インタビュー
欧米で絶大な支持を集める大阪人ゲームクリエイターSWERY氏インタビュー
2017年1月16日 11:00
新会社White Owls(ホワイト・アウルズ)について
――そのあたりの違和感が大きくなってしまったことが、今回の辞任と新会社設立ということに繋がるのですか?
SWERY氏: それもあるのですが、やはり1年間休ませてもらって、久しぶりに絵をかいたり、写真撮ったり、小説を書き始めてみたりというところのいわゆる学生時代に自分で創作を行なっていた空気感に戻すことができたんですね。その中で、いまおっしゃった違和感というものが、もちろん会社へということもありますが、それだけではなくて、日本の市場と世界の市場ってだいぶ違ってきているじゃないですか。スマホメインであったり、PCメインであったりとか。国ごとにも違うし。そういうものをいろんな経験で見ていく中での溝を感じて、自分の軸足はどこなんやろうとだいぶ悩んでは来ていたんです。
2013年くらいから、BitSummitとかで講演させてもらったりして、日本も西洋に目を向けようとか、自分では活動していたつもりなのですが、やはり1人の力って弱いですから、そんなこと言っても業界自体が変わるわけではなくて、それの溝をずっと悩んでいたんです。
休んでいる間に欧米のクリエイターさんといろいろあって話をしている中で、彼らはどうやってそんな先に進んでいくのかなといろいろリサーチしていたら、業界をどうこうしようなんて考えていないという人が多くて、溝とかも別に感じないと。自分のビジョン、信じているものを、自分の責任で自分がやっているだけというようなことを皆さんおっしゃっていて、SWERYもそんなに言うなら、全責任を自分がとる形でやらないとダメなんじゃないと言ってもらって。そう考えたほうがシンプルかなと思ったのが、新会社設立の最終的なトリガーですね。
業界を変えようとかではないですよ。そんな大げさなことをできるわけがないので。そうではなく身近な人たちに届くものからやっていって、結果を残してそれを証拠としていくというスパイラルを作ってみようかなということで、もう1度デベロッパーを作るところからやり直してみようかなと思ったのです。
――休養されている1年間の間にも、色んなところに講演に行かれていましたよね。あれはそれぞれの主催団体に声を掛けてもらったのですか?
SWERY氏: そうですね。最初に行ったのはクロアチアですが、あれはReboot Develp 2016(リブートデベロップ)というクロアチアのコンベンションで、今年も4月にあるのでまた行く予定なんですが、あれがすごく良くて。
GDCとかだと、それなりにクリエイターの友達はたくさんいるのですが、みんなと5分とか10分くらいしか話せないんですよ、人が多すぎて。でもクロアチアの地で、お互い知っている人は少ないじゃないですか。だからクリフBとか、ジョン・ロメロとか、ティム・シェーファーとか、あの辺りと飲み会で1時間とか普通にしゃべれるくらいお互いに知り合いがいないという場があって、そういうところでじっくり話し込むことができたのが大きいです。小さいカンファレンス最高やなと思いました(笑)。
――そのカンファレンスに参加して、様々なクリエイターと交流したことで、インスピレーションがわいてきたということがあるわけですか。
SWERY氏: そうですね。悩んでいたところから、いらないものをそぎ落としていって、みんな前向きに歩いているよねということにたどり着いたということですね。
――今の新会社White Owls(ホワイトアウルズ)、ふくろうですよね。これはどういった想いがこもっているのですか?
SWERY氏: フクロウってもともと古代のギリシアとかでは知恵の女神の従者として、知恵の象徴とされてきていると思うんです。そういう賢ぶったところがかっこいいなと昔から思っていて。それで今までも実は僕が作ったゲームにこっそり入れられる時にはフクロウを潜ませてきていたんです。
――それは意外ですね。SWERYさんのイメージとしてはこちらのシャラポワの方が強かったのですが、フクロウですか。
SWERY氏: シャラポワはパートナーで前面に出していましたけど、例えば「月華2」でも新主人公の刹那とかはフクロウを連れていたりとか、見えないところで壁のパネルにフクロウのポスターが貼ってあったりとか、ちょっとずつゲーム中にフクロウを入れてきているんです。
――へー、それは誰も知らないエピソードでしょうね、SWERYさんが若いときからフクロウをゲーム内に忍ばせていたとは。
SWERY氏: そうなんです。フクロウには何かと憧れがあったので。さらに年をとってきて、フクロウのもう1つの意味で晩年に人は賢くなるというイメージから、夕暮れに夜目が効くフクロウは知恵の象徴と言われたりもしているので、僕も40を超えて、クリエイターとしての晩年に差し掛かる中で、ただの年寄りではなくて、賢い年寄りでやっていきたいなというのとかを込めて。
――ホワイト・アウルズはいまスタッフは何人くらいですか?
SWERY氏: 現在はシャラポワを入れて、6人です(笑)。
――それほど多くはないですね。ゲームとかコンテンツを作ろうと思ったら外注を前提にする形になるわけですか。
SWERY氏: になると思うのですが、ここから徐々に増やしていく予定で、ここから1年間で15から20人くらいの会社にしたいなと考えています。ただ、それぐらいがMAXでいきたいなというのが正直なところです。やはり人数が増えてくると目が行き届かないですし、純度が下がっていくというか。
――20人規模で、内製だけでゲームを作るのですか?
SWERY氏: そのつもりです。
――本社はアクセスゲームズと同じ大阪ですが、大阪に対するこだわりみたいなものはあるのですか?
SWERY氏: もともと生まれ育った街でもありますし、かつては大阪って京都についでゲームのメッカというか、カプコンさんもありますし、コナミもセガもバンナムも大阪にあったので。そういう意味でSNKもそうですし。大阪がゲームのメッカという中で育った僕としては、復活とまではいわないですが、“メイドイン大阪”にはこだわっていきたいと思っています。
――ということは、会社規模が拡大しても東京に進出するつもりはないのですね。
SWERY氏: そうですね、今日も東京の満員電車でうんざりしたぐらいです(笑)。
――東京のような満員電車って大阪にはないのですか?
SWERY氏: 東京まではいかないですね。東京って乗れない状態なのに、まだ乗るじゃないですか。あれはちょっと(笑)。
――SWERYさんの新会社でのポジション、当然、創業者であり経営者ではありますが、実際の制作現場でのポジションは?
SWERY氏: ディレクターとシナリオライターがメインになると思います。人数が少ない会社なので、ツール自体も僕が調整で触っていくと思います。
――ということは、プロデューサーは別に立てるわけですか?
SWERY氏: プロデューサーはプロジェクトごとによると思いますが、例えばとある会社さんと組む場合は、その会社さんからプロデューサーがいらっしゃってやってくれる場合もありますし、先ほどから欧米と言っている部分で、今僕は北米のエージェントと契約をしました。UTA、ユニバーサル・タレント・エージェンシーという会社で、そこのブレイクさんという方とエージェント契約をしましたので、北米の営業・プロデュース・マネジメントはその人にお任せしようという契約になっています。
――今回、新作についてはまだお話しできないということですが、唯一、公式ページにインディタイトル「ピーター・パニック」について開発に携わった旨の紹介がありますが、あれはどういう関わり方をしているのですか?
SWERY氏: あれはACT2の最終ステージから、1つ手前のステージ前のゲームデザイン、キャラクターデザイン、シナリオを僕がやっています。
――なるほど、そうなんですね。実際に私も遊んでみましたが、正直、難しくてまだACT2まで進められませんでした(笑)。
SWERY氏: 難しすぎますよね(笑)。僕も難しくて進めないから、簡単にしてくれと言うんですけど。
――ドット絵だけどしっかりミュージカルしているとても良いゲームですが、難易度設定が明らかにおかしいので、たぶん無料プレイの段階で、継続プレイをあきらめますよね(笑)。
SWERY氏: あきらめますよね。ずっと言ってるのですが、難易度に対するこだわりが強いんですよね。
――このタイトルとは、どういう経緯で関わることになったのですか?
SWERY氏: もともとニューヨーク大学で講演をしたときに、あの作品の作り手が僕と会話をしたことがある人だったのです。その人が「実は自分で作っていたゲームをちゃんと商品にすることにしたのだけれど、ゲストで一緒にやってもらえないか?」という依頼が来て、「別にいいけど、今俺は療養中やからお金もらったりとか、仕事っぽくしたら無理やけど、友達と飲んでしゃべるくらいの感じだったらできるよ」って言ったんです。「ではそれでもいい」というからやりましょうということになって。やり始めるとノリノリになってきて、気づいたらシナリオまで書いてましたね。
――どれくらいで作ったんですか? 製作期間は。
SWERY氏: 期間は知れてますよ。僕が作業したのは、2カ月はいかないと思います。やり取り込みで1カ月半くらいですね。
――ちなみにこのゲームはヒットしたんですか? 日本版がないので日本からはわからないところですが。
SWERY氏: 英語版だけですからね。どうなんでしょうね、ACT2が出たくらいですから、それなりに出たのではないですか? 実はACT2のテレビCMに、僕がアメリカで出てるんですよ。それもめちゃくちゃ適当なんですけど、完成披露のパーティにSWERYからコメントビデオをくださいということだったので、僕もシャラポワ抱いて、家のお風呂で泡風呂して、冗談で「ヘイ!」とかいう内容を録ったんです。それがそのまま、テレビに使われてしまった。
――(大爆笑)面白いですね。
SWERY氏: いいかげんやなとおもって。一応契約書は来ましたけど。断るのも無粋なので、いいですよっていう話で。