのかな?

野島氏: ええ。テキストを書いて、そこから必要になる企画の話はしたことがありますが、サウンドについては何も言わなかったと思います。

酒井氏: 野島さんと音楽について話をしたイメージは、「IV」のときのほうが断然強いですね。

野島氏: 「II」のときは、岩崎さんが作られた「勇気ある者たちへ」という曲が、その後もずっと使われていたのが記憶に残っていますね。

――電源を入れた直後の、タイトル画面で流れる曲ですね。

岩崎氏: まさか、そんなことになるとは最初は思わなかったですけどね。

酒井氏: 私自身、「ヘラクレスの栄光」が後にこれだけのタイトルに育つとはまだ思っていなくて、当時は流れ作業で回ってきたもののひとつだなと思っていました(笑)。「II」のときは、なるべく多くの人に作曲の経験を積んでもらおうと考えて、コンシューマーのサウンド担当メンバー全員に曲を作ってもらいました。

――音色も前作とは全然違っていたように記憶しているのですが、サウンドドライバーも新しく作ったのでしょうか。

酒井氏: 「II」のときのサウンドドライバーは、中本さんが一生懸命仕上げていただいたものをそのまま引き継いで使っていました。その後に入社した濱田君がコンバーターを作ってくれましたね。

濱田氏:MIDIからMMLに変換するコンバーターですね。当時の社内では、ミュージシャンがサウンドプログラマーも兼任していたんですよ。私も6502でアセンブラを書いたり(※4)、サウンドドライバーの追加とかも担当しました。

※筆者注4:MML(Music Macro Language)は、テキストによる譜面データの記述方式の一種。6502はファミコンのCPUを指す。

酒井氏: 「メタルマックス」以降になると音がもっと良くなるのですが、このときはまだエンベロープとかを細かくコントロールすることができなくて、外に向けて自慢できるようなものではなかったと思います(※5)。でも、音楽としては褒められたように思いますね。後でアレンジ版の曲を入れたCDを出したので、みんながそのイメージを膨らませてくれたので、印象が良くなったのではないでしょうか。

 それから、「II」のときは通常の戦闘のテーマ曲を濱田君が書いていますね。

※筆者注5:「メタルマックス」は、1991年に発売されたファミコン用RPG。エンベロープとは、音量や周波数の時間的な変化、およびこれらをグラフ状に可視化したものを指す。

――ノーツを拝見しますと、濱田さんと三浦さんの2人のお名前が書いてあります。三浦さんというのは、ゲーマデリック結成メンバーのおひとり、ングジャ三浦さんのことですよね?

濱田氏: そうです、私とングジャでやりました。ングジャはSEをほぼ全部作っていましたね。

岩崎氏: 戦闘の曲はジングルとつながっているので、ジングルのほうを書いたのが三浦さん、戦闘の曲は濱田さんが書いたから2人の名前が出ているんですね。あの戦闘の曲を最初に入れたときには、イントロの音符と音符の間に短い休符を入れても音がつながったまま聞こえてしまったので、その間を切るのにかなり苦労した思い出があります。

――高濱さんは、初めて作曲を担当したタイトルが「ヘラクレスの栄光II」だったそうですね。

酒井氏: 高濱君が作った、あのフィールドと海のテーマ曲はとても良かったね。

高濱氏: 自分で今書いている曲が、どのゲームに使う曲なのかを全然知らないまま、ただ言われたとおりに延々と作っていました。後になってから、雑誌社さんとかに取材を受けて、「あのゲームの曲を作ってましたね、このゲームの曲を作りましたよね?」って言われて、逆に教わったみたいなところがあります。その節は、酒井さんにはたいへんご迷惑をお掛けしました……。

――「II」以降のシリーズでも何曲か作曲をされたのでしょうか。

高濱氏: いいえ、私が作ったのは「II」だけです。

 私の場合は、酒井さんから「これから大海に出ていくときの、ワクワクドキドキするような曲を」とか「大空を舞うような曲を作って」みたいなことを言われたのを聞いてから作っていました。酒井さんは、いつも丁寧にイメージを説明してくださるので、その言葉からどんな曲を欲しているのかがすぐにわかってフレーズがぱっと浮かぶんです。で、バババッと1曲書き終えて、「では、お先に失礼します」と(笑)。

桃井氏: 高濱さんは、曲を作るのがものすごく早かったですよね。

酒井氏: たまに会社に来て2、3時間しかいないんですけど、パッと曲を書いて帰っていくんです。アルバイトで時給でしたから、コストパフォーマンスがすごくいい。1時半~2時ぐらいの間にフラっと来て、4時半ぐらいに帰っちゃうんだけど、その間に1曲作ってくれるんです。

高濱氏: 当時、みなさん朝9時に会社へ来て、5時までずっといるのが不思議でしようがなかったです。だって、和音がこれっぽちしかないし、尺も短いのに何でそんなに時間がかかるのかなあって。これはもちろん、その当時だけのお話ですよ(笑)。

中本氏: 今、ここにいるみんなを敵に回したね(笑)。

濱田氏: いつだったか、ライブに行ってホテルに泊まっているときにも仕事をしてなかった?

高濱氏: 当時は生活がもの凄く大変で……。全国ツアーで地方を回っているときに、神戸のホテルに前乗りで入ったらフロントで「高濱さんという方はいらっしゃいますか? 東京の酒井樣からファックスが届いてます」って言われて、「次はこういう曲を作って」とか書いてあるファックスが送られてきたんですよ。で、ライブが終わった後はみんな打ち上げに行くんですけど、私はホテルに戻ってそれを見ながらバーっと曲を書いて、次の日の朝に宅急便でデータを送っていました。

 で、次の日に広島のホテルに行ったら、またそこでも「高濱様はいらっしゃいますか?」って呼び止められたりして、酒井さんに日本全国でずっと先回りされてました。ですから、またその次の日に博多のホテルに入るときは、もう怖くて怖くて。フロントで呼び止められなかったから、ああ、今日はこのまま飲みに行けるのかなあって、もう本当に怖かったですよ。(一同爆笑)

酒井氏: あのときは「バルダーダッシュ」(※6)の曲とかを書いてもらっていたのかな? 確か、QXか何かのシーケンサーで作ってもらっていたと思います。

※筆者注6:「バルダーダッシュ」は、1990年発売のファミコン用アクションパズルゲーム。

濱田氏: 曲のデータは、確かフロッピーディスクに入れて送ってもらって、それをMMLにコンバートして使っていましたね。

「ヘラクレスの栄光II」

ゲームボーイ版「ヘラクレスの栄光」から開発環境が激変

――次はゲームボーイ版「ヘラクレスの栄光 動き出した神々」についてお尋ねします。こちらはサウンド制作にあたり、何かご苦労や難しい問題などはあったのでしょうか?

濱田氏: 確かこの時期は、ほかのゲームボーイ用ソフトの開発もしていたので、スケジュールがすごく詰まっていました。ですので、自分でも曲を作っていたのですが、かなり記憶があいまいになっていまですね。

酒井氏: そうそう。ツールが1台しかなくて、空いていないときはサウンドとは別の部屋に行って作っていたと思います。

濱田氏: 3本ぐらい同時に作っていたので、みんなが寄ってたかって作っていたような状況でしたね。それから、ゲームボーイ版では音源の構成がちょっと変わったので、サウンドドライバーも作り直しになりました。

――ファミコン用のドライバーを使い回せなかったんですね。

濱田氏: はい。MMLへのコンバートはそのままできたと思いますが、コンバートしたうえでの手直しをするのが、かなり大変だった記憶があります。

酒井氏: 私はゲームボーイ版はほぼノータッチで、濱田君に全部任せていたつもりでいたのですが、後で聞いたら岩崎さんも担当していたことがわかりました。

――確かに、ノーツを見ますとゲームボーイ版の曲は岩崎さんのお名前がたくさん出ていますね。

岩崎氏: 最初にゲームボーイ版を作っていて1番感じたのが、「II」のときのサウンドドライバーにはパンポット(※7)がなかったのですが、ゲームボーイになったら音が格段に良くなっていたんです。ファミコン時代は、シャーシの中に基板や部品がむき出しのままの開発ツールが3つか4つあったのですが、みんな調子がバラバラで動作が不安定で、立ち上げると「何だこれ、音が悪い!」だの、「音が出ない! じゃあ別のやつを立ち上げよう」、「これだと結構いい音が出るから、じゃあこれで作るか」だのと、みんなでブツブツ言いながら仕事をしていました。

 ゲームボーイ版を作るときは、プログラマブル波形も使えて、開発機材もパソコンの中に全部入っていて、立ち上げてからの動作もずっと安定していましたから、すごく楽しく開発ができたと記憶しています。

※筆者注7:音の左右の定位のこと。

――ゲームボーイはファミコンよりもハードの性能が低くて、きっとサウンドの制作も大変なのかなあと勝手なイメージを持っていましたが、実際は逆だったんですね。

岩崎氏: はい。やはり、ファミコンよりも後の時代に出たものですし。

中本氏: ステレオ出力もできましたよね。

――ちなみに、野島さんはゲームボーイ版の企画やシナリオも担当されましたか?

野島氏: いいえ、私は関わっていないです。ただ横で見ていただけですね。

――ゲームボーイ版では、過去作の曲をアレンジしたものがかなり多かったですよね。どの曲を使うのかというピックアップは、どなたが決めたのでしょうか?

中本氏: 曲を選んだのは多分、企画の井戸川君(※8)だと思います。

※筆者注8:元データイースト開発の井戸川享史氏のこと。

酒井氏: 「II」の企画も担当していましたから、おそらく本人の中で何か考えがあったんだと思います。

岩崎氏: オープニングの曲は、「ジョン・ウェイバーっぽいものを(※9)」というオーダーはありましたね。

※編集注9:米国のジャズピアニスト。

中本氏: 曲を使う場面も、以前とはいろいろと変えていましたよね。

――例えば、初代の海のテーマ「彼方へ」が、ゲームボーイ版ではフィールドのテーマとして使われていますよね。曲を流す場所を決めたのも企画の方ですか?

桃井氏: 後で井戸川さんに直接聞きましたが、全然覚えていなかったですね。

――オリジナルとは違う場面で曲を使うにあたって、元の曲を作られれた中本さんや、ほかのスタッフから反対意見などは出ませんしたか?

中本氏: 世に出たものに対しては、特に文句はないですよ。むしろ使っていただいて感謝しています。

――岩崎さんご自身が作曲したゲームボーイ版の中で、特にお気に入りの曲はありますか?

岩崎氏: 町のテーマ「人々の賑わい」ですね。当時は自分でもたくさんRPGを遊んでいたのですが、どのゲームでも疲れると町に移動してひと息入れたりしますよね? そこで自分が作るゲームボーイ版は、疲れて町に入ったときに心が安らぐような、プレーヤーの心を癒せるような曲にしようというコンセプトで作りました。

「ヘラクレスの栄光」(※ゲームボーイ版。スーパーゲームボーイにて撮影)

あの印象的なメロディはいかにして生まれたのか? 「ヘラクレスの栄光III」作曲秘話

――「ヘラクレスの栄光III」からはスーパーファミコンにハードが変わりました。「III」の曲のほとんどは、桃井さんが作曲されていたようですね。

酒井氏: はい。「III」のときは、桃井君を中心に曲を書いてもらって、手が足りないところは私がフォローする形でした。

桃井氏: スーパーファミコンでの仕事も、RPGの曲を作るのも「III」のときが初めてでした。「II」はサントラがあったのでもちろん聞き込んではいたのですが、最初は自分自身でギリシャの世界観をまだつかめていなかったので、ギリシャ民族音楽のCDを買って聴き込んでから、その方向に寄せていく形でギリシャの町で流れる「オリーブが薫る街」とか、フィールドで流れる「失われた時は何処に」などの曲を作っていきました。でも、「失われた時は何処に」は、酒井さんにお聞かせしたら「演歌みたいだね」って言われましたね。

酒井氏: そうそう、思い出した。「これ演歌っぽくない?」って、確かに言ったかもしれない。

――おそらく、当時「III」を遊んでいたプレーヤーのほとんどは、フィールド上で流れる「失われた時は何処に」が1番印象に残る曲だったと思います。あの独特のメロディーは、1度聞いたらまず忘れないのではないでしょうか。

酒井氏: 「ソドレミ~」というあのメロディーが、今となってはちゃんと聞いた人の脳に刷り込まれる曲だなあって思いますね。だからこそ、余計に演歌っぽく聞こえちゃったんだと思います。それから「III」のときは、全体的にオーケストラサウンドになったんですよ。濱田君のほうから、「実際に聞かないとオーケストラのツボがわからないよね」という提案があったので、サントリーホールに「春の祭典」を聴きに行ったことがありました。スイス・ロマンド管弦楽団の演奏だったかな。

濱田氏: そうだ、確かにみんなで行ったよね。

酒井氏: 私はこれがきっかけで、クラシックにすっかりハマっちゃいましたね。ですから、自身の音楽の幅が広がったのは、ある意味「III」のお蔭なんです。野島さんから、クラシック的にしようというオーダーがあったんでしたっけ?

野島氏: 私のほうからは、特にしていないと思いますね。

――「III」のシナリオは野島さんのご担当ですよね?

野島氏: ええ。「III」のときは、企画承認会議の段階からシナリオの説明や、ギリシャ神話の話を延々としていた記憶がありますね。

酒井氏: ボツにされた曲があったと桃井君が言ってたけど、野島さんがボツにしたの?

野島氏: 誰の曲かはわからないです。確かあのときは、酒井さんから誰が曲を作ったのかを教えてくれないシステムだったので。

桃井氏: いいえ、そうではなくて、私自身が教えなかっただけです。まず酒井さんに聴いていただいてから、野島さんにも私のところに来て聴いていただくという2段階方式みたいなやり方でした。ですから、私が止めたものと酒井さんが止めたものとがあるんです。

野島氏: 当時はゲームの音楽が、本物の音楽に何とか近付こうとしていた時代だったじゃないですか? ですから、本物の中の本物であるオーケストラに近づこうというのは、すごく目標としてかっこいいなと。「おお、これはいい音じゃないですか!」とか言って、みんな乗り気で話をしていましたね。

濱田氏: スーパーファミコンでは音源もドライバーも変わって、メモリの取り合いになりましたね。

酒井氏: あと「III」には、竪琴を演奏する遊び(※10)が入ってたのかな?

――アテネの町の劇場で、竪琴の演奏ができますよね。そもそも、本編のシナリオとは直接関係ない遊びをなぜ入れたのか、今となっては不思議ですよね。

野島氏: それが入っていないとダメな気がしたから入れたんですよ。入れておかないと、ほかに遊びが全然ないですから。その次の「IV」に出てくる竪琴は、「III」の拡張版ですね。

※筆者注10:「III」と「IV」には竪琴を演奏する遊びがあり、「IV」では先生に弾き方を習った後に演奏会に出られるイベントも登場する。今回のCDにも、「IV」の竪琴の曲がすべて収録されている。

――「III」では、バオールという人物の行動や正体がストーリー上で1番のポイントになりますよね?

桃井氏: はい。「私の名はバオール」というセリフがあったので、「我が名はバオール」という名前を付けた曲などがあるのですが、「ギリシア回想録」を収録するときには、まだ名前が付いていない曲がたくさんありました。ですが、自分で作った曲は1992年の段階でほとんどタイトルを付けてあったので、今回のサントラでもそのまま使わせていただきました。

 トランティアのところで流れる「帝国の威信」という曲は、そこがバオールが悪だくみをする舞台になるので、それを生かした曲にしました。野島さんにお聞かせしたら、お褒めの言葉をいただいたのが今でもすごく印象に残っていますね。

――「III」では、濱田さんが「不思議な夢」、「ガイア」、「オリンポスの神々」の曲を作曲されていますね。

酒井氏: 濱田君の作った、あのメロディもすごく良かったですね。

濱田氏: それから竪琴の曲で、Fメジャーから入る曲とかも割と気に入ってます。私のメインの仕事はシステム回りのほうだったのですが、手が空いたときには曲も書いていました。

――「III」の曲の中で、桃井さんが特にお気に入りの曲はどれですか?

桃井氏: 全部です(笑)。いわゆる現代音楽的な曲は、そういう曲はほかのゲームではなかなか合わないと思いますが、「ヘラクレスの栄光」だからこそ書けたのかなと思います。例えば、ラストダンジョンの「オケアノスよ、蘇れ!」という曲は、拍子も調もない「ヘラクレスの栄光」ならではという曲で、個人的にはとても気に入っています。

「ヘラクレスの栄光III」

アーケードのスタッフも集結して完成させた、シリーズの集大成「ヘラクレスの栄光IV」

――「ヘラクレスの栄光IV」では、「III」とは逆に作曲者の人数がすごく多いですよね。

酒井氏: はい。「II」のときと同じように、たくさんのメンバーに参加してもらおうと考えていました。ちょうどこの時期に、アーケードと家庭用のサウンドチームがいっしょになったんですよ。濱田君の場合は、「フライングパワーディスク」(※11)の曲も書いていましたしね。私はみんなの取りまとめと言いますか、方向付けをする役割をしていました。

※筆者注11:「フライングパワーディスク」は、プレーヤー同士がディスクを投げ合って勝敗を競う、1994年に発売されたアーケード用スポーツゲーム。

――ナルホド、そういう経緯があったんですね。

酒井氏: 「IV」の開発は、サウンドも本編もすごく時間が掛かりました。デバッグも半年ぐらい掛けてやっていたと思います。

野島氏: 「IV」の頃には、1人1台ずつパソコンが支給されて、楽になったと同時に仕事が増えたようが気がします。「IV」には主人公が乗り移れるキャラクターが100人ぐらいいて、乗り移ったキャラクターによって別のキャラクターのセリフが変わったりもするので、すごく大変でした。

――トランスファーシステムですね、いやあ懐かしいです。それから、「ぜんぶ好き」という曲は野島さんが作詞で、ゲーム中でも村に住む少年が歌うという形で、フルボイスで歌が聞けるようになっていましたよね。

野島氏: 最初は歌は入れずに、ただ歌詞だけを出すつもりでした。この曲は、濱田さんがかなり推していましたよね?

濱田氏: 曲を書く前に歌詞が先にできていたので、せっかくだから歌を入れたらという話はしましたね。

酒井氏: ちなみに、ボイスを担当したスタッフは「ファイターズヒストリー」の亮子(※12)の声と同じ人です(笑)。

※筆者注12:「ファイターズヒストリー」は、1993年にデータイーストが発売したアーケード用対戦格闘ゲーム。亮子とは、女子高生の柔道家である嘉納亮子のことを指す。

――ゲーム中に、1度パーティーから離脱したヘラクレスが復帰したタイミングでフィールドの曲が変わりますよね? 当時、この音楽での演出にすごく感動した記憶があるのですが、これはどなたのアイデアですか。

酒井氏: それは、私のほうから変えようという提案をしました。

――エンディング曲では、途中から別のいろいろな曲のメロディがたくさん流れるようになっていましたよね。

酒井氏: エンディング曲は、走馬灯のようにいろいな曲が出てくるようにした記憶があります。

濱田氏: エンディング曲はすごく長かったし、手間も掛かってましたね。

酒井氏: 8トラックしかないのに、クロスフェードするように作っていましたからね。それから「IV」のときは、実はソフトに付いていたアンケートはがきを谷山浩子さんからも送っていただいたんですよ。シナリオや曲が熱いみたいなことが書いてあって、すごく勇気付けられました。

「ヘラクレスの栄光IV」
こちらは酒井氏提供の、「ヘラクレスの栄光IV」の戦闘シーン曲「魔物たちとの戦い」のスケッチ

新たな収録・再録曲が満載、アレンジ盤のマル秘エピソード

――DISC5と6の収録曲は、すべてアレンジ曲ですよね? まずはDISC5の「ギリシャ追想録」についてお尋ねしますが、収録曲のセレクトはどのようにして行なったのでしょうか。

桃井氏: DISC5は、「ギリシア回想録」から「III」と「IV」の曲をそのまま収録しています。「III」に関しては、「ギリシア回想録」には9曲しか収録されていなかったのですが、それ以外の自分の作った曲のMIDIデータから今回新たに21曲の音源を起こし、「ギリシア追走録」に追加収録しました。

――DISC6には、ゲーマデリックのアレンジバージョンが3曲収録されていますね。

桃井氏: これまで発売された「II」と「IV」のサントラには、ゲーマデリックのアレンジが入っていました。ですから、今回もゲーマデリックのアレンジをぜひ入れたいと思い、スーパースィープさんにお願いしました。「III」から「失われた時は何処に」の新アレンジを、「IV」からは「アトランティスの子供達」リメイクアレンジを、作編曲者の酒井さんに相談したうえで作りました。

 1曲目の「Lost Time Elegy」は、私が作曲した「失われた時は何処に」をゲーマデリックの「せいんと☆ぴーち」名義でアレンジしました。この曲のアレンジなら、ファンのみなさんは重厚なオーケストラアレンジをきっと望むのではないかと思いますが、あえてその期待を裏切ってあのスタイルにしました。

――重厚とは正反対の、軽快なリズムにアレンジされていますよね。2曲目の「アトランティスの子供達'18」は、「地平線の彼方」と「ぜんぶ好き」のアレンジ曲で、3曲目は「ギリシア回想録」にも収録された、「遥かなるアトランティス」の再録ですね。

濱田氏: はい。村でのイベント曲のひとつに過ぎない曲がアレンジされたのは感無量でした。今回もオリジナルに劣らず、素晴らしいものになったと思います。この曲の収録のために、以前に「遥かなるアトランティス」の収録で使用したフレットレスベースを、数十年ぶりに引っ張り出して弾きました。ちなみに、ボーカロイドの調整をしたのも私です。

酒井氏: 元の音源を収録するときは、少年合唱の子どもたちの我がままに手を焼いた印象が強く残っています。その部分を少年合唱ではなく、ボーカロイドに置き換えたところに「アトランティスの子供達'18」の面目躍如的と言いますか、そういった良さが表出しているように思います。

 「遥かなるアトランティス」の録音は、「ファイターズヒストリーダイナマイトNEOGEO CD」版の録音と同じ日のセッションで収録しました。相当ハードな録音作業の最後に、もうみんな疲れ切ったユルユルの状態で、テイクワンで済ませた録音です。外部の録音スタジオでの収録でしたが、マルチトラックレコーダーは回さず、DATマスターへの1発録音ですね。(※13)

濱田氏: あの1発録りはよく覚えています。この頃のゲーマデリックは働き者でしたね。確か、20曲以上を1日で収録したのでみんなヘロヘロでしたが、バンドとしての充実ぶりが音からも伺えますね。フレットレスの1発録りなんて、今では怖くてできませんよ(笑)。酒井さんはゲーマデリックにとって、ビートルズにおけるジョージ・マーティン(※14)のような存在でした。

※筆者注13:DATとは、デジタル・オーディオ・テープのこと。

※編集注14:ジョージ・マーティンは英国の音楽プロデューサー。ビートルズを手掛けたことでも有名

――それから、「アトランティスの子供達'18」では清田愛未さんが歌を歌っていますよね。清田さんを起用したのは、DS版のオープニング曲も歌っていたというご縁があったからなのでしょうか?

桃井氏: はい。それもありますが、やはり清田さんの声が曲に合うなと思ったのが1番の理由ですね。

――では、最後にGAME Watch読者に向けておひとりずつメッセージをお願いします。

中本氏: 当時を知っている方には懐かしんでいただいて、知らない方にはこんな古い時代から始まってたんだと思って聞いていただけると嬉しいですね。

酒井氏: 昔のゲームは規模が小さく、1タイトルにつきサウンドの人間は1人で事足りることが普通でした。しかし、「ヘラクレスの栄光」シリーズではそのようにはせず、多くの同僚たちに曲を書かせ、みんなで作った結果、今日このように昔の仲間と一堂に会する機会に恵まれました。当時の自分の仕事の進め方を褒めてあげたいですね。サントラのほうも、ぜひよろしくお願いいたします。

岩崎氏: 自分自身の思い出でもあり、プレイするみなさんにとっても思い出のある曲を、この機会にまたじっくりと聞いていただけたら嬉しいです。

高濱氏: 自分で作った曲は今でも思い入れがありますし、この機会にぜひサントラを買っていただけたらと思います。

桃井氏: 時を経て自分の過去の楽曲を聞いてみて、当時は若さに任せて書いていた部分には、現在の自分にはない奔放さもありました。ぜひ、たくさんの方々に聞いていただきたいと考えております。

濱田氏: 昔の曲を聞き返してみると、当時はまだ未熟ながらも熱はすごくあったなあと感じました。今回アレンジ曲を作らせていただきましたが、まさか30年近くも前の曲をアレンジできるとは思わなかったですね。ゲーマデリックのライブでも、「ヘラクレスの栄光」シリーズの曲を演奏する機会があると思いますので、Twitterのアカウントもぜひチェックしてください。

野島氏: 我々の話を聞いて気になった人は、まずはサントラをお買い上げいただきたいです。今回は「ヘラクレスの栄光」の関係者が集まりましたが、こういうプロジェクトがもっともっと増えるといいですね。あの人は今、何をしてるのかなあと思った人と会えたりするので面白かったです。

――ありがとうございました。

 スーパースィープの制作スタッフにもお話を伺ったところ、本サントラ収録の際は、「なるべくゲームの進行に沿った曲順にすることと、印象的な短いジングルなどもBGMの合間に挟んで聴いてもらえるように作りました」とのこと。さらに、「当時リリースされた『ヘラクレスの栄光IV』サントラに収録されていなかった、ピラミッドの宝箱を開けて呪いにかかったときのジングル『呪いの宝箱』を収録している点にも注目していただきたいです」という聴きどころ情報もお聞きすることができた。

 また、「ライナーノーツは当時のデータイーストの開発中の空気感を伝えつつ、これまでに知られていなかった秘話をライナーに収められることを目指しました。ファンの方がライナーを読みつつサントラを聴いていただくことで、ファンの方自身も当時の記憶を蘇らせてくれたら嬉しいなと思い、読み応えのあるライナーを作りました。ご協力をいただいた当時のスタッフの方々に感謝です」とのことなので、サントラを購入した際には、ぜひライナーノーツにもご注目を。