レビュー

「バルダーズ・ゲート3」レビュー

多彩な戦闘を可能とする環境効果とフィールドギミック

 本作を引き立たせているもうひとつの魅力が細部まで拘って作られた戦闘システムだ。

 とはいえ、キャラクターたちの操作に関するシステム自体はとてもシンプルだ。キャラクターは「移動」、「アクション」、「ボーナスアクション」の3つの行動をターン毎に行って戦闘を進める。ターンの順番は能力値の俊敏力が影響する「イニシアチブ」という数値が基準となっており、「イニシアチブ」が高いキャラクターから順番に行動していく。

 UIもシンプルで、キャラクターの移動できる距離は画面上に黄色いバーで表示されている。基本的にはどの種族も9mほどの移動距離をもつが、背丈の低い一部の種族などは移動距離が短くなるように設定されている。

 「アクション」は攻撃や魔法など、戦闘に大きな影響を与えるメイン行動に消費される。「ボーナスアクション」はアイテムの使用や一部の特殊な行動をするために消費する。ボーナスアクションで発動する魔法やスキルもあるので、うまく組み合わせて戦えるようにキャラクターを設定するのが重要となっている。また、各キャラクターが行える「アクション」と「ボーナスアクション」はどちらも1ターンにつき1回だけなので、自分の番でどんな行動をするかで戦いの流れが大きく変わる。

 本作はTRPGの「D&D」のシステムをベースにしていることから、攻撃や防御などの成否にTRPG特有のダイス(多面体サイコロ)による判定が行なわれている。戦闘時はわかりやすくするためにダイスの表示は省略されており、パーセントで表示されるようになっている。また、このダイス判定には「D&D」のシステム同様に戦闘の状況で「有利」や「不利」という状態が付与される。これはダイスを2個振ることができるシステムで、有利の場合は2個振ったダイスから良い方の結果を使用し、不利であれば悪い方の結果を使用するというもの。この有利、不利をうまく活用できるように立ち回るのが戦闘の鍵となる。

魔法や弓などで遠距離攻撃をする場合、高所から攻撃することで「有利」判定を得ることができるが、逆に低所から見上げるかたちや、相手に近い場合などは「不利」判定となり、成功率が著しく低下する
プレイしてみるとわかるのだが、本作ではかなりの確率で攻撃や魔法が失敗する。思っている以上に攻撃をミスることが多いので、しっかり「有利」になる状況を生み出して戦いたい

 この一見シンプルに感じる戦闘システムを奥深くしているのが「ディヴィニティ:オリジナル・シン2」でもお馴染みのフィールドギミックだ。戦闘ではフィールド上に配置されている様々なアイテムを活かすことができる。また、魔法や技を組み合わせることで、フィールド上に様々な効果を発生させることもできる。

 油樽に火をあてて爆発を起こす、天井に吊るされた照明を撃ち落としてぶつける、水と雷で相手を感電させる、近くの物を投げつける、敵を崖から突き落とすなど、できそうだなと思ったことはだいたいできてしまうのがこのゲームの恐ろしいところだ。ありとあらゆる戦い方ができるので、同じ敵でもまったく違う戦闘が楽しめるようになっている。

フィールド内に設置されているオブジェクトを活用することで敵にダメージを与えたり、フィールドを破壊することができる

知っていると序盤の攻略が少し楽になるオススメ要素

 本作は知れば知るほど面白いゲームではあるのだが、同時に覚えることも多いゲームとなっている。そういう意味ではTRPGやCRPG初心者の方は慣れるまで最初は苦労するだろう。そんな方のために、ここでは簡単ながら序盤のプレイに役立つネタを紹介していく。

種族は好きなものを選んでよし
 種族は基本的に好きな物を選んでOK! 種族ごとに多少の得手不得手はあるが、それが致命的な要因になることは基本ありえない。それよりも自分がプレイしたい種族を選択したほうが確実にゲームを楽しめるはずだ。もし、どうしても種族選びに困った場合はヒューマン、ハーフエルフ、ギスヤンキのいずれかを選んでおけば、どんなクラスでもプレイしやすくてオススメだ。

クラス(職業)に迷ったらバーバリアンがオススメ
 クラスで困っている人にはバーバリアンをオススメする。パラディンやバードなど強いクラスは他にもあるが、バーバリアンは操作が簡単なのでゲームに不慣れな序盤では一押しだ。

 バーバリアンは近接武器による高い攻撃力だけでなく、高い生存力も兼ね備えている。レベル3で習得可能なサブクラス「ワイルドハート」で選択できる「熊の心」には精神ダメージ以外全てのダメージに抵抗を得ることができる効果がある。さらにレベル5では通常攻撃が2回できるようになることもあって、初心者でも安定した火力を出しやすくなっている。また、ゲーム内のイベントや会話に筋肉で解決できる選択肢が現れるのも魅力のひとつだ。たいがいのことは筋肉が解決してくれるワイルドマン、それがバーバリアンだ。

魔法の封印が施された本も筋肉で無理やりこじ開けるのがバーバリアン流
レベル2になると動物会話を覚えることができ、動物たちと意思疎通がとれるようになる

シャドウハートとアスタリオンがいると心強く
 パーティーメンバーに困ったらシャドウハート、アスタリオン、ゲイルの3人が序盤のメンバーとしてオススメだ。この3名がいればほぼ困ることなくプレイすることができるはずだ。

【シャドウハート】
ハイ・ハーフエルフのクレリック。味方の回復はもちろん、武器での攻撃や魔法でのサポートなども行なえるキャラクター。最序盤から使用できる心術呪文「命令」は敵の武器を落とさせることができる優秀な魔法
仲間になった際、「命令」の呪文がセットされていないので、必ず呪文の準備画面からセットしておこう
【アスタリオン】
ハイ・エルフのローグ。弓や短剣で感知されていない敵や、自身が有利状態となる敵へ大ダメージを与えることができる。他にも鍵開けや罠の解除、対象からアイテムを盗むスリなど、冒険するうえで重要な役割をこなすことができる
スリに成功すると、対象から武器やアイテム、ゴールドを盗むことができる。クエストアイテムを盗むことで戦闘を回避したり、他キャラクターから高価な装備やゴールドを盗むことで金策もできる
【ゲイル】
ヒューマンのウィザード。攻撃魔法や支援魔法、地形に影響を与える魔法など、多種多様な魔法を使いこなす。魔法は使用できる回数が限られているため乱発することはできないが、その威力は絶大だ。特に睡眠と脂の魔法は序盤から長くお世話になる魔法で、戦闘を有利に進めるのにおおいに役立つ
睡眠の魔法はクリーチャーを2ターン眠りにつかすことができる。多数の敵を相手にする時などに、攻撃してくる相手を確実に減らすことができる強力な魔法だ。
脂の魔法は指定された地面の範囲を脂で覆ってくれる。脂の上を通るクリーチャーは移動が大幅に制限されるうえ、ダイスの判定に失敗すると転倒してしまい行動できなくなる伏せ状態になる。また、火属性の攻撃をあてることで、脂の範囲一帯を炎上させることもできる

樽を集めて活用するべし
 フィールド上に置いてある火薬樽や油樽などは拾うことができる。重いため数を持つことはできないが野営地の保管箱へ送っておけば、いざという時に使うことができる。爆発させることで大ダメージを与えることができる火薬樽などは見かけた際に必ずに集めておくことをオススメする。複数個の火薬樽を敵の近くに配置し、爆発させることができれば、強敵も簡単に倒すことができる。

ノーチロイド戦の最後に登場するボスキャラ「カンビオンの副官」は普通に戦った場合は倒すのが困難だが、爆発物をうまく利用すれば簡単に倒すことができる
戦闘時でなければ野営地には簡単に出入りすることができる。うまく活用することで、敵が通りそうな場所に前もって油樽を置いたり、水樽で足場を水浸しにして雷攻撃で相手を感電させるようにするなど、戦闘前から準備をして有利に戦えるようにすることもできる

敵の武器を奪え
 人型の敵がもっている武器の多くは奪うことができる。装備自体は倒した後に死体から奪うこともできるのだが、戦闘中に落とさせることで、相手の攻撃力を大幅に奪うことができる。

シャドウハートの心術呪文「命令」を使用することで、ノーチロイド戦のボスキャラ「カンビオンの副官」の武器「永炎の剣」も奪うことができる。この武器は通常ダメージに加え、炎ダメージも追加で与えることができる。ゲーム開始時に入手できる武器の中ではかなり強い方なので、ぜひともゲットしておきたい

 難しいと感じた場合、ゲームの難易度を変更するのも手だ。難易度は設定画面からいつでも変更できるようになっている。だが、コツさえ掴んでしまえば決して難しいゲームではないので、諦めずにトライアンドエラーでいろんなことに挑戦してみてほしい。

 「ディヴィニティ:オリジナル・シン2」に続き、「バルダーズ・ゲート3」も時間があっという間に溶けてしまうほど楽しんでプレイできる作品に仕上がっている。特にフルボイスで繰り広げられる会話や豪華なムービーシーンの迫力はすごく、まるで海外ドラマや映画を観ているようにも感じられる。また、作中に存在する膨大な量のアイテムにはそれぞれフレーバーテキストが設定されており、作り込みの細かさに本当に驚かされる。あまりの細かさに、存在している全てのアイテムを回収したくなるほどだ。作中で見つけた本やメモもただの飾りではなく、ストーリーやその持ち主を思わせる内容がしっかりと書き込まれており、読めば読むほどにストーリーに引き込まれるようになっている。このクオリティの高さにはGame of the Yearの受賞も納得できる。

 とはいえ、このボリュームはヤバイ。あそこには何があるのだろう。これを選んだらどうなるんだ。このクエストも受けておこう。そんなことをしながら冒険していたら第1章にもかかわらず、プレイ時間が数十時間を超えてしまっていた。まさに時間が溶ける危険なゲームだ。

 今回の日本語化にあたり、スパイク・チュンソフトはベースとなっている「D&D」にあわせて作中の日本語訳を「D&D」に準拠したものにしている。そのため、TRPG経験者にはだいぶとっつきやすい作品にもなっているはずだ。もちろん、ゲーム内に登場する用語や、各項目については細かく解説がでるようにもなっているので、初めてゲームを触れる方でも問題なくプレイできるように作られている。言語の壁が無くなった今、2023年を代表する作品として選ばれた「バルダーズ・ゲート3」を年末年始のこの機会にプレイしてみてはいかがだろうか。