レビュー
「バルダーズ・ゲート3」レビュー
気がつけば時間が溶けている超大作RPGの日本語版がいよいよ登場
2023年12月20日 00:00
- 【バルダーズ・ゲート3】
- 発売元:スパイク・チュンソフト
- 開発:Larian Studios
- ジャンル:ファンタジーRPG
- プラットフォーム:プレイステーション 5
- 発売日:12月21日
- 価格:8,580円
Golden Joystick Awardsに続き、The Game Awardsでも最優秀賞の「Game of the Year」を受賞し、見事2023年を代表する作品となった「バルダーズ・ゲート3」。世界中で高い評価を得ている一方で、日本では英語という言葉の壁から話題に上がることは少なかった。そんな本作の日本語版がプレイステーション 5にて、スパイク・チュンソフトから12月21日に発売される。
本作はテーブルトークRPG(TRPG)「ダンジョンズ&ドラゴンズ第5版」(以下「D&D」)のシステムをベースにした作品で、TRPG特有のダイス(多面体サイコロ)を使用した成否判定や、物語がプレーヤーの選択によって変化する自由度の高さ、戦略性の高いターン制のバトル、そしてデジタルゲームだからこそ表現できる美麗なグラフィックスによる映像表現により好評を博している。
開発はLarian Studios。コンピュータRPG(CRPG)の分野では名の通ったスタジオで、代表作の「ディヴィニティ:オリジナル・シン2」は日本語版が同じくスパイク・チュンソフトから発売されている。「ディヴィニティ:オリジナル・シン2」はキャラクターメイクや戦闘方法、多彩なクエストなど、全てにおいて高い自由度があることで有名な作品だ。そのシステムは本作でもしっかりと受け継がれており、「バルダーズ・ゲート3」でもプレーヤーの選択や行動によって物語が逐一変化してゆくようになっている。
今回、PS5用ソフト「バルダーズ・ゲート3」日本語版の発売に先駆けて、本作を先行プレイすることができたので、物語の概要やシステム、その魅力などについて紹介していく。
なお、種族やクラス、キャラクターメイクなど、ゲームの冒頭部分に関する内容についてはこちらの記事でしっかりと解説しているので合わせて確認してほしい。
「マインド・フレイヤー」の幼生に振り回される「バルダーズ・ゲート3」の物語
「バルダーズ・ゲート3」の物語は主人公が異形の種族イリシッド、通称「マインド・フレイヤー」にその幼生を植え付けられるところから始まる。
幼生の苗床にする人間を捕縛するために、「マインド・フレイヤー」は浮遊艦・ノーチロイドを操り、フォーゴトン・レルムのソード・コースト地方に存在する都市「バルダーズ・ゲート」を襲撃する。だが、襲撃の最中、レッドドラゴンの背にまたがるギスヤンキの一団からの攻撃を受けてしまう。ギスヤンキの一団から逃走するために次元跳躍を繰り返したノーチロイドだったが、移動した先の九層地獄バートルでもインプやカンビオンの襲撃を受けてしまい、ノーチロイドに大きなダメージを受けてしまう。その結果、苗床を捕縛していたカプセルが一部開放されてしまい、捕らわれていた主人公が目を覚ましてしまう。
主人公は混乱に乗じて艦のコントロールを奪い、次元跳躍でバートルを脱出することに成功する。だが、戦闘によるダメージで船体を維持することができなくなったノーチロイドは墜落してしまい、主人公は地面へと投げ出されてしまう。ここから本編の広大な冒険が始まる。
捕らわれていた艦から脱出できた主人公だったが、頭の中には「マインド・フレイヤー」の幼生が寄生しており、このままではいずれ「マインド・フレイヤー」へと変貌してしまう。この治療法を見つけるべく、主人公の旅が始まる。
自分だけのキャラクターがつくれる自由度の高いキャラクター作成
「バルダーズ・ゲート3」でプレーヤーは自分好みの設定でキャラクターを作成できる「カスタム」キャラクターと、作中に登場する7人のキャラクターの中から1人を主人公として選択できる「オリジン」キャラクターから選択してプレイすることができる。
キャラクターはストーリーの進行にも影響しており、設定内容によって会話の選択肢や取れる行動が変化する。そのため、新しいキャラクターをプレイする度に毎回違う展開を楽しむことができるようになっている。また、「オリジン」キャラクターでプレイする際はメインストーリーとは別に、そのキャラクター固有のサイドストーリーも用意されている。
この「オリジン」キャラクターたちは作中で全員仲間にすることもできる存在となる。彼らとして「バルダーズ・ゲート3」の物語をロールプレイすることもできるが、最初は「カスタム」で自分のキャラクターを主役に物語を楽しむのがオススメだ。カスタムキャラクターでゲームをはじめ、オリジンキャラクターを仲間にすることで彼らの物語を追うこともできるが、物語を知り、さらに深掘りしたい際に「オリジン」キャラクターのサイドストーリーを経験すると新鮮に楽しむことができる。
このキャラクター作成が始めてプレイする人にとって最初の難関になるかもしれない。なにせ種族だけでも11の種族に加え、28の亜種族が存在しており、それぞれ長所や短所が設定されている。そこからプレイしたいクラス(職業)や、キャラクターの性格的なものに関わる「背景」、能力値や外見など、ひたすらに設定項目が多い。几帳面な人はここでしっかりキャラメイクしようとすると、かなりの時間を吸われてしまうと思われる。
キャラクターメイクの部分でアドバイスするとしたら、種族と性別(男女の見た目)の2つだけ意識することだ。キャラクターの外見や名前はもちろん、クラスや能力値などは物語中でも簡単に変更することができる。だが、種族と性別(男女の見た目)だけは変更することができないので注意しよう。とりあえず始めて、ゲームに慣れたら改めて設定していくことで、よりスムーズにキャラメイクができるようになっている。なので悩みすぎず、安心して始めてほしい。
また、本作では物語序盤からファイター(戦士)やウィザード(魔法使い)、ローグ(盗賊)など、各種クラスの人物を仲間にすることができる。特定のクラスを選択したからといってプレイの難易度が上がってしまうということは無いので、安心して自分のプレイしたいクラスを選んでほしい。
ちなみに筆者は今回ハーフエルフのバーバリアンでプレイすることを選択した。バーバリアンは高い攻撃力と生存能力で誰でも簡単に爽快なプレイを楽しめるクラスとしてLarian Studiosの開発者もオススメしている。野性的なパワーで会話している相手を威圧したり、動物と会話することもできるワイルドなクラスとなっている。
プレーヤーの選択によっていかようにも変化するストーリー
本作一番の魅力はプレーヤーの行動によって変化していくストーリーとシーン演出にあるだろう。ゲーム内の展開は全てプレーヤーの取る行動や、会話での選択肢によって随時変化していく。また、会話シーンでは主人公を除いた全キャラクターたちがフルボイスで会話しながら表情豊かに会話を繰り広げていく。TRPG特有のナレーションもフルボイスで聞けるので、映画のワンシーンを観ているように楽しむことができる。自身の作成したキャラクターがこの美麗なグラフィックの世界で冒険し、他のキャラクターたちと会話している姿を観ることができるのはなかなかに楽しい体験だ。
本作のストーリーは大きく分けて全3章から成り立っている。全3章と聞くと短く感じるかもしれないが、各章のボリュームがとにかく凄まじい。探索できる場所やサイドクエストが豊富で、1章から2章に進むだけでも余裕で数十時間消えてしまうほどだ。初プレイ時は拾える物やお宝を探すなど、気になることも多いので、最初のプレイはかなりの時間になりそうだ。
特に目を見張るのは物語の分岐だ。ゲーム内の選択は全てプレーヤーに委ねられており、その答えに正解も不正解も存在しない。遭遇したキャラクターと会話をするのも、問答無用に攻撃するのも全てが自由。にもかかわらず、ストーリーが破綻しないようになっている。Larian Studiosの開発者に話を伺った際も“我々は一番にプレーヤーの選択を尊重しています。どんな行動であっても、その後の展開に反映されるように作りました”とコメントしており、物語も作り込まれていることがわかる。
今回は第1章で特に筆者の記憶に残った場面をいくつか紹介していく。
物語第1章では主人公がノーチロイド脱出後、脳内に巣食う「マインド・フレイヤー」の幼生を除去するための治療法を探し求める話となっている。付近にはドルイド達の集落「エメラルドの森」や、ゴブリン達が縄張りとしている「ゴブリンキャンプ」、不気味な湿地帯や森林エリア、そして「アンダーダーク」と呼ばれる地下世界へと繋がる入り口が存在している。これらに向かい、治療法のヒントを探し求めるのが第1章の目的となっている。
「エメラルドの森」に着いた主人公はドルイドの治癒師に寄生虫を治療できないか相談する。だが、治癒師では寄生虫を取り除くことができないと告げられる。しかし、ドルイドのリーダーである「ハルシン」であれば寄生虫についてなにか知っているかもしれないと伝えられる。しかし、肝心の「ハルシン」はゴブリンとの戦闘で行方不明になっていた。
「ハルシン」を探すべく、主人公たちはゴブリンキャンプへと向かう。実はこの時の行動でゴブリンたちと接触した際の結果が大きく変化する。何もせず、普通にキャンプへと向かった場合、かなり高い確率でゴブリンたちと敵対することになるだろう。だが、友好的に接する方法も存在している。
拠点内には「ザッザ」と呼ばれるゴブリンが捕虜として捕らえられており、彼女に話を聞くとゴブリンの内情を知ることができる。また、同時にゴブリンたちが強力な魔法を使う治癒師に率いられており、その司祭なら治療に役立つことを知っているかもしれないという情報も得ることができる。司祭に紹介することを条件に「ザッザ」は脱獄の手引をするよう交渉を持ちかけてくる。無事に「ザッザ」を脱出させることができた場合、主人公たちはゴブリンたちの協力者として友好的にキャンプにはいることができるようになる。
このクエストだが、非常に多彩なクリア方法が用意されている。上記で説明したものはもちろん、普通に正面から殴り込みをかけたり、わざと敵に捕まることで捕虜の牢へと案内しもらう、「エメラルドの森」への侵入経路をあえてゴブリンに教えることでゴブリンキャンプ内の警備を手薄にするなど、多種多様なアプローチで攻略することができる。なんなら完全に無視してしまっても大丈夫だ。
ちなみに筆者は「ザッザ」と一緒にゴブリンキャンプに入り、ゴブリンの酒に毒を仕込んだり、檻にいる蜘蛛を解放してゴブリンを襲わせるなどして攻略をした。
ゴブリンキャンプに向かう途中の廃村でも印象深い選択肢があったので紹介する。廃村ではゴブリンに捕らえられたノームが風車の羽にくくりつけられている場面に遭遇する。このノームはゴブリンを倒し、風車を止めることで助けることができ、捕らえられていた理由を聞くことができる。
このノームを救出するクエストだが、実は風車の操作レバーが2つ存在していた。ひとつは「ブレーキ」レバー、もう一つが「ブレーキ解放」レバーとなっている。「ブレーキ」レバーはもちろん風車を止めるレバーで、最初は普通に「ブレーキ」レバーで風車を止めてノームを救出していたのだが、どうしてももう一つのレバーの存在が気になってしまい、過去のセーブポイントからやり直してしまった。
結果から言うと、「ブレーキ解放」レバーを選択してもノームは風車から解放された。あまりの描写とノーム救出クエスト更新のメッセージに思わず笑ってしまったのだが、これが後に悲劇へと繋ることをこの時は知る由もなかった。
あまりのギャグ描写に油断していたが、「バルダーズ・ゲート3」は思ってたよりもシビアな世界のようだ……。
ダイスの結果による変化もしっかりと発生する。TRPGでお馴染みのファンブル(致命的失敗)も当然ながらあり、筆者も見事にやらかしてしまった。それは肉に刺さったナイフを抜き取る時に発生した。硬い肉に突き刺さったナイフを筋力で引き抜こうとした時、まさかのファンブルが発動してしまう。その結果、力任せに引き抜こうとしたナイフは無惨にも折れてしまい、貴重な武器獲得のチャンスがおじゃんとなってしまった。
この変化は物語だけでなく、キャラクターたちの関係にも影響していく。仲間になる各キャラクターはそれぞれ個別の考え方をもっており、主人公が選択する会話や行動に対して賛成や反対の異を唱える。この賛成や反対によって、キャラクターたちの好感度が変化していく。主人公の性別を問わず、この好感度が上昇することで、恋愛関係に発展したり、逆に不仲から仲間が離脱するといったイベントへと繋がる。
仲間との会話はどこでもすることができ、プレーヤーの選択に対しての意見や、好感度が上がることでそのキャラクターの身の上話などを聞くことができるようになる。好感度を上げたい場合、積極的に会話していこう。
また、作中では「オリジン」キャラクター以外に動物や、傭兵、クエストで登場したキャラクターなども仲間にすることができる。仲間になったキャラクターは野営地に集まるので、どれだけ増やせるかチャレンジしてみるのもいいかもしれない。