インタビュー
欧米で絶大な支持を集める大阪人ゲームクリエイターSWERY氏インタビュー
2017年1月16日 11:00
気になる新規タイトルについて
――White Owlsは、ゲーム会社ということで、オリジナルと下請けの2つの軸で回していくイメージになるのですか?
SWERY氏: 今は人数が少ないので、基本はオリジナルだけで食べていくつもりです。今は。ただ20人になってくると、アニメーションが開いていますとか、モデラーが空いていますということはあり得ますので、ちょっとした仕事は請けたいなと思っています。
――やはり製作者としては、オリジナルにこだわりたい?
SWERY氏: そうですね。コピーライツを創出するというのが目的で、アクセスゲームズを最初に作ったので。僕はゲーム業界で会社を作った理由は、ライツを作っていきたい。そのライツを後世に遺していきたいというのが大きな目標だったので、そこが大事なところですね。
――そのオリジナルタイトルはいつ完成するのですか?
SWERY氏: それを聞きたいですよね。でも、ちょっとそこの用意がなくてすいません。一応、東京オリンピックまでにはと考えていますが。
――では結構、資金的、開発期間的には余裕を持っているのですね。
SWERY氏: マイルストーンをクリアすれば資金が出るという契約にしていこうと思っていますので。そういう形で納得いくものを作っていきたいなと。でも、もっと早く何かが出るかもしれないですが。ほら、僕遅れるじゃないですか?(笑)。
――SWERYさんはホントに開発に時間がかかりますからね。東京オリンピックというのは冗談ではないんだろうなという(笑)。
SWERY氏: いやホントにね(笑)。そうならないように頑張ります。それでも「スパイフィクション」は結構早く作ったんですよ。14、5カ月かな、会社を立ち上げて。あれはゲームスタジオとしてゲームを作れる証明のために作ったので、そういう意味でスピード感は重要だったんですよ。今回も立ち上げ1作目ですから、そういう意味で、White Owlsはゲームを作って、ビジネスができる会社なんだというところは証明しなければならないと思っていますので、そこまでのスピード感は考えようと思っています。
――提供するゲームプラットフォームとパブリッシャーは?
SWERY氏: 今はまだ言えないですね。言っていいですかと聞いたら、早すぎますと怒られました。
――作っているのはAAAタイトルですか?
SWERY氏: AAAというと、金額がデカすぎますね。そういうものではなくて、20人くらいの会社が濃い熱量で作ったゲームです。欧米では、AAAとインディー、そしてその真ん中という3つになってきていると思うのですね。僕はその真ん中のポジションでやっていこうと思っています。
――私は、Remedy Entertainmentの「Alan Wake」みたいな、アクションもしっかり、ストーリーもしっかり、ビジュアルもしっかりといった王道のAAAタイトルを、SWERYさんがディレクションしたら素晴らしいゲームができるんじゃないかなという期待をずっと持っているのですね。欧米の水準で見ると、「レッドシーズプロファイル」も、「D4」も、まだAAAではないじゃないですか。
SWERY氏: AAAの開発にはもちろん興味はあります。自分でもやりたいと思っているところはあるのですが、先ほど言ったように人見知りなので、人数が増えてくるとハンドリングが難しくなってくるというのがあるのです。AAAの良さって、各セクションが独立してクオリティを徐々に上げていく形になると思うのですが、そういう経験を今までやったことがないので、確かに僕の作品は粗さが目立ちますよね。そこは自分では反省点でありつつも、なんだろうな……。血が色濃く出る部分としてこだわってしまっているかもしれないですね。
――今作っているのは、コンソールゲームなのか、モバイルなのか、PCなのかということも、まだお伝えできない?
SWERY氏: そうですね。言えるとすれば、ゲーム性がちゃんとあって、僕が作るものですからストーリー性もちゃんとあるものを目指していますということは言えると思います。
――ジャンルはアドベンチャーやミステリーとかですか?
SWERY氏: 謎があるのかな? う~ん……。
――発表そのものはいつ頃を考えているのですか?
SWERY氏: 2017年中に発表できたら素晴らしいですね。チャンスは何回もありますもんね。E3もあれば、Gamescomやその先にはTGSもありますから。
――GDCもありますしね。
SWERY氏: GDCもうすぐですから無理だと思います(笑)。来月末ですから。もちろん何か発表できたらしたいとは思っていますよ。いま種をいっぱい撒いているところです。
――どういうことですか?
SWERY氏: いろんなチャンス。今まででいうと、僕ができても会社的にはできない仕事もたくさんあったので、そういうのも時間さえあればたくさんできるなということで、やりくりを始めているところなので、そのうちのどれかは必ず発表できると思うんですけどね。
――今年のE3はどうされる予定ですか?
SWERY氏: 行くとは思いますが、まだそこまでの話が動いていないです。11月に会社を立ち上げたばっかりですから。8月にアクセスゲームズを辞めて、その発表をしたのが10月の末、会社設立が11月ですから、そこから2カ月ではまだ発表したらダメだというものがいっぱいあって。
――もう開発に着手はされているのですか?
SWERY氏: そういう状態です。
――ではプリプロダクションは結構進んでいるのですか?
SWERY氏: いいえ。まだ、2016年11月に会社ができて、11月いっぱいはまだオフィスを立ち上げていましたからね。壁をぶち抜いて内装やったり。
――では今はまだペーパーの段階ですか?
SWERY氏: そうですね。もうペーパーワークは固まっていますね。でも、今時はいろいろありますからね。UnrealとかUnityとか。そういったものを利用しようと思っています。
――企画案は、字コンテのようなテキスト主体から、絵コンテを作られる方、いきなりプロトタイプを作れる方など色んな方がいらっしゃいますが、SWERYさんはどういうタイプなんですか?
SWERY氏: 基本は僕が書いたドキュメントをベースに、スタッフがそれをある程度動くところまで作って、磨き上げていくというのがベストだと思っています。「D4」の時も、当時Xbox 360のKinectで、現在の「D4」に近いものまで作ってましたからね。
――ちなみに、先ほどお話しいただいた中止になったプリプロダクション作品というのは、完全に没ですか? それともまだ温めているところがある?
SWERY氏: それ自体はちょっと難しいですね。おそらく。
――規模感とかが?
SWERY氏: それもありますし、もっと大きな事情もありました。
SWERY氏のゲーム制作に対する想い
――SWERYさんがゲームという表現技法を通じて遊び手に伝えたいことは何ですか?
SWERY氏: 本当にゲームっていろいろな正解があります。暇つぶしもゲームだし、泣かせるものもあったりと、いろいろあると思うのです。僕自身がいつも気にしているのは、体験というかエクスペリエンスで、ゲームの頭から最後まで遊んだ時に、旅行に行って帰ってきた後とか、上質な映画を見終わった後とか、上質な本を読み終わった後とかのように、内側に体験が残るものにしたいというのが1つあります。単純に「テトリス」みたいな繰り返しが素晴らしいゲームデザインもあると思いますが、それは得意ではないのもあるので、そうではなくて、1つのパッケージとして提供して、途中には紆余曲折もあって、でも最終的にはこれは僕の人生の一部だなと言ってもらえるような作品が最高だなと思って作ています。
――休養中に見た様々な映画とかゲームとか、いろんなコンテンツでこれいいなと思ったものは何ですか?
SWERY氏: たくさん見ていますが、ドラマでいうと「TRUE DETECTIVE/二人の刑事」は素晴らしかったですね。日本でやってるのかな? マシュー・マコノヒーとウディ・ハレルソン主演で、刑事ものなのですが、すごくいいドラマです。シーズン2まででていますね。シーズン2は、コリン・ファレルとかに役者が変わっていますが、これはすごくよかったです。
後はどうだろう、本は、東野圭吾さんの「人魚の眠る家」でしたっけ、あれはさっと読めましたね。すごいテーマに突き進んでるなと思って。いわゆる、脳死は人の死なのかということを、あんな商業でド中心でやっている方が扱ってるんやと思って。あれはびっくりしましたね。
――なるほど。ゲームはいかがですか?
SWERY氏: ゲームは、ホントめちゃくちゃやりました。最近すぎるかもしれないですが「INSIDE」は素晴らしかったと思います。
――海外メディアのSWERYさんのセレクトを拝見しましたが、結構、セレクトがマニアックですよね(笑)。
SWERY氏: そうですか?(笑) 毎年、北米の方のゲーム媒体でトップ10をやらせていただくんです。2社くらい。なのでゲームを遊ばないわけにはいかないじゃないですか。やってないとすぐバレるので。薄っぺらいところで出した瞬間に、ああこの人遊ばずに書いてるなと。それが怖くて、聞いたらとりあえず触ってみて、好きになったらやり込むという流れでやっています。
――そのなかで1番目が「INSIDE」ですか。
SWERY氏: 「INSIDE」ですね。あとは「That Dragon, Cancer」とかすごかったですね。
――やはり海外のゲームが好きなのですか?
SWERY氏: 基本的にそうですね。
――日本のゲームは肌に合わない?
SWERY氏: 合わないとは思わないですが、16年にやった日本のゲームは「ザ・キング・オブ・ファイターズ」と「トゥモロー チルドレン」だけですね。ああ、あと「トリコ」もやりました。あとは「おお、アレ、もう出てたんや」みたいなことが多くて、単に僕のアンテナに引っかかっていないというか、僕自身が探しきれていないと思いますね。
――日本のタイトルはあまりビビッとこなかった?
SWERY氏: もちろん来てますよ。トップ10には入れていましたけれど、「トリコ」は最後の最後にやったばかりだったので、ここで「今年一番影響を受けたのはトリコです」とかいったら、なんか記憶力がないみたいじゃないですか。「最近過ぎるわ」という。
――確かに(笑)。
SWERY氏: 「トゥモローチルドレン」はβの頃から直接キュー・ゲームスにアカウントくれと頼んでやっていましたね。
――どのくらい遊びました?
SWERY氏: いや、でも、2~30時間ぐらいですよ。休んでたといっても、さすがにずっとゲームばっかりやってたら怒られますからね。家の人に。
――ホームページを見ると、VRについて実験映像を公開されていますが、あれはどういった意味があるのですか?
SWERY氏: あれは大阪電通大の大学院生たちとやっているプロジェクトなのですが、僕自身がアクセスゲームズで倒れた時にVRプロジェクトが中途で止まってしまいましたので、このまま研究をせずに終わるのがまず怖かったというのと、学生たちがVRの機器もわからへんし、VRの存在もわからへんと風のうわさに聞いていたので、1回持っていって反応を見てみようと思って、そこから始めたんですよ。
――SWERYさんは講師で、学生達の作品を展示しているという感じですか?
SWERY氏: 講師ではないです。ボランティアですね。単純に、寺山研究室と廣瀬研究室の教授2人に連絡をして、機材を持ち込んで興味ある学生さんに見せましょうといって見せて、興味があるというので、では前期の課題として先生がこれを認めてくれるのであれば、一緒にプロジェクトで映像を撮ったり、Unrealでゲームコンテンツを作ったりしてみましょうかということで始めたんです。僕は単にボランティアで遊びに行って、学生さんたちにVRを見せたりしながら、ここ、こんなんしたいんですよと言われたら、こうしてみたら?とやっている感じです。
――では、あれは別にSWERYさんが作ったものではないので、あの延長でなにか具体的なコンテンツを考えているわけではないのですか?
SWERY氏: 彼らの作品ですね。で、僕は彼らをいま焚きつけているところです。例えば、Bitsummitとかに学生枠もありますので、そこにちゃんと出してゲームという商品に持っていくところまでやってみたらどう、というのをいま焚きつけている。
――SWERYさん自身で、何かVRで表現したいものはありますか?
SWERY氏: それはあります。ただ、今デベロッパーにVRで予算が付くというのは、なかなかありません。特に僕のゲームだと、それなりに規模も大きくなってきますし、ちょっとした10分遊べるゲームを考えて、これを1,000万で作れますとか、500万で作れますというものなら予算が付くと思いますが、それって僕が作る必要がないと思っているので。そうじゃないものが求められる機が熟すのを待っています。
――例えばPlayStation VRは、SIEさんがプラットフォーマーとして開発支援を行っていますし、グローバルでヒットしていますが、PSVRでも予算が付きませんか?
SWERY氏: PSVRは予算が付くとは言われています。なので、VRで活動するのであれば次はそっちもありかなと思っていますが、まずは1本目はスタジオでゲームを仕上げたいということと、先ほど申し上げたエージェントと契約をしているというところで、その2本の軸を土台としてまずはゲームを作ってからVRに手を出さないと、僕自身、しょうもないものを焦って作ってもな、というのが、今ありますね。
――やはり「D4」を体験している人間からすると、SWERYさんは次はVRなのかなというところがありますが、そこはまだいきなりがっつくんじゃなくて、ちょっと様子見かなということですね。
SWERY氏: そうですね。2015年にはがっついてたんですけど、この2年の間に病気したり、いろいろあった中で、今ちょっと様子を見ているというところです。
――2016年はVR元年で、多くのVRデバイス、VRコンテンツがリリースされましたが、その中では大きな手応えを覚えたものはありましたか?
SWERY氏: いくつかはありますよ。例えば一番興奮を覚えたのは「Bigscreen Beta」ですかね。離れた人と4人までチャットができて、自分のデスクトップを見せあえるという、あれが一番凄いなと思いました。
――ゲームではないんですね。
SWERY氏: そうです。ゲームではなくて、コミュニケーションですね。それでサンフランシスコの友達と一緒に映画を見たりしていたので、ああ、こんな時代が来たかと衝撃でした。
――「サマーレッスン」などの具体的なコンテンツについては、そんなに衝撃を受けませんでしたか?
SWERY氏: ゲームコンテンツについては、最初の最初にDK1、DK2の頃に衝撃を受けていたので、それの綺麗になった版やなという感じだったのですよ。だから衝撃を受けたタイミングが早すぎて、そこから先の部分というのは正統進化の途中だなという風に見ています。
――水口哲也さんが「Rez」を新たにVRの世界で昇華させましたけど、ああいった取り組みというのは今のところは興味がない?
SWERY氏: まあ僕自身がコンテンツを持っていないですからね。「D4」をそのつもりでやろうとしたけれども、それ自体に今手を出すのが難しいので。